『マッドサイエンティストの手帳』697

●マッドサイエンティスト日記(2019年1月後半)


主な事件
 ・播州龍野いたりきたり
 ・神戸新聞文化センター(18日)
 ・風呂本佳苗ピアノリサイタル(18日)
 ・通夜的SF検討会(19日)
 ・堀晃さんを悼む(28日)


1月16日(水) 播州龍野→大阪
 眠り断続的である。
 7時に起きる。
 8時にタイムマシン格納庫へ行き、作業開始。
 冷えるなあ。一応石油ストーブが1台あるが、倉庫全体の気温をあげるにはいたらず。輻射熱でちょっと熱を感じる程度。
 14時頃で切り上げ。つづきは来週とする。
 午後の電車で帰阪。
 ともかく入浴。
 夜は、専属料理人が帰っていて、翁豆腐の湯豆腐、肝の炒めたん、レンコンの何たらハンバーグ、その他3皿ほど並ぶ。これらでビール、酎ハイ。
 たまには「非独酌」もいいものだ。
 このところ、芥川賞・直木賞、ともにSF知人の候補がつづく。
 今回の芥川賞……高山羽根子さんの受賞はならず。また機会もあるだろう。

1月17日(木) 穴蔵
 5時過ぎに目が覚める。
 阪神淡路大震災から24年。5時46分に黙祷。やはりこの時刻は緊張する。
 終日穴蔵。
 コタツで資料を読んで過ごす。龍野とは体感温度が10℃ちがうなあ。
 (穴蔵は暖房なしで20℃、龍野書斎は暖房して16℃くらいだが、部屋を出ると10℃以下である)
 たちまち夕刻。
 夜は、タラ・シチューをメインに、ほうれん草炒め、すぐき、生ハムサラダ、小鉢など色々。
  *
 ビール、ブルディガラのクレセットパンでワイン。
 ついでに専属料理人専属按摩に肩を揉みほぐしてもらう。
 非独居生活もたまにはいいものである。

1月18日(金) 神戸新聞文化センター/風呂本佳苗ピアノリサイタル
 昼前に出て阪急で神戸三宮へ。
 午後、神戸新聞文化センターでの講座である。
 エッセイはテーマが闘病記と旅行記に集中、ここに大震災の話題も加わるから、話が脱線気味になる。
 最近はエッセイに面白いキャラクターが少ないなと感じる。ここでいうキャラとは「三文役者」「狐狸庵」「どくとるマンボウ」「カモカのおっちゃん」などである。
 ひとり、エッセイで、必ず最後に奥さんが出てきて何か一言いうパターンを好む人がいて、これなんか「カモカのおっちゃん」の女房版になるのではないか。
 小説は作風異なる3篇。人肉食テーマのSFが巧緻で感心する。病院で妙な痛みを訴える患者と同室になった体験から、その人物を先頭に置いて城攻めを行う時代小説……何かと思われるだろうが、これが見事に成功しているのである。毒親から逃れようとする女子大生を描く奇妙な作品……ともかく毒親の描写が凄まじい。
 近所の喫茶室でお茶。
 夕刻、西宮北口へ移動する。
 芸術文化センターで、新春恒例、風呂本佳苗さんのピアノリサイタルを聴く。
 「新年の幕開けに」ということで、今年は「前奏曲」特集。短い曲が多く演奏される。
 前奏曲には「24」という数字が深く関わり、これはショパンから始まるらしい。半音キーを入れて12音、これに長調と短調があり、24の長短調に対応する前奏曲を完成させる。ラフマニノフが代表的らしい。
 指使いを想像するだけでも恐ろしくなる。
 これを、24曲全部ではないにしろ、ドビュッシー、ラフマニノフ、ガーシュイン、ヒナステラと、楽々と鮮やかに弾きこなしていくから、ただ感嘆。最後のカプースチンなんて、ジャズの激しいアドリブとしか聞こえない。譜面を見たくなってくる。
 ロビーで(風呂本さんの追っかけファンらしい)芦辺拓さんと挨拶。芦辺さんはヨコジュンとは一度会っただけというが、聞いておきたかったことが色々あって悔やまれるという。全国にこんな人がいるのだろうな。

1月19日(土) 通夜的SF検討会
 快晴で3月並の陽気だとか。
 しかし、気分はさえない。穴蔵にてボケーーーーーッと過ごす。
 夕刻、かんべむさし氏来穴蔵。
 先月忘年会をやったところだが、定員2名内容非公開のSF検討会を開催する。
 非公開といいつつ、テーマは隠すこともあるまい。
 先日亡くなった横田順彌氏についてである。
 ともに気分は複雑、ひとりで考え込んでいても気が滅入るばかり。冥福を祈るとか哀悼の意を表するなんて言葉では片づかないのである。
 ヨコジュンの業績については、今さら繰り返すこともない。ハチャハチャSF、メルヘン、SF事典、明治舞台の「古典SF」(特に鵜沢龍岳のシリーズ)、そしてライフワークの日本古典SFの研究……いずれも偉大な業績である。それが日常生活にまで影響している作家は希有ではないか(おれは、この40年以上、今も朝起きて雨が降ってると浅田飴を想起するひとりである。同志が全国に何人いるのか)。
 しかし、なぜこの時期にヨコジョンが亡くならねばならぬのか。
 同世代のうちでいちばん早いだけといえば、そうかもしれないけど。
 しかし、やはり、古書に埋もれた独居生活、心身ともに不調、少なくない薬、食生活が良好だったとは思えず……なぜこんな生活に入り込んでしまったのかという疑問が晴れない。SFと健康生活は両立して不思議ではないはず。
 そんなことをアタマに、70年代のこと(おれが初めて会ったのは65年のTOCON2/半世紀以上前だ)から80年代に何度か大阪に来てくれた(歌之助独演会もあった)ことなど、グダグタと3時間ほどビール、酎ハイ。
 少しは気分も晴れてきたが、やはり、わからないことが多いなあ。
 あ、前に、最後に会ったのが2012年3月のSF大賞の時と書いたが、正確には2012年7月12日(小松左京に出会う会/そういえば米朝師匠と最後にお目にかかったのもこの日であった)で、大阪まで来てくれたのだった。

1月20日(日) 穴蔵
 朝だ。雨が降っている。昨夜の今朝だけに、偶然とは思えない。
  *
 浅田飴を1粒口に含む。
 終日穴蔵にあり。
 物思いに耽る。
 夜になる。
 一杯飲んで寝る。

1月21日(月) 穴蔵
 終日穴蔵にこもって過ごす。
 陰々滅々たる日。読む方も鬱陶しいだろうから理由は書かず。
 夜は集合住宅の臨時総会と理事会。これまた陰鬱の決定版。嗚呼。
 やっと21時頃から晩酌。
 湯豆腐、刺身、ちらし寿司、すぐきなど並べてもらって呉春を飲んでたら、少しは気分はましになった。
 さあ、明日から播州龍野でタイムマシン製作作業。
 寒いだろうが楽しみでもあり。

1月22日(火) 大阪→播州龍野
 早朝の電車で移動。
 車窓から六甲に沈むスーパームーンを眺める。
  *
 9時30分に本竜野着、直ちにタイムマシン格納庫にて作業開始。
 午前は8℃だが、重装備で来ているから、さほど寒さは感じず。
 昼は「得得」往復。
 また夕刻まで作業続行。
 だいぶ形が出来てきた。
 18時過ぎに、また「あかねの湯」へ行く。
 食品スーパー経由で実家へ戻り、独酌開始。
 鴨居のスピーカーから降り注ぐウィントン・ケリー、ジム・ホールを聴きつつ。
 播州龍野の夜は更けゆく。

1月23日(水) 播州龍野→大阪
 播州龍野にて、目覚めれば6時であった。
 体の節々が痛むかと思っていたが、特になし。
 8時にタイムマシン格納庫へ行き、組立作業にかかる。
 朝は寒かったが、気温は9時過ぎから急速に上昇、10時には10℃を超えた。
 作業に体が慣れてきたのであろう。快調である。
 が……部品の不足に気づく。モノタロウで調べると、明日出荷で入手できそうである。
 予定変更。昼までで中断し、あとは来週に送ることにする。
 午後のキハ122系で姫路に出る。
 水曜で灘菊は定休日。
 本日は英洋軒で遅めのランチとする。
  *
 餃子、ズリ、サラダで水分補給も怠りなし(値段は食べログご参照、190円で信じがたいメニューが並んでいる)。
 新快速で夕刻に近い午後に帰阪。

1月24日(木) 穴蔵
 ちと疲れが出て、終日穴蔵にて本を読んで過ごす。
 例によって、本の整理を兼ねた流し読みだが、松本富雄『超二流セールスマンへの道』(晶文社出版)を読み出したら、やめられなくなってしまった。
 サボリの極意(というよりも、楽に仕事を片づけて、いかに自分の楽しみ時間を作り出すがという極意/したがって、その時間を仕事に当てるなら純然たるビジネス極意書になる)を説いた快作(怪作?)である。30年ぶりに再読、やはり面白い。ネットで見たら4千なんぼの値がついている。永久保存だな。……松本富雄くん、どうしているのかな。
 たちまち夕刻。
 専属料理人が並べた豚肉のなんとか巻きとかサラダなどでビール。
 あと牡蠣のパスタ。牡蠣のワイム蒸しのオリーブオイル漬け?かなんか、そんなの。
  *
 これで安白ワイン。うまっ。
 早寝するのである。

1月25日(金) 穴蔵
 寒そうなので、終日穴蔵にて雑読。本の整理である。5冊ほどしか整理できず。
 ニュース雑感。
・「あおり運転殺人」の中村精寛に懲役16年の判決。軽いなあ。18年が16年に減刑された理由がさっぱりわからない。
・東京から鹿島神宮へ行って行方不明になった女子大生。NHK19時のニュースでは行動がさっぱりわからず。報道に矛盾があるのではないか。(※)
・白鵬ばったり。もう終わりだな。初日から「薄氷の勝利」だったからな。(※※)
 その他、アホばっかり。
 晩酌中に集合住宅の管理人から電話。
 近隣の賃貸マンションにとんでもない男が住んでいて、ウチにややこしい被害をもたらしている。
 本日、証拠物件(その男の終了した預金通帳)を押さえたという。
 この際、徹底して懲らしめてやるか。
 来週になるけど。さあどうなるか。

※NHKニュース。11月20日に女子大生は電車で綾瀬から鹿島神宮へ移動、ここからタクシーで神栖市のコンビニ前へ移動。これは確認されている。あと、30代の男が任意で聴取を受け、家宅捜索を受けている。が、20時頃に近所のおっさんが、近所の路上で女の子が泣いていて「目隠しされて連れてこられた」といったと証言して(カメラのインタビューに応じて)いる。この時、なぜ警察に通報しなかったのかが謎。この証言、翌朝のニュースでは報じられなくなったが、民放が報じ出した。わからんなあ。おそらく「30代の男」が****したのだろうけど、近所のおっさん、何しとったのよ。(2019.1.26)(※※※)
※※案の定、休場しよった。(2019.1.26)
※※※1月31日。不明の女子大生の遺体、神栖市の畑で発見。無職・廣瀬晃一(31)を逮捕。予想通りの展開だが、女子大生が「目隠しされて連れてこられた」と近所の住民に訴えたのは何だったのか。……夕刻、廣瀬の今の映像。ハゲ頭。こりゃ怖がるわ。こんな男のところへ再度?行ったのか? ますますわからん。(2019.1.31)
※※※※週刊新潮の記事を立ち読みして疑問は氷解した。目隠しもあるかもしれんし、警察には相談しにくく、金を払えと何度も行く他なかったのだろう。(2019.2.6)

1月26日(土) 穴蔵/ウロウロ
 寒いのであった。昼を過ぎても7℃。
 運動不足なので、午後、重装備で散歩にでる。
 貨物線「左岸」沿いにグラフロ方向へ。
 風が強いので、ステーションシティ「風の広場」に上がってみる。さすがに人は少ない。
  *
 新駅工事は遅々として進まず、サーカス小屋があったり、相変わらず眺めはよくない。2年ほど変わりそうにないな。
 人混みを避けて(風邪予防)、2期地区南側を西へ、梅田信号所の踏切を渡り、北へ。スカイビル、阪急中津を抜けて帰館。
 7,962歩。
 寒いので、夜は豚しゃぶでビール、酎ハイ。
 ベッドに潜り込んで本を読む……つもり。

1月27日(日) 穴蔵
 終日穴蔵にあり。
 本を読んで過ごす。
 夜、ちょっと一杯。
 早寝……のつもり。
 こんな日があと数年つづいて終わるのであろうか。

1月28日(月) 堀晃さんを悼む
 空曇りて風寒し。陰鬱な冬空である。
 終日穴蔵にこもっていたら、午後、ハガキが届く。
 堀晃(ほり・ひかる)さんの訃報である。
 昨年も下関美術館で個展があったのに……と驚く。
 十年来の間質性肺炎の悪化という。(アトリエ便りに記事あり)
 前に頂いたハガキでは、チューブが不便だが絵は描けるからといった内容で、透析かなと想像していたのだが、酸素吸入だったのか。
 おれよりずっと若く、画家の創作年齢は噺家と並んでずっと長いはずなのに。
 寂しく、また無念なことである。
 ヒカルさんとの思い出は多い。
 ヒカルさんの日本絵画展大賞とわが日本SF大賞の受賞がほぼ同時だったので、ともに新聞に出て、祝電とか電話が混乱した。お互い、それで名前を知ったのである。
 京都の画廊での個展の時、ヒカルさんが案内状を送ってくれて、京都で初めて対面した。
 1983年7月24日である。
 いい男であった。おれより8歳若く、がっしりした体格だが、優しくも鋭い雰囲気で、話もすごく面白かった。
 ヒカルとアキラで区別しようということになり、以来、35年のつき合いである。
 個展におれの名で花を贈ると誰もが面白がってくれた。
 大阪での個展で会うことが多かった。
 1997年とか、1999年とか、2005年とか。
 ヒカルさんはキャンピングカーで寝泊まりしながら日本を一周し、加計呂麻島(奄美大島)がすごく気に入って、ここの廃校にアトリエを構える。
 半分は加計呂麻島生活となり、ここでの生活を書いたエッセイ『今夜も眠れないこの島で』は面白かった。
 一度訪ねてみたかったが、おれの苦手なS字型がうようよだから、結局行きそびれてしまった。
 佐藤允彦さんとの競演(絵とジャズである)とか、思い出は尽きない。
 ウチにはヒカルさんの絵が2点ある。仕事部屋の「鳥」とリビングに飾ってある「海」である。
  *
 夜、リビングの絵に献杯。
 これからの残りの人生をヒカルさんの絵とともに過ごすことになる。

1月29日(火) 蛸丸
 午前、レターパック送りに中津郵便局へ行ったら、ちょっと先にど派手な店がオープンしているのに気づく。
 年末に閉店したカクウチの名店「おおにし」(現在改修工事中)のちょっと南。以前は地味なタバコ屋だったはず。
  *
 ここに「じゃんぼ總本家」ができている。年末か今月にオープンか。天満あたりで見かけるチェーン店。
 いままで詳しく観察したことがなかったが、たこやき、お好み焼き、焼きそばのテイクアウト店らしい。
 このあたりには似つかわしくないぜ。
 恥ずかしくて並べない。むろん利用することはない。
 ただ、この辺でたこやきといえば「蛸丸」だろう。
 豊崎西公園のちょっと南(豊崎南公園のはす向かい)にあるたこやき屋で、半世紀の歴史があるはず。
 ここに住み始めた時にはあり、ボンクラ息子その1が子供の頃によく利用していた。
 久しぶり(20年ぶりくらいか…と思ったら4年ぶりであった)に食べたくなり、昼、専属料理人に買ってきてもらう。
  *  *
 カツオブシどっさりでわかりにくいが、大きめで、タコも大きめ。これで昼ビール1杯。うまっ。
 ま、あと10年はよろしいな。ということは食べ納めか。
 半世紀の味を引きつぐ蛸丸に栄光あれ。

1月30日(水) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 タイムマシン格納庫にて組立作業。
 午前中でおれの担当作業は終了。あとの配線関係は相棒の某くんに引き継ぐ。やれやれ。
 昼、快晴で暖かいので、室津まで昼食に行く。
  *
 ああ播磨灘。
 堀市の食堂で牡蠣フライのランチ。たいしてうまくもなし。
 牡蠣の直販所が多いが、持ち帰るには不便……というか、よくわからん。
 播州龍野に戻り、夕刻に近い午後の電車で帰阪。
 肉体労働がなくなるのは、ちょっと寂しい。

1月31日(木) 穴蔵
 曇天、10時頃に雨になり、夕刻まで降りつづく。寒い。
 出歩くことなく、コタツで本を読んで過ごす。
 こんな日の通勤はたいへんだろうな。
 昨日に播州龍野往復しておいてのは正解であった。
 ちょっと読んだ本のことも書いておこう。

北野勇作『その正体は何だ!? じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』(キノブックス)
 北野さんの「ほぼ百字小説」第2弾である。
  *
 前の『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』とどこが違うのかと思ったら、いちばん上の副題が「その先には何が!?」→「その正体は何だ!?」に変わっているのだった。
 長いタイトルになるなあ。
 今回は「生き物」というか「謎の生命体」というか、蝶や恐竜から知性をもった餅や日本足のラジオまで、色々出てくる。
 枕頭に置いて寝る前に拾い読み。悪夢必至。体かむずむずしてくる。
 これが好評だと第3弾も期待できる。
 諸君、ご支援を。
 で、ここで版元のキノブックスについてちょっと触れておきたい。
 面白いSF系を立て続けに出している。たいしたものである。
 ここの会長、木下直哉氏は、まだ若いが、凄い遣り手であるなあ。MCコーポレーションの時から知っていて注目している(向こうは知らないだろうけど/ま、ちょっとした因縁かな)のだが、木下グループを急拡大している風雲児である。
 ぜひともSFにも力を入れて欲しい。グループの成長を祈る。


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