HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』221

●マッドサイエンティスト日記(2001年12月後半)


主な事件
 ・久しぶりに上京(18日)
 ・森山さん『しーそー』芸術祭賞受賞・他(20日)
 ・今年のライブ聴き納めはラスカルズ(29日)
 ・どこへ行ったか、ルン(31日)
 ・相変わらずの国辱オカマ・猪木(31日)

2001年

12月16日(日)
 朝5時過ぎ、朝刊を読んだ後、「日本の話芸」再放送で、ざこば師匠の「寝床」を30分見る。面白いのだが、さすがに早朝から見るものではないな。
 9時過ぎから、自転車で長柄橋を渡って、市立東淀川図書館へ。SFマガジンのバックナンバー、ネットで検索すると、揃っているのはここと西長堀だけである。西長堀になかった分を探すが、ここでも貸し出し中。
 昼前に帰宅、地下鉄で荒本の府立中央図書館まで行く。中之島から移転して以来、ここにくるのは初めてである。
 ここは雑誌は貸し出ししないので、全部読める。SFマガジンは揃っていてすべて美本である。贅沢な図書館であるなあ。東大阪市民用大無料貸本屋の様相。中之島は良かったなあ。などとぼやきつつ夕方まで、その他の雑誌もチェック。

12月17日(月)
 まだちょっと迷うところあって、朝から西長堀の中央図書館。
 曇り空で寒く、さすがに自転車ではもう無理である。
 夕方まで。
 この一週間、いわゆる「中間小説」の短編、集中して200篇ほど読んだことになるかな。途中まででやめたのがその倍くらい。
 感想は色々あるが、ざっとまとめれば、
 ・代替わりの進行。
 ・短編らしい短編が減っている。
 ・やっぱり長すぎ書きすぎが多い。30枚で書けるのが50枚になるとか。
といったところか。
 ・エロ小説が減ったのが救いか。
 夜は某「題なし」のテープ起こし。固有名詞に不明の点があって、夜9時頃に旭屋へ。ああんんど。
 ほとんど徹夜。

12月18日(火)
 午前中、「題なし」のテープ起こしと構成。固有名詞の調べのつかない点について、早朝にかんべむさし氏にFAXで質問。11時頃に電話くる。半分ほど判明。……座談会のテープ起こしなんてやるものではないな。わしみたいに細部にこだわるタイプだと3、4回聴き直すことになる。4時間のテープをでっせ。
 時間切れ、昼前に途中までをメール。
 12時過ぎのひかりで上京、車中、さすがにほとんど寝てしまう。
 アサヒネットに1時間ほど寄る。タイムマシン関係のウェブ立ち上げを検討中で、その相談。
 夕刻、某所へ。某協会の某委員会である。
 事務局、某書店、委員長の大河内昭爾先生、あと内海隆一郎、清原康正、長谷部史親の各氏。なぜこんな凄いメンバーの末席ににわしが並ぶのか不思議であろうが、まあ色々な事情があるのである。その分、緊張もするし、このために大量の短編を読む必要もあったわけである。……わしゃ「小説を読むのが好き」なのであって、小説を読むのが苦痛であれば委員なんて絶対に引き受けない。嫌々読んで評価を下すなんぞ、小説への冒涜である。誰とはいわんが、そなんこと公言するのがいるんだよね。
 各氏の意見、色々と勉強になる。特に内海隆一郎氏の読書姿勢には頭が下がる思いである。SFやホラーまで詳しいので驚く。
 21時過ぎまで。
 せっかく久しぶりに上京したのだが、スイング系もモダン系も、特に聴きたいライブはない。時間も遅いしね。……大阪ではこの時刻、滝川雅弘4の定期ライブというのに。
 やっぱり眠く、昔からなじみの日本橋の「国際商人宿」かずさやで熟睡。

12月19日(水)
 ややこしい日である。
 6時過ぎのひかりで新大阪、そのままこだまで姫路まで行き、姫新線に乗り換えて、播州龍野の実家に昼前に着く。
 タイムマシン格納庫の整備。
 夜、帰阪。タイムマシンを扱っているわりに空間の移動が大きいなあ。

12月20日(木)
 朝刊で渋谷毅・森山威男『しーそー』の芸術祭賞レコード部門優秀賞の受賞を知る。芸術祭賞の「権威」が絶対評価とはいわないけど、わが耳は決して間違った評価をしていなかったのだと、わがことのように嬉しくなる。
 終日テープ起こしと「編集」作業。
 結局、夜中の1時まで。……テープ起こしという作業は、小説を書くのとちがって、こういってはいかんが、あまりアタマは使わない。したがって、CDを聴きながらやりたいところだが、聞き取りにくい早口を確認するためにCDが聴けないという、ストレスのたまる作業である。
 ああ、『しーそー』が聴きたいのだが……。

12月21日(金)
 午前中、やっぱり気になって「題なし」原稿のチェック、昼前に再メール。ああしんど。
 夜、ボンクラ息子ふたりがそろってバイトで不在。専属料理人と『しーそー』を聴きながら焼酎湯割り。これ、やっぱりいいなあ。専属料理人も『見上げてごらん夜の星を』が素晴らしいという。

12月22日(土)
 朝の8時過ぎにとつぜん「穴蔵」の電話が鳴る。
 「堀先生ですか、こちら部落解放同盟の関係でこの地域で活動しておるんですが、このたび運動開始80周年記念で年鑑を作りましたので、運動にご理解のある先生にひとつ御協力を……」となれなれしい言葉。な、なんだ、こんな時間に。「あの、失礼ですが、この電話番号、どこから聞かれたのですか?」と訊くが、「先生、まあよろしいがな。地域社会のことで……」「いや、この番号は非公開にしていますので、お話の内容ではなく、かかってくること自体困るのです」「センセ、よろしいがな。部落解放同盟の関係で……」「いや、どこからお調べになったのか訊いておるのです」「センセ、よろしいやんか。いつもいてはりませんから」とやたらうるさい。背後にガヤガヤガヤと電話の声。どうやら「エセ」関係のセールスらしいが不気味だ。数回の押し問答の挙げ句「そうでっか、やっぱりあきまへんか」と、やっと切れる。非公開の電話を調査する組織があるのか。
 不気味であり、気分が悪くなる。着信表示にするか、電話番号を変えねばと覚悟する。……昼に専属料理人に話すと、朝早くに、なんとかの編集関係で急ぎの電話だといって聞き出したらしい。それまでにも何度か昼間に電話があったらしく、締切遅れの催促と思って教えたのだという。アホが。声を聞けばわかるではないか。相手は自宅で聞いたといわなかった。騙して電話番号を聞きだしたからという自覚はあったらしい。
 こんな電話で名を騙られる団体も気の毒である。
 夕方、かんべむさし氏が「穴蔵」にやってきた。
 「テレビ、テレビ」
 なんでも北朝鮮らしき怪しき船の追跡開始というテロップが流れたらしい。
 「北朝鮮ウォッチャー」のかんべ氏、興奮状態である。……そういえば、5月3日にかんべ氏来室の時にも、金正男の身柄拘束のテロップが流れ出したのだった。因縁だな。
 夕方から2時間ほどテレビ・ニュース・サーフィン。
 かんべ「自爆装置を積んでいるから、自爆の可能性がありまっせ」……結果を知れば、かんべの洞察力、鋭い。(この前の金正男の時にも「案外ディズニーランド見たいとか、そういうしょうもない理由でっせ」という「かんべ説」が当たっていたものなあ)

12月23日(日)
 午後、年賀状をプリント。340枚、宛名50分、本文は1時間。約2時間で完了。Canon BJC-420J であるから、かなりの健闘である。

12月24日(月)
 実家の母から依頼された書籍などを買いに旭屋。
 帰路、毎日放送の前まで来ると何やら人だかり。
off
 アントニオ猪木とウルトラマンが並んで何か演説している。なんじゃろ。しばらく見物していたら、どうやら大晦日にやる「格闘技」の宣伝らしい。ウルトラマンと戦うのであろうか。……猪木は最近なにかと「ビンタ」を張っているらしいが、今ひとつ意味がわからん。テレビもプロレスも見んからなあ。ええっと、猪木はまだ現役なのか?
 クリスマス・イブということで鶏のもも肉グリルとワイン。……ボンクラ息子どもがガキの頃ならともかく、どっちもバイトで不在。それなら、わしゃ湯豆腐の方がいいんだがねえ。

12月25日(火)
 所用あって早朝から播州龍野のタイムマシン格納庫へ行く。
 年末の五・十日で連休明け、しかもボンクラ・サラリーマンの給料日とあって、銀行がとんでもない混み方である。ATMの長い列が切れない上に、窓口でないとまずい用件が生じたので、2時間近い待機となる。番号札持って、電気店へタイムマシン用乾電池などの買い物、それでも時間を持て余す。
 午後、かんべむさし氏がタイムマシン格納庫見物にやってきた。
 かんべ氏がこの土地に来るのは20年ぶりくらいではないか。
 用件はタイムマシンの試乗……ではなく、3モードのフロッピー・ディスク・ドライブで文書フロッピーを1.4Mに変換するため。XPを導入したかんべ氏、MS-DOS機の9801BXからの乗り換えなので、今では3モード対応が身近にないのである。フロッピー数枚で、10分ちょっとの作業なんだけどね。すべてはNECがけしからんのである。
 かんべ氏、事務所開き用にと吟醸酒一升瓶を持ってきてくれる。が、飲まずに、2時間ほどいて帰阪。
 わしゃ、実家の母用に正月用買い物などして、夜帰阪。
 サウスサイド・ジャズバンドの今年最後の出演日なれど、疲れて出ていく気分になれず。

12月26日(水)
 ルン吉くんがいなくなってもう1月以上になる。
 前に梅田で見かけたのが12月3日である。
 ウチの前の路上で寝泊まりしなくなってからはさらに長い。
 どこへ行ってしまったのだろう。
 まるで『かめくん』のSF大賞受賞と同時にどこかへ去って行った印象なのである。
 それが気になって……というわけではないのだが、地下街で気になることがあって、ルン吉くん探索を兼ねて朝4時から梅田に出かける。
 これ以上寒くなると、本格的ダンボールハウスを持たないホームレス諸君は、夜、寝ることができない。明け方まで体を動かして、暖かくなってからの就眠になる。……真冬のルン吉くんが、ずっと防寒服だけで寝ていたから、心配していたのはこの点であった。かれは一冬を耐え抜いたわけだが。
 暖房の効いているのは地下街である。
 いちばん早く開くゲートはどこか。……いちばん遅い出口は確認している。
 いちばん早い「開門」は大阪駅東口から阪急デパート方向へ横断歩道を渡ったところにある地下鉄の乗り場への入口である。ここが4時過ぎに開く。しかし、まだ地下街へは入れない。
 地下鉄梅田の「鉄格子」前に集まる。地下鉄始発にそなえて、この扉が開くのが午前4時30分。
 待機していたホームレス約30人がいっせいに地下街に入っていく。ここから阪神梅田駅方向へぞろぞろと移動する。
 off
 地下鉄御堂筋線の南側改札前にある「広場」が、ラッシュ時までの「安眠の場所」なのである。
 商店街はシャッターが開くとだめ。階段付近もラッシュ時になると寝ていられない。広場の柱の陰がいちばんいいのだが、限られた場所だからなあ。
 ルン吉くんの姿はここにもない。……ぼくと性格が似ているから、いい場所に後から割り込むのは苦手なのだろうなあ。
 5時過ぎに帰宅、朝刊を読む。

12月27日(木)
 少しは仕事もするのであった。
 午後4時過ぎ、実家の母から電話。新聞広告で読みたい本あり、できれば送ってほしいという。
 書籍用封筒を持って自転車で梅田の紀伊国屋。短歌関係の書籍を買って、そのままヤマト運輸豊崎集配所へ行って発送、この間約20分。これで明日の午前中に着くからスピードはアマゾン・ドットコムの比ではない。
 夕方、東京都練馬区で一九八三年六月に起きた会社員一家五人殺害事件の朝倉幸治郎の死刑執行のニュース。こいつ、五十嵐敬喜と似てたんだよなあ。話せば長くなるから、これは稿を改めよう。「顔を見りゃわかる」という話である。顔が似ているとやることも似てくる。怖いよなあ。
 夜、専属料理人の年賀状プリント。こちらはパッチワーク作品をデジカメで撮って加工、インクジェット用のにカラープリントであるから、30枚に2時間近くかかる。面倒なことである。ボンクラ息子その2が、ヨドハシ開店の時に徹夜して7千円で買ってきたプリンターだともっと鮮明で1時間はかからないであろうが。使っておるのかなあ。

12月28日(金)
 朝9時前に「穴蔵」の電話がなる。またも「部落解放同盟の関係」を名乗る団体かと警戒する。が、母からの電話で書籍がもう届いたという連絡であった。ほっ。

12月29日(土)
 夕方から専属料理人とニューサントリー・ファイブへ。
 今年の最終営業日でかつニューオリンズ・ラスカルズの今年最後の出演日である。
 名古屋ではラブリーで森山威男さんが叩きまくる日であるが、やはり年末の移動は辛い。こちらは初心に帰って、ニューオリンズ・スタイルで今年の聴き納めとする。
 一昨年がラスカルズの最終日とクリスマスが重なって超満員だった。今年はどうか。念のため、第1ステージの30分前に行く。が、どうやら先週と分散したらしく、ふだんの入りであった。
 本日はゲストで東京から、早稲田OBの加藤平祐(cl)さんが来ている。
 まだ20代後半の若さ。前に五月山コンサートに来て以来。この時は河合良一氏が指の怪我が全治していないので、まさかの場合に代演と想定してであった。それほど信頼しているプレイヤーである。
 基本的にはジョニー・ドッズのスタイルだが、この若さでよくぞここまでの正統派ニューオリンズが吹けるものと感嘆する。
 off off
 「In a Sweet Bye and Bye」をリクエストしたら、これをクラのデュオで演ってくれた。泣けてくるなあ。
 結局最終まで3ステージまで。
 ミーハー的に、親子ほど歳の違う加藤平祐さんと記念撮影。
 あ、シャッターはODJC事務局長の口羽巌さんである。ありがとうございました。

12月30日(日)
 昨夜、大フィルの朝比奈隆氏死亡のニュース。
 またも関西の巨星墜つの感。
 前に見たのは2年ほど前。1989月11月30日の吉鹿さんのパーティの席である。この時にもう90歳を越えておられたはずだが、結構飲んではったからなあ。他に真似られることは何もないから、この点だけはわしも見習うことにしよう。
 所用あってしばらく行く機会のなかった堺沖の人工島へ行く。
 工場地帯、ほとんどは休業モード入りで、人気はなし。野犬も見あたらない。
 日本産業の空洞化が進むと、十年後くらいには、これが日常の風景になるのだろうか。
 off
 空は澄んでいて、気分はいい。わしゃ、もうどうでもええけんね状態だからなあ……。地下街のホームレス、人工島の野犬。明日はわが身である。

12月31日(月)
 早朝、森山威男さんのホームページで森山さんの「南里文雄賞」内定を知る。いやあ、素晴らしい。受賞は当然だし、それ以前から世界一のドラマーなんだけど、やっぱり今年の演奏活動の評価もあるんだろうな。やっぱり活動しなくては……と、これは人ごとにあらず。
 大晦日、特別に用事はないものの、やっぱり片づけとちょっとした買い物などウロウロゴソゴソ。
 パソコン関係のサプライ品を買いに梅田のヨドバシまで行くが、元旦も朝10時から営業とわかって、安心して買わずに帰宅。
 自転車で梅田界隈をぐるっと回って帰るが、ルン吉くんいないなあ。どこへ行ってしまったのか。来年はわが身である。わしは来年どこへ行けばいいのか。
 夜、専属料理人がおせちを作っている横で、それをつまみながらビール、焼酎湯割り。
 ボンクラ息子その1は誰かと飲んでから初詣、その2は近所の「年休無休」の焼き肉屋でバイト。焼き肉屋、明日も元旦からやるのか?
 というこで、しばらく紅白歌合戦見ながら酒。が、演歌系の歌手が出てくると、おれが「カツラ疑惑」を言い出すものだから、専属料理人が嫌がる。……しかし、不思議ではないか、演歌歌手が20年歌っていて(クールファイブのバックでワーワーやってた、岸・元大阪府知事そっくりさんを除けば※)ハゲがいないとうのは。生え際など、アップ画面見ていたら、半分以上は怪しい。
 ※岸昌よりもクール・ファイブの方が古いから、この喩えはおかしいのであるが。
 などと、カツラ判定に飽きてきて、21時になったところで、先日の猪木を思いだし、毎日テレビの「格闘技」を見る。
 ……が、高田延彦となんとかいうボクサーの試合、にらみ合いだけで、踊りみたいにちょっと体を動かし合っただけで「ドロー」だと。こんなのでまだ金取っとるのか?! 「アリVS猪木」よりひどいのではないか。これ、猪木のプロデュース、詐欺まがいは変わんのだなあ。今さら猪木に腹はたたないが、森山威男と渋谷毅の演奏をこういう国辱オカマ芸に譬えた三澤某には、改めて腹が立ってくる。「詐欺」「国辱もの」「金返せ」「お前はオカマか」が当時の「猪木・アリ」への罵声。これは金払って見たファンの本音である。わしゃテレビで見ただけでも同感だったもの。そして、猪木のやっとること、今も変わらんじゃないか。こんな試合?に森山さんの演奏を譬えるとは……と、おれもしつこいね。
 芸術祭賞受賞だし南里文雄賞なんだから、もういいではないか。……といえどもおれのしつこさかな。
 ともかくあほらしくなって、穴蔵に戻る。
 ちょっとパソコン。
 あんまりアホな年越し行事にもつき合っておられず、これにて来年まで就眠である。23時、えらい夜更かしである。


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