『マッドサイエンティストの手帳』688

●マッドサイエンティスト日記(2018年9月後半)


主な事件

 ・多治見→大阪(16日)
 ・播州龍野いたりきたり
 ・神戸新聞文化センター(21日)
 ・創サポ講義(29日)
 ・台風24号(30日)
 ・『ランドスケープと夏の定理』『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』『始まりの家』

9月16日(日) 多治見→大阪
 オースタットにて、日付が変わっての就眠だったが、6時30分に目が覚めた。
 直ちに着替え、バッグを持って1階へ。10分で朝食を済ます。
 6時45分にオースタットを出て、多治見駅へ。7時5分始発の普通に乗り、金山で特別快速に乗り換えて米原へ。ここから新快速で大阪に10時45分着、歩いて11時5分に穴蔵に戻る。オースタットの玄関を出てから4時間20分である。
 新幹線利用との差、1時間50分をどう見るかだが、休日の朝、名古屋で下り新幹線に乗ろうとすると、京都行きの客で一杯で、2時間くらい待つことになる。
 多治見からの帰路は在来線の方が楽なのである。
 とはいえ、やはり少し疲れ、午後は昼寝してしまう。
 夜は久しぶりに専属料理人の並べた数皿で晩酌。
  *
 ちと並べすぎでではないかい(昨夜の残りもあるそうだけど)と思ったら、敬老の日の前夜祭らしい。嗚呼。
 生活パターンを戻すため、早寝するのである。

9月17日(月) 穴蔵
 目覚めれば敬老の日であった。
 幸い、わが集合住宅に妙な案内(学芸会においで下さい、みたいなの)はないから助かる。
 終日穴蔵。
 ボケーーーーッとタドコロ状態(←生きとるのかね)で過ごす。
 4枚書けたからよしとすべきか。

9月18日(火) 穴蔵
 晴れて涼しい。終日穴蔵にて、一応机に向かうが、グズグズ。
 たちまち夕刻となる。
 本日は集合住宅の理事会。金のかかる議案が多く、鬱陶しくなる。
 理事会と別に委員会を立ち上げるとなると、あと3年は抜けられそうにない。
 命が持つのかどうか、心配になってくる。
 5年ほど先まで、見届けたいことは色々ある(スペースXの宇宙船墜落とかね)のだが。
 21時前から晩酌。
  *
 枝豆、湯豆腐に始まり、メインはレンコンのグラタン。ビール、ワイン少しばかり。
 ともかく寝る。
 明日はがんばるつもり。

9月19日(水) 穴蔵
 眠り断続的である。何か読んだり眠ったり小便に行ったり。
 5時に起きる。
 朝食はひとりである。
 机に向かってボケーーーーーッと過ごす。
 昼になる。炒飯とスープ。
 午後も机に向かってボケーーーーーッと過ごす。
 シャワー後、19時過ぎから晩酌。例によって専属料理人は並べすぎである。3割ほどを明日に送る。
 穴蔵にて、メモとったり、下書き。
 HP更新後、適当に寝る……つもり。
 「生産的」ではないなあ。嗚呼。

9月20日(木) 穴蔵
 曇天、10時頃から雨になる。
 終日穴蔵にて机に向かってボケーーーーーーーーーッと過ごす。
 毎日「非生産的」記述ばかりで申し訳ない気がしてくる。
 明日は慌ただしく動く予定。

9月21日(金) 播州龍野/神戸新聞文化センター
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 故郷は雨に濡れそぼっていた。センチメンルになるぜ。
 姫新線沿線にはいたるところに彼岸花が咲き乱れている。わがタイムマシン格納庫の横も例外ではない。
  *
 ゆっくり花を観賞する間もなく、雑事あれやこれや。
 2時間ほどで片づける。
 また姫新線で姫路、新快速で三宮へ。
 13時から、神戸新聞文化センターでの講座。
 家族の縁とかこの夏の自然災害とか洗濯機に関するエッセイ、「ふたつ」としか思えぬ岡が実は3つということにまつわる中学時代の騒動、「野良AI」がもたらすポルターガイストSF(これは怖い)、閉鎖的な裁判所の業務を描く中篇など、面白い作品が多く、あとのコーヒー飲みながらの雑談含めて17時頃まで。
 阪急で帰館。
 専属料理人の並べた数皿でビール、ワイン少しばかり。
 本日はちょっと疲れた。寝る。

9月22日(土) 穴蔵
 曇天、午後には晴れ間も見え、だんだん晴れてくる。
 終日穴蔵。ボケーーーーーッとはせず。仕事が「改稿」段階になると、気分的には楽である。
 ま、気楽に行こう。
 たちまち夕刻。
 専属料理人が色々並べる。
 枝豆、ヤッコ、生ハムサラダでビール。あとはビーフシチュー。
  *
 フランスパンを意地汚く浸しつつ、豊崎西公園南側・中本酒店推奨バカ旨安ワインをいただく。うまっ。
 テレビ。NHKニュースに続いてブラタモリ。宇都宮特集である。
 大谷石の採石場跡を紹介するのはいいけど「陥没現場」を見せないのは片手落ちではないかい。

9月23日(日) 穴蔵
 秋分の日なのであった。
 秋晴れである。
 終日穴蔵にて机に向かう、また楽しからずや。
 たちまち夕刻。
 専属料理人が色々並べる。メインは串カツでビール、安ワイン。うまっ。
 枕頭に積み上げた本を読みつつ寝るつもり。
 理想的な1日ではないか。あ、運動不足か。明日は少し歩くことにする。

9月24日(月) 穴蔵
 本日も休日である。うんざりするなあ。
 終日穴蔵にて机に向かう……つもりだったが、運動不足なので、午後散歩に出る。
 といっても徒歩7分のジュンクドーまで。
 茶屋町のマクド前がえげつない混みよう。
  *
 ポケモンなんとからしい。まだ流行ってるのか? 困ったものだ。
 こんな人混みをを抜けてヨドバシへ行くのが面倒になり、引き返す。
 明日は少しは静かな日常が戻るだろう。

9月25日(火) 穴蔵/ウロウロ
 朝だ。雨が降っている。以下略。
 穴蔵にて、きちんと机に向かうのであった。
 昼過ぎで一区切りとする。
 午後、雨がやんだので、梅田一帯をうろうろする。
 銀行のATMは行列長し。ボンサラ諸君の給料日だからなあ。
 ついでに「老人徘徊SF」の舞台を一回り。
 中津陸橋からうめきた2期地区の工事状況を眺める。
  *
 地下線路の工事がだんだん北へ延びてくるなあ。
 ということで、夕刻となる。
 とりあえず「一区切り」ついたので、盛大にビール飲みつつテレビ。
 ニュースは貴乃花の「年寄り引退」ばっかり。
 ゴチャゴチャいわん。すべては北の湖の死去から歯車が狂った。わしゃ、とっくに相撲に興味は失ってる(ナベツネが仕切る職業野球にもだけど)から、どうなろうとかまわん。
 土俵に興味はないから、泥仕合をやって、場外乱闘を楽しませてくれたまえ、元取的諸君!

9月26日(水) 穴蔵
 朝だ。晴れている。浅田飴がなめられんじゃないか。
 明窓浄机。穴蔵にて静かに机に向かう。
 昼前に郵便局へ行き、ついでに近所の散歩……というか現場確認。
  *
 地下鉄の津波浸水対策工事の現場を見る。遅々として進まず。
 ただ先月に較べると、工事のネット壁?が伸びてきて、天井化は本気らしい。壊しがいがあるというものだ。
 昼に帰館。
 午後は、昼寝と読書の繰り返しとなる。
 明日から生活のパターンを変えるつもり。

9月27日(木) 穴蔵/ウロウロ
 朝だ。雨が降っている。浅田飴をなめる間もなく、6時にはやむ。
 真面目に机に向かう。おれは変わったのである。
 10時過ぎに出て、徒歩で梅田うろうろ。
 梅三小路の某店で散髪。
 あと、久しぶりにステーションビル・風の広場に上がる。現場確認である。
  *
 一昨日の逆方向からの確認。新駅の工事が進んでいる。
 こうして見ると、意外に狭いエリアであるなあ。廃墟のまま残してほしかったが。
 ということで、たちまち日が暮れる。
 専属料理人の並べた、枝豆、ヤッコ、ローストポーク・温野菜、サラダ、フランスパンなどでビール、安ワイン。
 本を読みつつ、寝るのである。

9月28日(金) 穴蔵
 嵐の前の快晴。
 夏物や寝具類を専属洗濯婦に渡し、部屋を秋モードに変更する。
 あとは資料を読んで過ごす。
 たちまち夕刻。専属料理人の並べた、鰆のなんたら鶏肉のかんたらでビール、安ワイン少しばかり。
 標準的1日というべきか。
 しばらく、読んだ本のことを書いてないので、少しずつアップしていくことに。

高島雄哉『ランドスケープと夏の定理』(創元日本SF叢書)
 表題作は第5回創元SF短篇賞受賞作。この賞からは近年注目の異才が登場しているが、高島雄哉さんもそのひとりであろう。
  *
 表題作に中篇2篇(「ベアトリスの傷つかない戦場」「楽園の速度」ともに書き下ろし)を並べ、登場人物も時系列も連続しているから、ほぼ書き下ろし長篇といっていい。
 主人公(天才的な物理学青年/少年時代に知性定理を発見している )は3歳年上の姉(こちらは正真正銘の世界的天才女性学者)からラグランジュ2に浮遊する実験基地に呼び出される。そこには小惑星帯で発見され、密かに搬送された不思議な物体・ドメインボールがあった。その中には「別宇宙」が封じ込まれているという……
 こんな調子で紹介していたのでは、次々登場する道具立てや理論を紹介するだけで2、3千文字になってしまう。とんでもない密度でアイデアが噴出する。「小さく縮んだバルーンをクッション代わりにして、二つの殻をモジュール内壁に縛り付ける作業を始めた。無重力でも質量はある。小惑星外殻の半分とはいえ、ボールが生じさせた負の重力の影響範囲を外れたために今や通常の数十トンの慣性質量を持った岩石として浮かんでいて……」 任意に取り出した2行でもこの調子。
 第一話は、L2での実験、そしてボール内に「十兆人」の姉が出現する。
 第二話は、翌年、主人公が勤める北極圏大学で、北極圏のクーデターに巻き込まれる。
 第三話は、L2で起こる事故と救出劇。そして……
 ともかく、イーガン流の架空理論(知性定理については、堺三保さんの解説が極めて的確)の噴出だが、小説としての趣向は(意識的にだろう)イーガンとはまるで異なる。姉と弟の微妙な関係といい、電動自転車と電車で12時間走りロケット10時間でL2へ飛ぶという描写といい、神前結婚(日本人ゼロ)の場面といい、すごく面白い。
 で……ここからは、ちょっと個人的なことを書かせていただく。
 この十年ほど、おれは宇宙(論)SFに行き詰まりというか息苦しさ、閉塞感を感じてきた。想像力が働かないのである。それは宇宙の限界……ミクロ側はプランク長、マクロ側は136億光年彼方(過去)が限界で、それ以下(以上)には物理学が通用しない。量子力学も「観測」によって、自然科学に人間が持ち込まれて、よくわからん。一応わかるが、想像力が喚起できない。大嘘で読者をびっくりさせようにも、どうにも気力がわかない。さらにはダークエネルギーで、さっぱりわからなくなる。これは明らかに「老化」「ボケはじめ」と自覚している。一方で、ペンローズやホーキングなどの大学者が、晩年、おそらく立証不能の理論(SF?)を唱えたのも気になる(ホイルは別格だけど)。SF作家の出る幕ではないのか。
 ここに、その閉塞感をぶちこわす『ランドスケープと夏の定理』登場である!
 ミクロ側は量子を固定する「量子ゼノン効果」、マクロ側は宇宙を内包する「ドメインボール」、それをつなぐのが「知性定理」であり「理論の籠」である。
 これらが絡み合って創り出される解放感が、おれにはたまらない。
 「日本SFの歴史を次の五十年に受け渡す傑作」(瀬名秀明)は、まさにその通りなのである。

9月29日(土) 創サポ講義/台風前夜
 朝だ。雨が降っている。もういいか。
 穴蔵にて資料再読、メモ取り。
 夕刻這い出て地下鉄で天満橋へ。
 創作サポートセンターの講義。7月も台風前夜だったが、今回も24号の前夜祭である。
 作品6篇についてコメントしつつ進める。
・おばあさんのベトナム道中記。
・北欧神話の世界を舞台にした、剣士とワルキューレの悲恋。
・不老不死が実現し、死亡は「ダジャレ死」だけという時代。言語分析から死因にがんばって理屈がつけてあるのが面白い。
・今どき珍しい芸道小説。文楽で三味線を修業する少年を描く秀作。おれには「落語」との比較でしかアドバイスできない。
・汎用人工知能の言語を巡って秘密結社の暗闘が続く中に、異星からの信号が届く。中篇にすべき作品。
・なぜか妖怪がカウンセラーをやる時代、砂かけババアが進路相談をうけもつ。
 作風まちまちで、それぞれ面白いが、特にSF系は言語〜AIと超常現象を結びつけたり、冗談SFが面白い。
 まっすぐ帰館。
 ちと遅い時間の晩酌となる。うへっ、台風24号の予報円、大阪がど真ん中ではないか。
 22時頃、富田林から逃走した強姦魔・樋田淳也が山口県周南市で身柄確保というニュースが飛び込んできた。
 ま、詳しくは明日だな。

北野勇作『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』(キノブックス)
 北野勇作さんがtwitterにアップしている「ほぼ百字小説」から130篇を収録した短編集。
  *
 ほぼ百字小説は北野勇作さんの発明といっていいだろう。
 本渡章さんが始めた「超短篇」など……ここからはタカスギシンタロさんみたいな才人が登場しているが……従来のショートショートよりも短い作品群があるが、北野さんのは、ほぼ百字という「様式」で統一されている。しかし、俳句短歌のように厳守するわけではない。そして、作風が(題材自由だが)独特の北野調で、不気味あり笑いあり気色悪あり詩的あり、しかも不思議に想像力を刺激する。「じわじわ気になる」のタイトルはうまい。
 そして、やはり小説は本の形式で読むものだ。
 1ページに1話。これを枕元に置いて、就眠前に拾い読みするのがいちばんの読み方と思う。
 むろん悪夢を見る。

9月30日(日) 台風24号
 午前3時前に目が覚めた。外は晴。台風24号の速度は遅く、まだ奄美に「接近中」である。
 4時には雲が出てきた。また寝る。
 7時に薄日射し、静かなもの。台風24号は屋久島あたり。遅いなあ。昨日の予報より6時間ほど遅れとる。
 10時、台風24号は種子島北側を45キロで移動中。
 15時前に、やっと雨が降り出した。
 「やるんなら早よやってちょうだい(中田カウス)」といいたくなるぜ。
 17時、やっと室戸沖。
 19時から、専属料理人に並べた色々でビール、安ワイン。
 20時過ぎに田辺市に上陸のニュース。
 大阪市北区は静かなもの。
 21時、弱い雨が降っている。風はなし。
 本を読みながら寝ることにする。

蓮見恭子『始まりの家』(講談社)
 『シマイチ古道具商』で新境地を拓いた蓮見恭子さんの新作。これまた新境地、見事な家族小説だ。
  *
 新橋で銀座ホステス相手のヘアサロンを営む宇奈月益美。夫の死後、一人息子の陸が後を継がず料理人になったため、次女の如恵とやりくりしている。長女・弥生はヘアメイクの売れっ子で、いまは女優の専属ヘアメイク。三女・文は結婚しているが、夫はなかなか定職につかない。そして四女・葉月は結婚七年になるが、子供の産めない体であることに悩んでいる。葉月が「代理出産」という方法を知り、母に相談したことから、今まで潜在していたそれぞれの抱える問題が顕在化しはじめる。
 女優のスキャンダルによる専属解除、サロンのジリ貧、そして葉月の出生にまつわる秘密……
 母と子供たちと、章ごとに視点を変えて、それぞれの悩みと家族の葛藤が繊細な筆致で描かれている。
 ともかく際だった筆力。過去のスポーツ描写もうまいと思ってきたが、この作品での心理描写(多視点である)、多彩な職業の仕事描写(ヘアメイクだけでなく、レストランとかファッション誌編集とか、不妊治療における男性の役割まで)が素晴らしい。
 さらに、複雑に絡み合う家族(因縁のある関連人物も含めて)の、それぞれの「落としどころ」もうまく決まっている。
 ちと失礼な言い方になるが、蓮見さんは、いつこんな筆力を身につけたのだろう。
 その描写力に感嘆する。これは蓮見さんの大きな里程標になる作品と思う。


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