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  『日活アクション無頼帖』と『エヴァンゲリオン研究序説』

 山崎忠昭『日活アクション無頼帖』(ワイズ出版)
 兜木励悟『エヴァンゲリオン研究序説<新版>』(データハウス)
  
 ともに最近出た本で、映画・アニメ関係ではたいへん面白い本である。
 が、ここで書いておきたいのは岡本喜八『殺人狂時代』のこと。
 『日活アクション無頼帖』はヤマチューさんで知られるシナリオ作家の遺稿集である。
 山崎忠昭の代表作は『野獣の青春』と『殺人狂時代』の2作で、前者が鈴木清順の「転機」となる異色作なら、後者は岡本喜八が東宝で干されることになった問題作。この両方に関わったところが凄い。
 『野獣の青春』の製作秘話はじめ、当時の映画関係者のエピソードが色々出てきて、ともかく面白い。が、ヤマチュー氏は日活アクション映画には少し遅れてきた作家であり、テレビ・アニメの仕事がメインになったところが不運でもあったようだ。
 『殺人狂時代』については、当初は日活で、宍戸錠を想定して書かれたらしい。都筑道夫の原作以前(1962年)に、すでに似た発想の『殺し屋紳士録』という没シナリオがあったとか。
 これが東宝に移った事情ははっきりしないが、『殺人狂時代』が喜八作品にしては(『暗黒街シリーズ』などに比べて)雰囲気が違っていたのは事実。御殿場の自衛隊演習地に紛れ込む場面など、愚連隊調でやればもっと派手だったろうし。仲代達矢と宍戸錠の差、東宝と日活の土壌の違いで納得。鈴木清順が演出していたら、まったく別の作品になっていただろう。……とはいえ、『殺人狂時代』が今も大好きな作品であることに変わりはない。
 さて、『エヴァンゲリオン研究序説』は10年ほど前に話題になったエヴァゲリ研究書の改訂・新版である。
 登場人物の「精神分析」と全編にちりばめられた「表象」の多方面からの解析で、エヴァゲリ研究の代表作として評価が定まったというところか。
 おれはエヴァゲリについては殆ど知らないのだが、膨大な脚注を読んでいくだけでも面白く、順序が逆になるが、時間ができれば通しで見たいと思う。
 あっと思ったのは、最後の方、第24話で、初号機と弐号機の戦闘が「左手を握り合って、右手のナイフで切り合う」スタイルが「スペイン式決闘」を踏襲しており、前例として『殺人狂時代』の一場面と比較してあるくだりである。
 かぷさん、よく見ているなあ。論考がバックの音楽にまで及んでいるところがすごい。
 ヤマチュー氏の仕事が70年代の『死骸を呼ぶ女』や70年の『ドラキュラ』と続くことなどを考えると、日活アクションや喜八作品の一シーンが様々な形で継承されていて不思議ではない。
 さすがにおれは細部をたどる根気はもうないが、このような細かい指摘はじつに刺激的である。
 (2007.12.21)


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