『マッドサイエンティストの手帳』416
●マッドサイエンティスト日記(2007年12月前半)
主な事件
・姫路文化賞(2日)
・創サポ講義(15日)
12月1日(土) 穴蔵/日本橋
わ、もう師走である。
近所の医院へ行って定期検診。ま、まあまあま、こんなものか。
塩分控えなきゃなあ。
昼、専属料理人とミナミへ。
『ジョージ・ルイス』を委託しているところに配本など。
ついでに日本橋ウロウロ。タイムマシンの部品など色々。
「こけし」で昼飯。おれはカツ丼、専属料理人はカツカレー。
ここも「普通の店」になってしまったなあ。就中、肝心のトンカツが薄っぺらくて、先に揚げてあるのがたくさんストックしてある。これではいかん。店も空いてるよ。おたく諸君が増えたとはいえ、客は正直なものである。
こけしは本日で一応最後とさせていただく。新世界まで行った方が面白いもの。悪しからず。
あと、オーディオ関係の店を覗くが、特に衝動買いはせず。
まっすぐ帰館。
たまっている雑事の片づけ。
明日は高砂経由で龍野行き。そのままど田舎で下男生活。
12月2日(日) 大阪→播州/姫路文化賞
午前中の電車で大阪から曽根(高砂市/加古川と姫路の間)へ移動する。
ここで身内が運転する、老母の乗ったクルマと合流。山の麓にある鹿島神社に向かう。
鹿島神社というのはまったく知らなかったが、相当なご利益のある神社らしく、バス用の広い駐車場まである。参詣客も多い。
せっかくなので、ちょっと参拝。紅葉が見事であった。
ここに併設の「鹿島殿」で、姫路文連の姫路文化賞授賞式。
老母が「文化功労賞」を受賞したのである。
立派な受賞者の方々に混じって、歌人の楠田立身さんが老母を紹介してくださった。
長年の地道な創作活動を評価してくださったのだが、ついでにおれのSFについても触れて「こんなご子息を『育て』られたのも功労のひとつ」と……これには恐縮してしまった。
流れで、おれも母親に関してのスピーチを求められた。
おれは母の作品については、決していい読者ではなかったが、ある年齢になってからわかりはじめた。いちばん好きなのは……と紹介しかけて、詰まってしまった。いかんなあ。SF大会ならあがることもないのだが。
紹介したかったのは次の一首。
『孤独なるは吾のみならず空高きクレーンは逆光となり暮れていく』
これは拙作「地球環」で、宇宙船の発射台が夕映えを背景に聳えている場面に引用した。というより、母の短歌に影響されてこんな場面を作ったのである。
ま、そんなことで、よかったよかった。
播磨の文化は奥行きも広がりも凄い。
参会者の方々と歓談していて、お世話いただいた気品ある女性が「山尾悠子さんと職場の同僚でした」とか、はたまた原岳人さん(「なんか島開拓誌」で日本ファンタジーノベル大賞・優秀賞を北野勇作さんの前年に受賞した人である/高砂在住)から声をかけられたり……画家・音楽家・歌人・写真家の方々……驚きの連続であった。
受賞者が揃って「餅つき」をやるという企画もあり。
老母は無理なので、おれが代役に指名された。
ま、「下男(おとこし)仕事」で体は鍛えてあるから、杵を振り回すくらいは平気である。
この餅つき……「音頭とり」というのか「こね役」というのか、お囃子に合わせてかけ声をかける人が抜群のリズム感で、見れば、森山威男さんそっくりというか、若い時の露の五郎師匠そっくりというか……いやあ、ぜひとも森山ドラム・五郎お囃子と共演してほしいものだ。
ということで、めったに食べないつきたてのお餅をいただいてお開き。
夕刻、播州龍野へ帰る。
12月3日(月) 播州龍野の日常
朝だ。雨が降っている。千歳飴だ。ちがうか。
老母が疲労してないか心配だったが、普通に起きてきた。
自発的に礼状を書いたりしているから、ま、大丈夫であろう。
タイムマシン格納庫……こちらも相棒の某くんが無事某国から帰ってきた。
なべて世はこともなし。
夜のニュースで、太田房江が府知事選出馬断念の会見。
あったり前だろうが。刑務所にぶち込まれなかったのをありがたく思え、メス狸めが。さっさと大阪を去れ。川口順子と組んで、狸と狐の化かし合い漫才でもやるべきか。笑えんなあ。府民・国民が化かされるんだからなあ。ま、フンドシ締めて女相撲のドサ回りでもやりたまえ。
12月4日(火) 播州龍野の日常
老母をI医院へ定期検診に連れて行く。
正常であった。ほっ。
下男仕事色々。
午後、「ガレリア」へ行って、井上展也さんの龍野風景画を見る。
井上展也さんも姫路文化賞の受賞者である。
2階で絵画教室開催中、5、6人の方が窓に並んで鶏籠山のスケッチ中であった。
おれも水彩画を描いてみたい気分になる。ボンクラ息子が小学生の時には時々いっしょにスケッチに出かけたものだが。
あと、龍野図書館。週刊朝日を読む。「おねだり妻の性」……性は「さが」のルビあり……守屋幸子の出生を追った記事が、悪意的タイトル含めて、出色である。おれなりに要約すれば、「田舎出のたいして頭のよくないそこそこの美人が男ばかりの職場に入ったために『過大評価』されて守屋を捕まえ権勢という密の味を覚えてしまった」ということであろう。
実刑になれば刑務所でのイジメが凄まじいことになるぞ。周りはサラ金に追われて犯罪に走ったのばかりだろうからなあ。楽しみなことである。
12月5日(水) 播州龍野→大阪
粛々と下男仕事をこなすのであった。
午後の電車で帰阪。
夕刻から居住する集合住宅の大規模修繕委員会。
これがあるから帰ってきたようなもの。
まあひと山越えたというところか。
夕食は21時過ぎてからになる。
専属料理人に色々並べてもらってビール。
作るのはともかく、後かたづけなしというのは、ともかく楽である。
雑事山積。
少しずつ片づけていたら深夜になった。そろそろ就眠。
12月6日(木) 穴蔵
終日穴蔵。
雑事色々……集合住宅の大規模修繕関係で議案書作成の必要あり、12年前におれが作成した議案書や議事録をフロッピーから探し出して再チェック。われながら緻密にして念の入った文書を作っているのに感心する。もうこんな根気はないわ。建物の老化もしかり。
銀行その他の用事もあって、午後2時間ほど梅田ウロウロ。
ハチに寄ると、マスターは風邪で休み。ハチママひとりである。「50周年までは」といいつつも、ちょっと弱音も。うーん。無理はせんほうがいいぞ。
夜は鴨なべ。最後にソバを入れてワイン。
ちょっとは元気が出るか。昔からよういいまっしゃろ。○ン○ンカモカモ。
『ひとにぎりの異形』が届く。
ショートショート81篇+1コマまんが7作=88は壮観である。
12月7日(金) 穴蔵
ほぼ終日穴蔵。粛々と雑事の処理。
昼、ヤボ用あって歩いて梅田へ。
「奴」で昼飯。
帰路、かっぱ横丁の古書店がフェア?をやっている。
加藤京文堂の前の棚、300円均一で隆慶一郎のハードカバー美本(「影武者徳川家康」「花と火の帝」「死ぬことと見つけたり」など)やグレアム・グリーン選集10冊ほどやみすず科学ライブラリー10冊ほどや小林恭二「父」や……ほとんど読んだのばかりだが……うーん、手元にないのもあって、5年前なら迷わず10数冊ほど買うところだが、最近視力が低下していて、ひどく疲れるからなあ。隆慶一郎の上下巻一気読みなんてもう不可能である。ということで、みすず科学ライブラリー2冊買って帰館。
それにしても、ちと虚しさを覚えるなあ……。
夜はレンコンのダンゴみたいなのとか小鉢でビール、あとはドリア。これではあまり飲めない。
最初から休肝日とすべきであったか。
早寝することに。
12月8日(土) 穴蔵/青空書房
穴蔵にて雑件処理。
昼、自転車で青空書房へ向かう。
京都から旧知のYさんが来ていて、年末恒例のスグキをいただく。
ああ、年末だなあと実感するなあ。
坂本さんと3人で、青空向かいの信州そばで「天なべ」、これまたたまらんなあ。
色々と書物や落語やSFの話の後、Yさんとダマスカス……じゃなかった「ディマシュク」へ移ってコーヒー。青空来訪の諸氏は、「諸般の事情により」至近距離にあるサテンではなく、こちら「ディマシュク」というパターンになっている。地図はこちらである。
なにしろ「あのふたりとも美人やろ」(坂本夫人)というとおりで、しかも対応が感じいいのである。こちらからも推薦。
ということで、ここでアホな話など小一時間。
帰路、「浪速町13番地」という骨董屋……じゃなかったアンティーク・ショップに寄る。
「ディマシュク」のひとつ南側の路地。「赤いポスト」(本物だが使えない)と「オロナイン軟膏」のホーロー製看板(浪速千恵子)が目印である。
浪速のにぎやか○○ハンがしゃべりまくるが、Yさん、月光仮面やオリエンタル・カレーで堂々と対抗できるところが凄い。昭和レトロ品が色々。珍しいといえば珍しい店である。
青空周辺、活気づいているなあ。
今度は「特製シチュー」で知られる「かね又」に挑戦である。ミナミの「千とせ」よりうまいのは確実であるからなあ。
とういことで、帰館。
夕刻、ひょんなことから入手したDVD『大いなる助走〜文学賞殺人事件』を見る。いままで見てなかったのである。
うーん、まともに作ってある分、原作の「笑い」の部分がストレートには笑えない。市谷役の佐藤浩市が原作ほどハンサムではないし、大垣が歳とりすぎ保又が体格良すぎなどミスキャストが多いが、それなりに楽しめた。筒井さんの熱演はむろん、牛膝役の山城新吾、選考委員のなかでは由利徹が抜群にいい(特に殺される場面)。
夜は煮物色々や豚ピカタでビール、仕上げはスグキで湯割り。たまらんなあ。
ふつうに早寝するのである。
12月9日(日) 穴蔵/ウロウロ
ほぼ終日穴蔵。
本日、仕事はせず、色々読んだりDVDを見たりCDを聴いたり。
師走なので、本年度のベスト作品について感想など書いておかねば……と思いつつ、こいうのは直後に書かないと、つい面倒になるなあ。
ま、明日から集中的にやろう。
午後、1時間ほど散歩。
中崎町の路地経由で扇町公園まで。
公園には誰もいない。結城昌治。……あ、明日『夜が終わる時』TVドラマで放映化されるのかな。悪徳警官ものの本邦嚆矢傑作、映像でどこまで迫れるものやら。
公園にて「友」を思い出しつつ、しばしボケーーーっと過ごす。
関テレに飛行機突入かと思うが錯覚であった。正夢だと面白いけど。
ということで……
夜は専属料理人に色々(ヨコワ刺身、ソーセージ・卵、サラダ、明太風味ポテト+パン、明太子スパゲティ)並べてもらってビール、ワイン。
NHK-FMで岸ミツアキ・トリオを聴きつつ、そろそろ就眠である。
12月10日(月) 穴蔵/ウロウロ/夜の終わる時
終日穴蔵……のつもりであったが、必要あって昼間2時間ほど外出。
好天で温かい。「今年最後の小春日和」がこの数日続いているような。
近所の公園に野良諸君に並んで野宿者3体。
この6、7年住みついているダンボールハウスのメンバーとちがって、「家」を持たない方が急に増えた。
決して「群れない」タイプの人たちである。おれも、同じ立場になれば、ダンボールハウスは持たないだろうな。
夜間仕事をしてはるのだろうか。小春日和が今しばし続いてほしいものである。
「ゴト日」の月曜とあって、銀行のATM(特に三井住友)、長い列が出来ている。
面倒になって、明日に持ち越し。
ハチに寄る。先日いただいたスグキを少しハチママに届けるためである。ハチママの大好物なのである。
ハチに捧げる供物にと
スグキ少しハチに届けぬ
いと少なしを
お返しにコーヒー豆をいただいた。専属料理人は大喜びである。
ということで、夜はテレビで『夜の終わる時』を見る。
テレビドラマなんてめったに見ないが、これは原作が掛け値なしの傑作であり、結城昌治の代表作のひとつ(「ゴメス」とか、代表作は複数あり、ベスト1というには迷うが)だからである。
出来映えは……時間の無駄であった。原作後半の圧倒的モノローグの映像化は無理としても、ミステリー部分だけでももう少し丁寧に作ってあればなあ。安っぽい2時間ドラマであった。
……そういえば、先月アイラ・レヴィンが亡くなったが、『死の接吻』の映画化が難しかったのに通じるか。視点が変わる構成の傑作は映像に期待しない方が賢明なようだ。
明日は早朝から田舎行きというのに、つまらんことで夜更かししてしまった。
12月11日(火) 大阪→播州龍野
昨夜の『夜の終わる時』のあと、なかなか寝つけず、あれやこれや読んでいたら、睡眠時間2時間ほど。
早朝6時前に出て播州龍野へ移動する。
下男(おとこし)仕事色々。
名古屋の「ちくさ正文館書店」のFさんから電話あり、高井信ちゃんの紹介で『ジョージ・ルイス』を置いていただくことになった。ありがたいことである。
専属料理人に連絡して出荷の手配。
夜は「鴨風味そば」なるものをベースに鶏肉やネギをぶちこんでひとり鍋……要するに代用鴨なべである。これでビール、ワイン。老母にはに大阪から運んだ健康食。
睡眠不足がたたってともかく眠い。21時前に寝る。
12月12日(水) 播州龍野の日常
半日、下男仕事。
半日、タイムマシン格納庫にて見張り番。
夕刻、粕汁を作る。老母の好物。カロリー高く、あまり好ましくないのだが。
具沢山にして、鰤・大根・人参・蒟蒻・小芋でビール、「龍力」熱燗。
テレビは橋下徹の府知事選出馬表明の会見報道ばかりだが、アホかいな気分。
大阪の場合、「府」(か「市」のどちらか)はいらんのではないか。
「役人首切り」ができなければ、誰がやっても良くはならんよ。
むろん投票には行くけど。
おれは地方税をずいぶん貢いだから、少し返してもらうまで、住居を田舎へ移す気にならんのだが。
12月13日(木) 播州龍野の日常
昨日からの小雨が朝まで降り続き、傘を差してプラスチック・ゴミの袋を下げてゴミ置き場まで歩くのであった。
この格好、公開したい気分になるなあ。
大阪なら近所の公園に寝泊まりしてはる方々と区別つかないであろう。パジャマの上から防寒着をはおった、情けない姿である。石飛卓美に似ているかな。こちらではヒゲも剃らないし。
が、播州龍野ではこれで誰にも怪しまれない。
気楽といえば気楽である。
午後は曇、夕刻には晴れてきたので、川沿いに30分ほど散歩。
冬の川面には水鳥が泳いでいるだけである。
鴨ほどうまそうではないな。
12月14日(金) 播州龍野→大阪
昼前に身内がやってきた。
しばらく見張り番交替となる。
昼前に大阪方向へ移動する。
本日は姫路から山陽電車で移動、三宮で下車。
昼過ぎにガード下の「皆様食堂」で昼食。
ここの高架下は、新梅田食道街と同じく、寄りたい店が4、5軒あるのだが、本日は「皆様」にて、オムレツでビール、しじみ汁と白菜漬でごはん。
この店の昼下がり、常連らしき人たちがボケーーーーッと飲んでいる雰囲気がいい。
穴蔵に帰ると雑事山積。
夜は専属料理人に色々(和風・4品ほど)並べてもらってビール。
エヴァン・クリストファーのCDを聴きつつ湯割り。
21時頃から佐世保の「乱射事件」で騒がしくなったが、そろそろ寝るのである。
12月15日(土) 穴蔵/創サポ
朝からテレビの中継を見る。
佐世保の乱射犯、カトリック教会に立て籠もっているらしい……が、朝食を終えた頃に「死亡確認」のニュースが流れる。明け方に自殺していたらしい。
一件落着気分で、こちらは穴蔵に立て籠もる。
終日、粛々と雑事を片づける。
夕刻から天満のエルおおさかへ。
創作サポートセンターの講義。
専科の提出作品3篇。
・特殊な超能力?を心ならずも身につけてしまった高校生が教師の「出世争い」に巻き込まれる短編。「奇妙な能力」は周囲を巻き込んで騒動をエスカレートさせるのが常道だが、後見役の教師がこれを伏せて収束させようとする展開がかえって新鮮だったりする。
・山岳高地にある国の「伝説の花」の秘密をさぐりに潜入する若者の冒険を描く中編。道具立ては典型的なファンタジーだが、骨格は本格SF。作者はオールディス(『地球の長い午後』)やジャック・ヴァンス(『竜を駆る種族』)のような架空の生態系を描きたいという。ジャック・ヴァンスとは懐かしいが、30人ほどいた生徒の中に読んだ人は他にいない。まあ無理もないか。おれはシオドア・コグスウェル『壁の中』の雰囲気を思い出したといったら、それも意識したという。こんな方向を目指す人がいるのは嬉しい限りだ。
・古代中国で王位継承者たる王子が「料理」で身を立てようとする200枚のジュブナイル作品。あるコンテストの最終候補まで残ったが惜しくも落選……とつい4,5日前に通知があったという。その選評も見せてもらった。後半の戦争場面と料理が融合していないのが落選理由らしい。わが評価は、徳をもって国を統治する<王道>、武力による<覇道>に対して、料理によって国を治める<食道?>というアイデアと読んだ。この着想は秀逸。師匠となる料理人や護衛の女傑、料理の味に感激して忠誠を誓う敵国の密偵など、脇役の配置も的確。が、確かに戦闘と食事が混在する描写には無理がある。「兵站」という描き方があったのではないかと思う。
レベルの高い作品が揃っていて面白いが、こちらのコメントが的確なのか迷うところもある。合評会の雰囲気に近いかな。
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