『マッドサイエンティストの手帳』724

●マッドサイエンティスト日記(2020年2月後半)


主な事件
 ・穴蔵の日々(新コロナウィルス蔓延中) 
 ・神戸新聞文化センター(21日)


2月16日(日) 穴蔵
 定刻午前4時に目覚める。
 外は雨である。小雨が終日降りつづく。
 出歩く気分にならず(雨よりも新型コロナウィルスで)、終日穴蔵にこもる。
 上階の物音がひどい。たぶん引越しの準備であろう。あと2日の辛抱だ。
 夕刻のテレビの報道番組(ワイドショー)。
 新型コロナウィルスに関して、チャーター機第1便の帰国者が退去したホテルの消毒作業とか、タクシー会社の対策などを報じるのは結構だが……感染現場のひとつとなったらしい「屋形船での新年会」の「再現ビデオ」には呆れ果てた。最後に全員で歌い踊るところまで「再現」している(一方である企業の「100人以上の集会禁止」も伝えている)が、なんたるアホ企画。こんなの作った連中の中に感染者が混じっていることを願う。

2月17日(月) 最悪の日
 ついてない日である。
 昼間は上階の騒音が絶えず。
 騒音一家の引越し準備らしい。
 外出しようか迷うが、新型コロナウィルスが気になって、出歩く気分にならず。
 イライラ過ごす。
 夜は集合住宅の理事会。
 滞納やら水漏れ事故やら、つまらん案件ばかり。
 ま、理事長職、あと3ヶ月の辛抱である。
 何事も耐えねばならぬ。
 遅い時間に一杯飲んで寝る。

2月18日(火) 最悪/最良の日
 天気予報では、西日本は大雪・寒波だが、大阪は普通に晴。そう寒くもなし。
 午前9時過ぎから盛大に騒音が響いてきた。
 上階の引越作業開始である。
 さすがにたまらず、外出する。
 中央図書館へ行こうと地下鉄中津まで行ったら、御堂筋線はストップしている。通勤の大混乱は終わりかけらしい。
 心斎橋で事故があったようである。
 しかたなく進路変更、ジュンクドーを覗き、ヨドバシうろうろ。みじめに気分である。
 昼に帰館。
 まだトラックが駐車中だが、引越作業はだいたい終わったらしい。
 午後、穴蔵。
 騒音一家が去った!
 午後は信じがたい静寂につつまれる。
 穴蔵は早春の日のなかでしんとしている。
 何もせず、ただ夢のような時間を過ごす。
 夜は豊崎西公園南側中本酒店推奨の格安馬鹿旨ワインで祝杯をあげる。
 明日から、少しは仕事もできるはずである。

2月19日(水) 穴蔵
 晴れて気分のいい日である。
 終日穴蔵。
 出歩く気分にならない。
 騒音一家が去って、静かな穴蔵で本を読んでいたら、動きたくなくなも。
 幸せな気分である。
 この3年間、あの「カカトで歩く」足音の断続的な響きがいかにストレスになっていたか、あらためてわかってくる。
 このまま静かに老後を送りたいものである。

2月20日(木) 穴蔵/ハチ
 晴れて気分のいい日である。
 終日穴蔵。
 静かで落ち着き、出歩く気分にならない。
 しかし……年初からちょっと気になることあり、夕刻、自転車でハチに出かける。
 本日はライブなし、ジャズ喫茶の日である。
 ケンペプを聴きつつ、マスターの明利くんとあれやこれや。
 いずれにしても、8月9日(日)の山下洋輔ライブは決まったという。
 何よりである。これがいちばんの元気の素だからな。
 20時過ぎに帰館。
 専属料理人が並べた数皿で一献。
 早寝するのである。

2月21日(金) 神戸新聞文化センター
 晴れて気分のいい日である。このところ、こればっかり。
 昼前に出て阪急で三宮へ。
 電車は空いていて、ほっとする。
 神戸新聞文化センターでの講座の日である。
 幸い兵庫県はまだ新コロナウィルスの感染者はゼロである。
 聴講者も少数なので、安心して話せる。
 面白いことに、エッセイや小説(SF)の中に、新コロナウィルス騒動を先取りしたような作品が複数あり(書かれたのはギリギリでも1月半ば)、時代感覚の鋭敏さに感心する。
 ただ、現実の事件がこの3週間でこんな大騒ぎになってしまうと、便乗作品と誤解されかねない。
 これに似た事例は、阪神大震災や東日本大震災などでもあった。難しいところだ。
 おれが「証人」としているから、今回の事件もじっくり観察して、時間をかけて、より高度な作品に仕上げてほしいと思う。
 その他、Kさんの、日本に輸入されたロダンの彫刻数体の数奇な運命を日本の近現代史にからめて描いたノンフィクションの力作もあり、刺激を受けること多し。

2月22日(土) 穴蔵/梅田解放区?
 曇天、9時過ぎに雨が降り始め、本降りとなる。
 むろん出歩かないから、結構な雨である。
 穴蔵にこもり、源泉徴収票が揃ったので、確定申告の仕上げ。
 夕刻近くに晴れ間あり。
 と、夕刻、外が騒がしくなった。
 出てみると豊崎西公園で20人ほどが集会。「安倍やめろ!」の横断幕を持って「安倍やめろ!」と叫んでいる。
 騒がしいのが警察で、パトカー2台、警官30人くらいが周辺を囲み、広報車?も来て、マイクで何やら警告している。こちらの音声の方が騒がしい。
  *
 やがて、パトカーに先導され、参加者を上回る警官に囲まれて、後ろにもパトカーがついて、茶屋町方面に去った。
 ネットを見ると「梅田解放区」と名乗る連中らしいが……。
 背後に何か過激な(あるいは異国の)組織がいるのか。
 過剰な警備のような気がしないでもない。

2月23日(日) 穴蔵
 晴れたり曇ったり。外の気温はわからず。
 刻々と増える新型コロナウイルス感染者のニュースを断続的に見つつ、終日穴蔵にこもって過ごす。
 雑件がたまって、播州龍野へ行きたいのだが、公共交通機関に1時間以上閉じこめられての移動は気が重い。
 困ったことだ。
 明日も休日なので、連休が終わってから考えるか。
 今年の花見会はすべてやめることにする。
 死ぬのが怖いからではなく、感染して媒介者になるのが嫌なのである。

2月24日(月) SF大賞/墓見で一杯
 朝のニュース。
 第40回日本SF大賞は、小川一水さんの『天冥の標』全10巻(早川書房)と、酉島伝法さんの宿借りの星(東京創元社)に決定。
 ともに長い時間をかけて書かれた大作で、何よりの受賞である。おめでとうございます。
 大森望・日下三蔵編『年刊日本SF傑作選』全12巻(東京創元社)に特別賞。これも12年がかりで、年月をかけた仕事が顕彰されるのはまことに喜ばしい。
 吾妻ひでお氏と眉村卓氏に功績賞、小川隆氏と星敬氏に会長賞。4氏とも何十年も前から知っている方で、3氏はおれより若く、これは寂しい。
 時間の流れを感じさせるなあ。

 静かに穴蔵で過ごすつもりだったが、9時過ぎから上階が騒がしくなる。
 騒音一家が去って、静かな日々がつづいていたのに、何としたことだ。新騒音一家が引っ越してきたのか?
 管理人に聞くと、まだ荷物が残っていて、小刻みに移送しているらしい。
 業者に頼んでおきながら、(1部屋多い)引っ越し先に入りきらず、整理してから残りを運び込むのだという。今まで、よほどギシギシに詰め込んでいたらしい。2DKに4人(5人説もあり)で、どんな生活をしていたのか。
 遅くとも今月末までのしんぼうである。
 たまらず散歩に出る。
 人混みは避けて、淀川方向へ。
 が、淀川堤は工事で立入禁止である。
 しかたなく進路変更、「天神山」に倣って墓見に行くことにする。
 豊崎の東海道線東側に残っている南浜墓地を見物(大坂七墓のうち、残っているのはここと蒲生墓地だけ)。
 さすがに人はいない。
  *  *
 橙の下に墓は並んでいる。一杯やりたい墓石は見当たらず。
 東海道線の高架を潜って源光寺の方に出て、A先生の研究所前を抜ける。
  *
 書斎棟はしんとしている。うらやましい環境だ。
 おれも見習わねば。ま、騒音が治まってからだ。
 夜は数皿並べてもらい、専属料理人を墓石に見立てて、墓見で一杯。うまっ。

2月25日(火) 穴蔵
 曇天、午後は晴れ間も。
 ウイルスが嫌で終日穴蔵。
 相棒の某くんがクルマで播州龍野行きなので、こちらの用件をメールで頼んだら、快く引き受けてくれた。
 密閉の公共交通機関で行かなくて済む。
 ありがたいことである。
 仕事はさほど進まず。たちまち夕刻となる。
  *
 夜は専属料理人の作った蕪蒸しその他でビール、吉乃川。
 早寝するのである。

2月26日(水) 穴蔵
 曇天。外は寒いらしい。ウイルスが嫌で終日穴蔵。
 これといった仕事はしないまま。嗚呼。

2月27日(木) 穴蔵
 晴天。外は寒いらしい。ウイルスが嫌で終日穴蔵。
 これといった仕事はしないまま。
 新型コロナウイルスの感染者増加のニュースを断続的に見ながらボケーーーーーッと過ごす。
 世間は全国的に「動かず・集まらず・働かず(テレワークなんて監視がないもんね)」奨励らしい。来週から「学ばず」も。
 おれも「お上」のいいつけにしたがって、しばらくつき合うことにする。
 夜は、専属料理人の並べた、串カツとサラダでビール、山かけと湯豆腐で吉乃川一献。
 あ、専属料理人のみ働いているのであった。すまんのう。

2月28日(金) 陰鬱な日
 朝は晴れていたが、昼前から曇り、だんだん暗くなる。
 出歩くことなく、終日穴蔵。
 新型コロナウイルス関係、ニュースは来週からの一斉休校のことばかり。
 連動して、人の集まる娯楽施設の休館、休園のニュースが増えてくる。
 おれには関係あるまいと思ってたら、集合住宅関係にも話が及んできた。
 管理会社から、管理人が発熱した場合の対応について色々いってくる。
 要は、管理人の補充はできないから、おれに代行してくれということか。
 損な役回りになったなあ。管理人が感染しないことを願うばかり。
 音楽家の友人が3月上旬大阪で予定していたコンサートの延期を連絡してきた。
 このご時勢ではいたしかたあるまい。
 そして、外が暗くなってきた頃……
 超大先輩というか師のひとりというか、長年私淑してきた方が見舞われた不幸を知る(読む)。
 その文章が、冷静に、取り乱すことなく書かれているだけに、抑えられている感情を想像するだけで息が詰まりそうになる。
 これだけは、どう言葉にしていいのかわからない。
 心中に去来すること多いが、まったく言葉にはならないのである。
 ただ暗澹たる気分に落ちこむ。

2月29日(土) 穴蔵
 曇天から雨になり夜は本降り。ますます(気分も)暗くなる。
 出歩くこともなく、終日穴蔵。
 月末なので諸経費を「決算」したら、2月は交通費がゼロであった。
 播州龍野へ行かず、近所の移動はICOCAのチャージ分で済ませたからである。
 3月もこうなるのであろうか。
 無為に過ごした2月が終わる。嗚呼。


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