『マッドサイエンティストの手帳』668

●マッドサイエンティスト日記(2017年12月前半)


主な事件
 ・日々独居
 ・播州龍野いたりきたり
 ・宇宙人類学研究会@西はりま天文台(9日)


12月1日(金) 穴蔵
 目覚めれば12月であった。
 といっても急に慌ただしくなるわけでもなし、終日穴蔵にてQ状態で過ごす。
 ニュースは昼間は相撲協会理事会、夕刻からは皇室会議のことばっかり。
 貴乃花の沈黙は立派という他ない。
 相撲協会が週刊新潮に抗議文を送るという。モンゴル互助会の八百長疑惑(星の回し合い)報道についてらしいが、白鵬の「灰色の十番」検証記事はまことに説得力がある。
 鶴龍はもうポンコツ、稀勢の里は再起不能、白鵬は八百長で、初場所までに四横綱の全員引退もありうるのではないか。
 土俵外乱闘はとうぶん楽しめそうである。

上田早夕里『破滅の王』(双葉社)
 戦争末期の上海を舞台にした上田早夕里さんの新作長篇……新分野に挑んだ傑作である。
  *
 上田さんの『夢見る葦笛』に収録されている「上海フランス租界祁斉路三二〇号」は異色の題材だった。この短篇が4年前にSF宝石に掲載された時、「魚舟・獣舟」みたいに、長編化が構想されているのかなと想像した。小説推理で『破滅の王』連載がはじまった時、やはりと思ったのだが、「魚舟・獣舟」と『華竜の宮』の違いと同様、まったく別作品、極めてスケールの大きい近現代史ロマンである。
 苦学して帝大医学部を出た宮本は教授から上海自然科学研究所への就職を薦められる。満州事変から4年、抗日運動が続いているが、研究所はフランス租界南端あたりにあり、国際的に開かれた研究機関として設立されたもので、自由な雰囲気で研究が続けられていた。だが所長が病死し、官僚が新所長に就任した頃から空気が変わりはじる。石井四郎「部隊」が見学に訪れたり、軍関連の委託研究が増えはじめる。ある日、宮本は上海総領事館に呼び出され、武官の見張る中で、ある機密文書の精読を命じられる。それはバラバラにされた論文の一部であり、新種の細菌に関するものだった。それは「バクテリアを食うバクテリア」であり、感染すれば治療法はなく、兵器として使用されれば、その被害は敵味方を問わず計り知れない。その論文は分割されて5ヶ国の大使館に送られたらしい。執筆者の意図は何なのか……。物語はここから大きく動き始める。失踪・変死する同僚研究者、石井部隊や特務機関の影、上海の暗黒世界にも通じる謎の開業医、ナチスの諜報組織……そして、この細菌の開発者は石原莞爾「最終戦争論」に感化された気配がある。
 この長篇を(何もレッテルを貼る必要はないのだが)どう呼べばいいのか。われわれは満州事変後の歴史を一応知っている。その歴史に矛盾しない中で物語は展開され、短篇にあったSF的趣向は影を潜めている。ひとりだけ謎めいた女性が登場するが、全体は男たちの闘いを描くサスペンスで、レン・デイトンの上海版のような雰囲気もあり。何よりも1940年代の上海の街の丹念な描写がすばらしい。また上田作品らしく、登場人物のそれぞれが語る「理念」が対等に熱く描写されるから、石原莞爾思想が実現するのも悪くないなと思わせるところが凄い。波乱の物語、それぞれの人物の帰結も含めて、やはり近現代史ロマンというべきだろう。
 明らかに上田さんの新境地である。

12月2日(土) 穴蔵
 師走である。慌ただしいのであった。おれではなく、専属料理人が。
 昼前にごちゃごちゃ電話している気配があり、午後には実家へ帰ってしまった。
 おれが愛想尽かされたわけではなく、家庭の事情による。たぶん。
 しばらく独居生活モードとなる。
 本を読んだりCD聴いたり。
 夜は専属料理人の作り置きの数皿ならべて楽しき独酌。
 早寝するのである。

12月3日(日) 穴蔵
 楽しき独居生活。
 好天で「お出かけ日和」らしいが、出歩く気分にならず。
 専属料理人が作った総菜類があり、冷蔵庫に食材もあるので、終日穴蔵。
 本を読み、少し机にも向かい、時々簡単な料理。
 早寝するのである。
 明日は少し動くつもり。

12月4日(月) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 須磨あたりで鮮やかな日の出が見えたが、姫路に着くと雲がかかり、午前9時の播州龍野は曇天なり。
 寒いのであった。
 車検に出していたクルマを引き取りに行き、あとは実家、市内、タイムマシン格納庫にて雑事を片づける。
 年末の処理事項が色々と生じるのである。
 午前中で片づける。長居無用、姫新線で姫路へ。
 久しぶりに灘菊にて遅めの昼飯。
  *
 小溝筋と地下街東端付近(七番街)に「昼飲み」ランチ店が増えたが、やはり灘菊であるなあ。
 小鉢は同じように見えて毎回異なる。独居老人にはこういうのがいちばんいいのである。
 午後の新快速で帰阪。

田中啓文『宇宙探偵ノーグレイ』(河出文庫)
 田中啓文はどこまでアホが進化するのか。
 探偵ものの新刊(一説によれば売り切れ店続出)である。ジャズ探偵(氷見)、落語探偵(梅寿)から始まって、漫才刑事にも呆れたが、今度は宇宙探偵である。
  *
 名探偵らしいノーグレイは依頼を受けて色々に星に出向くが、とんでもない世界ばかり。ゴジラみたいなのはじめ怪獣うようよいる「怪獣惑星」で怪獣が殺される。設定からは起こりえない。怪獣に化けて真相を探れといわれる。落語「動物園」パターンかと思ったらさにあらず、とんでもない「解決」が待ち受けている。
 いずれもSF映画の舞台みないな星だが、行ってみたいのはひとつもない。
 ただただ退屈な「天国惑星」、魂が輪廻していてもう空きがない「輪廻惑星」、北朝鮮どころではない、脚本どおりの行動しか許されない超管理世界「芝居惑星」……いずれも無茶苦茶な設定だが、殺人が起こりえない世界でもある。ここで殺人が起こる。
 世界は無茶苦茶だが、ノーグレイは意外?に論理的に、その謎に迫っていく。
 オキシタケヒコさんが解説でうまいこと書いている。「通り(話の筋立て)はピシッとまっすぐなのに、左右に目を向ければどこまでも無秩序な」世界がひろがっている……つまり、啓文氏が生まれ育った新世界(←大阪浪速区)の風景なのである。
 最後の「猿の惑星」が凄い。これはセンス・オブ・ワンダーに満ちた本格SFである。舞台は地球。ニューヨークの日常に猿がスーツ着てちょこちょこ現れるのである。幻視説もあるが、だんだん頻度が増す。ノーグレイはこの解決を銀河連邦政府長官から命じられる。この現象の発端が明かされる。今まで秘密にされていたが、アポロ17号の飛行士が月面に降り立った時、そこで猿の死体を発見していたというのである!
 「猿の惑星」と「2001年宇宙の旅」と「星を継ぐもの」が混合したような設定である。その展開……これは長篇を支えうるアイデアではないか。
 私見を加えるなら、月への一番のりは日本人である(『カナシマ博士の月の庭園』)。作者ピエール・ブールが『猿の惑星』の作者でもあることから、猿と見えるのは、わしら日本人とも思えるのである。
 ノーグレイは(たぶん)不死身のようである。引き続き登場を期待する。

12月5日(火) 穴蔵/ウロウロ
 楽しき独居生活。
 朝から出歩くことにする。風が冷たいが、雑事処理のため。
 9時に近所の某医院で定期検診。数値は(寒い路上で5分待っていたにもかかわらず)ごく普通であった。ほっ。
 気をよくして梅田うろうろ。
 梅三の某ハウスで散髪。
 駅前ピルの中央郵便局に寄り、チケットショップで姫路昼得チケット購入。12月の青春18も売り出されているが、もういいだろう。播州龍野日帰りにはいいのだが、1月10日までに5往復はなさそうだし。
 梅田新道で地上に出る。
 梅新の北西角の広場にはハトが異様に多い。今年の春からだろうか。1月にはこんなにいなかったと思う。
  *
 何を食べてるのだろう。
 おれはハトへのエサやりをとがめる気はまったくないが、エサやってるのを見たこともない。
 繁華街一帯でなんとか食って、ここは集結地なのだろうか。ひとつの不思議。
 大阪駅のイカリで食材購入、歩いて帰館。
 午後は穴蔵にこもる。

12月6日(水) 穴蔵
 晴。寒気強し。といっても午前6時、外気5℃だけど。
 終日穴蔵。楽しき独居生活……とはいえ、洗濯をする。専属洗濯婦が不在だからいたしかたなし。
 3度の食事は自分で作る。専属料理人が不在だからいたしかたなし。
 たいして仕事はできず。
 たちまち夕刻。
 コンビニメニューで一杯。たいして旨くもなし。
 葉野菜やトマトはきちんと食べているが、根菜類が明らかに不足……つうか、キンピラとか筑前煮などが食べたいのだが、これだけは出来合いのは食べられたものではない。専属料理人、意外に役に立っているのだ。
 わざわざ姫路の灘菊まで行くわけにもいかず。明日、近所の某「家庭料理」の店へ行くことにしよう。
 早寝。

12月7日(木) 穴蔵
 楽しき独居生活。
 終日穴蔵にて雑事色々、家事は2割程度である。
 近所の穂光(すいこう)で昼飯。
 豊崎西公園の南側。この通りには「情熱うどん讃州」「弥七(ラーメン)」「きたうち(牛肉)」などが並んでいて「穂光」は目立たない店である。
 暖簾に「家庭料理」とあって、ランチは焼魚、煮魚、カツ、フライ、ハンバーグなど、ごく普通の定食メニュー。
 小鉢が20種類ほど並んでいて選べるのがありがたい。
  *
 サンマの定食。独居老人にはこういうのがよろしい。
 こんな店が近くにあると、専属料理人不要論が再浮上してくるなあ。

12月8日(金) 穴蔵
 未明に雨が降ったらしいが、曇天、寒。
 終日穴蔵にあり。
 集合住宅の雑排水管洗浄作業があり、午後の10分間ほどのことだが、待機しておらねばならず、落ち着かぬことである。
 こんな場合、専属料理人にまかせて外出するのだが、独居生活中につき、いたし方なし。
 幸い13時過ぎに10分ほどで終わった。
 が、なんだか集中力がなくなり、夕刻までボケーーーーツとタドコロ状態で過ごす。いかんなあ。
 明日は色々と動く予定。

12月9日(土) 大阪→播州龍野/宇宙人類学研究会@西はりま天文台
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。9時前に到着、タイムマシン格納庫で雑事あれこれ。
 昼前に西はりま天文台に向かう。
 10年ぶりくらいかと思ってたら、前に来たのは19年前であった。
 その時は旧ドーム棟だけだったが、横に「なゆた望遠鏡」を備える新棟が作られている。
  *
 午後、この新棟の会議室で「宇宙人類学研究会」開催。
 宇宙人類学者の研究グループとコンタクト・ジャパンの顔合わせ的な研究会である。
 触媒役が西はりま天文台の鳴沢真也博士で、国際的なSETI団体に関わっている日本で数少ない研究者である。
 SF関係では上田早夕里さんとおれが参加(見学だけど)。おれはコンタクト・ジャパンのメンバー(多くはSFファン)とは旧知で、何度か参加しているが、上田さんはSFとはまるで関係ないコラムを書いたことが縁で鳴沢さんと知り合ったとか。近くのスプリング8も含めて、西播のSF科学の密度は高いのである。
 夕方まで、各グループの活動と最新の成果などの報告。これは何かのかたちで発表されると思う。SETIやコンタクトの話題に触れるのは久しぶりで、まことに刺激的であった。
 休憩時間に、公開望遠鏡としては世界最大の「なゆた」も見学させていただく。
  *
 天文台に来て宇宙でなく地上をほめるのも変だが、屋上からの眺望が素晴らしい。
  *
 大阪〜播州龍野の二重生活になったこの10数年、播磨のあちこちをうろうろしてきたが、ここからの眺望がベストワンである。
 夕食(懇親会)のあと観望会があり、おそらく徹夜の議論、そして明日のコンタクト・シミュレーションと続くのだが、諸般の事情(外泊禁止令……というよりも体力減退)により、夕刻で失礼する。観望会はいつでも気楽に訪問できることも判明。天気のいい日に再訪することにする。
 播州龍野の実家まで1時間弱。夜道はちょっと怖いね。天文台周辺が夜は闇に包まれるのは当然なのであるが。

12月10日(日) 播州龍野→大阪
 播州龍野にて熟睡。目覚めれば6時である。
 晴れて、そう寒くもなし。
 9時からのコンタクト・シミュレーション見学に西はりま天文台へ行けないではないのだが、さすがにしんどい。
 ちょっと気になるのが、先月太陽系を通過した謎の天体「A/2017 U1」について、懇親会で話題になったのかならなかったのか……プロトコルという問題がからんで、まだ明らかにされない軌道に関する情報があるとかないとか。待つしかないか。
 昼の電車で帰阪することに。
 大阪駅からジュンクドーに寄り、宇宙人類学関係の書籍を探したあと、いつもの茶屋町の裏道(芸術劇場とMBSの間)を抜けようとしたら、時ならぬ「出町柳」の密集状態で通れない。アラサーかアラフォーの女性がほとんど。タカラヅカではないらしい。ポスター見るとミュージカルの楽日らしい。出演者に知った名前はゼロ。地上にもおれの知らない世界がまだあるのだ。
 回り道し、食品スーパーで食材買って帰館。
 楽しき独居生活に戻る。

(つづく)


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