『マッドサイエンティストの手帳』281
●マッドサイエンティスト日記(2003年8月後半)
主な事件
・ニューオリンズ・ラスカルズを聴く(16日)
・米朝一門会(17日)
・滝川雅弘月例ライブ(19日)
・第4回小松左京賞、上田早夕里さんの「火星ダーク・バラード」に決定!(31日)
2003年
8月16日(土)
早朝……といっても午前6時頃であるが、久しぶりに自転車で梅田界隈散策。
盆休でガランとしている。ホームレス諸君があちこちで朝寝している。
扇町公園を抜けて天五界隈、ルン吉くんは見あたらない。時々朝食の店もすべて休みである。
天六の「十八番」で朝食。……ここは5時59分開店なので「早朝グルメ」のリストには入れていないが、朝飯の人気店。運ちゃんその他で毎朝いっぱいである。
ウィルス「ブラスター」が総攻撃をしかける日とかで、一応警戒して午前中はネット接続を見合わせる。わがデスクトップ機はWin98だから、あまり心配しなくてもいいのだが。
終日穴蔵。
少しは仕事もするのであった。
夜、サントリー5へ。
盆休でガラガラかと思ったら、ここだけはいつもと変わらない。
珍しく森<トントン>朋子さんが来ていて、「In The Garden」などを歌う。現在新潟在住であるとは知らなかった。
近日、ニューオリンズ・ラスカルズの新CDが数枚出るらしい。近日ラスカルズ・ページで紹介の予定。
8月17日(日)
朝5時過ぎ、「日本の話芸」の再放送を見ると、なんと笑福亭福笑が出てきて『釣道入門』……久しぶりに見るが、それなりの落ち着いた「顔」になっているのに感心する。そういえば京大出の弟子がいるのだったなあ。
歌やんの弟子・歌々志さんは千葉大建築科出である。インテリ好みというのがあるのであろうか。
午後、サンケイホールへ。
米朝一門会である。
演目は、
桂紅雀 「道具屋」
桂都丸 「闘病記」
桂千朝 「替り目」途中まで
桂朝太郎 手品
桂米二 「牛ほめ」
桂米朝 「鹿政談」
<中入>
長短かっぽれ 桂雀松 桂米左
桂雀々 「あたま山」
桂南光 「酒の話」これはいいたいことを酔っぱらったふりしていくらでもいえる新作?
最後に、「上方寄席囃子」解説という企画
解説 桂米朝
実技 桂吉朝 「蛸芝居」
三味線 大川貴子 高橋真喜
鳴物 桂米輔 桂米左 桂あさ吉 桂吉坊
ドロドロのところで宗助の「幽霊」という付録まであった。
雀々の「あたま山」は枝雀師匠をさらに過激にしたような演出である。
吉朝さんの「蛸芝居」は蛸が逃げ出す場面だけだが、横で見ている米朝師匠、吉朝の芸に全幅の信頼をおいているというか、ともかくその成長ぶりが嬉しくてたまらないという表情であった。
あと、リッツ・カールトンで「打ち上げ」があるという。
ありがたくも招待されていたので行ってみると、なんと「米朝事務所30周年記念パーティ」なのであった。
最初からこれを謳うと各方面に余計な気遣いをかけるという配慮かららしい。
権藤先生、小松さん、石毛先生、吉鹿さんはじめ、ほとんどお馴染みの人たち。わしやかんべむさしは、ここでも依然「若輩者」である。が、全体に高齢化したなあとも思う。
ニューオリンズ・ジャズ関係もしかり。
おれは自分の老化を自己チェックする「物差し」を幾つか持っているのだが、これを適用すると明らかにリタイア間近なのである。
例によって吉鹿さんの「米朝締め」でお開きは19時過ぎ。
帰路、ヨドバシを覗くと、EPSONのプリンターが「お盆特別価格」で、これは想定していた価格より明らかに安い。特別価格は本日までというので、デビッドカードで発作的に購入。地下鉄で持ち帰る。
5年近く使ってきたCanonのBJ420-Jが不調になりかけていたので、発作的というより、冷静な判断か。
8月18日(月)
あ、気分が明らかに鬱モード入りしている。
原因は色々と思い当たるが、要するに「老化」であり、ある「反動」でもある。
当分は穴蔵生活……と思うが、予定していたこともあり、早朝の電車で播州龍野のタイムマシン格納庫へ移動するのであった。
天気不安定。高湿度で余計に気分が重い。
実家にも寄る。
夕刻帰阪。
夜、ニュースステーションで「メガネ21」の経営システムを紹介する特集を見る。「リストラ社員」が作った「社長交替制」のネガネチェーン店のルポ。わからないではないが、「弔い合戦」に徹底するべきではないか。……おれは「もっと面白くてやる気が出る」方式を知っているのだが、手の内を公開するよりは作品化すべきだな。「タイムマシン開発」をテーマとするSFにすべきというヒントは林譲治さんがくれたようなものである。ははは。
鬱モード、少し楽になる。
8月19日(火)
蒸し暑い猛暑復活である。
午後、天満の大阪シナリオ学校の事務所へ。
会議室でを借りて専科メンバーの「個別指導」……といっても、ストレートSFではないから、こちらのアドバイスがどこまで的確か自信がない。まあ、いっしょに勉強するという気分である。ただし、杉本苑子など、(意外かもしれないが)わが一時愛読した作品を同じく愛読しているなど、好みが重なっているところがあるから、そう的はずれでもないであろう。
小説の話をしていると鬱モードが楽になる。
帰路、扇町公園でルン吉くんとばったり遭遇。8月11日以来である。
木陰にたたずんでペットボトルから水分補給、あと、かたわらの「噴水」から水を補給してはるのであった。
明日はわが身である。
夜、谷九、SUBへ。
滝川雅弘定例ライブ。
本日は新曲色々。ディープ・パープルとかクレイジー・リズムなども初めて聴く。
23時頃に帰宅。
近所の公園から見上げると、中天に「赤い星」。薄い雲がかかっているらしく、唯一見えるのが火星だけである。
8月20日(水)
終日穴蔵。
ほとんど仕事はしないのであった。
やはり鬱モードである。
夜、読売が連勝したらしく、川相が犠打世界新記録とかのつまらんニュースを流しておる。阪神は本領発揮の連敗街道。優勝の行方、依然混沌である。どうでもいいんだけどね。
8月21日(木)
終日穴蔵。
あまり仕事もしないのであった。
阪神、伊良部が打たれて4連敗、読売は勝っているぞ。首位転落濃厚であるなあ。
8月22日(金)
猛暑である。
朝からクーラーつける。ベランダが東向きだから、快晴だと朝がいちばん暑い。
終日穴蔵。
昼前に外出している専属料理人から電話。『痛快エブリディ』をビデオに撮っているかという問い合わせである。
しまった。
午前中のワイドショー、カレンダーにメモしていたのに、ボケて忘れていた。昼間はテレビ見ないからなあ。
8月7日にハチママと山下洋輔さんに取材のあった、「ハチママ特集」が放映される日であったのだ。
司会の桂南光さんが「この店、よう知ってまっせ。かんべさんや堀さんがよう騒いではりますわ」といったコメントをしたらしい。それを見ていた専属料理人の知り合いが携帯で連絡、あわてておれに確認の電話をかけてきたのである。
誰が録画しているかなあと考えていたら、午後、『天満人』の井上さんが資料を戻しに来穴蔵。ハチに寄ってからこちらへ来たという。ハチ、あちこちから電話がかかって大騒ぎらしい。
井上さんが録画しているということで、後日借りることにする。ほっ。
阪神、なんと横浜にボロ負け。読売は勝っている。 ほうれみろ。優勝の行方混沌……阪神、20連敗まであと15だ。30連敗も夢でない。
猛暑復活、猛虎連敗、読売連勝、横浜にも勢いが出てきた。ようするに「普通の夏」に戻ったということであろう。にわか阪神ファンはヤキモキしているかもしれんが、本物の虎ファンは正常な姿に戻って「どこか安心」てとこじゃないか。おれも読売の連勝にムカムカしているが、やっぱり「本来の姿」のような気がするものなあ。
8月23日(土)
引き続き猛暑。
朝から穴蔵クーラー。
午後、自転車で紀伊国屋へ。
コマ研の栄村くんと会う。
三番街の地下広場で「宇宙体験展」というのをやっているのでちょっと見学。
月の石とかアポロシューズのレプリカなどが展示してある。
「惑星自転音視聴コーナー」というのがあって、イオ、土星、天王星の「惑星自転音」が聴ける。
……各星の写真とヘッドフォンが3つ並べてあり、貼ってあるNASAの証明書によれば「ボイジャー2号が送ってきたSPACE SOUNDSで、BRAIN/MIND RESEARCHの提供」ということらしいのだが、日本語の説明はなし。
いずれもゴーッと風が吹くような音が聞こえる。
木星の音で期待した「鯨の鳴き声」みたいなのは聞こえない。
たぶん磁場にぶつかるプラズマの放射を「音」に変換をしたもの……なんだろうな。
隣のカップルが「凄い音をたてて回転してるんだね」といってたが、この表現が正しいのかどうか、どうにも自信がない。
新阪急の喫茶室で栄村くんと2時間ほどSF談義。……SFには「パンドラの筺」ものというサブジャンルがあるやなしや、といった議論になる。「ゴルディアスの結び目」や「結晶星団」から派生しての話。小松さんに確認したいテーマがまた増えた。
読売がヤクルトに負け、阪神が横浜を破る。おろっ、また冷夏に戻るのか?
8月24日(日)
終日穴蔵。
晴読雨読の日である。早朝から夜まで何冊かごろ寝して読むが、最近はものすごく目が疲れる。1時間ほど読むと眠くなるパターンの繰り返しである。嗚呼……。
阪神負けて、それはいいが、読売が勝つ。嗚呼……。
野球なんか観るからストレスがたまるのだ。……で、FMでセッション505を聴いていたら「セレクション」の回で、前にとぎれた終わった森山威男カルテットの「hush-a-bye」全曲放送があった。あわてて新しいMDを開封しようとしたが間に合わず。
しかし、気分はよくなった。
8月25日(月)
早朝、朝刊をとりに「自宅」へ行くと、なんと専属料理人がもう起きている。
早起きなのではなく、ボンクラ息子その2と世界陸上を見ていて、そのまま徹夜らしい。嗚呼……。
ニュースでは、駒川商店街に星野の人形が吊されている。くす玉で、もし阪神が優勝したら割られるらしいのだが、星野が首吊りしているとしか見えない。たった13ゲーム差。逆転される可能性十分なのになあ……。
月曜で、市内ウロウロする仕事あり、ついでに夕刻、本町にある小牟田さんの事務所を訪問。桂歌之助ファンの代表みたいなひとり。歌やんの「遺稿」をまとめる相談である。
どうやら具体的に進みそうである。
8月26日(火)
早朝から雷雨。夕立ならぬ「朝立ち」か。
終日穴蔵。少しは仕事もするのであった。
阪神−読売戦は雨で中止となる。甲子園の徹夜組、も可哀想だが、「金券ショップで高額のチケット」組は泣くに泣けない気分であろう。
なにしろ「この3連戦で優勝決定」なんてまことしやかに語られていたことがあるのだからなあ。今は昔である。
久米宏がニュースステーション降板の会見。
理由は@やるべきことはやったAスタミナ切れB99年に「あと3年」の約束だった……の3点。裏事情について揣摩憶測が流れるだろうが、これはまず本音、特にAであろう。同い年だから、実感としてわかる。
「しゃべり」とか「瞬発力」とかに関して自分なりの評価基準をもっていて、それに照らしての判断なのであろう。
ぼく自身、「記憶力」「思考力」「想像力」「体力(健康診断の数値とは別に)」について自分なりの物差しを設定していて、20年前、10年前と比べてどうか、絶えずチェックしている。これをやらないと老醜をさらすことになる。
美学とかではなく、羞恥心、それに老害予防である。
久米宏の判断もこれに近いのではないか。
それにくらべて「死体」をむさぼるハイエナ・キャスター、筑紫哲也の老醜は見るに耐えない。隠居して、公衆便所に落書きでもするか、カラオケで「湯の町エレジー」でも歌ってりゃいいのに。
……で、そのニュースステーション。火星の特集。火星から見た地球の映像をCGで放映(夕暮れに、いちばん明るい星として地球を紹介)、それはいいのだが、天気予報コーナーでの「解説」は間違い。今、火星から見る地球は、真っ昼間、太陽近傍にあって肉眼では見えないはずである。
8月27日(水)
終日穴蔵。
夜、阪神が読売に勝つ。おろっ、こりゃ20連敗というのはないかもしれんなあ。
8月28日
早朝の電車で播州龍野のタイムマシン格納庫に移動。
空調なしの格納庫、まあサウナ代わりにはいいのだが、昼間汗をしぼって夜ビールというパターンは、血液の状態を考えると危険らしい。脳がいかれるのは困るので、水分補給しつつ、肉体労働は半分、あとはクーラーのあるスペースでパソコン。
実家泊。
阪神−読売戦。0-11で読売ボロ負け。この負けっぷりは読売ファンとしてはたまらない。痛快であるなあ。ひょっとしたら阪神、ホンマに優勝する可能性が出てきた感じである。
ただ「今岡」と「早川」が活躍というのが、おれとしては釈然としないなあ。
名が「清」ではないからいいか。
8月29日(金)
タイムマシン格納庫に籠もる。
夕刻帰阪。
姫路から山陽電車……しかし、そのまま阪神梅田まで乗ると甲子園あたりで大量のアホで混み合いそうなので、高速神戸で阪急に乗り換える。
阪神−ヤクルト戦、阪神が8-0で圧勝である。ホンマに優勝するかもしれんぞ。
読売が勝ったのが気にいらんけど。
夜、某SF賞に関して「吉報」が届く。
どうやらニュースレリーズは流れているらしいが「公式」記事がないようなので、大はしゃぎは後日にする。
8月30日(土)
終日穴蔵。
そりゃそうと、
埼玉・朝霞で『全裸で歩行の小学校教諭を公然わいせつで逮捕』というニュース、こりゃいったい何だ?!
新座市立小学校教諭の満中聡之くん(23)が「下着を手に持ち、靴を履いただけで全裸で歩いてい」たというのだが……。
今岡清じゃないかと思ったぜ。羞恥心の欠如ということからの連想だけど。
これはオメデタイ事件だが、本当にめでたいこともあって、土曜だからサントリー5あたりへ繰り出したいところだが、体力がこのところついていかない。
テレビを消音、ラスカルズの新CDを流しながらビールを飲む。
阪神−ヤクルト、またも阪神圧勝。ホンマに優勝するのではないか? まさかと思うけどなあ……。
8月31日
8月29日に届いた、 某SF賞に関しする「吉報」とは、第4回小松左京賞の発表のことである。
小松左京事務所の「小松左京賞」のコーナーに発表あり、『8月29日、ホテルニューオータニにおいて最終選考の結果、受賞作品は上田早夕里さんの「火星ダーク・バラード」に決定いたしました。』
上田早夕里さんは、前回、『ゼリーフィッシュ・ガーデン』が最終候補に残った。
「ソリトン」同人の「桓崎由梨さん」でもあり、5月12日に姫路で会った時に、今回も長編火星SFを書いたと聞いていたのである。
ただ、立場上……というと変だが、小松さんとは時々会う機会があるから……このことには極力触れないように気をつかってきた。
29日には、上田早夕里さん本人からメールで知らせを受けた。
すぐにも大騒ぎしたい気分であったが、まだ公式発表がない。
本日、小松ページに発表されたから、もう妙な気遣いも必要ないだろう。
上田早夕里さんの作品で印象に残っているのは、パスカル短篇文学新人賞である。第2回(95年)、第3回(96年)の最終候補に残っている。
第2回の『緑の家路』は、ファンタジーの秀作で、ぼくは「『佇む人』を連想させる設定だが、植物に変化していく内面の描写が素晴らしい。」といった感想を抱いた。この作品については、筒井さんの評価がいちばん高かったと思う。
ぼくの主宰しているソリトンにも参加してくれて、『海の背骨』(5号)と『眺めせしまに…』(7号)がある。
そして前回の『ゼリーフィッシュ・ガーデン』が、紹介を読む限り、「本格海洋SF」であり、今回が「火星SF」。ファンタジーから、堂々たる「本格SF」路線へ。むろん、今後どのように変わられるかはわからないが、繊細な内面描写と骨太なSF的設定が同時に書ける筆力の持ち主である。
ついでながら、早夕里さんの写真は2000年3月20日のところにあります。
北野勇作さんと3人で「わしらも書かにゃいかんなあ」と語り合ったのであった。北野さんは「かめくん」その他の傑作を書き、早夕里さんは上記長編を書いて受賞に至った。わしだけがタイムマシン開発に熱中してさぼっているのであった。
……と、書きたいことは色々あるが、ともかく火星大接近の夏の終わりにふさわしい快挙である。
阪神の(もしかしたら)優勝なんかよりもはるかに嬉しいニュースである。
上田早夕里さん、6万年に1度の受賞、おめでとう。
そして、見事なサポート役を務めた上田満治さん(卍さんといえば、筒井ファン関係なら誰でも知っている人である)にも、おめでとうございます。
刊行が待ち遠しいことである。
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