『マッドサイエンティストの手帳』762

●マッドサイエンティスト日記(2021年9月前半)


主な事件
 ・穴蔵の日々


9月1日(水) 穴蔵/ヨータイ通信/池部良
 目覚めれば9月であった。
 秋である。冬は近い。
 樹々は紅葉するが残された時間は少ない。
 When the autumn weather turns the leaves to flame
 One hasn't got time for the waiting game
 センチメンタルになるぜ。
 わしゃ、残された期間は2,3年のような気がする。
 ヨータイから「ヨータイ通信」を送っていただいた。
 眉村さんの昔の勤務先。3月に日生工場を訪ねた。
 一面に「異世界通信」を紹介してくださっている。
  *
 ありがたいことである。
 ヨータイ(大阪窯業耐火煉瓦)は今年で創立85周年。
 20年刻みで社史が連載されていて、1950年代後半に「眉村卓さん入社」とあって嬉しくなる。
 さらに驚いたのが、小津安二郎『早春』(1956)のロケ地がヨータイ三石工場であったことである。
 この作品は見ている。さすがに(小学時代だから)映画館ではない。亡母は映画館で観ていて、池部良がよかったと話していた。
 その後、テレビ放映があって、母といっしょに見ている(おれはむろん「お伴させていただきます」の池部の方が好きだが)。
 ラスト近く、池部が転勤になる煙突の多い工場がヨータイ三石であったとは。
 午後、youtubeにあったので『早春』を見る。
 ラストの「あの汽車に乗れば朝には東京だな」という場面は記憶どおりであった。
 塀の耐火煉瓦の文字も映っている。
 ロケは眉村さん入社の1,2年前。
 日生ではないが、蒸気機関車や社宅の雰囲気は変わらないはず。
 不思議なところで池部良と眉村さんがつながるのだなあ……

9月2日(木) 穴蔵
 3時半、激しい雨音で目覚めた。
 相変わらず、アタマの働かぬ日々。
 終日穴蔵。
 コロナ、アフガン、総裁選の他に、事件色々。
・硫酸ぶっかけ男・花森弘卓。専属料理人の実家近くではないのか。母親(中国人の女医)について知りたい。
・女子高生殺害の夫婦・小森章平(27)と小森和美(28)。章平はニートで和美はコンビニに週3,4日勤務。渋川の15万円で買った一戸建に住んで、クルマであちこち移動。これで一応生活が成り立っていたんだなあ。見習わねば。
・暴走過失致死犯・飯塚幸三に禁固5年の判決。飯塚は「おれの身分なら自動車メーカーが故障データを出して当然」と思ってたんだろうが。控訴、最高裁までいって、禁固刑確定だが歳で収監は免れることになるのだろうな。それまでに死ぬか。後味の悪い事件だ。
 今後の展開を色々考えているうちに、たちまち夕刻。つづきは明日だ。
 雨に煙る北梅田を眺めつつ、専属料理人の並べた数皿でビール。
  *
 ジョージ・シアリング『九月の雨』を聴きつつ。
 毎年9月はじめの定番行事である。

9月3日(金) 穴蔵
 曇天、8時頃から雨が断続的に降る。
 おれには肌寒い一日。
 終日穴蔵。
 たいして生産的なことはできず。
 と……11時55分、テレビに「菅が総裁選に不出馬」のテロップが流れる。
 昼のニュースで憶測報道あれやこれや。
 13時過ぎにガースーの会見。2分足らず。
 要するに「投げ出した」だけのようである。
 牧伸二だな。「あ〜あ〜嫌んなっちゃった あ〜あ〜驚いた」
 政権末期を見ると、いつも、勤務していた会社の社長交代を思い出す。
 赤字がつづいて、どうしようもなくなり、嫌になってやっと社長の座を投げ出す。
 が……業績は(社長が何もしないものだから)単に「綿糸相場」に連動しているだけなのである。
 社長がやっと交代すると、だいたい相場の方も底を打って、業績が回復し始める。
 新社長は(同じく無能なのに)自分を名経営者と勘違いしてしまう。
 やがてまたも相場は……の繰り返し。
 ガースーの政権投げ出しも同じパターン。
 コロナはそろそろ収束に転じるだろう(さらにその先は知らんけど)。
 このパターンを地球の生命の進化にまで敷衍したのが桂枝雀『雨乞い源兵衛』である。
 小佐田定雄作、マクラ部分は枝雀師匠が加えた、と聞いた。おれは枝雀師匠のベスト3と評価している。
 人間すべからく落語に学ぶべきである。

9月4日(土) 穴蔵
 肌寒く、曇天、急に雷雨があったり、不安定な天気である。こんな日がつづく。
 外出自粛には絶好である。
 終日穴蔵。
 机に向かい、いろいろ思い悩んで過ごす。
 もうモーロクSFを書いて過ごせばいいではないか……と思うものの、まだそこまで割り切れず。
 モーロクSFにも技術が必要で、まだ未熟なのである。
 困ったことだ。
 一杯飲んで早寝することにする。

9月5日(日) 穴蔵
 晴れて涼。
 終日穴蔵。
 思うところあって『富士に立つ影』を、部分的に再読……築城問答あたりのチェックのつもりが「主人公篇」まで読んでしまった。
 義弟のクルマに乗せてもらって静岡から愛鷹山へ行ったのは90年頃であったか。
 おれもここを舞台にしたいと思っていたが、もう無理だな。
 とはいえ『富士に……』の素晴らしさは熊木公太郎の魅力に尽きる。これだけは机竜之介がいくら斬りまくっても無理だ。大菩薩峠へ行ってみたいと思わないのは、その差であろう。
 などと愚考しつつ、時々東の空を見上げて過ごす。
 夏の雲(生駒方面に積乱雲)と秋の雲(いわし雲)が混在している。
 典型的な「行き合いの空」だが、これは俳句の季語ではないのか?
  *
 あ、写真をと思った頃には、雲のかたちがだいぶ変わっていた。

9月6日(月) 穴蔵
 晴れて涼。
 平日なれど、本日も終日穴蔵にて外出自粛。
 刻々とかたちを変える雲の動きを眺めつつボケーーーーッと過ごす。
 増本河南『冒険怪話 空中旅行』(盛林堂ミステリアス文庫)を読む。
 ヨコジュンが「こてん古典」で紹介していた明治42年の宇宙SFが文庫版で再刊されたもの。
  *
 主人公・朝日輝郎は火星人の空中船(宇宙船)で1年かけて(船内で火星語も学ぶ)火星に旅する。
 月の裏側、火星、フォボス、ダイモス、さらには火星近くにある妖怪星にも色々な種族や妖怪が住んでいて、冒険の連続。
 火星の文明は進んでいて、登場するさまざまな道具立てもよく出来ている。
 その火星には重大な危機が迫っていた。「天路の遥か遠方から」巨大な星が接近しているのが発見される。それは火星を直撃する軌道にあった。火星の人口は16億人。2年後、火星は消滅する……。
 朝日輝郎の冒険活劇は面白いのだが、(結末まで書くわけにはいかないが)長い候文(!)の手紙が(ここだけ文体ががらりと変わる)読み取りにくいこともあって、重大な何かを読み落としてしまったような気がしてならない。
 こちらも耄碌しているからなあ……。

9月7日(火) 穴蔵
 睡眠、相変わらず不規則。運動(外出)しないのだから、致し方なし。
 終日穴蔵。
 色々思い悩んで過ごす。
 先日から「半世紀前のジュブナイルSF」を書こうとして、視点と文体で悩んでいるのである。時代考証とはちょっと違う。
 ヨコジュンの凄さを改めて実感する。
 ヨコジュンは1980年頃に「古典SF小説」(1910年頃)を書いた。70年前を舞台にしたのである。
 わしゃ60年前の「先端SF」を今頃やってみようとして悩んでいる(ややこしいことだが、60年前の記憶をベースに未来を書こうという、へんな試み)。
 これは執筆年齢によるのだろうな。資料で書くか、記憶(体験)ベースで書くか。
 うーん、両方を並行して書く手もあるか……などと愚考しているうちに、たちまち夕刻。
 専属料理人の並べた数皿でビール、ワイン。
 ベルモンドの訃報。88歳。
 夜は『墓場なき野郎ども』を見ることにする。
 DVDは『勝手にしやがれ』(こちらは今更)と2枚し持ってない。本当は『リオの男』が観たいが。
 ベルモンドにいちばん詳しいのは堀潤之氏だろうが、今頃は依頼原稿で忙しいかな。

9月8日(水) 穴蔵/近所で強姦事件
 曇天にして涼。こんな日がつづく。
 本日も穴蔵にこもり、ボケーーーッと過ごす。
・気になるニュース。
 昨日の夕刻、テレビ大阪で見た。
 要約すると……東京の某コンサルタント会社の新入社員3人(吉井春樹、白沢真聖、松岡諒)、大阪での研修初日(7月17日)の夜に、「豊崎1丁目」のマンスリーマンションに20代の女性を「監禁して性的暴行を加えた」として逮捕、7日大阪地検に送検された……という。
 久しぶりにウチのネキ(近所)で起きた大事件である。
 この会社はどこか。どうやら(株)****コンサルタントらしい。この会社の新人に(事件から1ヶ月半の間に)コンサル受けた会社は悲劇だな。
 7月16日は土曜だから、休日に研修という姿勢はマトモな会社だ。なぜ大阪で研修なのかがわからんが。
 ちらっと映ったのは大淀警察署。先日までここに拘留されてたのか。ウチから5分。
 ちらっと映った容疑者は、検察に移送される時のクルマの窓越し映像らしい。
 ちらっと映った「犯行現場」のマンスリーマンション。これは見間違いない。
 ……ということで、午後、郵便局に行ったついでに、現場を見物に行く。
 大淀警察の前に人影なし。地検に送致済みだからなあ。3人、今はどこに泊まっているのか。大阪拘置所か。
 マンスリーマンションを確認に行く。
 間違いなし。犯行現場は「ル・パルトネール梅田北」である。
  *
 散歩でよく歩く南浜墓地の向かい側にある。テレビの映像から推察するに、犯行現場は4階か5階の部屋であろう。
 さあ、どうなるか。
 逮捕は東京だったのか。どう移送されたのか。会社への「家宅捜索」はあったのか。3人の「前歴」が色々出てくるのか。会社は釈明会見やるのか。
 興味は尽きない。続報に期待する。

9月9日(木) 穴蔵
 激しい雨音で午前2時に目覚める。
 またも眠れなくなった。というか、浅い睡眠がつづくというか。
 ちょっと読んで、目が疲れて、目を閉じ、しばらくしてまた読み…の繰り返し。
 明け方に雨はやみ、曇天、昼前から晴てくる。
 食事以外、ほとんどの時間をベッドで過ごして、24時間ほど経過した。
 日が変わって、10日午前2時になろうとしている。
 明日……じゃなかった、今日こそ生活スタイルを立て直そう。
 とりあえず眠る努力をすることに。

9月10日(金) 穴蔵
 睡眠、相変わらず不規則……というよりも、じつに規則的なパターンに落ち着いてきたような。
 朝食(5時頃)のあと3時間ほど眠る。
 昼食(12時)のあと2時間ほど眠る。
 晩酌(19時〜)のあと3時間ほど眠る。
 その間に色々やるわけだが……
 午前中の3時間ほどは非SF系の雑事。
 午後の3時間ほどは身辺の雑事。
 夜中から明け方が本来の仕事であるべきだが、アタマが働かないから、ベッドで本を読む。
 本来の生活スタイル(22時〜4時睡眠)が、この1週間ほどで入れ替わってしまったらしい。
 外出自粛のせいであろう。
 無理して朝型に戻すこともないか。
 緊急事態宣言が9月末まで延長で、来週の予定変更、播州龍野関係など、昼間はややこしてこと多し。

9月11日(土) 穴蔵
 相変わらず断片的睡眠。
 就眠前(6時頃)は雨、目覚めれば曇、昼食後にはだんだん晴れてきた。
 終日穴蔵。
 痴呆状態で過ごす。
 晩酌時、ブラタモリを見ていたら、松本城の月見櫓がちらっと紹介された。家光が来るというので作られたもの。
 ここで何十年か前に、松本市の幹部が武士の装束で「月見の宴」をやって物議をかもした事件がある。ここに書いている。
 非難ごうごうだったが、こんな面白い企画が消滅したのは惜しい。事件の詳しい記録を調べようとしたが、ネットでは不明。どなたか記憶している方がいらっしゃれば乞御教示。タモリがこんな宴会を喜ばないはずがないのに、NHKも無粋な。
 22時……
 911同時多発テロから20年。この時刻、ニュースで中継を見ていたら、アナウンサーの背後で、2機目が世界貿易センター南棟に激突した。あとはテレビ見て徹夜。翌日は相棒と眠い目をこすりつつクルマで岐阜往復。その後数日も眠れない日がつづいた。
 アメリカもたいへんだが、こちらも新会社立ち上げでややこしい時期だった。アフガンの隣国ウズベキスタンのプロジェクトもかかえていたし。
 20年経って、アメリカはアフガン撤退、こちらはタイムマシン業もほぼ終息。
 ややこしい20年であったなあ。

9月12日(日) 穴蔵
 相変わらず断片的かつ規則的な睡眠。
 曇時々雨。アタマの状態も同様。
 終日穴蔵。
 どんよりした空を時々眺めてているうちに夕刻となる。
 専属料理人の並べた枝豆、ヤッコなどでビール。
  *
 あと鶏肉の煮込みでワイン、ブルディガラの三日月パン。
 お楽しみはこれだけだ。
 晩酌後、すぐ眠くなり、寝る。
 目覚めれば日付が変わっていた。
 いかん、このままだと筋力が衰えて、元気な寝たきり老人になってしまいそうな。
 お代官様のいいつけに背いて、明日は今日こそ外出して、長時間カラダを動かすことにする。

9月13日(月) 穴蔵/ウロウロ
 夜中に目が覚めて、朝までだらだら。
 本日はがんばって昼寝しないことにする。
 薄曇りで涼しく、昼前に(人出のない)淀川堤方向を歩く。
 淀川堤……新御堂の西側で、またもえらい工事が始まった。
 左岸線工事の一環で「中津川北野下水道幹線他建設工事」(日本下水道事業団の発注)、また来春まで散歩道が狭まる。
 堤どころか、下の道路の多くが通行禁止になり、ガーやんがやたら多し。
 水管橋が撤去された跡がまたも掘り返されて、鉄壁みたいなのが作られている。
  *
 ここは、2年前には、水菅橋撤去(河側)は始まっていたが、散歩できた。
 その後、堤が崩され、昨年5月には復旧していた。
 またも工事で、堤防への道は閉ざされた。
 通行可能な道は迷路みたいで、工事現場をフェンス越しに覗こうとするとガーやんが「早く行け」と追い立てる。
 10年ほど……つまり生きているうちに淀川堤を歩くのは無理か。
 午後は穴蔵。
 1時間ほどウトウトしてしまった。
 夕刻、ちょっと一杯。
 もう少しがんばって、22時頃に就眠の予定。

9月14日(火) 穴蔵/U5H
 曇天、小雨が断続的に降る。
 終日穴蔵。
 昨日少し散歩したが、焼け石に水で、睡眠は相変わらず断片的、アタマは朦朧としたままである。
 サンテレビで見かけた兵庫県庁からの中継映像。
 内容よりも、アナウンサーの背景に映るポスターが気になる。
 私は兵庫/けれども/播磨ですとある。
 何のことかいなと調べてみると「U5H」というキャンペーンらしい。
 兵庫五国連邦(U5H)……兵庫県人は出身を聞かれて「兵庫です」とはいわない(例外は神戸市兵庫区)。
 それなら、兵庫県は日本のほぼ中心にあり、五国(摂津、播磨、丹波、但馬、淡路)から成るのだから、それぞれの「ふるさと」を再発見して、新たに連邦をつくりあげるのもいいではないか。
 おおざっぱにいえば、そんなことらしい。
 去年2月に5つのポスターが作られてスタートしたものの、コロナ禍と重なって、ぜんぜん盛り上がらないような。
 自分のことをいえば、おれは出身を聞かれるとたいてい「播州龍野」と答える。これは「播磨の国・龍野」の略だから、播磨と名乗っていることになるが、本当は「龍野」といいたいのである。龍野はそう有名でないから播州龍野という(場合によっては「姫路のとなりの」という)。
 播磨はほとんど使わない。しいて使う場合はセーバン(西播磨の意味/トーバンと区別する)である。
 さらにいえば、龍野の正式な表記は「たつの市」で、口頭だと龍野と区別できないからいいが、文章では書かない(理由はこちらに書いているとおり)。
 たいていのひとは市町名をいうのではないか。
 特に摂津は使わない。阪神間はすべて市名(神戸、芦屋、西宮)を名乗る。尼崎は微妙で「尼ですわ」といわれても兵庫か大阪かわからないだろうな。
 5枚のポスターのうち「摂津」だけは「私は兵庫/けれども/神戸・阪神です」となっている。
 旧国名を使うのは「淡路」だけのような気がするなあ。
 ちなみに、クルマのナンバープレートは、兵庫県は「神戸ナンバー」(摂津・丹波・淡路)と「姫路ナンバー」(播磨・但馬)の2種類だけである。
 ……とはいえ、このキャンペーン、悪いものだとは思わない。色々しゃべりたいことが出てくるから、むしろ面白い企画だと思う。早くコロナが終息して、盛り上がるよう、「五国豊穣」を願う。

9月15日(水) 穴蔵
 睡眠、相変わらず規則的に不規則。
 本日も外出自粛。終日穴蔵。
 午後、昼寝から目覚めて、郵便物を取りに降りたついでに近所の公園まで散歩。面倒で、それ以上歩く気にならない。
 ベンチでボケーーーーッと、久しぶりに晴れた空を眺める。
  *
 2、3年前には毎日のようにヨレヨレのおっさんがいたものである。
 このところ見かけない。半年以上…1年近いか。心配なことである。
 老いぼれ記念日(敬老の日とも申せましょう)の世話人にそれとなく訊ねてみることにしよう。
 おれが二代目を襲名することになるのだろうか。


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