『マッドサイエンティストの手帳』421

●マッドサイエンティスト日記(2008年2月前半)


主な事件
 ・D.D.ハウス・トイレ刺殺事件(1日)
 ・創サポ講義(2日)
 ・浮世絵名品展(7日)
 ・路面電車・ゲコ亭(8日)
 ・白石かずこ+沖至(15日)


2月1日(金) 播州龍野の日常
 わ、もう如月である。
 定刻4時起床。
 午前6時半……龍野の書斎から見る朝焼けが見事である。
 日の出がやっと午前7時を切った。春は近い。
 
 好天と思っていたら、天候不安定。
 午後は急に雲に覆われたり、時に霙まで降る。
 こんな日は出歩かないに限る。
 少しは仕事もするのであった。

2月2日(土) 播州龍野→大阪/創サポ/便所ミステリー
 午後の電車で大阪へ帰る。
 大阪、恐ろしく寒い。たちまち鼻水、くしゃみ連発。やばいね。風邪の予兆である。
 『ジョージ・ルイス』を「訳者のサイン入りで」というまとまった注文あり、小中セツ子さんに連絡して、双方の中間点に近い、天六の
「ワイルドバンチ」で会うことにする。
 小中さんにサインしてもらってたら、ちょうどS藤さんが来店。CDショップやライブハウスなど、色々な販売ルートを紹介してくださった方である。ワイルドバンチを拠点に「天満ジャズ倶楽部」という「JAZZを聴く会」を発足させ、月1度くらいのペースで色んな企画を進めるという。会費が「1ドリンク付500円」で「予約不要、出・退席自由」というのがいいではないか。おれも大阪にいれば顔を出すことにする。
 夕刻、天六から天満橋へ。
 エル大阪で創作サポートセンターの講義。
 ロビーで小森健太朗さんに会う。
 「便所SF」(←便所SFとは何かについてはここでちょっと触れている)がらみで、トイレを密室にしたミステリーについて意見を伺う。おれの記憶にあるのは列車内のトイレを扱った2編のみ。(島田荘司『奇想天を動かす』と、列車トイレ内の絞殺を扱った小林信彦氏の短編)
 と、小森さん「5月に出る予定の短編集に1編書いてます」という。へぇ。楽しみなことである。
 SF、ミステリー、ホラーが連動して「便所もの」ブームになると楽しいのだが。
 ということで、本日は専科の講義。
 提出作品は2編。
 ひとつは「崩壊寸前の家族」を題材にしたミステリーで、(トリックめいたものは初歩的だが)「状況設定」が素晴らしい。詳しくは書かないが、「ふたりの人物がともに犯人は自分と思い込んでいる」設定で、これは1963年の堀川弘通監督作品『白と黒』のアイデアとまったく同じなのである。橋本忍のオリジナル脚本。むろん作者の生まれる前の作品で知るはずもない。念のためにこの映画を見た人はいるかと訊ねたが、20人ほどの生徒の中に見た人はいなかった。
 もう一編は、お家騒動にからむ国替えを描く時代小説。「水軍」が山国へ移されるために「船」をどうするかという展開がたいへん面白い。ただ史実との整合性に難しいところもあり、このあたりはおれにも自信がない。時代小説に強い講師の助けを借りたいところだ。
 風邪気味なのでまっすぐ帰館。
 専属料理人にグラタンを作ってもらってワインを飲む。
 ニュースで、昨夜、梅田のD.D.ハウス2階のトイレで突然男性が刺殺された事件。
 うへっ、ここは年末に小松さんが「カラオケ忘年会」をやるフロアではないか! おれはカラオケは苦手で3年ほど遠慮しているけど、たぶんこのトイレには数年前に入ったことはあるはずだ。
 報道によれば犯人は遺留品のカバンなどから「トイレで強盗に入る準備をしていたところを目撃されて刺した」可能性があるという。強盗の装束に着替えるならボックスの中でやれよ、アホンダラが。
 「怖いトイレだ」と思ったとたんに、川上宗薫のショートショート『怖い便所』(というタイトルだったと思う)を思い出した。トイレで大便中に外から「臭いなあ、何食っただ」と言われて、ドア越しに口論になる設定である。共同便所の恐怖感が見事に描かれた傑作だが、たぶん雑誌掲載だけで、残ってないだろうなあ。おれの記憶では1970年代前半の作品である。

2月3日(日) 穴蔵/「ダンシング・ヴァニティ」
 案の定、風邪である。
 葛根湯を飲んで寝たせいか、熱はなし、鼻水もさほどではないが、喉が痛い。
 昨日2時間喋ったのが応えたか。
 穴蔵のエアコンをつけ足温マットを入れ防寒服を着て机に向かう。
 雑用色々。
 が、さすがに体がだるい。
 午後は眠ることにする。
 4時間ほど午睡。
 体調は変わらず。
 夕食後、早寝するのである。
 ……と21時前に布団に潜り込んだのだが、昼寝したせいで眠れない。
 筒井康隆『ダンシング・ヴァイティ』(新潮社)を読む。
 
 微熱があるようで、頭はあまり働かず。30分読んで30分ほど半睡状態の繰り返し。
 これが「家の前の喧嘩」から始まる「リフレイン」描写と連動して麻薬的に効いてくる。
 何度も同じ状況が繰り返されているようでありながら、主人公の収入も家も家族も家族の体型も劇的に変化していく。
 明け方まで読む。実際に「死夢」を見ていたような、心地よい波に揺られていたら溺死寸前だったような、心地よくも悪夢的な読後感が残る。
 考えようによっては、いちばんいい読み方をしたのかな。
 細かいことだが、登場人物のひとり、川崎という精神科医から、「朝青龍の主治医」というか「包茎手術専門の精神科医」というか「蕎麦の食べ方が下品な男」というか、あの本田昌毅医師を連想するのはおれだけだろうか。連載時には本田医師なんて話題にもなっていなかったわけで、「ダンシング・ヴァニティ」があのけったいな医者をあぶり出したともいえる。恐るべき時代感覚である。

2月4日(月) 穴蔵
 朝5時ころから少し仮眠。
 9時に近所の医院へ行く。
 ちょうど定期検診の時期だったので、ついでに風邪薬も出してもらう。
 抗生物質が麻薬的に効いて、アタマ朦朧。
 ぜんぜん仕事にならないのであった。
 軽い食事以外、終日寝て過ごす。
 本日もアルコール抜き。
 早寝する……つもりである。
 が、昼寝とアルコール抜きのダブルパンチで寝つけない。
 眉村卓『司政官全短編』(創元SF文庫)を、昨夜同様に断続的に読む。
 
 昨夜の『ダンシング・ヴァニティ』同様、これまた「リフレイン」……ただし、「司政官」の場合は一難去ってまた一難というか、わがボンクラ・サラリーマン時代を顧みて、身につまされるようなことの繰り返しである。
 『消滅の光輪』を1週間ほど泊まり込みで作業していた豊橋の工場の宿舎で読んだのを思い出した。司政官シリーズはこういう読み方がいいのである。風邪ひき状態にはちょっとつらい。
 が『照り返しの丘』の機械ロボットには懐かしさを覚えるなあ。
 それにしても、本書のタイトル、「全短編」でいいのかねえ。「全中編」か「大長篇以外の作品」というべきではかかろうか。
 午前4時頃まで。
 時間サイクルがおかしくなってきた。

2月5日(火) 穴蔵
 晴れたり曇ったり、天候相変わらず不安定な日である。
 風邪薬の服用は昼食後までとする。
 平熱であり、くしゃみと鼻水もほぼとまり、しゃべらなければ喉も大丈夫。3日分も出されたクスリを飲んでいたのでは、副作用による疲労とボケで仕事にならない。10年前なら、この程度の風邪なら平気で仕事に出かけていたはずである。
 ということで、午後、雑事で梅田ウロウロ。
 銀行関係のあと、ヨドバシ〜紀伊国屋〜ロフトを経由して、毎日放送横の路地を抜けて帰館。
 
 毎日放送に映る夕暮れの光……ちとセンチメンタルになるぜ。
 2、3日寝転がっていただけなのに足腰が弱っている。5200歩しか歩いてないのに疲れた……なんていうと、1日12時間6万歩40キロ歩いた
ぶんきちくんにせせら笑われそうだが。
 ということで、4日ぶりに(というか4晩シャワーを浴びてない)ギトギトした寝汗を流して、風邪薬代わりにビール、湯割り。
 早寝するのである。

2月6日(水) 穴蔵/ウロウロ
 定刻午前4時にごく普通に起床。
 やはり抗生物質よりアルコールの方が体質に合っているのだ。
 ●朝食 午前5時頃に「自宅」へ行き、専属料理人の用意してくれている和食定番をひとりコソコソ食べる。
 穴蔵にて少しは仕事もするのであった。
 ●昼食 正午に「自宅」へ行き、専属料理人に野菜・半タマゴ・揚げ入りのうどんを作ってもらう。
 午後、少し体を動かすことにする。
 定番コース、「ミムラ」でCD物色、「ハチ」でヒーコ、「旭屋」「紀伊国屋」に寄って帰館。約6000歩。
 ●夕食 「自宅」へ行き、専属料理人の作ってくれた一口ビフカツその他数皿並べてビール、湯割り。
 あまり専属料理人を煩わせないために、昼飯くらいは自分で(コンビニか出かけたついでに)というパターンが多かったのだが、ここ1週間ほどの「猛毒中国食材」報道で、「外食」忌避が高じてきた。
 早寝するのである。

2月7日(木) 穴蔵/神戸・浮世絵
 定刻午前4時起床、体調復帰である。
 未明より机に向かう。
 6時15分、
『朝ミラ』を聞く。畏友むさしくん、「退任する太田房江の顔に昔の『可愛さ』が戻った」というが、これはいただけない。あれは税金をふんだくって逃げ切ったメス狸の「してやったり」のほくそ笑みである。SF作家が「赤フンドシの女取的」にだまされてはいかんよ……と愚考するのであった。私人ならともかく、あのメス狸が何をやったのか。フンドシして土俵に登りたがり、あとは業者からワイロを受け取っただけではないか。死者鞭打つべし。落ちぶれて、女相撲の横綱・房錦でドサまわりしているのならオヒネリくらいは投げてやるけどね。
 しかし、ともかく、メス狸・女赤フンドシの房江が去ったことは喜ばしい。メス狐の川口順子は早くこの世から去ってほしいものだ。
 ということで、気をよくして、少しは仕事もするのであった。
 昼前に専属料理人と出かける。阪急で神戸へ行く。
 神戸市立博物館。
 
 『浮世絵名品展』ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵の浮世絵展を見る。
 『ダンシング・ヴァニティ』の影響か。←主人公が美術評論家で浮世絵に関するべストセラーを出す。
 平日昼間を狙ったのに、結構混み合っている。(おれより)年寄りが多く、おばはん連中の私語も耳障り。
 が、展示は面白い。「版下絵」が珍しく、特に歌川貞秀の「化物絵」の奇抜さとユーモアに杉浦茂先生の源流を見る思いがする。貞秀はまったく知らなかったものなあ。
 博物館を出て南京町へ。
 
 本日は陰暦1月1日で「春節祭」である。人出多し。
 餃子店にも長い列ができている。
 餃子を食べてもよかったのだが、混んでるから、元町方向へ戻って、「別館牡丹園」へ。ここで五目やきそば(ソフト麺)と海鮮焼きそば(かた麺)をシェア。軽くビール。
 ここに来るのは16、7年ぶり? 前に来たのは大震災以前である。あと「トンボ」へ行ったのを覚えているからなあ。
 「別館牡丹園」の玄関に「震災後、『廣州料理廣州』が『本館牡丹園』と改名して営業されていますが当店とは一切関係がございません」という看板がかけられている。
 で鯉川筋に出てみると「本館」があって、こちらには「別館……」といった表示はなし。
 おれの記憶では、「別館牡丹園」は昔から知っているけど、「本館」については記憶曖昧である。
 別館が先にあってあとから本館というのは確かに不思議。
 いかなる争いがあるのか。ご存じの方はメールでお知らせ願いたいところ。
 帰路、専属料理人と阪急電車内で検討。「京都の○○帆布みたいなのじゃないの」「ほっかほっか亭が分裂するで」「関西だきの『常夜灯』はうちの近所(豊崎)が本流らしい」「餃子の王将も2種類ある」……など、「骨肉の争い」でなくても、世の中色々あるなあ。
 ということで、夕刻帰館。
 夜は、元時津風親方こと山本順一が取的3匹とともに弟子虐殺容疑で逮捕のニュースなど見ながら軽くワイン。
 明日からの報道……北の湖理事長、会見するんだろうな……が楽しみである。
 刺激の多い一日であった。
 そろそろ寝るのである。

2月8日(金) 穴蔵/路面電車/ゲコ亭
 定刻午前4時に起きる。体調は完全に戻った。
 
『朝ミラ』にバンスリ(竹の横笛)奏者のネパール人登場、尺八に似た音が面白い。ハチに「蝋燭の炎のようにとんがった」ヘアスタイルの女神が長い横笛を吹いている図柄の染色布が飾ってあったことがあり、これはインド旅行した山下洋輔さんのおみやげで、笛の神「バンスリカーナ」絵図である。今はハチママの自宅に保管されている。またハチに持ってこいと頼むことにしよう。
 タイムマシンの部品関係で日本橋へ出かける。
 昼前……恵美須町付近。「こけし」のカツ丼はちと落ちたし、新世界で串カツには時間が早いしと迷ったところに、とつぜん銀シャリが食べたくなり、発作的に恵美須町から阪堺電気軌道に乗り、堺の寺地町へ向かう。
 
 久しぶりに路面電車30分。住吉神社や大和川は初めてである。
 寺地町のゲコ亭で銀シャリの昼飯。
 
 正直にいうが、ここの銀シャリ、世間でいわれるほどのレベルではない。
 播州龍野で新米をおれが炊いた方がずっとうまい。
 人気のない、ゴーストタウンのごときフェニックス通りを歩いて南海「堺」へ。堺市のさびれ方もひどいものである。昨年「敦賀」を歩いたのと同じ、まさに地方都市の雰囲気で、人の気配があるのはゲコ亭だけであった。
 難波経由で帰館。
 テレビで倖田來未という歌手の「羊水発言」でお詫びというニュースを見る。
 けったいなニュースだ。おれは老人だから当然「倖田」という歌手は知らず、お詫びで初めて見るわけだが、ラジオでの放言をテレビで大げさにお詫びというのも不思議だ。思うに「羊水が腐る」という発言が、無知による発言としても、生理感覚に訴えるインパクトが強かったのだろう。おれが某創作講座でいってること(非日常的な舞台であるほど五感総動員して生理感覚を刺激する表現が有効)を見事に実践していて、妙に感心する。
 男が「35歳を過ぎると精液が腐ってチーズ状態になり尿道が詰まってしまうよ」といわれたら確かに気持ち悪いわなあ。
 確かなのは「男は35歳を過ぎるとキンタマが老化して皺だらけになるよ」ということである。
 わがキンタマは幼少の頃からシワだらけであった。嗚呼……

2月9日(土) 穴蔵/降雪
 ジャーン。
 ネットで注文していたUSBターンテーブル「TTUSB10」がやっと届く。
 昨年11月発売予定が遅れていたもの。
 
 なんと軽い! セットしてみるが、よくぞここまでコストダウンに努力したなあと涙が出てくる出来映え。
 なにしろターンテーブルが樹脂製で、成形の精度はいまひとつ、完全な平面が出てないようで回転すると盤面が緩やかに波打つのであった。嗚呼……。ちなみにピックアップはマヌークGrooveTool、交換針がGTRS。これが世間でどんなレベルのものかは知らないが、ちと薄っぺらい音だ。シェルとカートリッジはMM型と交換可能だから、なんとかなりそうだが、テーブルの波打ちだけはどうにもならない。
 やはり思い切ってDP-500Mを導入する方が賢明であったか。
 おれはクレーマーではないので、実情を連絡して何とかなればそれでよし、場合によっては泣き寝入りかも。わずらわしい交渉は鬱陶しいからなあ。
 やはり通販は難しい。現時点で、これはお薦めできる商品ではないといっておこう。
 気がつけば雪が降っている。大阪の積雪は今シーズン初めてである。
 夕方まで降り続け。
 こんな日は穴蔵にこもってCDでも聴いているに限るが……本日は居住している集合住宅の修繕工事説明会。
 いつもなら棟内の集会室なのだが、本日は住民説明会なので徒歩5分の某会館まで行かねばの娘。
 公園のタコが冠雪しているのであった。
 
 うへ、道はシャーベット状でドロドロズブズブと靴に水が入ってきた。
 会議中、足先が冷たくなる。
 おでんで熱燗といきたくなるねえ。
 ……と、色々ややこしい集会の後、帰館してふだんより遅い晩酌。
 残念ながら期待のメニューではなかったが、鰺のひらき、湯豆腐、その他何皿か並べて純米酒の熱燗。
 「自宅」ではBSで「Ray」をやっていた。
 「Ray」後ろの1時間半ほどを見る。白人ジャズメン映画みたいなきれいごとにはしてないけど、作曲事情についてはご都合主義の感あり。まあこんなものか。
 と、ちと夜更かししてしまった。

2月10日(日) 穴蔵/朝青龍はホーケーである
 定刻午前4時に起床。
 昨日来のUSBターンテーブル「TTUSB10」を色々試みる。
 樹脂製のターンテーブルは(おれの判断では2ヶ所の穴のせいで)冷却時に生じた歪み(2.5ミリある)があるのだが、LPを乗せると、LP自体は平らなので、多少吸収されて高低差(カートリッジの波打ち)は1ミリ以下になる。不織布製のシートの下に紙などはさんで補正していくと、0.5ミリ程度にまでにおさまる。がまんするしかないか。
 一応メールで問い合わせてみる。マレーシア製だからなあ。日本製だと考えられない精度である。
 晴れてきた。
 大規模修繕工事に備えて、穴蔵のベランダの整理。網戸を外して拭き、室内に入れる。
 昼、ソバを食べていて、天啓のごときヒラメキ
 ソバをすする音からの連想。
 「蕎麦の食べ方が下品な男」というか「朝青龍の主治医」というか「包茎手術専門の精神科医」というか、あの本田昌毅医師について、なぜ「包茎手術と精神治療」が両立するのか、不思議に思っていたのである。
 包茎手術は原則「一回だけ」のものである。患者は固定客というかリピーターにはならない。少子化もあって、これではジリ貧である。で、ムケたあとの精神状態もケアしますよ、ということで顧客を増やす作戦なのではないのか。
 おれは渡辺和博氏の『ホーケー文明のあけぼの』を思い出したのである。
 『金魂巻』で世界を「○金○ビ」に二分した渡辺氏が、つづいて「○ホ○ム」哲学を提示した、80年代の名著が『ホーケー文明のあけぼの』なのである。
 説明の必要もないけど、○ホはホーケー、○ムはズルムケのことである。
 ホーケーとは何か。まだムケない状態をいうのだが、ここでは純粋にして繊細な(というか未分化な)「少年の心」である。あくまでも精神面を論じているのである。
 手元に原本がないのだが、「ムケなくてもいいんだよね、ホントは」というフレーズが出てきたと思う。おれ、うるっとしたもの。おれだっていつまでも「SF少年」の夢を紡いでいたかった。だが「夢見る頃」は過ぎなければならないのである。ズルムケになって世間の荒波をくぐっていかねばならないのである。せつないなあ。
 で、本田医師は、ムイてあげるとともに、ムケたあとの精神ケアをしてあげようと、「包茎手術と精神治療」を両立させたのではないか。以上はきれいな表現。ありていにいえば「ムクだけでは商売にならん」から精神科の看板もあげたんじゃないか、きっとそうだ、いやそうに違いない!
 確認のために、午後、歩いて梅田へ。
 紀伊国屋で
『朝青龍から笑顔が消えた本当の理由』を30分ほどで速読。うーん、美容外科・産業医・精神科医の3本立らしいけど、「内科」からスタートしたみたいな記述で、現況(もよくわからんが)に至る経過は読み取れない。
 印象だが、朝青龍は、肉体的にはズルムケだが精神的にはカワカムリなのかな……?
 ともかく、この本、『ホーケー文明のあけぼの』とは天と地の差。買うことないぞ。
 と、専属料理人が並べてくれた、豚パイン、マリネ、サラダ、冬パスタなどで白ワイン飲みつつ、本日のかかる「考察」を話したくなるが、パスタで飲みつつ「ズルムケ」連発では愛想づかしされかねない。
 しかし、かかる「天啓」を話さずにはいられない。
 で、ここに書くことにした次第。
 以上。
 就眠。

2月11日(月) 穴蔵/日本橋
 穴蔵にて雑事色々。
 午後、必要あって西長堀の中央図書館へ。
 ついでに『ホーケー文明のあけぼの』を確認しようと思ったら、蔵書にない。タイトルで忌避されたのか、週刊本?とかの安っぽい新書だったからか。どこかで文庫化してほしいなあ。
 あと、恵美須町へ移動。南端からウロウロと北上する。
 協電社に「TTUSB10」の前身?モデルのターンテーブルが21,000円で出ている。これを先に見ていたらよかった……。
 夕刻帰館。
 本日からしばらく専属料理人が実家行きで不在。
 夜は湯豆腐と肉を炒めたのでビール。野菜は冷蔵庫にたくさんあるが、調理が面倒なのでパス。刻んどいてくれれば少しは食べるのに。
 ということで、早寝するのである。

2月12日(火) 穴蔵
 終日小雨が降りつづくのであった。
 世間は3連休あけらしいが、こんな日は終日穴蔵と決め込む。
 わがタイムマシン関係で独自ドメインを所有しているのだが、これがまたも3年目の更新期となった。
 ネットで更新手続き。
 そういえば……おれは「soliton.com」を取得したかったのだが、これをほんの数日差で取られてしまった。もう8年前になる。
2000年4月のこと。これが取得できていたら業容も変わっていただろうなあ。この時、ついでに「hard-sf.com」というのを押さえといたのだが、特別なことしないまま3年後に流してしまった。ネット世界も移ろっていくのである。
 ニュース雑感。
●橋下くんのNHK批判……今日の『朝ミラ』冒頭でむさしくんがコメント、NHK体質むべなるかなの見解。おれは、この番組、最初の30分ほど、夕食時なのでたまたま見ていた。ともかく散漫な番組。最初に「橋下が遅れる」というアナウンスあり、あとは市長の平松、大学のセンセ、なんとかいう女社長らのダラダラしたトーク。そして、橋下登場、「女子アナ」が「30分遅刻」と確かに言った。橋下は別に憮然とした表情には見えなかった。いずれにしても散漫な番組なので、橋下登場のところでテレビは切り、ケニー・バロン・トリオを聴いて寝たのであった。要するにどうでもいい番組だったのである。報道も、橋下が怒ったことばかりで、番組の内容にはぜんぜん触れてない。あほらしいことである。おれが不思議でならないのは、犯人を「女子アナ」としか報道せず、なぜ「黒田彩子」と伝えないのかということである。橋下と同級生とかで、「バラエティ番組」か同窓会と勘違いして「司会」していたのだろう。橋下と世間に土下座して詫びるべきは黒田彩子という色黒のお調子者であろう。
●南大門炎上崩壊……韓国市民へのショックは、姫路市民にとっての姫路城天守閣の火災・崩壊に匹敵するかそれ以上であろう。(日本人なら法隆寺が焼けたようなショックという記事があったが、これはちがう。おれ、法隆寺なんて見たことないもの。市の中心部にあって市民が毎日目にしていることが大きい。)韓国のパートナー社が南大門近くにあって、出張時、何度もここは通ったが……大阪ではこれに相当する建築はない。大阪城や通天閣がゴジラに壊されても誰も何とも思わないはず。大阪は財政難だから再建もしないだろうし、むしろすっきりした気分になるかも。
●足立区の一家無理心中……両手首切断された二男の名が「晃くん!」とは。何とか頑張って生き抜いてほしい。支援の手続きがわかれば、おれもできる支援はしたい。やりきれない事件だ。
 専属料理人、不在。
 ボンクラ息子そのAが少し遅めの夕食を担当。
 
 4皿作ってくれた。手前左から時計回りに、厚揚げと茄子の焼いたの(大根おろし添え)、ジャガイモ煮、牛肉と野菜(たぶく5種類)炒め、白身の刺身。なかなか。おれも調理はそこそこできる方だが、これは専属料理人の血筋なりや。@Aともに料理はマメである。
 ということで、ビール飲み、皿洗いはおれが担当。
 そろそろ就眠。

2月13日(水) 穴蔵/ウロウロ
 快晴である……と思ってたら、昼前に雪が舞う。
 寒波襲来らしい。外は寒そうである。
 こんな日は終日穴蔵……のつもりが、本日より居住している集合住宅の大規模修繕工事が本格的に始まり、結構うるさい。
 運動不足解消のため、午後、歩くことにする。
 まず昼飯である。
 10分ほど東に歩いて、本庄東の「寿」で沖縄そば定食。
  
 
ぶんきちくんの沖縄レポートを読んで、久しぶりに沖縄そばが食べたくなったのである。
 この店は5年ほど前に近所の方から教えてもらった。うちからいちばん近い沖縄料理の店である。
 本庄東には、天六交差点北西に「とぅるるん」(←グローリーランド・ジャズバンドの室さんに教えてもらった)もあるが、ランチはなし。「寿」はそこから北西へ徒歩5分ほど。住宅や町工場の並ぶ一角にあって、午前11時から午前様までやっている。狭い店で、たぶん地元の人しか行かないと思う。が、ここ、本当にうまいのである。夜メニューは正規のものはなし。何か頼んだら何か作ってくれる、沖縄家庭料理の店というべきか。泡盛色々。仕上げに沖縄そばというパターン。
 この店を知る人はまずいないだろうとネット検索、なんと大阪すばワールドがきちんと紹介してはる。しかも大阪圏全域、恐るべき充実だ。いったいどんな人なんだろう。
 ということで、満腹。「コーヒー入れたげよか」というありがたいお言葉あれど、本日は(あとのハチがあるので)遠慮する。
 徒歩南下、青空書房に寄って、坂本さんとしばし雑談。
 扇町公園を抜けて、ハチに寄る。ここでヒーコ。マスターとUSBターンテーブルの扱いなどについて色々相談。MM型カートリッジについては、案外安くて高性能のがあるらしい。
 帰路、ミムラに寄り、ヨドバシ、紀伊国屋経由で、15時過ぎに帰館。
 約7600歩。歩いている限り、寒さは感じなかった。
 健康な1日である。

ほか弁三国志
 朝刊(2月13日)で「ほっかほっか亭分裂」のニュースを読む。
 近所を散歩していて、おれが気に入っている景観のひとつが、「ザ・梅田タワー」(タワー・マンション・ブームの先駆けとなった高層マンション)の表側(西側)に建っているビルと「ほっかほっか亭」のでかい看板である。
 できて2年は経っていないはず。このことは
ここに書いた通り。
 派手な看板である。
 
 と、この看板も変わるのかな?
 なんとなく「東西の対立」かと思ってたら、「関西」対「関東・九州」の対決なのだった。  記事を読むと、
 東京に「ほっかほっか亭総本部」がある。傘下にハークスレイ(西日本)とプレナス(関東・九州)が地域別にフランチャイズ展開していて、プレナスが店名を変更するという。
 東西の分裂かと思ったら、そうではないらしい。
 この2社で「総本部」の株を所有している。
 ハークスレイ(大阪)が西日本(愛知〜広島、四国)1000店舗、総本部の株56%所有。
 プレナス(福岡)が関東・九州(北海道〜静岡、山口、九州)、2200店舗、総本部の株44%所有。
 プレナスが総本部の方針に反発して、「Hotto Motto」(ほっともっと)という店名に変えるという。
 2社で株式100%というなら、「総本部」の権限はどうなのか。
 調べてみたら、ややこしいことに「ほっかほっか亭総本部」はハークスレイの子会社になっているのだ。沿革を見ると、近畿地区のフランチャイズからスタートして26年で「総本部」を支配下におさめた経過がよくわかる。
 2社ともに「弁当事業」だけではないのだ。
 ハークスレイの本社……ここは以前かんべむさし氏の仕事場があった建物の隣で、周囲の変遷もよく見てきた。前は地味な酒問屋の建物であった。躍進するハークスレイが本社ビルにし、屋上に派手な看板を掲げたのだ。
 2社の勢力分布、「仁義なき戦い」の世界によく似ているなあ。
 5月からはプレナスが大阪にも乗り込んでくるし、ハークスレイも「九州侵攻作戦」を展開するのかなあ。
 この抗争、目が離せなくなりそうである。
 おれは「ほか弁」の看板は全国的に「黄色にひらがな」のと思ってたけど、写真で見るとプレナス系は「えんじ色にHokkaHokka」で洋風のイメージなのか? 今度上京する時に確認してみよう。
 いずれにしても、梅田タワー前の看板は変わらないわけだ。
 それにしても梅田タワーの景観は象徴的である。梅田のアーバンライフを満喫するセレブたちの食生活(内実)はホカ弁程度(貧相なもの)……ということなのだ。
 ほか弁? おれは今も昔も食べないけどね。

2月14日(木) 穴蔵
 寒い。気温ではなく、どうやら悪寒である。
 また風邪の予兆なりや。
 喉が痛い。穴蔵にひとり籠もっている限り、しゃべることもないから、のど飴しゃぶってたらいいはずだが、咳が断続的に出る。
 終日穴蔵。
 ……のつもりであったが、タイムマシンの部品関係でちょっと外出せねばならぬ。
 天五までいったついでに、扇町の田舎家食堂で豪華昼飯、刺身その他色々並べて530円である。
 まっすぐ帰館。
 少しは仕事もするのであった。
 専属料理人不在につき、本日もボンクラ息子そのAが夕食担当。
 湯豆腐、串カツ(出来合い)・キャベツ、野菜色々の卵とじなど並べてもらって湯割り。
 今夜は滝川雅弘さんと鈴木孝紀さんの2clセッションがあるのだが、「風邪の予兆」が不気味で断念、残念。
 早寝することにする。

2月15日(金) 穴蔵/白石かずこ+沖至
 穴蔵にて、少しは仕事もするのであった。
 集合住宅の大規模修繕工事がはじまって、朝からカンカン・キンキン・ビーーーーンと耳障りな音が響く。
 と、とつぜん窓の外にヘルメット姿が出現した。びっくりするがな。
 足場がもうこの階まで組み上がってきた。支柱の接合部を金具で締める音だったのである。
  
  午前11時 → 午後1時半
 11時頃に下からヘルメット出現が、午後2時にはわが階を通過して上昇していった。ベランダの様相が一変。
 これから連休明けまで、檻の中の日々がつづくことになる。
 レースのカーテンで、外から室内はほとんど見えないはずだが、落ち着かぬことである。
 夜、
ワイルドバンチへ。
 「白石かずこ+沖至」ライブである。
 白石かずこ(詩)、沖至(tp,リコーダー、その他色々)、船戸博史(b)、高野正明(ds)
 70人以上? ワイルドバンチ始まって以来の入りだとか。
 半分以上は詩の関係というか白石ファンのようである。
 「詩とジャズ」を聴くのは30年ぶりと思う。
 吉増剛造+山下洋輔トリオを聴いたのが72年。
 タモリ+坂田明が70年代後半(←ちなみに、坂田明が詩、タモリがフルートである)。
 白石さんはわが大学時代にはすでに高名な詩人であった。ただ、おれは詩よりもエッセイを読む方が多かったのだが。
 
 沖さんは相変わらずダンディだなあ。
 前から2列目だったので、そっと1枚撮影。これは自作の「オキ・モデル」というのかな? ラッパがふたつあって、左手のバルブで切り替えられるらしい。
 詩は「歌・詠」と「語り」の中間とでもいうか……たぶん聴き手が「自分ひとりのために詠まれている」という感覚がいいのだと思う。
 それゆえに……ひとりエキセントリックな女性客(詩の方の人と思う)がいて、やたら「個人的チャチャ入れ」や「かけ声」で「私物化」する……それも低レベルなので白けるのだよなあ。
 たとえば白石さんが、三島由紀夫のパーティという珍しい話をしていて、「その時、私はラクエル・ウェルチみたいな格好してたものだから」で場内に笑いが生じた……とたんに、そのエキセンが大声で「ラクエル・ウェルチって何?」といったものだから失笑に変わった。こんなのの連続で迷惑なんだよね。詩の世界では許容されるのかな? 場内の過半数はうるさがってたと思うけど、これ以上はいうまい(大阪の恥)。
 ま、それを除けば、とてもいいライブだった。
 特に「センチメンタル・ジャーニイ」「ナウ・ザ・タイム」「コルトレーン」などジャズ関連の詩は演奏と見事に融合していて、おれにはじつに馴染める雰囲気であった。
 会場には、モラスキーさん、田中啓文さん、泉州の尾田さんなど、知った顔も色々。
 あと、ちょっと飲みたいところだが、明日が早いので失礼する。
 「とぅるるん」で沖縄そばを食べて深夜前に帰館。

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