『マッドサイエンティストの手帳』118
●マッドサイエンティスト日記(1999年8月後半)
主な事件
・残暑ボケ
・キタの「史跡の手前」を歩く
・国立劇場『新しい伝統芸能 笑いの様式』を見る
・森山威男グループ+山下洋輔、名古屋「ラヴリー」ライブ
1999年
8月16日(月)
新聞休刊日で、朝、時間をもてあます。7時に出社。
まだ世間は休みが多く、静かである。
銀行から不動産取得税○○万円を振り込む。とつぜん請求書が来て月末までに振り込め。こちらにも都合がありまっせというと、「本来、これは自己申告するべきものです。それをこちらが親切に教えてあげているわけですから」という意味の、もう少し慇懃無礼なご説明。なるほどねえ。さすが「お客」に対する説明が東芝とは違うわ。
「別荘」なんて持つものじゃないなあ。
8月17日(火)
本日も7時出社。
午後、眼科で瞳孔を開かれることになっている。これやると目薬の効果が切れるまで3、4時間、パソコンが使えなくなってしまう。埋め合わせのための早出である。
夕方、本間祐氏が来社。「大阪人」という大阪市広報誌「キタ特集」の打ち合わせ1時間。
8月18日(水)
「週刊文春」……東芝クレーマーの記事。これは週刊新潮とフォーカスがやるものと思っていたのだがなあ。
この東芝のアフターサービスについて、ぼくのスタンスは支持しないが見守る。現在までのところ、
・AKKY氏を積極的に支持する理由は見当たらない。
・渉外監査室のダミ声のおっさんは、職務に忠実で、よくやっている。あれで叱られたんでは浮かばれんよ。
・なぜ渉外管理室に回ったのかはっきりしないまま、法的処置をちらつかせたり、きちんとした結論を持たぬまま副社長がお詫びにいった。
・結局は東芝副社長のボンクラぶりだけが目立つ。
……というところ。
文春の記事も、ちょっと腰が引けている。
少なくともAKKY氏に違法行為はなさそうじゃないか。
それにしても、東芝の渉外管理室のおっさんを支援する声が皆無なのはなぜなのだ。俺は応援しないけど同情はする。あんたはよくやっとるよ。これで譴責処分など受けるとすれば立つ瀬がなかろう。
8月19日(木)
世間、ボチボチ仕事に復帰の気配。ボンクラ、誠実に仕事。
8月20日(金)
東奔西走……といっても新幹線のエコノミー切符はまだ使えず、遠方は来週廻し。
夜、自宅へ海外関係のトラブルで電話……まあ、ぼくが飛んで行く内容ではなさそう。
8月21日(土)
早朝、机に向かっていたら、5:33地震。かなり長い横揺れである。和歌山新宮と奈良の一部で震度5というニュース。家族熟睡。気楽なものよ。ひとりで朝食。世間は休みなれど、海外との連絡あり出社。韓国の某社へfax。が、特別の返事はなし。向こうも週休2日になつているのか。
昼前に帰宅。
ごろ寝。雑読。
8月22日(日)
午前3時に起きたら、ボンクラ息子、まだテレビで世界陸上の中継を見ている。
終日書斎。
夜、NHKの核開発番組。「爆縮」という用語がやたら出てくる。この「爆縮」は、implosionの訳語として、柴野拓美さんが「原爆は誰でも作れる」を訳したときに作った造語である。explosionの対語で、これは名訳である。NHKが使うということは、科学用語として定着したということか。
気になってマグロウヒルを調べてみると、こちらでは「内破」と訳されている。
8月23日(月)
サンケイ連載の高杉良「呪縛」のあと、麻生幾「日本侵略」連載開始。これは北朝鮮の侵攻テーマらしい。さすがサンケイ、なかなかの着眼である。司馬遼太郎なく江藤淳なきあと、北朝鮮しか目玉がないからなあ。
夜、梅田で大阪出張の兄と会う。
例によってビールを飲みながら色々としゃべる。
・実家のこと。猫の健康状態について。
・関ヶ原の合戦について。
・司馬遼の「関ヶ原」と池宮彰一郎の「島津奔る」では、後者の想像力が上である。司馬遼は「梟の城」がいちばん面白かった。
・山田風太郎と司馬遼太郎はどちらが凄いか。日本全部を個人が背負えないことを学生時代から知ってした山田の方が上であろう。
・小説を書くときの頭の作用について。アメリカ10日間ひとりで出張していて、頭が英語になっていても、一度日本と電話すると頭がリセットされるという。小説しかり。
・優柔不断力について。……開発部門と製造部門の関係に似ている。優柔不断のアルゴリズムがあるという。赤瀬川原平恐るべし。
・書籍は今後、読みたいものを分担して購入、交換の上、実家の書庫に保管しようという協定ができあがる。なんのことはない、40年前に戻っただけのことではないか。
おなじみお初天神境内で、兄弟で記念撮影。
先日、ボンクラ息子ふたりが兄弟でプリクラ撮ってきたのにあきれたが、オヤジも同じ事をやっているわけである。
8月24日(火)
夕方、梅田・大融寺境内で、本間祐氏やカメラマン氏と待ち合わせ、「大阪人」キタ特集のための撮影。
世代別で何人か。ぼくは50代なので、趣味で長年のお馴染み中心。
そこで、コンセプトは「史跡の一歩手前」。30年ほどのお馴染みとする。
ぼくの趣味といえば、SF、ジャズ、落語。これ以外なし。
SF……昔、筒井さんのヌルスタジオがあり、隣のビルに眉村さんが勤務されていた場所。梅ヶ枝町の「宇治電ビル」(ヌルスタジオのあった大倉ビルはもうない)。それに30数年前、御堂筋北端にとつじょ出現した地下街の排気筒……これは墜落したロケットのノズルのように見える。
落語……これは歌之助師匠や吉朝師匠が勉強会を開いていた大融寺の本坊。ワッハ上方が主流になった今も、安くて生きのいい落語はここである。
ジャズ……これは創業40年のハチと、デキシーの中心ニューサントリー5である。
ハチママと記念撮影。
つづいてサントリー5へ。この日はサウスサイド・ジャズバンドの出演日だが、今治「しまなみ街道」ジャズフェスのついでということで、アメリカからクレオール・シンコペーターズ、それに20年ほど前からよく来日しているキャロル・リーがゲストとあって超満員となる。
キャロル・リーと記念撮影。最後は2バンドに、客で来ていたニューオリンズ・ラスカルズのメンバーまで加わっての大ジャムセッションとなった。
8月25日(水)
イスタンブールのエルセス氏にから地震見舞いメールへの返事。家族にも会社にも被害はなかったようだ。9月初めに兄がスピーカーとして行く予定のbilism99というイベントは年末に延期らしい。
8月26日(木)
残暑厳しき折、珍しく肉体労働。
週刊文春、クレーマーAKKYくん追及第2弾。やや面白くなってきた。が、それでも違法性の指摘はないから弱い。
東芝副社長がボンクラで、渉外監査室のダミ声オヤジが気の毒という感想は不変である。渉外監査室のおっさん支援サイトはまだないのだろうか。まあ、ぼくが作る気はさらさらないけど。同情はするなあ。
8月27日(金)
早朝のひかりで上京。高温多湿、都内をウロウロするだけで下着がグショグショである。
午後6時30分、半蔵門の国立劇場小ホールへ。「新しい伝統芸能 笑いの様式」。
演目は、
町田 康・作 浪花節「竹鼻屋徳次郎の蹉跌」
国本武春 曲師・岩崎節子
中島らも・作 落語「うし相撲」
桂雀三郎
筒井康隆・作 にわか「納涼御攝勧進帳」
笑福亭松之助
林屋染丸
林家染二
月亭八天
浪花節を聴くのはたぶん28年ぶり。コマ・ホットで聴いた天光軒小満月(今の新月)さん以来。小満月さんの「宇和島の殺し」というのはものすごく面白かった(「先生と一緒に警察へ行こう」という件が泣かせる)が、後日、桂吉朝さんに聞いたら、小満月さんのいちばん得意とする演題だという。……久々に聴く浪花節、三味線の合いの手が抜群ですごく新鮮である。
雀さんの落語は、もうまったく気負いのないところがいい。「明るい悩みの相談室」以来、らもさんと雀さんの相性は実にいい。
しかし、目玉が「にわか」にあるのは、会場の雰囲気でもわかる。
が……。
松之助師匠一派による「にわか」は、台本とは似ても似つかないもの。
文学界掲載の「台本」はちらっと見た段階で、これは舞台が先と判断、読まずに見たのだが、それでも、こりゃ違うとすぐにわかった。登場人物の数からして違うのだから。
(……帰りの新幹線で文学界9月号を読み確認。歌舞伎のパロディという「様式美」を押さえつつ、地口や語呂合わせなど、様々な趣向に満ちている。脱線部分もきちんと用意してある。舞台と比較して、あらためて愕然。台本無視なのか、なぜここまで改竄する必要があったのか、理解に苦しむ。「俄」は英訳すればアドリブだろうか。そういう脱線に徹する俄をやるのなら、台本はいらないのではなかろうか。今回の企画は「笑いの様式」の副題の通り、「様式」がポイント。その骨格を外してしまったのだからなあ……)
「俄」という芸だけで評価するなら、チャンバラトリオの方がずっと上である。
松之助師匠、もう隠居しはったらどうでしょう……というのが正直な感想である。
休憩時間にロビーで筒井さんにちょっと挨拶。台本は読まずにまず見に来たといったら、その方がいいという返事だった。こういうことであったか。
ネットでの顔なじみ数名と半蔵門方面へ。皆、なんとなくカタルシスがなく、話題に困る。
劇場裏手は不思議な場所だ。
若いおまわりさんが警備している屋敷があり(あとで警視総監の公邸と判明)、向かいにマッサージの店があり、地下への階段で子猫が夕涼みしている。
銭湯のあるマンションもある。
6人連れで半蔵門近くの「麹町でいちばん安い居酒屋 するが」へ。
この看板、ほとんど偽りなしと思う。
ヤキトリ、イワシの丸干し、ニラのしゅうまいなどでビール。
佐藤亜紀さんがいっしょで、某繊維メーカーのファッション企画部門での職歴ありと判明、ぼくも2年間ほど繊維のマーケティングに関わった経験があり、某ファッションシステムという会社の、紙芝居程度のトレンド説明で○○万円をふんだくるイカサマ商法に義憤を感じていたことまで、妙に話が合ってしまった。
23時の閉店まで、焼酎数杯。表で記念撮影、わかる人にはわかるから説明は抜き。FAT'Nなんてハンドルがどの人か一目でわかりますね。
明日、「文学マラソン」クイズ優勝で筒井さんからレストランへの招待を受けているというJ.Paulご夫妻は、本日が上記のようなメニューであったのが正解だろう。
8月28日(土)
午前中、横浜からわざわざ出てきてくれた某氏と会う。
昼前、お茶の水へ。……昨日同様、高温多湿。
DISK UNION でトニー・スコットの59年録音CDを購入、そのまま神保町へ降りて古本屋を歩く。
が……たちまち重い荷物が発生し、出張装備のカバンとで両手がふさがり、上着を脱いで持つという訳にもいかない。気持ちの悪い汗でグジョグジョ、気分が悪くなる。
宇宙作家クラブのビールパーティが夕方からあるのだが、昨夜焼酎を飲み過ぎたせいもあるのか、吐き気もして、とても夕方まで体が持ちそうにない。
モバイルで欠席メールを入れる。うまく連絡がつくかなあ。会いたい人や珍しいゲストが色々参加、実質的な発足パーティの雰囲気だけに残念だが。……教訓。炎天下で本7キロ以上は持ち歩くべからず。8キロのバッグ2個を担いでキャディのアルバイトをやった学生時代とは違うのだ。
14時21分のひかりで、缶ビールも飲まず(!)、文学界9月号を読みながら帰阪。
8月29日(日)
本を積み上げて終日雑読。
8月30日(月)
午前2時に目が覚めてしまう。昨日の寝たり起きたりの影響である。朝までパソコンその他。4時、朝刊。6時、ひとりで朝食。7時に出社。ボンクラ、誠実に勤務。
午後、京都方面。眠い。仕事のあと、夕方のこだまに京都から乗る。
ひかりの方が便利はわかっているが、目的地は名古屋。寝過ごしたら東京という悲劇が待ち受けているから、ちょっと不便でもこだまにする。
名古屋のライブハウス「ラブリー」へ。
本日、森山威男グループに山下洋輔氏がゲスト参加ということで、名古屋の熱狂的ファン中心に超満員である。わが【森山研】も会員4名中、ぶる、専務、小生の3名が駆けつけ、脱落の約1名は某バンマスである。
ここは入場の方式がピットイン方式で公平なのだが、開場時間が早い。したがって演奏までにすっかりできあがってしまうそうで、確かにそうなってしまった。
補助椅子だったのが、数名の方が詰め合わせて1名補助椅子を入れてくださったので、ビールの飲みやすい席についてしまったのである。……聞けば周辺、ハチでも常連といえる岡田さんはじめ、大阪のハチ来訪者多く、さらにこのホームページ見てますという加藤さんご夫妻ら数名、ありがたいことであります。だいたいが、わたしゃ、やや排他的傾向のあるハチママにいつも「遠来の客は大事にしなさい」と意見してきたのである。その御利益であろうか。……お名前失念、大阪毎日ホールでの油井正一先生司会のコンサートのあと、ハチまでの大行列を作って移動した、あの道中メンバーだったという女性まで。あの時は面白かったなあ。
などと、ビール飲んでいるうち、20時、演奏開始。
音川英二(ts)、山下洋輔(p)、望月英明(b)、森山威男(ds)
hush-a-byeのみ竹内直(ts)加わる。
(あ、あとで気づいたのだが、この竹内直さんというのは、谷口英治さんらを加えてクラリネット・アンサンブルを組織している人ではないのか? 確かそのはず。まだ聴いたことがないのだが、確認しておくべきだった。)
22時頃まで。休憩を挟んでの山下〜森山デュオ「ミナのセカンドテーマ」「ロイハニ」「キアズマ」が特に素晴らしい。
それに、照明効果。森山さんのブラシの「見え方」が抜群。森山さんの腕が激しく動くたびに、くすんだ銀色の蝶が舞うような、幻惑的効果があるのだった。これ、どこまで計算されたものなのだろうか。
最後に、森山さんが、ドラムの皮を張り替えたということで、古いしたがって「幾多の名演が叩き込まれた」スキンに本日の出演者のサインを入れた「お宝」プレゼントという、とんでもない企画があった。これは森山ファンにとっては涎の出そうな宝というよりも、連隊旗にも相当する神聖なる神器……と、ちと譬えが古いか。
プレゼントは3点。
チケット番号33番の人。いちばん遠方からの人。……もうひとりは何だったかしらん。まあ公正なやり方でしょう。が、最遠方が埼玉だと知ったら、宮崎の「保存会」、新潟の追っかけメンバーはくやしがるだろうなあ。
森山さん黙認記録係(?)伊藤敏郎さんに挨拶。……そんなに長いキャリアではないと謙遜されるが、実証学的森山研究ではこの方がトップを走っておられるようである。
色々とご協力をお願いする。
帰ろうとしたところで、なんと、仕事がやっと終わったと駆けつけの「時かけゴロー」安田五郎さんとオモテで挨拶。すれちがいで帰館となった。
写真は伊藤さん、最遠来の客・埼玉の高澤さん(手にしているのが超お宝ドラムスキン)、名古屋の名物男・ゴローちゃん。
※安田五郎さんは、今や伝説的名作となったショートショート『その便所』の作者。
その「その便所」を表題作とする安田五郎ショートショート集が出ている。編者が高井信、解説が草上仁という豪華版。草上解説によれば、「その便所」は「便所テレポートテーマ」というミクロジャンルSFの先駆的作品となるらしい。鋭い。すると、その嚆矢は筒井康隆「腸はどこへ行った」であろうか。
草上解説に付け加えるとすれば「その便所」が伝説的名作と評価されるに至るプロセスがユニークで、ネオヌルにおける筒井氏の短評、電脳筒井線の騒ぎ、作品を保存していた高井信の功績、安田五郎さんの人徳などが複雑に重なっているのである。
『その便所』に興味のある方は堀まで問い合わせください。「The BENJO」の入手方法お教えします。残部僅少……かな。
8月31日(火)
朦朧とした状態で6時前に飛び起き、6時21分名古屋始発のこだまで大阪へ。
これで朝8時前に帰宅、きちんと着替えヒゲも剃ってボンクラサラリーマンとして勤務につけるのだから大したものである。
今回のラブリー・ライブで、名古屋が朝帰り圏内であることが判明。なんだか恐ろしい予感がするなあ。
勤務態度、誠実そのもの。
何度もいうが、本人が誠実にという場合は手抜きの言い換えである。東芝しかり。羽賀研二しかり。
……などと書いていたら、最近、勤務先にもこのページの読者がいることが判明。
困ったね。……ええっと、その、謙譲の美学というレトリックも世の中にはあるのでありまして、まあその、一方では「逆韜晦」というレトリックもありまして、わたしゃバカですからという人物がやっぱり本当にバカだったり……何のことやらわからなくなってきた。二日酔い状態の理由を公開してしまうのも考えものだな。
遊びすぎの8月が終わる。
ボンクラ息子が学校へ行くのにあわせて、9月はわしも書斎に籠もろう……と思いつつ、9月も色々あるなあ……
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