HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』283

● A Live Supreme / MORIYAMA JAZZ NIGHT 2003

 2003年9月19日(金)〜20日(土) "ala" 可児市文化創造センター

9月19日(土)
 初秋恒例となった可児市での森山ジャズナイト。
 MORIYAMA JAZZ NIGHT 2001
 MORIYAMA JAZZ NIGHT 2002
 そして、今年は、森山威男の「集大成」ともいうべき企画である。
 ジョージ・ガゾーン、エイブラハム・バートン、井上陽介をゲストに招いて、2ステージ×2日間、4部構成で森山威男のすべてを聴かせる……らしいのである。
 これは何があっても行かないわけにはいかない。
 可児市も力を入れていて、名古屋からの送迎バス、ホテルと会場の送迎つきツアー企画まである。
 このツアーに参加である。
 午後、名古屋駅のコンコース「JAあゆみのツアー」のプラカードに集合、バスで可児市へ。10人ほどである。主に東京と大阪方面からの参加者で、半分くらいは顔見知り。超遠方の飛行機組は直接会場入りらしい。
 案内のJAの人、とてもいい人で、「alaではこけら落としに『のど自慢』がありまして、これは見事に落選しましたが、先日、八代亜紀さんの歌謡ショーがありまして、この時には優秀賞をいただきました」……一曲リクエストしてほしかったのかな。
 チェックイン後、迎えのバスでalaへ。
 北海道のnamoさんや、盛岡のヨッちゃんなど、地球村以来のおなじみの顔が増えてくる。
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 ロビーに森山さんのLPが展示してある。
 ご本人提供というが、おれの方が揃ってるぞ。『木喰』とか『ミナのセカンドテーマ』とか。もっとも御大は天才らしくコレクションにはいたって無頓着。
 さて、今回の森山ジャズナイトがいかに凄いか。
 プロデューサー・三澤隆宏さんの解説を(許諾を得たので)プログラムから引用させていただく。

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 日本ジャズ史を翻る時、森山威男のジャス、即ち MORlYAMA JAZZ の存在は正に奇跡だ。そして世界レベルで鑑みてもこれは否定できない事実である。その理由は、彼の演奏が単にアメリカの正当なジャズ・ドラムのスタイルのみならず、アカデミックに裏付けられたクラシック打楽器、さらに日本の伝統的な和太鼓の奏法をも踏襲している事にある。しかしながら、この20余年、レギュラー・バンドによる公演がその活動の中心だった為、その全容はべ一ルに包まれたままだった。そこで MORlYAMA JAZZ を多角的、立体的に鑑賞して戴こう、というのが今回の制作意図だ。つまり当公演は MORlYAMA JAZZ の集大成である。
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 どうです、すごいでしょう。
 「高さ」「深さ」「広さ」「重さ」の4部構成である。
 第1部は「高さ」で、これは「Trasition」から始まるコルトレーンの世界である。
 三澤解説を引用すれば、
 『まず「高さ」について。もちろん当ステージは結果として MORIYAMA JAZZ の世界最高を証明するであろうが、その過程で個とバンドがどこまで高く昇華(ascension)できるのか、という点にも注目して戴きたい。』
 第1部◆"THE HElGHT(高さ)"
 森山威男&フレンズ / ジョージ・ガソーン(ts,ss)、エイプラバムーバートン(as)、田中信正(p)、井上陽介(b)、森山威男(ds)
 ・Transition
 ・Love〜Welcome ?
 ・My Favorite Things
 ・Ascention
 森山さん、「今日はなぜか『しゃべれない日』で、曲目も紹介できないかもしれませんが……」と、それでも1曲目のあと、メンバー紹介。
 2本のサックスが圧倒的で、それに「マイ・フェイヴァリット」イントロの井上陽介が凄く、むろん森山さん、田中信正さん、全開状態で、これだと「しゃべれない」のも無理ない。
 それでも演奏後、一息ついてから「初めて聴いたジャズがコルトレーンで、なんて騒がしい音楽……と思っていたのが、自分で始めると、もっと騒がしいことになってしまいました」
 休憩後、
 第2部◆"THE DEPTH"(深さ)
 森山威男カルテット / 音川英二(ts)、田中信正(p)、望月英明(b)、森山威男(ds)
 ・Sound River
 ・Sun Be Motionless
 ・Gratitude
 ・Sunrize
 ・Hush-a-bye
 ・Good bye(アンコール曲)
 ますます進化し深化するレギュラー・カルテットだから、説明不要だが、ふたたび三澤解説によれば、そのコンセプトは、
 『次に「深さ」。なぜ MORlYAMA JAZZ は我々に深い感動を与えるのか? それは森山がバンドに"ブルース"、"フーリダム"、"イノベーション"、"エネルギー"を求めるからだ。そして彼のレギュラー・バンドはこの4要素を含有する本邦唯一の存在である。』
 Sound River の終わったところで、森山さん「なんだかもう終わっちゃったような気がするなあ」……これは、第1部の緊張感から「自宅」に帰ったような安堵感からかな。
 おなじみの曲目はさらに「深み」を増している。
 そして、Hush-a-byeではバートンがアルトを、ガゾーンがソプラノを持って参加、たいへんな盛り上がりになった。
 そしてそして、やっぱりGood byeを聴かないことには終われない気分。
 終演は21時50分である。
 録音と写真撮影は禁止なので、終演後、「ご神体」を撮影する。
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 追記すれば、今回、照明がとても効果的だった。
 去年の紙吹雪はちょっと演歌調が過ぎたけどね。
 今年はスポットのタイミングがよく、それに、紙吹雪ならぬ、ブラシが吹雪のように飛び散る名シーンが2度もあったそうだ。……そうだなんて書くのは、わしゃ2列目にいたのだが、前列の頭と座高の関係で、森山さんが見えにくく、この場面、見ていなかったのである。無念。
 アンケート用紙には、こう感想を書いた。
 「第1部 圧倒されました。 第2部 酩酊しました。」
 バスでホテルに戻ると22時過ぎている。
 ネットの森山掲示板のメンバー中心に、「うどん/居酒屋 月うさぎ」という店を貸し切りにしての「懇親会」。
 最初10人くらいの予定が18人に増加、23時頃に、なんと森山御大さんがご家族といっしょに現れた! まったく偶然、路上で塩之谷さんと会ったのだという。
 全部で23,4人になる。
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 自己紹介一回り。大阪組がわりと多い。地球村ふたたびの様相。ラグで聴いた人。盛岡のヨッちゃん(岩手ジャズ愛好会でライブレポートの大部分を書いているヨシダミズヒコさんがこの人である)はじめ、新潟、埼玉、神奈川、山梨からもお馴染みの顔。
 夜中を過ぎてから、森山さんが帰る寸前、入れ替わるように、ガゾーン、バートンを除くメンバー(音川さん、グズラさん、井上陽介さん)、それに三澤隆宏氏も来る。大宴会の様相。焼酎が一升瓶で出てくる。
 おれはグズラさんと大阪以来の酌み交わし。
 ただし、立錐の余地なしの雰囲気……翌日聞いたら、延べ38人になったというのだから無理もない……「最後にうどん」はあきらめるしかなかった。
 宴会、終わる気配なし。日頃、22時就眠朝4時起床のおれには、もう明け方に近い時間である。
 1時過ぎたところでこっそり帰館するのであった。
 聞けば「明るくなる寸前に帰れてよかったね」という「組員」までいたらしい。

 で、2日目である。
 大阪組は、前日の午前中は仕事してというパターン(なかには、ちょっと外出で、可児市から携帯電話で夕方まで仕事というのもいたが)が多いが、「金曜に休めなかった」組が2日目に続々登場。
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 九州組とは1年ぶりなので、ロビーでビール1杯。
 さて2日目。
 注目は「広さ」である。
 森山さん、今日は「よくしゃべれる日」らしい。
 第1部は「思い出の曲」と説明。人生の節目節目で聴いた曲を取り上げたということらしい。ダニーボーイについては芸大時代の思い出をよく語られているが、「月光」は初めてピアノを弾いた時、子守歌のメドレーは「母の背中というのはこんなに小さかったのかと驚いた」ということから、など。
 一方、企画した三澤さんはこう説明している。
 『続いて「広さ」。幅広いジャンルの昔楽を掛け合わるアレンジの妙、そして"トリオ・ミュージック"による究極のインタープレーをご紹介。類似性を持つ異ジャンルの名曲から森山の代表曲に繋がるメドレー形式の演奏は、世界初のコンセプトだ。』
 ぼくが期待した点は、もうひとつある。
 田中さんとのピアノ・デュオは何度か聴いているが、ここに井上陽介さんが加わることで、「しーそー」ではまだ「全容」が解明されたとはいえない森山ドラムの可能性をすべて引き出そうという 三澤さんの意図があるのではないか?
 ……この点を昨夜、三澤さんに確認したのだが、大笑いして答えはなし。ただし、結果として、これは外れていないと思う。
 第1部◆"THE WlDTH(広さ)"
 森山威男、井上陽介&田中信正 / 田中信正(p)、井上陽介(b)、森山威男(ds)
 ・A Day in a Life
 ・ピアノ・ソナタ第14番「月光」第1楽章〜月の砂漠
 ・テリーのテーマ〜Smile (チャプリンの映画から)
 ・この道〜Danny Boy (涙をこらえて道を歩いた記憶から)
 ・五木の子守歌〜Hush-a-bye (母の背中から、子守歌)
 ・Good bye
 このステージ、期待を遙かに上回る素晴らしさだった。
 森山さんの多彩な……今まで聴けなかった一面まで……ドラムも素晴らしいが、井上陽介を加えたトリオの「究極のインタープレイ」は、世界でも最高水準だろう。
 「Hush-a-bye」に至っては、もう感涙ものである。
 めったに聴けない組み合わせだが、セミ・レギュラー・トリオとして、またぜひ演奏を聴かせてほしい。
 そして、最終ステージ「重さ」。
 また三澤解説を引くと、
 『最後に「重さ」。ジャスのヘビー・サウンドといえぱ、ジョン・コルトレーン。その中で最重量の楽曲といえば、40分を超える組曲<至上の愛>だ。「21世紀最初の伝説」といわれた昨年のプログラムの再演で、これぞ MORlYAMA JAZZ の真骨頂と言えよう。』
 ということで、曲目は、
 第2部◆"THE WEIGHT(重さ)"
 森山威男&フレンズ / ジョージ・ガゾーン(sax)、エイプラ八ム・バートン(sax)、田中信正(p)、井上陽介(b)、森山威男(ds)
 ・至上の愛(組曲) パート1承認 / パート2 決意 / パート3 追求 / パート4 賛美
 前の東京TUCでは1時間20分ほどの大演奏(なにしろ4テナー)だったが、今回、45分。
 そして、森山さんは、元気いっぱい「まだまだ演るよ!」と、
 ・I Want to Talk About You
 ・Impressions
 ガゾーンのスピーチもあった。
 「世界最高レベルのドラムと共演できて最高の気分だ」……そして、「森山はZEN MASTERだ!」と賛辞?!も。
 最後に、森山さんとガゾーンのデュオで、
 ・Giant Steps
 盛大な拍手、スタンディング・オベージョンである。
 20:50終了。
 わしゃアンケート用紙に、
 「第1部 感嘆しました。 第2部 卒倒しかけました。」と記入した。
 が……考えてみると「卒倒」はあまりいい状況で意識を失うことではないな。昔のグループサウンズにあった「失神」寸前の気分だったのである。
 バスでホテルへ。
 あと、また皆で「月うさぎ」へ。
 昨夜の騒ぎに懲りてか、テーブルの配置が詰めやすいように変更してある。
 九州組や大阪の大ちゃんなどが来て、さらには藤井先生から地酒の差し入れみあって、たいへんなごやかな雰囲気になった。(むろん全員が演奏に満ち足りた気分であったことはいうまでもない)
 30分ほどしたら森山さんとサオリちゃんが合流。田中信正さんもやってきた。
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 森山さん、「穴のあいた靴下」を披露。
 バスドラムの踏み込みが強くてこうなるらしい。
 「森山さんは命を削ってドラムを叩いている」という意見を聞いたことがあるが、「靴下をすり減らして叩いている」のは間違いないことがわかった。
 サイン入り(ガゾーンやバートンも入っている)のスキン2枚。1枚は最遠距離参加・宮崎の節っちゃんに。もう1枚は勝ち抜き戦で埼玉だったっけ?女性が獲得。
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 バスドラムのような響きが聞こえるので、何かと思えば、「月うさぎ」25人分のうどんを打つ音であった。
 本日は、皆さん、リクエスト通りのうどんが食べられるらしい。
 わしゃ「梅ころうどん」をリクエスト。……名古屋方面では「冷たい麺」を「ころ」というらしい。初めて知った。
 なんといっても、うどんは打ち立てである。大満足。
 本日も午前1時まで。
 可児市では「ala」と「月うさぎ」しか知らないが、いい町であるなあ。
 ますます好きになった。

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※ なお2日間の演奏内容については森山威男Gのホームページに、塩之谷香さんの「実況中継」ともいうべき詳細なレポートが掲載されています。
 「文字で読む演奏」ともいえます。ぜひご参照ください。


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