HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』172

●3連休3コンサート制覇の「偉業」達成


11月3〜5日の3連休、3日連続ジャズ・コンサート。こんな贅沢していていいのだろうか。いいのであります。20世紀最後の贅沢であって、この30年の総決算でもあります。「3日3晩汗まみれ」というポルノがあったけど、そのジャズ版みたいなものであります。


11月3日(金)
 昼過ぎの新幹線で名古屋へ。
 「ラブリー30周年記念コンサート」である。
 午後2時半に愛知県芸術劇場大ホールへ。ここは名古屋最大というか、おそらく日本でも屈指の大ホール。建築にからんで当時のエライ人が逮捕されたほど凄いホールであって、こんなホールをジャズファンで一杯にしてしまうのだから、ラブリーたいしたものである。客も凄いが出演者も凄い。これでは友人知人に会うのは難しいだろうなと思っていたら、入口付近で、いちばん会いたかった森山さんにばったり。出番はあとの方で、待機時間が長いのだそうである。出演者が多くて、ウチアゲが一店では入りきらないのだとか。
 わが席は4階R1−1。5階まであるから、まだ上には上がある……というものの、もの凄い場所である。舞台が眼下に見えるが、後方を見上げると、5階の正面奥なんなんて、遙かな山の頂のようである。そこに人がびっしり。ホール側面は「桟敷」状で、小部屋が並んでいる雰囲気。わがコーナーは8人部屋である。声が反響して聞き取りにくいが、音響はまあまあか。ひどい席だが面白くもあり。
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 15時開演。
 「長丁場ですがよろしく」と挨拶あり……いや、本当に長丁場であった。
・最初が日野皓正〜菊池雅章のデュオ。恐ろしくテンションの高いデュオ。のっけからこんなメンバーというのにも驚くが、想像するに、完璧主義者・菊池雅章を配慮してか? 長丁場でピアノの調律が狂ってきてはたいへんという心配からではないか。ネム・ジャズインで演奏拒否があったものなあ。……もっとも、その前が山下洋輔グループで、肝炎から復帰したばかりの森山さんが叩きまくっているところで雨が土砂降りになったのだから、しかたなかったのだけど。と、古いことを思い出す。
・2番目が綾戸智絵グループ……グループといっても、最初の曲では、コーラスガール(というのかな?)約100人を並べてだから、大合唱団である。ウチアゲ会場に困るはずだ。
・3番手、名古屋の誇るCUGオーケストラ。これはFMで一度聴いたことがあるが、向井滋春、川島哲朗、原朋直なんかがメンバーに紛れ込んでいる豪華さ。
・4番目。大御所・ナベサダ登場。なんと、渡辺貞夫、増尾好秋、鈴木良雄、村上寛というカルテットで、70年代のマイ・ディア・ライフの雰囲気である。
……とこれが終わったところで午後5時半。
 ロビーにバーコーナーがあるがごった返してある。ちょっと時間をずらしてワインを一グラス飲めただけ。

・5番目が名古屋出身・在住でラブリーに縁の深いメンバー「 Lovely's Lovely」による演奏だが、和田直(g)と森剣治(cl)が泣かせた。森剣治はこの日、クラリネットで登場、テネシーワルツを切々と吹いて、クラリネット・ファンであるわしには感涙ものであった。……この後、向井滋春、原朋直もゲスト参加。安藤シュン介のアタマがいいなあ。
・だんだん凄くなってきて、6番手、渋谷毅オーケストラに坂田明さんがゲスト参加だが、坂田さんもクラリネットで登場というのがうれしい。峰厚介、松風鉱一、林栄一、津上研太、古沢良治郎……その他凄いメンバーが揃っている。
・7番目が、ケイコ・リーと近藤房之助のデュオ。このふたりは、ライブで聴くのは初めてである。ケイコ・リーはさすがに人気が高いのだなあ……。
・そしてトリはラブリーの看板バンド、森山威男カルテット。午後8時を過ぎての登場である。
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 さすがに拍手はひときわ大きい。森山さんの声は比較的よく聞こえる。
 「……トリってそんなにいいんですか? こっちは出番待ちなのに、終わった連中は楽屋でウイスキー片手にイェーイて始めてるし、終わって戻るとガラガラだったりで……」
 しかし、毎年の締めくくりが森山グループだし、今世紀最後のラブリーも森山さんだし、やっぱりトリは森山さん以外考えられない。
 演奏は3曲。「ラブリーでおなじみの曲から演奏します……」と、「サンライズ」「hush-a-bye」「good bye」。……どうしても3曲というなら、どう考えてもこの選曲しかないなあ。……もっと聴きたかった。せめて5曲は聴きたい気分だが、まあ、他のグループとのバランス上、しかたあるまい。6時間近い「長丁場」を締めくくる「good bye」最後のひと打ち、万感の思いが込められているようでありました。
 河合勝彦マスターへの出演者大勢からの花束贈呈(だろうなあ、ホントは一輪ずつの献花だけど、告別式ではないから……)があって、ステージが賑やかになって、約6時間のコンサートが終了した。
 確かに長丁場であった。
 友人知人を探そうか迷ったが、新幹線の時刻も気になって、そのまま名古屋駅へ。……さすがに空腹で、閉店間際の居酒屋へ駆け込んだが、むむむむ無念、これは見事に外れであった。汚い高いまずい。やっぱり名古屋の居酒屋はラブリーの隣に限るなあ。
 それでもなんとか12時前に帰宅できた。

11月4日(土)
 ……遊びすぎてもいかんので、朝から夕方近くまで、書斎に籠もる。たいした仕事はできないが。
 夕刻、専属料理人と中之島のリサイタルホールへ。「山下洋輔ニューヨーク・トリオ」のコンサート。昨年は今日とのラグで聴いたが、大阪でのコンサートは意外にも6年ぶりである。
 このコンサート、結成10年目ということもあるが、いままで聴いたなかでもベストというか、完璧といっていいコンサートだった。完璧なものをうまく言葉で表現できない。演奏はむろん素晴らしく、構成が見事で、音響は申し分なく、照明も文句のつけようがない。特にいえば、やっぱりセシル・マクビーのベースには感嘆するなあ。……最後の、トリオのテーマともいうべき「クルディシュ・ダンス」は感動的であった。
 さらに付け加えると、「博多の華/三年貯蔵」のミニボトルがおみやげにつくという、まさに画龍点晴ともいうべき仕上げである。
 ちょっと興奮を鎮めるために、岡本会長夫妻と歩いて大同生命ビル地下の旧アサヒビアホールへ。ここは御堂筋と新御堂筋、国道2号線で区切られた「陸の孤島」状態のビアホール。岡本くんは高松出身で、ジャズと関係ない讃岐うどん談義になる。「はがくれのうどんはお子さまランチみたいなもの」という話が凄い。
 21時頃にハチママからのご下命あってゾロゾロと「ハチ」へ。ここでウチアゲであったらしい。いやはや。
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 ちょっと心配していたことだが、案の定……なんとハチママがNYトリオに強引に「おねだり」。これに昨年京都ラグに飛び入りしたアルトサックスのランディ・コナーズさんが加わって、なんとこのカルテットをバックに「リンゴ追分」。うーん。……これは悪のりではないかと気を揉む。
 と、このヴォーカルを引き継いで、ランディが「マイ・フェバリット・シングス」につないでしまった。さらに……フェローンがソロパートで、ランディに「来い来い」と合図、なんとドラムに向かったランディと猛烈なバトルを始めた。ちょっと圧倒されるなあ。もの凄いものを聴いてしまったが、……しかし、こんな無茶を強要してウチアゲになるのかなあ。
 これはこれで凄かったが、引き続いて、ハチ・バンドが始まったので岡本くんたちと退散。完璧なコンサートのあとで「耳を汚したくない」気分だからである。(長年ハチに通っているから悪くは書きたくないが、「本気の素人演奏」が終演後の神経を癒すかどうか、ここんところはよく考えてほしい。出演者のアフターアワー・セッションではないのだから。)
 ハチのオモテに退避していたフェローン・アクレフさんと記念撮影。うちの専属料理人も喜んでいたが、帰路にいうのに「本当はセシル・マクビーさんと撮ってほしかった」……まあ気持ちはよくわかる。ジェントルマンだしなあ。ベースになって抱きしめてほしかったのかなあ……。

11月5日(日)
 3連休3日目である。
 昼過ぎに阪急池田へ。
 五月山の麓にある五月山教会で、ニューオリンズ・ラスカルズのコンサート。
 ここでのコンサートは7回目という。ぼくは2回目の参加だが。賛美歌を演奏するのに音響効果がよく、過去のコンサートのCDも2枚出ている。
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 200人近くで満員。教会だけに品のある人が多い。
 「ベイズンストリート」に合わせてメンバーが次々に登場。サントリー5とちがって、そろいのユニフォームが粋である。

 いつもは賛美歌やゴスペル中心だが、リーダーでクラリネットの河合良一さんが指の怪我が完治していないということで、早稲田ニューオリンズ・ジャズ研を出たばかりという若いクラリネット・加藤さんが応援で参加、半分近く「代役」を務める大健闘。トラディショナル・ジャズでも若い世代が育っているのは嬉しい限り。20代前半……うちのボンクラ息子に近い年齢ではないか。
 2クラも一曲聴けた。年齢的には親子競演の雰囲気。いいなあ。
 他にコルネットやピアノのゲスト参加もあって、ポピュラーなナンバーも演奏される、バラエティ豊かなコンサートになった。
 帰りは歩いて池田まで。長い下り坂。逸翁記念館とか池田文庫の前を初めて通る。静かな町並みである。

 ……3日連続のコンサートは静かな城下町の夕暮れで終了である。
 3連続、なんだか節操のない組み合わせに見えるが、ぼくにとっては、すべて「30年間聴いてきた」愛してやまぬメンバーなのである。
 万博の年に、ハチで山下洋輔トリオを聴いて以来、山下洋輔さん、森山威男さん、そして中村誠一さん(この人も今年は奈良で聴けた!)と替わった坂田明さん、関西圏での演奏はほとんど聴いてきた。九州追っかけも敢行したことがある。
 ジョージ・ルイスをラジオで聴いて以来、クラリネットはぼくの愛聴楽器であって、ニューオーリンズ・ラスカルズも、やはり万博の年に、昔懐かしい「レッドアロー」から「サントリー・ファイブ」へ、そして20TH、30TH記念コンサートなど、この30年、よく聴いてきた。
 世紀末最後の連休に、コンサートを連続してまとめて聴けるという巡り合わせも奇跡的である。大げさにいえば、わがジャズ愛好歴20世紀の締めくくりである。
 ……と、ちょっとした感慨に浸りながら、晩酌に「博多の華/三年貯蔵」の湯割りをがぶ飲みしたのでありました。
(21世紀につづく)


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