堀晃『今夜も眠れないこの島で』(新日本教育図書)
堀晃のエッセイです。よろしくお買いあげのほどを。
なんて書くと誤解を招くかもしれない。
作者は画家の堀晃さんです。
先世紀末から今世紀初めにかけて、堀晃さんは日本列島を北から南まであてもなく放浪していた。しいていうならスケッチ旅行か。奥さんもどこにいるのか知らないという。
たとえば2000年12月23日には加計呂麻島のスケッチを送っていただいた。
ヒカルさんはここがすごく気に入ったらしい。
そして2005年、瀬戸内町にアトリエを開設した。
廃校を改造した広い空間である。生活も半分は奄美に移している。
前の個展で会った時に、いつでも遊びに来てくれと誘われた。泊まれるから好きなだけいたらいいという。
魚は旨そうだし黒糖焼酎は豊富だし、行ってみたいが……ひとつだけ気になるのが猛毒をもったS字型変形生物である。ちょっと迷っているうちに、もう3年経ってしまった……
その3年間の奄美での生活をヒカルさんが文章でスケッチしたのが『今夜も眠れないこの島で』。
副題は「奄美からの手紙…」。毎日新聞に「奄美だより」のタイトルで連載されたエッセイをまとめたもの。奄美での生活が周囲の人たちとの交流を中心に描かれている。
で……S字型は? 出てくる出てくる。奄美の生活はこいつの話題抜きには語れないのだ。咬まれることを「打たれる」というらしい。棒で殴られるような衝撃があるからとか。木の上にいたり、玄関で出迎えてくれたり……アタマが倍くらいに腫れた男の描写なんて笑ってしまう。
で、ヤツの牙を通さない唯一の布が絵画用の麻キャンパスだそうな。
おれも、行くとしたら、麻キャンパスで防牙ジャケットを作ってもらおうかな。
絵や写真(S字型のはないよ)も豊富だし、ヒカルさんのユーモア感覚が漂っているのがいい。
(2008.11.16)
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