『マッドサイエンティストの手帳』698
●マッドサイエンティスト日記(2019年2月前半)
主な事件
・播州龍野いたりきたり
・芦辺拓さんの還暦を祝い探偵小説三十年に繋ぐ会(9日)
・大阪JAZZ同好会@ディア・ロード(10日)
・神戸新聞文化センター(15日)
2月1日(金) 穴蔵/ウロウロ
晴天。月次の処理などあり、昼、金融機関などへ出向く。
天六方向へ。
いつもは淀川堤を歩き、長柄橋から南へというコースだが、あまりにも寒く、普通に下の道を歩く。
8℃だが、体感温度は0℃の気分。重装備だがキンタマが波動関数の収縮状態となる。
と、豊崎の東側、本庄と中崎町の交差点の北側に、ドローンの練習場ができているのに気づく。
* *
貸倉庫かレンタルスペースだったはず。
屋内ドローン練習場「フライトベース」の看板があり、その下にFlight Pilot Vaceと書いてある。うーむ。
ドローンは淀川堤では禁止なんだろうな。
ちょっと覗いてみたいが、横に「コスプレ」の看板もあり、ジジイの来る場所ではなさそうな。まともな経営者とも思えんし。
そういえば……神栖市というのは女子大生失踪事件で初めて知ったが、googleマップで見ると、サッカーのコートがやたら多い場所なんだなあ。
東京からあんな僻地までわざわざ練習に行くとも思えないし。
不思議な場所はまだまだ多い。大阪市北区にしてこれだからなあ。
2月2日(土) 穴蔵
昨日とは一転、晴天で暖かいのであった。
こうなるとアホが浮かれ出ているであろうから、出歩かず。
終日穴蔵にてボケーーーーーッと過ごす。
夜は若ごぼう(この季節の八尾特産品)の掻き揚げと煮炒めでビール、酎ハイ。
早寝するのである。
芦辺拓『新・二都物語』(文藝春秋)
芦辺拓さんの傑作。新聞連載小説にして「大衆文学の王道」(←帯/偽りなし!)である。
*
二都は大阪と東京である(その後、舞台は魔都上海や新京にも広がるが)。
大阪……水町祥太郎。商都大阪で銀行家のドラ息子として育つ。家は零落するが、映画作りに才能を発揮して、プロデューサーの道を進む。
東京……柾木謙吉。東北寒村に生まれ、苦労して出版社の書生となる。ややこしい事件に巻き込まれた時、関東大震災が起き、出版社の御曹司と入れ替わって、イギリスに留学、そして帰国後……
このふたりは、関東震災直後の東京で一度だけ出会う。救援物資を運んできた祥太郎と混乱の最中にいた謙吉(ともに明治36年生まれである)は、暴徒から逃れる時に助け合い、一夜だけ話し合う。それがともに記憶に残った。
さあ、それからのふたりの人生。
これは、とても要約不能。波瀾万丈としかいいようがない。数多くの人物がからみ(昭和史の妖怪・怪物多数)、舞台は上海や満州に拡大する。
戦雲急を告げ、周辺にはきな臭い雰囲気が立ちこめる。
物語の軸は「映画作り」であり、ジャズもからむ。このあたり、すごく面白い
ふたりは再会することがあるのか……
450頁を一気に読ませてしまう。
関東大震災から終戦までの22年(前後譚を含めるともっと長い)が主なドラマで、時代も舞台もめまぐるしく変わるが、時代のデティルが細かく書き込まれている。しかも一瞬たりとも飽きさせない。驚くべき筆力である。
芦辺さんの記念的な作品になるであろう。
2月3日(日) 穴蔵/ウロウロ
日曜であった。朝は快晴であった。
午後から下り坂の予報なので、11時頃からうろうろすることに。
新大阪のコーナンへ。つまらん買い物。
あと、新大阪から西中島南方あたりをうろうろ。
新大阪南側の車両基地を眺める。
*
暖かくなったら、ここから加島まで、線路に沿って歩いてみたいと思っている。
特に三津屋南3丁目の「某基地」周辺は一度調べなくては。むろん爆破計画の検証である(←あくまでもフィクション)。
西中島6丁目。おや、うどんの「繋」は閉店してしまったのか。ビル建て替えのあおりか。ここの熱いきつねを食べたかったが。
40年前に住んでいたマンションは大規模修繕で焦げ茶色に変わっている。
チャントリのカシラの2番目の奥さんの実家?飲み屋は寿司屋に変わっている。その前は燃料屋の「鯛商店」で、冬に灯油を買いに行ったものだった。向かい側のマンションにチャントリの事務所があった。不思議な縁であるなあ。
この一帯、日曜で多くの店は休み。ラーメン屋が多くて、それだけが営業中である。
阪急南方の北側、うどん屋が営業中だったので、きつねを食す。うまくはなし。
午後帰館。たちまち夕刻。
夜は、揚げの焼いたん、豚とキャベツの白ワイン煮、自家製ポテサラ、ハムサラダなどでビール、白ワイン、フランスパン。
恵方巻きが出てこなかったのに、正直ホッ(節分に恵方巻きが出てくることはないんだけど)。
専属料理人はそこまで通俗的なタイプではないのである。ちょっとうれしくなる。
2月4日(月) 穴蔵/「富士山頂」
立春である。全国的に暖かいらしい。
穴蔵から見るに、そんな雰囲気であるが、体感温度は寒そうで、出歩く気にならず。
終日穴蔵にて過ごす。
例によって本の整理をしていて、『富士山頂』を読み出したら、やめられなくなってしまった。
そして思い出したのが「富士山頂」と「楽園の泉」の類似である。
これは「楽園の泉」を読んだ時に気づいていた。
富士山頂に気象観測レーダーを作る話と軌道エレベーターを作る話、語り手はともにそのプロジェクトの中心人物だから、プロジェクトの進め方が似るのは当然だが、この2作品、構成とか細部のエピソードなどにも共通点が色々ある。たとえば「富士山頂」の「気象庁から富士が見えるのか?」のエピソードと「楽園の泉」のフォボスの扱いの部分など。
おれが読んだ順序は、「富士山頂」の方が先(高校生の時/新田次郎は「この子の父は宇宙線」以来、わりと読んでいた)、「楽園の泉」は翻訳出版直後である。
新田次郎氏がクラークより年上と、今頃気づいた。
クラーク 1917年生 「楽園の泉」1978 62歳
新田次郎 1912年生 「富士山頂」1967 55歳
クラークが「富士山頂」を読んでいるはずはない。
おれは、むろん「楽園の泉」の方が面白かった。
しかし、今回再読して「富士山頂」の凄みがわかった。これはやはり、おれが半世紀近く製造業の仕事を続けてきたからだろうな。
どちらが上ということではない。体験ベースと想像力の違いはあるが、ともに大傑作である。ただ、読み方が年とともに変わってきているのである。
(ついでながら、新田次郎にして、ここに登場する民間会社を「業者」としか見ていないことも実感できたのであるが……ま、それは別の話。)
2月5日(火) 穴蔵/ウロウロ
定刻4時に起きて、本日はマジメに5時間ほど机に向かう。
快晴で、暖かそうである。
11時頃に出て、西長堀へ。
中央図書館に1時間ほど。
あと木津川沿いに歩いて大正方向へ。
湾岸地帯に行きたくなり、ちょうど来た鶴橋四丁目行きのバスに乗ったら、これが千歳橋を渡るやつだった(多くは大正通を南下する)。
*
↑バスから見る大阪湾方向。
この千歳橋は3年前に歩いている。内港の眺めはここがいちばんいい。
鶴町四丁目周辺は面白いところなし。
またバスで南恩加島へ。
おなじみ「うるま御殿」で、ちょっと遅めのランチ。おなじみ「うるま定食」をいただく。
*
水分補給も怠りなし。
思わず歌が出ちゃうね(←と杉浦茂先生調)。
歴史はふれどオリオンの三つ星いまだ光あり〜〜
あと、メガネ橋に行くか迷うが、後日とする。
バス、地下鉄を乗り継いで(50円である)15時前に帰館。
2月6日(水) 穴蔵
定刻4時に起床。雨が降っている。浅田飴「せきどめ」を嘗めつつ、マジメに5時間ほど机に向かう。
午後、急速に晴れた。
外出はジュンクドー往復のみ。
週刊新潮を10分ほど立ち読み。先日来の疑問が氷解した。
須藤靖『不自然な宇宙』(ブルーバックス)を買って帰館。
たちまち夕刻。
鱈のピカタ、どっさりサラダ、大根のなんたら、きんぴらその他根菜類でビール、酎ハイ。
晩年のスタン・ゲッツを聴きつつ。
早寝するのである。
2月7日(木) 大阪←→播州龍野
早朝の電車で播州龍野へ移動する。
9時過ぎに着。
今週は相棒の某くん不在のため、本日のみ、おれがタイムマシン格納庫の見張り番をつとめる。
それほどの業務なく、昼過ぎで引き上げることにする。
姫路に出て、おなじみ灘菊で遅めのランチ。
*
ずっと続いてきた「日替り定食」が去年日替り御膳に変わり、半年ほどまえから、ちょっと豪華な「かっぱ御膳」になった。
粕汁のミニ鍋がないのが寂しい。まあこんなものであろう。
夕刻に近い午後に帰阪。
2月8日(金) 穴蔵
晴。寒いのであった。
終日穴蔵にあり。
正確には、徒歩7分のジュンクドー往復。数冊立ち読みする。主に雑誌。総合誌以外に、料理のムック(harumiとか/見るだけでしんどい)なども。
30分ほど滞在して、まっすぐ帰館。寒くて、うろうろする気がしない。
たちまち夕刻。
*
夜は和系。翁豆腐の湯豆腐、刺身、イカサラダ、筑前煮、松前漬風のなんとか漬など並べてもらって、呉春を少しばかり2.5合ほど。
さあ、21時からテレビで『ラ・ラ・ランド』見るつもり。
『セッション』の監督がどう進化したか。
※ということで『ラ・ラ・ランド』見だしたけど、22:30頃で寝る。デイミアン・チャゼルはジャズがまるでわかってない。
2月9日(土) 「芦辺拓さんの還暦を祝い探偵小説三十年に繋ぐ会」
本日より世間は3連休のようである。
昼前に出て、のぞみで東京へ移動する。曇天で眺めは悪い。
新橋でボンクラ息子その1と会い、軽くビール。
仕事の近況など聞く。
あと、カレッタ汐留まで歩くと、イルミネーションのなんとかをやっていた。
雪が舞って、おそろしく寒い。
* *
そのイルミネーションを見下ろす会場で、18時から「芦辺拓さんの還暦を祝い探偵小説三十年に繋ぐ会」。
こちらは盛況で、たいへんな熱気。
芦辺拓さんが還暦というのに驚くが、こちらもジジイになっているわけだ。1990年のデビューで作家生活はほぼ30年。前半が大阪、後半が東京で、その節目に『新・二都物語』が出たのだから、お祝いのタイミングとしても絶妙である。
芦辺さんの人脈の広さで、作家、出版関係に限らず、演劇や音楽(ジャズ)関係の方も多く、ユニークな方々とも知り合いになれた。
21時過ぎののぞみで帰阪。新大阪では最終の地下鉄、何年ぶりかで日付が変わっての帰宅となった。
2月10日(日) 大阪JAZZ同好会@ディア・ロード
世間は3連休の2日目のようである。
昼過ぎに出て、片町線で放出へ移動する。
14時からディア・ロードで大阪JAZZ同好会の例会。
寺本さんによる「サッチモの名演の軌跡」、古川さんの「新譜紹介」、持ち寄り企画は「スイング時代のビッグバント」。
おれは、スイングのビッグバンドはグッドマン、アーティ・ショウ、ウディ・ハーマンしか持ってない。ブレーク寸前のスタン・ゲッツ参加アルバムを持参。クロスビーがヴォーカルのエリントンや、クルーパ・オーケストラのエルドリッチの名演や、ウディ・ハーマンの変わる直前のIshamオーケストラや、皆さん、凝ったものを持ってくる。こんな機会でもないと、スイングのオーケストラをまとめて聴くことはないなあ。
そういえば……
昨日の芦辺さんのパーティで、音楽評論家の毛利眞人さん(写真左)と映画研究家の佐藤利明さん(中央)を芦辺さんから紹介していただいた。
*
おふたりとも、肩書き関係なく、カバー領域が広く、ジャズにも凄く詳しい。
「ラ・ラ・ランド」の評価に始まって、道頓堀ジャズに至るまで、3人でしゃべり通しであった。
その佐藤さん、明日(2月11日)午前10時から2時間、NHKラジオ第1「すっぴん!」でクレイジーキャッツ特集をやるという。
ご注耳を。
2月11日(月) 穴蔵
世間は3連休の3日目のようである。
寒っ。朝から小雨が降りつづき、出歩く気がしない。
終日穴蔵にあり。
午前10時からNHKラジオ第1「すっぴん!」の「クレイジーキャッツ特集」を聞く。
佐藤利明さん(名刺の肩書きは「娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー」)はおれよりも20歳ほど若く、シャボン玉ホリデーは見ておられず、クレージーの映画も封切り時には見ておられぬはずだが、恐ろしく詳しい。シティ・スリッカーズの「炭坑節」や日活「竜巻小僧」(これは見ている)は知っていたが、テレビ番組用の幻のパイロット・フィルム(実現しなかった)発掘の話には驚く。
午後は資料を読んで過ごす。
たちまち夕刻。
粗食で一杯。
早寝する……つもり。
2月12日(火) 穴蔵
連休は終わった。さあ始動。
朝からきちんと机に向かう。全然収入にはならぬ仕事だけど。
昼過ぎに散歩に出かけるが、豊崎西公園まで出て、すぐ引き返す。
朝は8℃、昼間は10℃、晴れて、今時の普通の天気と思ったが、北風あり、恐ろしく寒い。
すぐに戻って、また仕事。
たちまち夕刻。
一杯呑んで早寝する。
たぶん今週はこのパターンが続くだろう。
2月13日(水) 穴蔵
薄曇りで、昼間はさほど寒そうではないが、出歩く気分にならず。
終日穴蔵にて資料を読んで過ごす。
西口宗宏の上告を最高裁が退けて、死刑確定のニュース。
2011年にに象印マホービンの元副社長・尾崎宗秀氏を殺害し、堺市の主婦殺害も判明した男である。この時から、天王寺の「明治屋」を愛する人物を殺害するとはなんたる奴と、怒りは治まらなかったのである。
近いうちに墓参代わりに明治屋へ行くことにしよう(地下に移ってからはあまり行ってないけど)。
午後、半年ぶりにハチママから電話あり。
ハチは今年が60周年で、早くも8月4日(日)の山下洋輔ソロ・ライブが決まったとの連絡。
それはいいが……年末に転倒して腰を骨折、車椅子生活だという。
「うちはヨースケと一心同体やねん」
口だけは元気で結構である。
ともかく8月の予定は決まった。
2月14日(木) 穴蔵
薄曇り、午後は晴れてくるが、寒そうで、出歩く気分にならず。
終日穴蔵にて資料を読んで過ごす。毎日こればっかり。
たちまち夕刻。
夜、専属料理人が並べた翁豆腐の湯豆腐、筑前煮、サラダその他で、ビール、れんと湯割り。
*
某方面からいただいたイカの一夜干しを解凍して一献。絶品。
たまらんなあ。
寝る。
2月15日(金) 神戸新聞文化センター
寒いのであった。
昼前に穴蔵を出て、阪急で神戸・三宮へ。
午後、神戸新聞ビルへ。
神戸の街並みは陰鬱な冬空の下に広がる。
*
こんな雰囲気の時に、和田岬から刈藻あたりを歩きたいのだが、別の日にしなければならぬなあ。
午後、神戸新聞文化センターでの講座である。
本日はエッセイ7篇、小説1篇。
ストレートSFがないのが寂しいが、科学史の話題や微小空間の観察テーマとか、年賀状とか幼児虐待から発想された作品とか、テーマは色々・バラバラで、かえって面白い。
あとの喫茶タイムまでつき合って、帰りは通勤ラッシュに近い時間になった。
神戸には近いうちまた来ることにしよう。
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