HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』182

●マッドサイエンティスト日記(2000年12月後半)


主な事件
 ・谷口英治グループのセッション505公開録音(17日)
 ・ふぐに始まりふぐに終わる週(18〜22日)

2000年

12月16日(土)
 必要あって朝から地下鉄で西長堀の私立中央図書館へ。昼過ぎまで主に中間小説誌1年分を再チェック。連載と連作が多く、独立した短篇も、将来一冊にした時の計算が働いているのが多い。
 午後、うつぼ公園までぶらぶら歩いて、かんべむさし氏の事務所へ。雑談1時間ちょっと。ここからまた歩いて梅田。ジュンクドーで数冊、SFでも科学でも小説でもないのを数冊……図書館では読めそうにない本を無意識のうちに選んでいるような気がするなあ。今や公共の図書館は税金で運営される無料の貸本屋。本が売れなくなるはずである。小説家という職業は、来世紀にはまったく成立しなくなるだろうなあ。かなり本好きのぼくがそう確信するのだから恐ろしい。
 夕食後、やはり年内には一度と、21時過ぎにひとりでサントリー5へ。ニューオリンズ・ラスカルズを後2ステージを聴く。あまり飲まず、さっと帰宅してまた積み上げた本を読む。

12月17日(日)
 夕方、渋谷からNHKへ。FMの「セッション505」。「谷口英治セプテット」の公開録音である。初めてスタジオに来たのだが、これは「完全ライブ」というか、午後5時の時報でスタート、午後6時の時報で終わる、まったくの「生収録」。この緊張感がたまらない。「SWINGIN' SUMMIT」のナンバーを中心に、インタビューなど入れて、最後がピアノの岸ミツアキとのデュオで「メモリーズ・オブ・ユー」。斬新でしかも情感あふれるデュオで、この終了が6時5秒前だから感嘆する。
 ボーナスにアンコール1曲「スプランキー」。これは収録外だから、客席も雰囲気がリラックスして、手拍子打ったりフラッシュを光らせる人もいて、雰囲気ががらりと変わった。ぼくもデジカメで一枚。
 
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 牧原正洋(tp)谷口英治(cl)右近茂(ts)山下暢彦(ds)田辺充昭(g)中村新太郎(b)岸ミツアキ(p)
 放送は2001年1月20日(土)21時〜の予定。
 終了後、「SWINGIN' SUMMIT」のプロデューサー・増淵正義さんと挨拶。……その後、谷口英治さんの「クラリネット教室」の忘年会があるというので誘っていただく。
 この時間、銀座ヤマハホールで、笠井義正や木村陽一さんたち、40年前のニューオーリンズジャズのグループを再現するコンサートがあるというのを昨夜聞いていたのだが、時間的に難しくなり断念。
 渋谷での谷口英治「クラリネット教室」の忘年会、テナーの「右近ちゃん」や生徒さんたち全部で20人ちょっと。生徒さんといってもほとんどが「谷口先生」より年上で、ぼくと同年代で社会的に地位のある方が多いのに驚く。当然クラリネット・ファンで、トラディショナル・ジャズに詳しい人が多く、楽しい会だった。
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 「右近ちゃん」の名前から、昔関西で活躍したコルネットの右近雅夫に話題が及び、当時の「デキシーランド・ハートウォーマーズ」のCDがあることを教えてもらう。ただちに手配していただくことになった。知らないことが多いなあ。

12月18日(月)
 都内をウロウロする間、神田で中野晴行さんと久しぶりに会う。
 出たばかりという「企画・編集」を担当した、ちくま文庫『梅図かずお/怪奇幻想館』をいただく。中野さんは会うたびに新刊が出たばかりという、実にタイミングのいい人である。
 「関西2大C調男」とかバカ話を1時間ほど。
 夜、銀座某所で文芸家協会の委員会、大河内昭爾先生はじめ、内海隆一郎、出久根達郎、長谷部史親、清原康正の各氏と初対面。ちょっと緊張する。
 終了後、フグのコースをごちそうになったが、よく考えるとこの5年ほど、別にケチっていたわけではないのだが、フグを食べた記憶がない。関西の方が旨いでしょうといわれても返事ができない。

12月19日(火)
 夕方近くに堺の人工島にある事業所へ。新規増設設備など見学させてもらうが、あと某常務殿(といってもぼくより若いのだが)と帰りに、南海・石津川の近くにある居酒屋へ。
 店名は特にマル秘とする。ごく単純なサカナの店とわかる店名。しかし、知らないと入る度胸はないなあ。居酒屋というより、調理場の横にテーブルが並べてあるような雰囲気。「おまかせ5品」というのを頼む。……これは3人で来て2人前を頼むのが正解なのだそうである。5品とは、日によって違うそうだが、つきだしのタコの煮たの(これだけでも一品以上の量)を別にして、マグロはまち甘エビの刺身山盛り、貝柱の天ぷら、カレイの唐揚、クエの煮物、さらにふたりでカニ一匹が出てきて、とても食べきれない。生ビールのあと、400円の焼酎湯割りを頼むと、なんとビールの中ジョッキに一杯である。……すべて漁師の料理の雰囲気で、かなり荒っぽく気合いで出てくるのだが、材料は申し分ない新鮮さ。こんな店があるんだなあ。

12月20日(水)
 豪華な食事が続いたので、粗食の日とする。専属料理人に頼んだわけではないが、湯豆腐、ひじき、ポテトサラダ、豚肉の炒めたので焼酎湯割り「ふつうのコップ」で二杯。
 先日の谷口教室の「生徒さん」(お名前失念)がさっそく手配してくださったらしく、「右近雅夫」のCD2枚が届いている。オリジナル・デキシーランド・ハートウォーマーズの記念版CDで、サイドメンに小曽根実(真さんの親っさんね)や油井正一先生のご兄弟などが入っていて、ともかく懐かしい音色である。
 これと、山野楽器で買ってきた、ドン・バイロンの『BUG MUSIC』も聴く。……これは谷口さんから教えてもらった推薦盤。ヤラレタッと思った、ということだが、一聴、なるほど編成や取り上げた曲(セントルイス・ブルースからレイモンド・スコットのナンバー、それにコットンクラブなどエリントンナンバーまで)とモダンで洒落たアレンジのセンスは凄いものだ。モダン・スイングというムーブメントは東西で進行しているのだなあ。……クラが前面に出ている点でねぼくは「SWINGN' SUMMIT」の方が好きですがね。
 CDを聴きながら、年賀状作成。本日中に投函すれば記念スタンプが押されるというが、最終の回収時間を過ぎだ場合はどうなのだろう。23時頃に公園横のポストに投函、路上生活者くんはまだ「帰宅」していない。

12月21日(木)
 仕事で尾道へ行く。某工場、大型機械の搬出跡はリドリー・スコット好みの雰囲気。
 暖房のない廃工場で、冷えてキンタマまで縮んでしまう。
 夕刻、T社長が案内してくれて、尾道旧市街の小料理屋で熱燗。めばるの煮付けがうまい。
 尾道へ来る機会はおそらくもうないので、ラーメンもと思ったが、午後8時を過ぎると、もう商店街はほとんどシャッターを下ろしている。地方都市の夜は早いなあ。海岸通りをあるいて、JR尾道まで。

12月22日(金)
 たぶん全国的に今年いちばん忘年会の多い夜であろう。
 ミナミのふぐ専門店で、某タクマの若村さん、元秘書のI嬢、かんべむさし氏とウチの専属料理人を加えた計5名で忘年会。
 黒門市場に本店がある、大阪では有名な店だが、本日、なかなか「強気」の商売ぶりである。
 このメンバーで飲んだのはつい先日と思っていたら、I嬢が今や一児の母とわかってびっくり。調べてみると、前に飲んだのが1999年4月27日であった。若村さんが専務から顧問に引かれる時の慰労会。あれからもう1年半、時間の経過の速さに改めて驚く。
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 軽く水割りを飲んで散会。
 3年以上食べたことがなかったふぐ、一週間で2度目、それにリーズナブルで旨い魚が2日と、なんとも贅沢な一週間であった。こんなことは多分もう一生ないであろう。

12月23日(土)
 画家の堀晃さんのパステル画集が届く。加計呂麻島に2月間滞在した時のスケッチ集で「海の話」とは別の雰囲気。南の島の海や雲、星空などが描かれている。南国の空気が伝わってくるようで、小さな額に入れて机上に飾っておきたい作品。何を描いても見事なものだなあ。
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 茂美夫人からの手紙によれば、堀晃さんは現在キャンピングカーでスケッチ旅行中。「たぶん東北あたりで、雪が心配」だとか。南の島から雪の東北とはまた極端な。うらやましいような、しかしぼくにはとても真似ができないような生活だ。
 BreezeのCD「風吹くころ」が届いた。これはインターネットで検索していて見つけたコーラスグループBreezeのCDで、谷口英治が2曲編曲、「故郷の空」ではクラを吹いている。これは見事なスイング風アレンジだが、日本の叙情歌が多彩にアレンジされていて、まさに「さわやかな風が吹く」雰囲気、堀晃さんのパステル画に似合うコーラスである。……ソプラノの小菅けいこさんの手紙があって、先日谷口さんのセッション505公開録音に行きましたとある。なんと同じ会場で聴いていたのだ! さっそく谷口英治ディスコグラフィーに追加。

12月24日(日)
 終日書斎、たいして仕事はできないまま。
 夜、クリスマス恒例で、鶏の腿肉グリルでワイン。この歳になるとちと重い。

12月25日(月)
 夕方、会社で急に忘年会をやろうと誘いを受ける。「トップ」以外の全員が揃っているので、急に話が決まったらしい。会社の忘年会というのも久しぶりの気がする。
 近所の居酒屋チェーン店で7人。「鶏肉+ワイン1グラスで200円」というのがあって、まず全員がそれを頼むが、本当に鶏の腿1本が来た。電子レンジで加熱、水気の多いやつだが、結構大きい。さすがに連日ではつらい。幸い「無類の鶏好き」という珍しいのがいたので、そちらに回してワインのみ。
 夕方から急激に寒くなり突風が自転車がバタバタと倒す。路上くんは大丈夫か?

12月26日(火)
 朝5時、路上くん、この寒さと風でも、同じスタイルで寝ている。たいしたものである。これならこの冬は越せるだろう。
 夜、今年(今世紀)最後のライブに行く。サントリー5、サウスサイド・ジャズバンドの出演日。吉川さん、歯を抜いたばかりとかで、頬を冷やしつつソプラノサックスがメイン。助っ人のクラが来ていて、よく見るとなんと岩田直樹さんである。
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 髭をたくわえて眼鏡をかけて、印象がずいぶん変わっているのにびっくり。クリアな音色のクラはさらに充実。この人も21世紀の活躍が期待されるジャズ・クラリネットのひとりだ。ずっと前にこの2クラで演奏しかけて聴けなかった「鈴懸の経」をリクエスト、吉川さんが2ndを金属クラで吹いてくれた。……今世紀最後のライブは賑やかに「聖者の行進」で終わった。

12月27日(水)
 相棒のクルマで某作業所の整理に行く。暖房がないので、自重堂製の防寒服を持っていく。これはズボンにも中ワタの入ったやつで、書斎での下半身用に車内販売で手に入れた逸品。書斎では申し分のない暖かさ。……相当な寒さを覚悟して行ったら、快晴で暖かく、着ぐるみを着ているような感じ、キンタマがムレてくるほどである。

12月28日(木)
 夕刻、某部品メーカーへ行ったら、そこの社長が「大量の豚肉が届いたばかりで、とても食べきれない量だすか少し持っていってくれ」という。
 なんでも兄貴さんが鹿児島に住んでいて、年末に黒豚一匹を捌くのがその村(←ソンと呼ぶのがふさわしい。谷岡ヤスジ)の習慣で、毎年その肉を送ってくれるのだという。……残った骨を大鍋で煮て、これで大宴会をやるのが村の年末行事だそうだが、その鍋で焼酎というのは豪快で旨そうだなあ……。
 貰った黒豚、2キロ以上ある。……専属料理人大喜び。さっそくごく一部を焼いて焼酎、たまらんなあ。

12月29日(金)
 世間はもう休みに入ったところが多いらしく、地下鉄はガラガラ。
 が、ボンサラ仕事が結構残って、ダラダラと夕方近くまで。
 掃除のあと、残ったメンバーで、会議室でビールとワイン。
 会社での「宴会」恒例で10年前の「大事件」が話題になるが……まあ、これはなあ……。

12月30日(土)
 書斎でだらだら過ごす。仕事は進まず掃除もできず。
 朝刊に「室津の運転手殺し」の16歳男女逮捕の記事、気になって龍野の母に電話する。高1の女子高生はやはり地元の「進学校」の生徒という。昨日はヘリが飛び交っりで大騒ぎだったらしい。……ウチのボンクラ息子、勉強なんかどうでもいいから横道に逸れないようにという。はい、そう思ってはおるのですが。落語を聴いているのなら安心できるのだが、聴かないからなあ。
 夕刻、阪急石橋の居酒屋で、年末恒例、帰省中の古くからのメンバーでミーティング。午後5時から、気がつけば午後9時である。

12月31日(日)
 ついに今世紀最後の日である。
 朝から小雨。午前6時、路上くん、傘もささず、じーーーーっと立っている。
 来世紀はわが身か……。
 終日書斎、仕事は進まず掃除もできず、よく考えればべつに掃除する必要もないことに気づき、無精猫原理にしたがって書斎の片づけは来世紀に送る。
 夕方、かんべむさし氏が来宅、缶ビールを飲みつつ1時間ほど雑談。
 テレビで国民的カラオケ大会をやっているが、この数年、見る気も起こらず。「ミソラ……」の頃は面白かったのだがなあ。
 世紀の変わり目、特別の儀式もなく、布団の中で眠って通過である。
 よくこの年まで生きてこられたものだという感慨あるのみ。


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