『マッドサイエンティストの手帳』311
● MORIYAMA JAZZ NIGHT 2004 昔、森山…。今、森山!
2004年9月18日(土) "ala" 可児市文化創造センター
初秋恒例の可児市・森山ジャズナイトは今年で4回目。他にも「地球村」でのコンサートあり、さらに遡れば、多治見市でも何度かコンサートがあり、スタジオFでのコンサートも。5年ほど前から、よくこの地に来ているが、森山さん目当て以外では来たことがないから、われながら立派と思うなあ。
MORIYAMA JAZZ NIGHT 2001
MORIYAMA JAZZ NIGHT 2002
MORIYAMA JAZZ NIGHT 2003
今年のテーマは「昔、森山…。今、森山!」
どんな構成になるのか……。
ロビー、早くもお馴染みの顔ぶれ。
藤井先生、塩之谷さんはじめ「地元」の方々、三重からKurodaさん、京都・大阪から関西のアホ(おれも含む)ゾロゾロ、盛岡から岩手ジャズ愛好会のヨッちゃんことY先生、北海道からnamoさん改めただのNさん、そして今年も九州から元スッチー(今はなんとかアテンダントというのか?)節っちゃん和ちゃんコンビとその旦那。
年に(だいたい)一度だが、こうして会えるのはいいなあ。
ロビーでCD『スンミ』(京都のブルーノート・ライブ版)と藤森益弘『モンク』(文芸春秋)を購入。このCDについてはまったく知らなかった。(感想は後述/ディスコグラフィーに追加しなくては)
わが席はやや左より前から2列目。今年はドラムが舞台中央にセットしてあって、ご神体を仰ぎ見る感じである。
振り向くと、会場、大入り。……空席が3階の15席だけとか。
構成は、森山さんの個人史とでもいうのかな。
※演奏とMCの詳しい内容については、森山威男Websiteに近日アップされるであろう塩之谷さんの細密レポートをご覧ください。 公式サイトなので、演奏中の写真も公開されます。
最初は、ピアノレス、井上淑彦と音川英二の2テナー、望月ベースで「ノンチェック」
(以後、全曲、森山さんは叩きっぱなし。)
つづいてピアノ・板橋文夫が加わり、井上さんはソプラノに持ち替えて「渡良瀬」
森山さんが山下トリオを離れてからのメンバーである。
井上さんは17年間いっしょに演奏してきた。この間、音楽ディレクターでもあった。久しぶりに聴くけど、やっぱり聴きほれるなあ。
森山さんのいうには、井上さんは「忍耐の人」で板橋さんは「情念の人」、ともに作曲のセンスが素晴らしく、幾つもの名曲を残してくれたおかげで森山カルテットは長く活動してこられたという。
3曲目は代表曲「サンライズ」
ここまで50分。あっという間である。……この調子で体が持つのかなと心配になる。
休憩のあと……山下トリオ時代に遡る。
山下洋輔氏登場、デュオで「ミナのセカンドテーマ」、「アメリカ」(ウエストサイドから)、「しゃぼん玉」、そして「キアズマ」
阿佐ヶ谷時代、アパートと山下家の間でトランシーバー通信を試みたという話が傑作だ。
そういえば、プログラムに森山さんが書いているエピソード。「昭和残侠伝」に山下さんを連れていったら、橋のたもとから雪の中を健さんと池辺良が歩き出すクライマックス・シーンで山下さんが笑い出し「なんで急に雪が降るんだ、どうしてここで待っているんだ」……よく周囲の連中から袋叩きされずに映画館を出られたものだ。
つづいて「今、森山!」の部。
ピアノに田中信正さん登場。井上淑彦さんも参加。
音川さんの曲で「N・O・W」
2テナーで、スケールがぐっと広がる感じだ。
そして「最後の曲」ということで、井上さんの名曲「グラディチュード」
会場では84歳になられる森山さんのご母堂が聴いておられるという。この曲はたぶんそちらへの「感謝」でもあったようだ。
当然、アンコールを求める拍手鳴りやまず。
と、拍手の中、森山さんと板橋さんが登場した。
となると「グッドバイ」? かと(たぶん会場の多くの人も思ったのであろう)拍手はさらに大きくなった。
が、その後、想像もしない展開になった。
板橋さんが全身をバネのように前後させてピアノを叩く凄まじい演奏。曲名なし? たぶんインプロヴィゼーションと思う。壮絶なデュオが続く間に、右手からピアノがもう一台引き出されてきた。こちらに山下洋輔氏登場。こちらも当然凄いよね。
ピアノ・バトルになって、森山さんはしばらく中央でレフリーみたいに短くドラムを挟んでソロの切り替え、さらに右手に田中信正さんが登場して、板橋さんと交替して参戦……森山さんを挟んで「三代」のピアニストが鍵盤を叩きまくる、壮絶なピアノバトルになった。こんな趣向が用意してあったのか!
バトルの興奮がおさまらぬまま、舞台には森山さんと田中信正さんが残った。
そして、最後はデュオで「グッドバイ」……。
終演後、「ご神体」を撮影する。
終演後、多治見へ移動。
遠方組の多くが多治見泊なので、多治見駅に近い中華屋「せん」で森山グループ掲示板メンバー中心の懇親会。
午後10時頃からにもかかわらず25人ほど集結。
料理は均等に並ぶとして、アルコールの方が、店の管理上、「飲み放題」組と「飲まない」「飲めない」組に別れたら、これがほぼ半々。
長いテーブルの半分にはビールが並ばないという不思議な光景……これでは「飲まない組」の方が盛り上がらないのではと心配したが、飲ん兵衛の杞憂であった。
四十なんぼにして十なん歳(20に近い)年下の女性と新婚1月半という某くんとか、本日が誕生日という某ちゃんとか、なんと山下トリオ以来30年ぶりに森山さんを聴いたというツワモノまで、メンバー多彩。
全体にここのファン層は若返っていく感じである。
おれは万博の年に森山さんを聴いたぞなどと自慢している間に、よく考えれば最年長ファンになつていることに気づいて愕然。
古いファンだとお思いでしょうが
古いやつほど新しいファンをほしがるものでございます
どこにまことのジャズがございましょう
右も左もロックやポップ
世の中真っ暗闇じゃございませんか……
あ、いや、可児市周辺は森山威男のドラムという光明に照らされているのであった。
※帰りの電車で藤森益弘『モンク』(文芸春秋)を読む。
『スンミ』が森山さん参加の市川芳枝(vo)CDで京都のブルーノートの製作。『モンク』がほぼ同時に発行された小説。
森山さんが帯に文章を寄せている。
足の先まで熱くなる。
こんなこと、ジャズにしかできないよ。
ジャズをやってきて、本当によかった。
−−−森山威男
今年のalaのわが感想は「ジャズを聴いてきて、本当によかった」だなあ。
藤森益弘さんの作品は、alaロビーで見なければ読まなかった(気づかなかった)かもしれない。
京都の「モンク」というジャズ・バーを舞台に、そこに集まる人たちを描く小説。
モデルは「ブルーノート」で、人物造形のモデルとしたらしい人たちもCD「スンミ」を参照しなくてもすぐわかる。
巧緻な作品で、文章は端正、それぞれの人生の節目にジャズや楽器が係わっていて、それがラストの「名場面」に収斂する構成は見事なものだ。
ただ「本格ジャズ小説」といえるかというと、ちと微妙だ。
10年ほど前のわが体験。あるライブの店のテーブル席で、借金のトラブルかなにか、大声で議論する客数名がいた。おれも耳障りでしたかがない。と、この時にピアノの高橋俊男さんが弾き出したのが「Speak Low」……むろんくだんの客に通じるはずはないが、おれは笑いながら拍手した。
「モンク」の中での色々なスタンダードが使われているが、そのセンスがこのレベルなのだ。
これは難しいところだ。シャレっ気として使われるのはいいが、ジャズメン同士の少し重要なメッセージを込めたやりとりにしては通俗的すぎるし、さりとてジャズ用語をちりばめた演奏描写ばかりではふつうの読者は戸惑うだろうし。
このバランスは難しい。これはジャズ描写に限らず、音楽描写、さらにはスポーツ描写や料理(味覚)描写や戦闘描写、官能描写全般にまで広がる問題でもあるなあ。
で、森山さんに話を戻すと、塩之谷レポートというのは、ライブ描写としてはひとつの方向の極限にあるのではないかと毎回感心してしまうのである。
HomePage