『マッドサイエンティストの手帳』417

●マッドサイエンティスト日記(2007年12月後半)


主な事件
 ・SF大賞/コール・セコインデ(16日)
 ・新世界/滝川カルテット(18日)
 ・SF検討会(22日)
 ・集合住宅臨時総会(23日)
 ・ラスカルズ聴き納め(29日)
 ・謎の納会(30日)



12月16日(日) SF大賞/島野育夫氏/コール・セコインデ
 朝刊は佐世保乱射犯自殺の血なまぐさい記事がトップだが、朗報と訃報。
・第28回日本SF大賞に最相葉月さんの『星新一 一〇〇一話をつくった人』
 半年前からの「大本命」であり、おれもこの作品を候補に推薦していた。
 感想は
ここに書いたとおりだが、つけ加えると、ノンフィクションでありながら「最良のSF」と同じ衝撃力を持つ点だろう。わが同世代の多くは星作品によってSF観が形成されている面がある。特にファン創作のスタートがショートショートからというパターンは多く、おれの場合も学校新聞に書いたショートショート(星さんのへたくそなモノマネ)が最初である。どう書いても星さんには及ばないことを知って(これも成長である)別方向を探ることになるが、こうした過程で星さんの影響を受けないはずがない。……で、半世紀近く経って『一〇〇一話をつくった人』で、その星新一像を一変させられることになる。世界観が変わる衝撃、まさにセンス・オブ・ワンダーであり、これは最良のSFのもたらす驚きと同質なのである。こういう感想は、ひょっとしたら世代が限定されるかもしれないが、おれにとっては、「10年に一度の評伝の傑作」であると同時に「本年度のベストSF」でもあるのだ。最相さん、おめでとうございます。
・島野育夫氏の訃報
 ナベツネ暴言以来、職業野球に興味を失って久しいが、社会面に載っているから嫌でも目につく。星野仙一にとっては片腕以上の存在であったが、おれが好感を持つのは1982年に、あくまでも個人的な感想だが、読売の犬みたいな審判に制裁を加えた事件である。この頃はおれもある事件の渦中にあって、読売新聞の記事でずいぶん嫌な思いをしていたから、あくまでも個人的な感想だが、「正義の鉄槌」としか感じられなかったのである。おれは快哉を叫んだ。無期限出場停止を食らうが、復帰後の島野氏の姿に、おれは島左近のイメージを重ねて眺めてきたのであった。牧野どころではない、頭脳に加えて「腕力」も備えた武将だったのである。
 午後、専属料理人と出かける。
 阪急で伊丹へ。伊丹アイフォニックホール。
 コール・セコインデという男声合唱団のリサイタルである。
 専属料理人のご学友関係から招待を受けたもの。
 あ、2年前にも聴いている。
 
 最後のステージ「ポーギーとベス」がおれの好みであった。
 終演後、少し南へ歩いて、小西酒造(白雪)の「長寿蔵」へ。
 白雪は基本的に甘口で、おれの好みではない。「地ビール」も作っていて、こちらが目当て。
 和洋中華混在の「ペアメニュー」というのを頼んだが、まあこんなものであろう。
 JR伊丹から福知山線で「脱線事故現場」を通過して大阪に戻る。
 早寝。

12月17日(月) 穴蔵/ワイルドバンチ
 わ、早寝したら3時前に目が覚めてしまった。
 4時頃に起きて「穴蔵の日常生活」を開始。
 即ち――
 ネット接続しばし。
 5時頃に「自宅」に赴き、朝刊を読み、ひとり朝食。
 月曜なのでゴミを出す。掃除・洗濯はやらない。
 昼食用の食材を持って穴蔵に戻る。
 穴蔵にこもって雑事の処理色々。
 夕刻、自転車で天六の
ワイルドバンチへ行く。販売委託している『ジョージ・ルイス』の追加である。ありがたいことである。
 マスター・庄内さんと1時間ほど雑談。主に日活アクション映画について。『野獣の青春』の川地民夫(スダレのマサ)が凄いといったら、あの役柄についての秘話を教えてもらった。出典は山崎忠昭『日活アクション無頼帖』である。
 ということで帰館。
 専属料理人にポテトのグラタンとか色々並べてもらってビール、ワイン。
 『日活アクション無頼帖』を読む。
 徹夜になりそうな……。

12月18日(火) 穴蔵/新世界/滝川カルテット
 終日穴蔵……ともいかず、午後、タイムマシンの部品関係で日本橋へ。
 ついでに阿倍野まで行って、16時頃に雑事終了。
 阿倍野筋西側はまた工事再開なのか、銀行などが南の方に移転している。
 明治屋は健在であった。
 ここで一杯やるか迷うが、天王寺公園横の通路を歩いて、新世界を目指すことにする。
 
 天王寺公園……公園には誰もいない。見事に人影なく、噴水のみ盛大。これはいったい誰のための公園なりや。「管理」している役人の給料がまかなえているとは思えず、まして幹部のオメコ代も捻出できるわけでもあるまい。これほどひどい大阪市政の見本はないなあ。開催理由不明の天王寺博を機に有料化されて、以来、おれは公園に入ったことがない。無料化を公約に掲げた市長候補も皆無である。
 ジャンジャン横丁、本日は人出少なく、串カツ屋もほとんどガラガラ。
 本日は専属料理人が町内会のなんとか(たぶん忘年会の別称)で留守のため、ひとり早めの晩酌とする。
 八重勝にも列が出来ていないので、久しぶりにここで串カツ。4年ぶりくらいか。
 味が落ちた……ということもなし。もともとこんなものである。
 あと、谷九へ移動する。
 SUBで久しぶりに滝川雅弘カルテットのライブを聴く。
 滝川雅弘(cl) 辻佳孝(p)中村尚美(b) 佐藤英宜(ds)
 最近のレギュラー・メンバーで、いい雰囲気が醸成されてきた。
 Hush-a-byeを演ってくれるのがうれしいね。ジョニー・グリフィン〜森山威男に続く快演ではないか。
  
 リクエスト大会の雰囲気になったので、「アイ・リメンバー・クリフォード」をお願いしたら、美人ベーシストの尚美さんが見事なアルコを披露してくれた。
 佐藤英宜さんのドラムものっている。
 それにしても、佐藤さんのヘアスタイル、牧野修的というか北野勇作的というか森山由海的というか、要するに関西SFの主流派スタイルであるなあ。
 深夜帰館。

12月19日(水) 穴蔵
 夜中を過ぎて寝たものの、早朝5時前に目覚し時計で覚醒する。
 ふつうならとっくに起床している時間だが。
 昨夜、ボンクラ息子その1から5時のモーニングコール依頼のメールが入っていたからである。
 4時起床が習慣だから、時々こういう依頼がくる。
 遠方への出張なのであろう。
 ということで、5時にモーニングコール。
 また寝たら、再起床はなんと9時である。息子は仕事、親父は惰眠である。嗚呼。
 終日穴蔵。
 反省して、少しは仕事もするのであった。

12月20日(木) 穴蔵/ウロウロ
 終日穴蔵……のつもりであったが、年末行事などあり、昼前に専属料理人と梅田へ。
 買い物に同行するが、デパートのエレベーターはイラチのおれには地下鉄数駅乗るくらい苦痛である。
 阪急の催し物会場だけで解放してもらう。
 あと、ひとりで、ミムラとかハチなど、何ヵ所か年末の挨拶。
 ミムラのバーゲンでアーティ・ショウを1枚、500円で購入。デキシーやスイングが色々あるぞ。
 穴蔵に戻って、これまた年賀状など年末行事。CDを色々聴きながらだから、気分はいい。
 本日、ほとんど生産的なことはやらないのであった。
 明日から、少しは今年読んだ本のことなど集中的に書いておこう。
 本日は早寝。

12月21日(金) 穴蔵/SF検討会
 終日穴蔵。
 今年もあと10日、年末兼年度末の雑事が多い。
 慌ただしい時期に「誕生日」があるからなあ。1月4日ならよかったのにと思う国民は多いのではなかろうか。
 夕刻、かんべむさし氏が栗焼酎の瓶を下げて来穴蔵。
 久しぶりに定員2名のSF検討会なるものを開催。今回は忘年会を兼ねて、専属料理人に色々運んでもらって、盛大にビール、湯割り。
 テーマは多岐にわたるが、解釈に迷う作品について、珍しく小説作法を延々と検討する。
 起承転結の「転」と「結」を入れ替えると、つまらなくなるのは無論のことだが、妙に説明的かつ言い訳がましくなるという、けったいな結論に至った。
 議論の対象となった作品を挙げると長くなるので、たとえば「川中島」に置き換えてみる。
  鞭声粛々夜河を過る
  暁に見る千兵の大牙を擁するを
  遺恨十年一剣を磨き
  流星光底長蛇を逸す
 この3行目と4行目を入れ替えると、
  鞭声粛々夜河を過る
  暁に見る千兵の大牙を擁するを
  流星光底長蛇を逸す
  遺恨十年一剣を磨いてたのによ
 と、じつに締まらなくなる。
 何かに応用できるかなあ。ダメか。
 ということで、酔っぱらって早寝。

12月22日(土) 穴蔵/臨時総会
 終日穴蔵。
 今年もあと9日、年末兼年度末の雑事が多い。
 夕刻、町内の会館へ。
 居住している集合住宅の大規模修繕工事に関する臨時総会である。
 色々要望事項が出るかなと思っていたら、シャンシャン総会。年末の連休初日、皆さん慌ただしいのである。
 夜9時頃から晩酌の予定を1時間繰り上げると専属料理人にメール。
 ということで、冬パスタ中心にビール、ワイン。
 CDなど聴きつつ、そろそろ就眠である。

12月23日(日) 穴蔵
 終日穴蔵。
 雑事色々。
 晩酌一献。
 早々就眠。
 明日からしばらくど田舎行きで、帰阪予定が不確定のため、しばらくは本ページ更新予定不明。
 (たぶん)プロバイダーの事情により、田舎のパソコンからはFTP接続ができないのである。
 年内には一度戻ってくる予定。
 この
JALI-NET、実験的にスタートしたものの、色々な面で普通のユーザーのホームページに比べて使いにくくなってしまった。
 1月1日を期して引っ越すか、検討中である。

12月24日(月) 大阪→播州龍野
 早朝、穴蔵を少し掃除。  未明にゴミ出そうと出たら、普通ゴミの日なのに袋を開けてゴソゴソ漁っているおっさん2名。自転車で来ているから常習犯か。資源ゴミ(アルミ缶)の場合は黙認しているのだが、普通ゴミをかき回されるのは困るし、注意して刺されてもかなわんし。金目のものはないと思うがなあ。札束紛失事件でもあったのか? なかなか立ち去らないので、ゴミ出しは専属料理人に依頼して、出かけることにする。
 早朝の電車で播州龍野へ移動。
 下男仕事色々。

12月25日(火) 播州龍野の日常
 老母を近くの医院へ連れて行く。
 予想通り超満員。あらかじめ診察券を出していたが、それでも40分ほど待つ。
 診察終わって昼前に待合室に出てきたら、座る場所もない混雑ぶり。午前の部、何時までかかることやら。
 幸い、特に問題はなし。
 播州龍野のパターン、老母は19時過ぎに寝てしまうので、おれも21時頃に就眠となる。

12月26日(水) 播州龍野の日常
 終日、下男(おとこし)仕事。
 久しぶりに龍野の書斎の掃除を行う。掃除機をかけるのは半年ぶりではないか。掃除機を動かすためにはまず床を片づけねばならぬ。
 ガラクタを大量に処分することにして、午後、揖龍クリーンセンターに持ち込むことにする。
 
 粗大ゴミの持ち込みは初めて。
 入り口で車両を計量、投棄後の重量の差で料金を支払うシステムであった。
 死体の処理に使えないかと色々質問したが、難しそうである。ただし、バラバラにして布団にくるめばいけるのではないか。
 いや、龍野のゴミ回収が指定の透明袋に名前記入という方式になった理由のひとつに、犬猫の死骸を捨てる人がいるから、というのがあったから、案外死体は厳密にチェックしているのかも。
 ということで、肉体労働のあとはダレヤメがたまらん。
 「豆腐工房」で木綿豆腐を買ってきて湯豆腐。ビールのあと、「龍力」大吟醸を一献。
 本日も早寝である。

12月27日(木) 播州龍野の日常
 本日はタイムマシン格納庫の仕事納め。
 決算および棚卸しを行う。
 まずまずの年であった。
 年始めの「十日戎」……堀川戎で桂米八師に御祓いを受けた年は不思議に好調なのである。
 今年は
1月9日に行ったら、運良く米八師が鎮座してはった。
 そして、おかげで好調な年であった。
 ざこば師匠のパーティで米八師に会ったときにお礼申し上げたところ、「こちらの商売はさっぱりですわ」だとか。
 米八師の運を簒奪しているのだろうか。
 老母が年賀状約50枚を書き終える。おれがパソコンでプリントしたものだが、やはり「一言」書き添えないと気が済まないらしく、3日がかりである。

12月28日(金) 播州龍野の日常
 午前2時に目が覚めて、朝刊が届くまで本を読む。
 夜9時頃に寝るから、龍野ではこれが普通の起床パターンになってしまった。
 久しぶりに雨で、終日降りつづく。
 タイムマシン格納庫は店じまいしたし、本日は仕事せず、整理整頓された書斎にて、キンタマをハロゲンヒーターで温めつつ、ボケーーーーーッと過ごす。
 夕刻、銀行関係の処理事項を思い出して、龍野に唯一ある都市銀行まで歩いていく。
 帰路、川沿いに30分ほど散歩。
 年末だが温かく、春雨ムードである。
 
 年の瀬をあつめて早し揖保川
 字足らず。

12月29日(土) 播州龍野→大阪/ラスカルズ聴き納め
 昼の電車で大阪に帰る。
 ああ、久しぶりにシャバに戻った気分である。
 名古屋の今高さんからの手紙で『ジョージ・ルイス』の書評を読む。
 12月27日の朝日新聞(中部版?)「本屋の本音」というコラムで、筆者はちくさ正文館書店店長の古田一晴氏。
 『ジョージ・ルイス』は、曾祖母が奴隷船でセネガルからニューオリンズに運ばれてから、ルイスが10歳でクラリネットを手にするまでの第一章(全体の1/3)がかなり長い。この3代の歴史をどう読むか。奴隷生活や信仰、そして父ヘンリーがルイス性格に音楽的センスを見出す……。「少年の精神形成を精査した効果が後半に生きる」(古田氏)と的確に評価されていて、ちょっと感激する。
 ジョージ・ルイスに関してはもう1冊、トム・ベッセルの『A Jazzman from New Orleans』(未訳)があり、こちらが演奏活動を中心に記述した評伝なのに対して、テイトの本書は「人間・ジョージ・ルイス」「ルイスの血族」を描いており、ベーシストの村橋さんが「アレックス・ヘイリーの『ルーツ』につながる面白さ」と評されたのも同じである。
 「JAZZ HOT LINE」の末廣光夫さんの文章とか、ぼちぼち色んなところで紹介されはじめた。ありがたいことである。
 夜はひとり歩いてニューサントリー5へ。
 専属料理人はオセチの準備などで手が離せない(黒豆は6時間ほど煮るとか)という。おれの田舎行きの事情もあって、1日早く作らねばならぬのである。
 年末の恒例行事で、ニューオリンズ・ラスカルズの聴き納めである。
 『ジョージ・ルイス』の訳者・小中さんやジャズ友数氏と同テーブル。
 最前列で、なんと河合さんのクラリネットが80センチほどに迫る席である。
 
 バンジョー・マニアの藤本さんが、ラストに「世界は日の出を……」をとリクエスト、これはたぶんOKと予想したが、最後から3曲目に演奏され、2007年の最終曲は意外にも「You're Sorry Now」であった。
 聴き納めがラスカルズ、聴き初めが米朝独演会というのが、大阪にいる限り、わが年末年始の恒例パターンであったが、独演会は一門会に変わったし、新サンケイホール完成後はどんなパターンになるやら……。ずっとこのパターンが続くと嬉しいのだが。

12月30日(日) 穴蔵/納会
 わ、なんと8時まで寝てしまった。
 最後のゴミ回収日、デスク周辺を整理して、紙くず類を出す。
 カレンダーの交換や帳簿関係など、新年モードに変更する。
 一応、穴蔵の大掃除終了。
 夕刻に近い午後、阪急石橋へ。
 これまた年末恒例の会。
 説明しにくい会である。
 場所は居酒屋。
 会議のようで会議でない、ベンベン。
 忘年会のようで忘年会ではない、ベンベン。
 それは何かと訊ねたら、
 コンシン、コンシン、コンシン……
 ……ま、懇親会というか秘密会議というか、微妙な会合である。「納会」としておくか。
 てっさ、てっちりでヒレ酒飲みつつ2時間、真摯にしてアホな話をする。
 雑炊を食べて、さっと解散、20時過ぎに帰館。
 
 茶屋町のイルミネーションが寒々としていて、センチメンタル・ムードになるぜ、イヒヒ……と殿山泰司調になってくる。
 ま、いい年であったか。
 これで本年度の所用はすべて終わった。
 明日からど田舎行きである。

12月31日(月) 大阪→播州龍野
 いよいよ大晦日である。
 専属料理人の作ってくれたオセチなど持って、早朝の電車で播州龍野へ移動。
 正月はど田舎で過ごすことになる。
 雑事色々。
 例年のパターンだと、雑用片づけた後、一杯飲みながら、老母につきあって「国民的学芸会」をしばらく見るのだが、老母は19時過ぎに早々と寝てしまった。
 龍力・大吟醸を飲みながら格闘技をしばらく見るが、「野獣」の登場まではだいぶ時間がありそう。
 21時過ぎにおれも寝ることにする。
 この1年、おつきあいありがとうございました。

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