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『マッドサイエンティストの手帳』358

●マッドサイエンティスト日記(2005年11月前半)


主な事件
 ・播州龍野の日常(1日〜)
 ・穴蔵の日々(6日〜)
 ・播州龍野の日常(9日〜)
 ・穴蔵の日々(13日〜)



11月1日(火) 播州龍野の日常
 3時過ぎに目が覚めてしまった。
 早寝したのだから、いたしかたなし。
 午前4時、朝刊をとりに表に出るに、冬の星座燦然と輝き、西の空に赤い星が不気味に輝いている。キンタマ収縮の気配なり。
 ほぼ終日、タイムマシン格納庫で見張り番。
 昼過ぎ、バキッという物音に驚く。
 生木を裂く音……駐車場を隔てた某家の庭から張り出た、例の大量の実をつけた柿の木、自重で枝が折れたのである。
 
 散髪してやれよ。
 巨根の男が勃起したとたんに貧血で倒れるというギャグが井上ひさしさんの短編にあったのを思い出す。
 ありゃ巨根にしか存在価値のなかったアホの今岡清がモデルだったのか?

11月2日(水) 播州龍野の日常
 タイムマシン、久しぶりに始動である。
 田舎のわりに忙しい日であった。
 秋の褒章とか叙勲など……どうでもいいのばかりだが、いいなと思ったのはふたつ。
 紅綬褒章に「日本スピンドル」……JR福知山線脱線事故で工場をストップして多数の従業員が救助に駆けつけた会社である。
 おれはボンクラ・サラリーマン時代、ここを何度か訪問している。「ニッスピさん」と呼んでいた。「スピンドル」がハードディスクの回転軸というよりも、本来の紡機の回転軸で通用していた時代である。今は主力製品ではないだろうが。この会社の人たちには好感というよりも、盟友的シンパシーを感じているのである。
 もうひとつは正力賞にロッテのバレンタイン監督。
 ガムをサカナにというわけにもいかず、バーボンの水割りを飲みながら森山威男参加の『マイ・ファニー・バレンタイン』を聴く。

11月3日(木) 播州龍野の日常
 文化の日だが、あまり文化的ならざる肉体労働を半日。
 筋肉痛が残りそうな。
 久しぶりに入浴。3月ぶりくらいか。(シャワーはあびとるよ)
 夜は78円で買ってきた「鴨だしそば」と鶏肉を使って「代用鴨鍋」、ビール、ワイン。まあまあいけるではないか。
 ということで午後8時そろそろ就眠準備。
 しばらくジョージ・ルイスを聴く。
 居間に降りると、老母が歌謡コンサート?を見ていて、なんと木村充輝が「宗右衛門町ブルース」を歌っている。平和勝次よりうまいのではないか。当たり前か。

11月4日(金) 播州龍野の日常/ハヤブサ・ライブ
 朝から雑役を片づけて、断続的に「HAYABUSA LIVE」を見る。
 いよいよ「イトカワ」への降下開始。
 10時からの中継を断続的に見る。おれの名前も搭載されているからなあ。
 11時の画像、なかなかの迫力である。
 昼食時、パソコンから離れると、落ち着かないなあ。
 と、14時前、「降下中止、ミネルバ放出、ターゲットマーカ放出も中止」のアナウンス。
 音声が聞こえないから、事情はよくわからないまま。
 しかたなく、タイムマシン格納庫へ行って、作業再開。
 「はやぶさ」同様、こちらのマシン関係でもちょっと異常事態が発生、ややこしいことになって、老母の夕食が30分ほど遅れる。
 いったん帰宅、女中仕事、おれも軽く食事して、またも20時前に格納庫入り。
 ややこしい日である。
 21時過ぎにこちらのミッションは終了。
 ハヤブサはいかに。……こういう場合、やっぱり松浦晋也さんのブログと、その松浦さんが報告している宇宙作家クラブ掲示板がいちばん早く、かつ知りたいことに応えてくれる。
 おれは相当なイラチだが、ここは静かに推移を見守ることにする。
 ゴール寸前でじらすのはエンターテインメントの常道ではないか。
 ということで、水割り飲みつつ、深夜に近い時間になってしまった。

11月5日(土) 播州龍野の日常
 タイムマシン格納庫にて終日雑用。
 久々に多能工としての作業亦楽しからずや。
 友あり遠方および近傍より来る亦騒がしからずや。小学校同級生で、一刻何やらミニ同窓会の雰囲気。「地域社会」だけに殺人事件詳報が聞けるのが面白い。
 夜は<交代前夜>であるから、冷蔵庫内一掃のクリアランス・メニュー。
 小鍋に雑多な材料ぶちこみ、キムチの残りを入れたら、クリオール料理みたいなものができあがった。結構いける。
 夕刻のニュース、民放は「HHKの記者(滋賀)放火で逮捕」がトップ。が、NHKは報じてるのか? ボケーっと見ていた限りでは流れなかったようだけど。
 ということで、21時〜民放で『スイング・ガールズ』を見ようと水割り用意してたら、番組前に「あらすじ、見所、感激すべき点、その他」のくどいほどの紹介あり、見なくてもだいたいどの程度の映画かわかってしまった。竹中直人が指揮してるから、「相撲映画」「ダンス映画」の延長路線で「感動の質」も見当がついてしまって、見るのはやめる。……本当は「思ったより」面白い映画かもしれないけど、こんなバカみたいな「鑑賞指導」を受けてまで観るものではないわ。要するに視聴者を愚民扱いしているのが不愉快なのである。
 で「身内に放火犯がいる」国営放送局の『サイボーグ技術が人類を変える』を見る。
 脳がメカニズムを制御するのみならず、メカが脳を変えるというのがポイント。最初からこちらを見るべきであった。

11月6日(日) 播州龍野→大阪
 老母は骨折以来あまり動かないのでカロリー制限した方がいいという事情がある。
 そんなに「食い意地」がはっているタイプではないので安心なのだが、この季節、柿だけは心配。表と裏、庭に二本の柿の木があり、べたついた甘さのない冨有柿。これが好物なのである。市販のとちがってやたら種が多い。
 未明に居間に降りたら、床に柿の種が落ちている。
 やれやれ、夜中に口にしたのかな……と、片づけようと手を伸ばしたら、この柿の種がカサコソカサと動き出した。
 ギャーーーーーーッとは叫ばないけど。
 「あのねのね」を思い出すね。
 雨である。
 昼、帰阪。
 大阪に近づくに連れて雨が弱くなり、梅田ではほとんど止んでいる。
 阪神の「リーグ優勝」パレードの間だけ降っていたということか?
 2年前ほどのどしゃぶりではなかったようだが。

11月7日(月) 大阪ウロウロ
 セカセカウロウロの日である。
 某版下用にレーザープリンターで高品質紙にプリントする必要あり、朝、kinko'sの東梅田店まで自転車で行く。
 プリントできたものの、「トナーの調子が悪い」とかで、汚れの目立つページが1割ほど。「半額でいいです」というが、半額だから使えるってものではなし……。
 とりあえず「半額」支払って、kinko's大阪駅東口店へ。ここは7時開店なので、開店まで再プリント・ページをチェック。7時3分、やっと中で居眠りしているのが見える女店員が仏頂面で「開店」。
 が、ここのWindows機、なぜかコンパクトフラッシュが読めない。(ちなみに、kinko'sではUSBメモリーは使えない)
 4台ともダメ。女店員、ふて腐れたような顔で「CFが悪いんじゃないですか」
 この店はやめて中央郵便局西側のkinko's大阪駅前店へ行く。長髪細面のメガネ男、ファイル形式など色々訊いた上で「持ち込みの用紙はお断りすることになってますので」……最初にいえ。
 ということで、kinko'sで版下用に高品質紙でレーザープリンター出力する場合、東梅田はトナー不調、大阪駅店は「読めず」、大阪駅前店は受け付けない、と各店の対応バラバラである。店員の態度は、東梅田のみ好感が持てた(他が酷すぎるのだ)。朝は気分的に仏頂面になるのかねえ。
 いったん帰宅。
 10時前に阪急石橋へ。予定している本の「著者」と合流して、「セイコープロセス(株)」へ。ここは技術・サービスともに優れた良心的印刷会社である。DTP出力もやっているからと、版下は再プリントしてくれることになった。最初からここへ持ち込めばよかったのだ。
 打ち合わせ終了後、大阪市内に戻り、阿弥陀池近くの塩田基明さんの<シオタデザインオフィス>へ。「SOLITON」「桂歌之助」以来、何かとお世話になっているイラストレーターである。
 ここから北上。
 阿波座への途中、小料理屋で昼飯。刺身と煮魚の定食、なかなか。店名失念、新町三丁目あたりの「さかな屋なんとか」だったかな。
 昼、(たぶん仮眠中の)かんべむさし氏の仕事場の横を通って京町堀まで歩く。
 相棒の某くんと合流、某研究所へ。
 タイムマシン関係の謀略色々。某プロジェクト始動である。
 このあたりは交通が意外に不便。
 土佐堀川を渡り、ロイヤルホテルまで5分、ちょうど循環バスが出るところだったので、これでJR大阪駅まで移動。
 阪急三国へ。
 某製作所へ行って極秘図面を渡して製作以来。
 直ちに引き返し、穴蔵に戻る。
 パソコンの部品表と工程表をチェック……と、なんだか『戦争の犬たち』の主人公になったような気分である。
 もう1箇所行くべきところがあったが、本日は時間切れ。
 宅配便を出しに外出。ついでに、久しぶりに「ジャズの専門店ミムラ」を覗く。
 久しぶりによく動いた日であった。
 ビールがうまい。
 佐藤允彦『WAVEV』(ゲイリー・ピーコック、富樫雅彦とのトリオ)を聴きながら、鰺のカルパッチョ、何とかのグラタン、サラダ、その他でビール、ワイン。
 
 『WAVEV』は演奏も凄い(新日本フィルとの「コンチェルト」が圧巻)が、ジャケットの絵が堀晃さんで、これを眺めているだけでも気分が良くなるのである。

11月8日(火) 穴蔵
 朝から自転車で天六へ。久しぶりに「十八番」で朝食。
 天五まで行って、某社の「たいてい朝八時台にしかいない」某氏をつかまえて、昨日のオペレーションの続き。
 あとは穴蔵に戻って雑用含む作業の継続。
 昼過ぎに、書店など行く必要あり、自転車で巡回コース時計回り。
 旭屋の南、「立ち食いうどん」の丸一屋が「なにわ家」という名で復活している。せっかくだから、ここで遅めの昼食。……定食メニューなどが増えたようだが、さほど変わらない。
 駅前ビルを西へ行くと、ここにあったはずの立ち食いうどん「流行屋」がバーガー屋に変わっている。早いねえ。ま、ここは激戦地、地下に「たかはた」と「つるつる庵」があるのだから、「あの味」では2、30円安いというだけで太刀打ちできるわけがない。
 ……「流行屋」とかいて「ハヤリヤ」と読んでいた店。流行だけに消えるのも早い。クマゴローさんじゃないけど、「恋のハヤリヤ〜」なんて口ずさんでしまうね。
 というわけで、立ち食いリストを修正。
 夜は、山かけ、ちらし寿司などで一杯やりながら、スーパー・ジャズ・トリオ『ザ・スタンダード』で先日来の「枯葉大会」の仕上げ。
 
 数あるピアノ・トリオの中でも、これは相当上位にくるのではないか。特別に力まず緊張せず、さりとて手抜きせず、一献傾けながら聴くとたまらない。
 本日も、ちと飲み過ぎ。明日からまたしばらく龍野だから、今夜くらいはいいであろう。

11月9日(水) 大阪→播州龍野
 午前中、龍野へ移動。
 しばらくは刺激のない生活になる。
 午後……桂吉朝さんの訃報。
 色々なことを想起するが、書く気になれない。
 服喪。

11月10日(木) 播州龍野の日常
 雑役はこなすものの、あとはボケーーーーーツとして過ごす。
 午後、図書館で、桂吉朝さんの記事をチェック。
 「上方落語のホープ」というのが目についたが、適切ではない。20年前ならともかく。
 サンケイホールでも縁が深かった産経新聞はさすがに的確。「米朝落語の“継承者”」と位置づけていて、金森三夫氏が、最後の舞台となった国立文楽劇場での「米朝・吉朝の会」について詳しく書かれている。
 吉朝さんは米朝師匠からすでにバトンを渡されていたのである。
 思い出すのは、2003年8月の一門会で、米朝師匠の「解説」にしたがって吉朝さんが「蛸芝居」を演じた時の光景である。吉朝さんの芸をそばで見ている米朝師匠の笑顔が忘れられない。
 かんべむさし氏が吉朝の会のプログラムに「慈父の表情」と書いたのは、この時のことと思う。
 それだけに、米朝師匠の無念さを想像するとつらい。
 昨日17時から米朝師匠の会見があった。テレビでは見られなかったが。「頼りにしていたのに……」というのはそのとおりだろう。
 吉朝師匠については、また改めて書くことに。
 太融寺での勉強会や三題噺など、思い出すことがあまりにも多い。
 さらに訃報。
 岡圭介さん53歳(講談社文庫出版局長)7日くも膜下出血のため死去。
 新入社員の頃に来阪、気がつけば朝まで……ということがあったなあ。お互い独身の頃であった。
 夜、水割り飲みながら、ピー・ウィー・ラッセルを聴く。競演のコールマン・ホーキンスがたまらない。少し元気が戻る。

11月11日(金) 播州龍野の日常
 寒い。朝の室温13℃で、大阪なら真冬の温度である。
 書斎の机の下にハロゲン・ヒーターを入れて、キンタマ照射モードに入る。
 昨年は12月16日に始めているから、今年は早いスタートである。
 曇天。
 12時15分に雨が降り始めた。
 「午後は雨」の予報であったが、こんなに正確に当たるのは珍しい。

11月12日(土) 龍野→大阪/はやぶさ/同窓会
 雑役色々。
 10時から「HAYABUSA LIVE」の中継開始。「はやぶさ」が「イトカワ」に接近中である。
 気になるが、午後の電車で帰阪。
 穴蔵に15時過ぎに着く。
 「はやぶさ」は高度100メートルでホバリング中という。
 15:24、ついにミネルバを投下……中継は1時間延長されるらしい。
 気になるところだが、出かけねばならぬ。
 歩いて梅田へ。
 と、東の空に昼の月。上空に「はやぶさ」がホバリングしているのが見えるではないか!
 あわてて望遠で撮影。
 
 ……と、こんなスクープ写真を撮ってみたいカメラマンの気持ち、わかるねえ。コウノトリほどうまくないけど。
 夕方から大学の同窓会。
 新地のふぐ料理店。
 リタイア前後ということで、話題はもっぱら仕事のことになる。
 機械工学科だから、ほとんどが技術系サラリーマンで、異色なのは医師がひとりと家業をついだ経営者が数人。SF作家というのも珍しい方だが、おれも本業は技術系ボンクラサラリーマンであった。
 鉄鋼、自動車、造船、プラント、精密機械、電機がほとんど。
 話題は狭く深く。
 おれとちがって、リタイア後も収入は関係なく周辺分野で何かやりたいというタイプが多く、本質的にはマジメなのばかりである。
 二次会までつき合って帰館が21時過ぎ。
 健康なものである。
 ミネルバは「着地」できなかったようである。

11月13日(日) 大阪→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動。
 町内放送が喧しく、どうやら本日が市長選挙らしい。
 老母、投票には行かないという。
 現職の当選が確実で、しかも「たつの市」という恥ずかしい市名にした責任問題なんて争点になってないから、しんどい目をしてまで投票所に行きたくないという気持ちもわかる。
 現職には落ちてほしいが、対抗馬に魅力なし。あ、大阪も似たようなものか。
 柿を獲る。
 もったいない感覚で、ともかく収穫だけはする。
 「遊歩人」(居酒屋特集)に佐木隆三さんが、ポテトサラダに柿を刻んで混ぜると絶品と書かれている。リンゴの代わりにいいのかな。
 夜、これを試してみる。
 ん、確かに、これはいける。
 さっぱりした味で、ワインによく水割りによく。
 で、本日もちと飲み過ぎか。
 早寝するのである。

11月14日(月) 播州龍野→大阪
 曇天、冬空の様相。断腸亭なら「曇て風なく薄き日影折々窓に映ず。やがて雪にならむかと思はるる空模様なり」というところ。室温13℃で大阪なら真冬の温度である。
 昼前に兄貴が遙々横浜からやってきた。
 素麺直販所を兼ねた麺レストランで日替わり定食を食べながらしばし雑談。
 この店はなかなかうまいのでご推薦。JR本竜野駅から西へ5分ほど歩いたところにある「はりま路」という店である。
 午後の電車で帰阪。
 穴蔵に帰着。こちらは室温22℃。が、じっとして本を読むには肌寒く、冬モードに模様替え。要するにコタツをセットするだけのことだが。
 しらべて見ると、昨年はこの作業を11月10日に行っている。
 わが体内カレンダー、なかなか正確である。

11月15日(火) 穴蔵
 終日穴蔵。
 正確には三度、食事のために出ているのだが、昼食は抜こうかと迷ったほど。
 最小限の電話とメールで用事を済ませた、あとは溜まっている本を読むだけ。
 快適で、動く気がせず、寝たり読んだり寝たり読んだり、昼過ぎになるが、食事に出るのが面倒になってしまう。
 水以外の飲食物は何も置いてない。
 専属料理人に出前させようか迷うが、それも手続きが煩わしく、徒歩1分の店でなべ焼きうどん。
 午後も惰眠続行。たぶん田舎生活の反動である。
 昼は抜いてもよかったなあ、運動しとらんのだから。
 <冬眠>とはこんな気分なのであろうか。

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