『マッドサイエンティストの手帳』853
●マッドサイエンティスト日記(2025年5月後半)
主な事件
・KLL例会(16日)
・創サポ講義(17日)
・創サポ講座(31日)
・福田和代『ヴァンパイア・シュテン』(光文社)
・上田早夕里『成層圏の墓標』(光文社)
5月16日(金) KLL例会
4時起床、午前中机に向かう。
昼前に出て、阪急で県境を越えて三宮へ。
センタープラザで昼飯。
カツ丼の店には行列ありパス、久しぶりに某ホルモン店でホルタマ丼を食す。
*
高コレステロール食は好ましくないのだが、血液検査ではコレステロールにLマークが付いている。
医師に訊けば「コレステロールを上げようとメニューを変える必要はない」……たまにはいいのだろうと勝手に解釈。「普段どおり」である。
うまっ。ワンコインだしなあ。
午後は区民センターで神戸文芸ラボ(KLL)例会に出席。
・エッセイで子供の入学式に立ち会う話。校名を明記すべきかどうかで意見が分かれる。わたくしは明記派。
グルメ番組で店名を伏せて面白いはずがない。NHKがつまらんのはそのせい……といったら、最近のNHKはそうでもなく、ちょっとヤバいことまでやるらしい。評議委員会の顔ぶれが変わったのか。
・AIの態度の変化が家庭内に波紋を起こす短篇。SFのつもりで読み進めると、意外にも家庭小説で終息する。
ふだんはSFの書き手なので意外だが、非SF派には評判がいい。なるほど「星群」の前記に「単にAIを出せばSFになるという安易な発想ではSF創作を行う者としては心もとない」とあるので、あえてこれを逆手にとった試みか。
しかしSF志向者がAI家庭小説を試みるのにもちょっと驚かされる。何事も予断で見てはいかんなあ。
夕刻帰阪。
夕食は、昼間のわが行動を見抜いたように、過剰なまでの野菜中心メニューであった。
5月17日(土) 創サポ講義
朝だ雨だ。本降り。机に向かって過ごすには落ち着いてよろしい。
午後にはやむ。
夕刻に出て、地下鉄で上町台地のCANVAS谷町へ。
創作サポトートセンタ―の講義。
本日の作品はSF5篇。詳しくは書かないが、同じモチーフでの競作形式。
先日から準備で疲労気味なのは、5篇の作風が見事に分かれているからだろう。
わたくしなりに分類すれば、
・ゾンビSF……これはリチャード・マシスン「吸血鬼」を読み、映画「地球最後の男」になった経過も知っているからきちんと評価できる。
・伝奇SF……と思ってコメントしたら、怪奇ものの「再生ノベル」だという。ベースを知らないからわからんはずだ。
・百合SF……そもそも女性というのがよくわからん。
・現代版ニューウェーブ?……宇宙哲学ごちゃ混ぜのコンデンスドノベルだろう。面白がりつつ何とか評価できる。
・歴史SF……四世紀ローマから中国経由で現代日本につながる設定だが、こちらに基礎教養なし。
5篇中、自信をもってコメントできるのは2篇、全般に作者と議論しながら進めるが、やはり疲れる。
こちらが心身ともに老朽化しているからだろう。
帰路、そろそろ限界のような気がしてくる。
5月18日(日) 穴蔵/ウロウロ
普通に起床。
早朝、テレビで「証言〜オウムと山梨30年目の真相?」をやっているので見てしまう。
荒涼とした上九一色村(今は富士河口湖町)富士ヶ嶺の景観が素晴らしく、行ってみたくなる(30年前にも行きたかった)。
ただ、行くとなると、富士山の山梨側だから、静岡の義弟のクルマを頼むしかない。ススキの原っぱになる秋まで思い悩むか。いずれにしても、生きてなければ。
本日は寝そべって過ごす。
晴。室温は27℃。過ごしやすい室温になった。
午後、急ぎの郵便物あり、散歩をかねて北郵便局へ。
ついでに里山散策……しかし本日はとなりが騒がしい。
スカイビルへ行ってみると広場で「アロハ・ハワイアン・フェス」というのをやっていた。
*
1曲だけ見物。
60年代、大学の軽音にはたいていハワイアンバンドがあったものだが、いつ頃からすたれたのか。
わたくし自身は、70年以降、映画「フラガール」を見た以外、半世紀以上、聴いた記憶がない。
ハワイ旅行は相変わらず人気のようだが、行ったことないしなあ。
うめきた横断、大阪駅方面も人出が多そうなので、グラフロ外周を北へ抜けて帰館。
また穴蔵にこもり、ラスカルズを聴く。
ニューオリンズにはもう一度行きたいが、海外はもう無理だな。嗚呼。
5月19日(月) 穴蔵
薄曇り。室温は終日26〜27℃で、まことに過ごしやすい。
終日穴蔵にてデスクワーク。たいした成果はないけど。
たちまち夕刻。
ニュース雑感。
・16日に日本化粧品協会が東京大学教授2人を「高額接待強要」で提訴。銀座高級クラブやタイの女郎屋でやり放題、接待やめたら共同研究の契約解除だと。早く氏名を公表しろ。
40年前と変わってないな。繊維会社勤務の頃、「肌に優しい繊維」の開発に関連して「肌に優しい石鹸」を作っている製薬会社に話を聞きにいったことがある。製薬会社のいうには、ウチが石鹸なんかで儲かるわけがない、あれは某センセイの依頼で作っているが、事業ではなく接待みたいなもの。皮膚関係の共同研究でご機嫌損じるわけにはいきませんからね。……その流れで「マシな方ですよ、金や女を要求されるのに較べれば」と色々教えてくれた。昔からよくある話なのである。
・19日午前11時25分過ぎ、北区本庄西のタワマン高層階から男が降ってきて、歩道を自転車で通過中の男を直撃、ふたりとも死亡。降って来たのは43階に住む70歳、自転車にのってたのは千葉県市原市(!)の59歳。
映像を見れば、シティタワー東梅田前の歩道ではないか。豊崎の長屋の東200メートル。天六往復でよく通る場所で、じつは今日も行ってみようか迷っていたところ。危なかったなあ。
5月20日(火) 穴蔵
晴。快適な日である。
昼前に出て、さっそく昨日の「空から老人が降ってきた」現場を見物に行く。
*
高層階から落下して下の自転車男に自分を命中させたのだから、たいしたものだ。
ゴルゴ13には及ばないけど(ゴルゴは落下途中でビル内の男を射殺し、自分は生きのびた)。
天六まで頭上に注意しつつ歩き、銀行関係、帰路は本庄の路地裏経由、タカセ市場に寄って帰館。
午後は穴蔵。
夜は集合住宅の定期集会。
理事の順番が回ってくる心配はないが、管理規約の改訂についてややこしい事案があり、これから数か月、小委員会に参加しなければならない。幸い理事会も代替わりが進んでいるようで、長年の「業務」を引き渡すにはいいタイミングのようだ。
遅めの夕食。早寝。落下する夢を見る。
5月21日(水) 穴蔵
曇天のち雨。終日穴蔵。
・老人が降ってきたばかりなのに、今度は空から包丁が降ってきた。
21日夕刻、北久宝寺町1丁目のマンション西側の路上に刃渡り16センチの包丁が落ちてきた。府警東署が殺人未遂で捜査中という。
映像を見れば、本町勤務の頃、商工会議所へ行くのによく通ったあたりだ。
見物に行きたいが、ヘルメットが必要だな。次は包丁を握った男が降ってくるか。
5月22日(木) 穴蔵
昨夜からの雨が朝にはやみ、曇天、雲の動き急なり。
穴蔵にこもっているに限る。
深夜の雨で、ノラのエサが心配だったが、午後、市営廃墟・自転車置場の屋根で昼寝しているから、無事ありついたのだろう。
*
たちまち夕刻。こちらも夕食にありつく。
福田和代『ヴァンパイア・シュテン』(光文社)
タイトルは「吸血鬼・酒呑童子」の意味。先日からなぜかゾンビSFを数篇読むが、福田さんの最新長編もとんでもないゾンビSFの傑作である。
*
現代によみがえった酒呑童子・シュテン。日頃は普通の男だが、血を飲み、時に巨大化して大暴れする。不老不死の鬼であり、シュテンに血を吸われた人間は鬼となり忠実な子分となって、一族を増やしていく。
対するトクチョー(警視庁特別調査課)に属する那智は安倍晴明の血を引く陰陽師である。
ふたつの組織の激しい戦いに、さらに徐福という「謎の方士」が現れ、三つ巴の闘いとなる……
舞台は現代、そこで昔から伝わる秘術と近代兵器混在のややこしくも凄まじい戦闘が繰り広げられる。
警視庁の那智が名刀鬼切丸を手放さなかったり、鬼のひとりのが日頃は高名な美人デザイナーとして活躍していたり、奇妙な描写が続出。そして舞台は大江山から日本政府の中枢まで、いや隣国からミサイル飛来まで拡大していく。
この闘いが、鬼の視点と陰陽師の視点と、交互に描写されて行くから、時には鬼に感情移入してしまう。そして鬼の事情がわかるにつれて、さらに巨大な「敵」の姿が明らかになってくる。
類のない「ファンタジー・サスペンス」で「今までにない鮮烈なエンターテインメント」(いずれも帯から)に違いないが、これは新型のゾンビものであり、(価値観の転倒ということで)マシスン『吸血鬼(地球最後の男)』の流れをくむ「正統派」SFと評価すべきだろう。
5月23日(金) 穴蔵
晴天。終日穴蔵……のつもりだったが、脚がむくんだような気配あり、やはり歩かねばいかん。
午後散歩に出る。といってもジュンク堂に寄り、あと中崎町の路地をうろうろ、3000歩程度。
明日からもう少し増やしていこことに。
おっ、夜はローストポークなどが並んだ。
*
葡萄系飲料を少しばかり。蒸しポテトに「サクサクしょうゆアーモンド」というのがたまらんなあ。
5月24日(土) 穴蔵
曇天、10時前から雨になり、終日降り続く。肌寒い日である。
終日穴蔵。少しは歩くつもりだったが、しかたあるまい。
ほとんど痴呆状態で過ごす。ゾンビ状態とも申せましょう。
雨で、ネコのいがみ合う声もせず、静かでいいと思ってたら、夕刻から近所の公園が騒がしくなった。
何に反対しているのかよく聞き取れないが、梅田解放区ではないらしい。
本降りの中、ご苦労なことである。
*
午後7時過ぎ、傘さした一団が、シュプレヒ上げつつ、「正ちゃん」の角を曲がって梅田方向に去った。
うめきたエリアか扇町でやってくれんかねえ。
5月25日(日) 穴蔵
昨日から降り続いた雨が朝にはやみ、曇天。
終日穴蔵。
不思議な日である。日付が変わった0時から夕刻まで18時間ほど、気温がほとんど変わらない。
室温は26℃、ベランダは20℃、アメダス(谷町4丁目)は19.0〜19.6℃くらい。肌寒い1日である。
気温はともかく、個人的には最悪の日であった。
昼前にPCの調子がおかしくなった。本体ではなく、ソフトの設定がどこかで変わったらしい。
キー操作のミスでIMEとATOKが切り替わってしまった(らしい)つまらんミスである。
Win10もそろそろ期限だし、この際、ATOKはアンインストールしておくかと、色々いじっているうちに、さらにややこしくなり……半年ほど前の状態に戻すつもりが(2時間ほどの経過は思い出したくもない)、結局「初期化」することになってしまった。嗚呼。
これを書いている現在(26日9時頃)、やっとHPの更新ができるまで復旧したが、まだだいぶかかりそうな。
ソフトに細かい設定が多すぎて、とても元の使い慣れた設定に戻れそうにない。
老化なんだろうけど、XP時代は楽だったなあ。これでWin11になると、どうなることやら。
そろそろ限界なのであろう。
5月26日(月) 穴蔵
曇天。本日も肌寒い。コタツを片づけたのが悔やまれる。
終日穴蔵。
パソコン復旧作業で1日が過ぎる。
ネット接続関係でパスワード変更(したらしい)でつながらないのがだいぶあって手間取る。
IDとPWはきちんとメモを残しているのに。ボケが進行しているのであろう。嗚呼。
1、2度利用しただけの通販などは放置していいのだが。
残るは2件。うち、金融機関だけは、明日にでも窓口へ出向いたほうがいいようだ。
早寝する。「チキンレース」(「波」6月号)の悪夢に苛まれそうだが。
5月27日(火) 穴蔵/ウロウロ
薄い雲がかかり、散歩には最適の日。
午前、梅田の某銀行に出頭、ネットバンキングの不調を相談する。
色々あって、結局、いったん解約・再契約、パスワードワードも作り変えることになった。
不正アクセス防止が徹底していると評価すべきか。
ついでに梅田うろうろ。歯神社に参拝、新御堂を北上、ジュンク堂に寄る。
もともと客は少ないが、ロフト閉館後、さらに閑散としてきたような。
*
その旧ロフト、ところどころに足場が組まれ、「ロフト」看板の取外しらしい。建物はそのまま残るような。
今後どうなるか。時代の流れで、茶屋町が寂れていくのは間違いない。
もっと便利な場所でも、大阪駅前でも「イーマ」みたいなのもあるし、阪急すぐ横の「DDハウス」も20年近く通り抜けたこともない。
場末感の漂う店が入ることを期待する。
午後は穴蔵。
PC復旧作業の続き。どうしても不明のPWが1件。これだけは(故人の遺産を引き継いだという事情もあって)だいぶ手数がかかりそうな。
日常の作業はどうにか回復。
それにしても……もう使わないフリーソフトがずいぶん多かったのだなあ。整理できてよかったのかも。
5月28日(水) 穴蔵
晴。やっと初夏を思わせる天気になった。
外出は午後30分ほど、食品スーパーへ買い物に往復だけ。
わが家の家事分担、わたくしはゴミ出しと重量物(主に液体系)運搬だけである。
ニャロメの木の緑が鮮やかである。
*
公園の西半分は(たぶん今後10年ほど)工事塀で囲われたままだろう。ニャロメだけが救いである。
午後は穴蔵。
これといった仕事はできぬまま1日が過ぎる。
・「波」6月号に掲載の木澤佐登志「文士と薬物 ― 坂口安吾の場合」(没後70年特別企画)には少なからず驚く。
安吾の薬物中毒は知っていたが、晩年(というか最後の5年ほど)のアドルムの服用量と症状、服用して書かれた文章(ついでに木澤氏自身も一時期薬物依存だったという)を集中して読まされると、さすがに圧倒される。
飲んだら書けるというのはわかるが、飲まなければ書けないとなれば、そこでなぜ書くのをやめなかったのか……という常識的な見解しか浮かばないのは、こちらが常識人に過ぎないからだろう。
ちなみにわたくしは半世紀以上前にリタリンを貰って飲んでみたことがあるが、まったく効かなかった。
酒も(執筆には)効かないし、タバコは試みたこともない。
執筆に効果のある「薬物」がないということは、やはり文才がないからなんだろうな。
いかん、こんな常識的な感想しか出てこないとは。……たとえば痴漢予防薬(性欲消滅薬あるいは宦官薬)の副作用が「執筆欲向上」であったとか、想像力がもう少し前向きに働かないものか。嗚呼。
※要するに「文士の最期」に興味があって、その頂点は「正午浅草」を書き続けた荷風だった。安吾についてはほとんど知らなかったので驚いたのである。まだ他にもありそうな。
上田早夕里『成層圏の墓標』(光文社)
上田早夕里さんの短篇集。ここ数年の長篇が凄いのだが、短篇も名手であることを再確認できる。
*
10篇中「異形コレクション」に収録されたのが6篇。異形はいわば「テーマ競作」で、上田さんの場合、テーマごとにすべて「作風」「筆致」が変えてあり、じつにヴァラエティが豊である。
「異常気象」テーマの表題作「成層圏の墓標」は地球全体に奇妙な雲が立ちこめ、昼は晴れているが夜は雨が降り続く。その雲は宇宙につながり、さらに……という設定らしい。主人公の女性は「雨坊」という奇妙な生物と出会い、視覚に異状をきたす。そして不思議な視覚で知り合った「絵の仲間」と謎ときに挑む……青春ミステリーのような展開。「乗物奇譚」テーマの「車夫と三匹の妖狐」は、明治時代の銀座を舞台に、ある車夫が奇妙な娘たちを煉瓦街の旅館に送迎する仕事を引き受けるのだが……怪談譚(タイトルの狐から想像がつく)に見えて、話は予想外の方向(関東大震災の少し前という時代設定)に展開する。何よりも明治の銀座を描写する文体が素晴らしく、この筆致で長篇を読みたくなる。
ゾンビ(!)テーマの「ゾンビはなぜ笑う」では、ゾンビは「違種」と呼ばれ、展開は映画的な近未来アクションで、しかも正統的な進化SF……こんに風に、全作、タッチが異なるのである。
「化石屋の少女と夜の影」は、大正期の向学心豊かな貧乏少女が化石の世界に導かれる怪異譚(に見えて成長小説)、「封じられた明日」(貴族の屋敷を舞台とする妖魔退治の話だが、開戦前夜というのがミソ)、ともに時代設定が巧妙だ。
異形以外の作品も、まず中国向けに書かれた「龍たちの裔、星を呑む」は堂々たる宇宙SFで、異状論文の変種?ともいえる短篇。
そして何よりも書下ろしの「南洋の河太郎」が素晴らしい。
少年期に川で河童に助けられた経験のある主人公は、帝大理学部の海洋生物研究者となり、パラオの研究所に赴任する。
南海の平和な世界だった。そこで現地の少年を介して、海に棲む人型生物を知る。本来の自分のテーマよりも、その種族の研究に心が傾いていく。時は1940年。やがてこの島にも戦争の影が落ち始める。研究所は閉鎖され、かわりにやってきた海軍中佐は主人公に「河童に似た種族」の兵器利用を命じるのだが……
平穏な南洋の島での海洋生命とのファースト・コンタクト、不思議な生態系、そして戦争に巻き込まれていく運命、それらが抑制された筆致で描かれた中篇で、むろんこれは傑作なのだが、ぜひともこれも長篇にしてほしいと思う。思いつきでいうわけではない。先例があるからだ。
20年近く前に異形コレクションで短篇「魚舟・獣舟」を読んだ時、これは傑作だが、同時に長篇の圧縮版ではないかとも思った。その後長篇『華竜の宮』が書かれたわけだが、これは短篇を長篇化したものではなく、短篇は長篇の一部に過ぎなかった。これには驚いた。それどころか、さらに『深紅の碑文』が書かれ、短篇群も含めてオーシャン・クロニクルの世界が展開される。
もうひとつSF宝石に載った短篇「上海フランス租界祁斉路三二〇号」の例がある。この短篇は、その後の長篇傑作群(シリーズではないが)『破滅の王』『ヘーゼルの密書』『上海灯蛾』の母体であったからだ。上田さんは現在、小説推理に、この長篇につながる『炎陽を撃て』を連載中で、これも注目作である。
あ、これらのことの基本線は『夢見る葦笛』の時に書いているな。
まだ先になるだろうけど、「日本の明治」世界、「南洋での戦時と海洋生命」の世界も、ぜひ長篇化しいほしいと願う。
※要するに、「魚舟・獣舟」「上海フランス租界祁斉路三二〇号」を読んだ時、これはともに長篇の素材だと感じた。結果として、それは的中している。この短編集の数篇にも同じものを感じるということである。これがわかるのは、私自身、長篇にしたいと思いながら(色々な理由があって)結局果たせなかった短編が幾つかあるからだが、それはまた別のところで。
5月29日(木) 穴蔵
曇。昨日と一転、梅雨が近いのであろうか。
終日穴蔵。
眼下の市営廃墟で昼寝しているトラを眺めて過ごす。エサは十分なのであろう。
トラたちとこちら、どちらが生産的なのか。
向うは眠って体力温存、こちらは起きてそれを眺めているだけ。
トラたちを見習わなければいかんな。
たちまち夕刻。専任料理人が鯵フライなど標準的安酒場メニューを並べてくれた。
*
しかたなく、少しばかり液体をいただく。こちらもエサは十分である。
5月30日(金) 穴蔵
ややこしい天気である。
いや、曇時々晴れ間もある、過ごしやすい日である。天気予報がややこしく、昨日は「雨」だったのが、本日も「傘持って出ろ」の繰り返し。ま、大阪府のどこかで俄雨かもしれんけど。
終日穴蔵の予報予定だったが、午後、1時間ほど散歩。
おや、西公園の南側にラーメン屋がオープン? 店名が「うまそうなラーメン屋 ジャンク店」?!
*
ここはウナギの「菱や」だったはず。まずくはないが名店ともいえず、ウナギの値上げは無理だったのだろうな。
しかし、このラーメン激戦地に「うまそうな」「ジャンク」で参入とはなあ。閉ざされたドアもラーメン屋には見えない。ちょっと先の「内装だけで目立とうとした」うどん屋(昨秋オープンした「誰も見たことのないうどん屋」ご参照)が案の定閑散としているというのに、今度は名前だけ目立つ店名で勝負か。
どうなりますやら。ま、健闘を祈る。
5月31日(土) 創サポ講座
一昨日までは雨の予報だったが、曇。落ち着いてよろしい。
終日穴蔵。本を読んで過ごす。
夕刻這い出て、地下鉄で天満、CANVAS谷町へ。
創作サポトートセンタ―の講座。
本日は半?公開講座があって、一聴講生としての参加させていただく。
玖馬巌さんと木下充矢さんの「星新一賞受賞者対談」
ともに第11回星新一賞の優秀賞受賞者で、当講座の木下さんが玖馬さんに声をかけて実現した。
*
演題は、「書き続けるには?」― "小説=ソフトウェア仮説"をめぐるあれこれ ―
創作講座だから、いかに書くかがテーマである。
おふたりは、世代は違うがともに勤務しながらの執筆で、仕事はソフト開発と共通している。
勤務とSFの両立、いかにモチベーションを維持しつつ書き続けるかという話になり、その方法のひとつとして紹介されたのが(玖馬さんが実行しているらしい)「ソフトウェア仮説」である。
仕事でのソフト開発の方法を小説に転用する考え方で、これは面白い(昔かんべさんが書いた「広告屋的SF作法」を思い出した/これは自己確認のためのエッセイだったと思う)。
ソフト開発手法も進んでいて、「ウォーターフォール」型は古典的で応募小説に適し、「アジャイル」型はWEB小説に適するなど、初めて知ることも多い。
ただ、この方法は誰でも使えるわけではない。専門家だから、その方法がすでに血肉と化しているのだろう。当講座の皆さんもそれはわかっていたようだ。わがアドバイスとしては、自分の専門が何かを確認して、その領域での方法をいかにSF(小説)に転用できるかを考えることが大事。それは、SFでの努力が会社の仕事のスキルアップにもつながる可能性もある。
内輪の講座なので、両氏に会社での拘束時間、SFを書いてることを周囲はどの程度知っているのか、それに対する評価(評判)はどうなのかも質問したが……ここでは書かないでおこう(本講座はどこかに公開されるかもしれない)。基本的にはわが勤務時代とそう変わらないようだが、在宅勤務の影響は大きいようだ。
あと、軽く飲み会……にも参加したかったが、やはり「つい飲み過ぎてしまう」危険性あり、終了後おとなしく帰館する。
色々刺激を受けた一日であった。
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