HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』192

●マッドサイエンティスト日記(2001年3月後半)


主な事件
 ・花粉最悪状態の日(16日)
 ・ルン吉くん帰る!(20日)
 ・宝国寺最終ライブ(25日)
 ・現代演劇協会『火計り』を観る(27日)
 ・中島啓江『夢で逢いましょう Vol.5』(31日)

2001年

3月16日(金)
 所用あって箕面〜川西と移動。電車を降りて数分歩くだけで、マスクをしているにもかかわらず、たちまちくしゃみ連発、鼻水ダラダラ、大阪市内とは花粉の濃度が桁違いである。夕方には喉が腫れ上がって口もきけない。
 帰宅後ただちに目薬、シャワーで頭を洗い、目をつぶって1時間ほどじっとしている。ちょっとましになるが、鼻水はとまらない。

3月17日(土)
 鼻水がひどく、寝たり起きたり。原稿が書けない。というよりも気力がわかない。終日書斎。夕方には咳が出始めた。嗚呼……。

3月18日(日)
 朝刊の花粉情報では、本日も「非常に多い」。食事のために足早に「自宅」往復する意外、終日外出せず。

3月19日(月)
 できれば部屋に閉じこもっていたいが、出かけねばならぬ。喉が痛くてしゃべる元気がない。

3月20日(火)
 朝刊を取りに出ると、お、おおっ、ルン吉くんが定位置……電柱と支持ワイヤーが斜めに張られた三角形の下……に寝ているではないか。帰った来たのか!
 2月23日以来ではないか。ひと月近く、どこへ行っていたのだ! 心配させやがって。
 春分の日で休みである。彼岸だから帰ってきたのだろうか。
 昨年11月以来、同じピンクの防寒服のまま。
 あまり汚れてもいない感じだ。
 off off
    2000年11月14日         2001年3月20日
 長靴が白に変わった程度である。
 暖かい日である。桜の開花も近い。ともかくこの格好のまま冬の4ヶ月を乗り切ったわけだ。
 時々戻ってきてくれたらいいのだからね。……子供を都会に出した親の気持ちはこんなものだろうか。
 花粉警戒して終日外出する気分にもなず、さりとて仕事もできず。

3月21日(水)
 播州龍野の某機械メーカーへ行く。
 創業者のご一家とわが家が親しい関係もあって、たまたま開発テーマがぼくの経験してきた分野に近いこともあって意見を求められる。人間の五感のひとつに関するセンサー……みたいなものだが、これは30年以上前に京大の川端季雄先生や現奈良女子大の丹羽学長などのグループが委員会を組織してやってきた分野でもある。しかし、結局は実用的な物差しにはならなかったと思う。ユーザーの感覚とちがうからだろう。(味覚でいえば、料理評論家がいくら点つけしても、ふつうの客は自分の舌しか信じない) センサー技術が進歩しているから、新展開は可能か? ちょっと自信のもてない分野だ。どうも自分の経験した分野に関しては悲観的になる傾向があるようだ。マーケットが狭く、せちがらかった影響であろうか。……ただ、今のところ人間の感覚を上回っているのは「視覚」と「聴覚」だけではないか?
 夕刻、実家に寄り、夜遅く帰阪。

3月22日(木)
 所用あって専属料理人が実家へ行ったため、調理を試みかけるが、ボンクラ息子その1がアルバイト、その2がスノボーで不在。久々にリビングを独占できるので、総菜を買ってきて並べ、ビール飲みながらCDを聴く。あと、久しぶりにテレビで『幸福の黄色いハンカチ』を観る。……健さんが「不器用」になってしまったのはこれ以来かなあ。ぼくは『網走番外地』の第1作がいちばんいいと思うが。

3月23日(金)
 15時30分頃にミールが無事南太平洋に落下した模様。フィジー島上空を通過する映像を見る。……かん高い音が聞こえたというが録音できなかったのだろうか。
 本日も専属料理人は留守、ボンクラ息子その1はバイト、その2はスノボーから帰ってまたも遊びに出てしまった。昨夜に引き続き、ひとり夕食。長野みやげの野沢菜で焼酎を飲みながら、滝川雅弘、谷口英治、ドン・バイロン、エディ・ダニエルズのCDを聴く。

3月24日(土)
 だらしない寝方をしたので、午前2時過ぎに目が覚める。夕食の量が少なかったので空腹である。自転車で天五のうなぎ屋へ。……と、とつぜん消防車が中崎町から天五に集結してきたが、なんじゃい? 火事の気配もないのに5、6台来て騒がしい。
 午前3時頃に帰宅して、あとは午後まで寝たり起きたり読んだりメモしたり、しかし、外出の影響で鼻水とまらず。
 夕方から天満で某講座の「専科」講義。……課題作品の合評会形式で行うが、同じ「課題」でも、パニックSF、宇宙SF、ドタバタ・ファンタジー、メルヘン、古代神話、ラブコメとバラエティ豊かで面白い。結局1時間近く超過してしまった。
 隣の教室で、この日は小林泰三さんが「ホラー」を担当していて、田中啓文、林譲治、牧野修氏ら見物?に来ている。……近所の中華屋で合流して、22時まで雑談。……最近、北野勇作の顔つきがだんだん牧野修に似てきている(断じて逆ではない)。ヘアスタイルとヒゲと眼鏡のせいらしいが、全体の輪郭も似てきている。関西SFマキノ化現象というのがあるのだろうか。

3月25日(日)
 朝刊一面に昨日午後の広島大地震の記事。昨夕、揺れたという話を聞いたが、ぼくはまったく気づかなかった。書斎にいたのは間違いなく、本棚は揺れもしなかった。……大阪では、気づかなかったというのと、かなり怖かったというのば半々のようで、中間はいない。
 午後、大阪駅でカツサンドを買って、関空行き快速で和泉府中へ。
 約40回開かれてきたというNam-laboの宝国寺ジャズライブ、諸般の事情でオープンな開催は本日が最後になるという。ぼくは今年1月28日に行ったのが初めてなので、2回目で最終回である。……ただし、熱心なメンバーがいれば、会員制で、場所の提供を受けて継続しようという話はある。
 本日は、バイブの鍋島直昶カルテットに滝川雅弘(cl)がゲスト参加した編成。30人近くで、この会場としては「盛況」である。女性ボーカルもあり。
 鍋島直昶さんは大正15年生まれと自己紹介されたから米朝師匠と同年である。その若々しい感覚に驚くが、さらに、鍋島藩直系という。そういえばお名前もそうだが、毅然とした姿勢は葉隠武士の雰囲気である。
 滝川さんのクラもいい。クラ〜バイブとくるとグッドマンかと思いそうだが、ともにスタイルはモダンで徹底している。リクエストで「鈴懸の経」が演奏されたが、これもモダンな演奏であった。
 off off
 終演は20時頃。
 主催者の南方慶照さんに花束贈呈があり、最後だというので全員で記念撮影を行った。
 何人かが交替でシャッターを押す。この間、滝川さんが「ムーンライト・セレナーデ」を吹いたのが印象的だった。 

3月26日(月)
 東京生命の破綻で掛け金がどうなるのかとアホが大騒ぎしている。
 保険は博打である。普通の博打は自分の好運に張るが、生命保険は自分の不幸に金を賭ける。胴元だけが儲かるのは同じ。その胴元が破綻するのだからなあ。なぜ破綻したかというと、逆ザヤとかで、胴元も博打やって負けつづけとるのじゃないか。ははは。
 わしゃ掛け捨ての生命保険(これとて家族に対する脅しで契約させられたようなものだ……もう、これからはたいした稼ぎがないから、やめてもいいよなどと家族からいわれている)以外、保険会社とはいっさい縁がないから、保険会社が破綻して慌てている人間の心理がまるでわからない。
 だいたい「運用」などというのに金を預けて、高給取りの給料をさっ引いた「配当」を貰ってもたかがしれているではないか。
 久しぶりに血圧測定。152/80、上がやっぱり高い。賭場の破綻でやっぱり興奮しとるのだろうか。

3月27日(火)
 夕方、尼崎のピッコロ・シアターへ。
 現代演劇協会の主催による日韓共同製作による『火計り〜四百年の肖像』を見に行く。
 島津義弘によって鹿児島に連行された朝鮮陶工が作った「火ばかり茶腕」に始まる、薩摩焼を巡る四百年の日韓陶工の宿命……といううと重苦しいテーマだが、日韓双方の役者の熱演で、四百年の歴史が錯綜する舞台を2時間、見事にテンションを維持して見せた。
 ぼくは芝居の世界はあまりわからないのだが、韓国語の台詞を舞台脇で表示する「字幕表示装置」の開発に関わったのである。
 東京・千石の三百人劇場を本拠地とする劇団「昴」……ここに事務局を置く現代演劇協会が「字幕表示装置」を企画して、当初はプロジェクターであったのを、小型蛍光管による表示に切り替えた。もう10年前である。  現在は3代目のLED表示がメインだが、蛍光管も大劇場では使われている。
 off off
 現代演劇協会の事務局長・杉本了三さんとはそれ以来のつきあい。関西公演があればなるべく観るようにしているのだが、道具から芝居に関わるというのも不思議なものだ。
 終演後、杉本さんに挨拶。ちょっとしゃべる。このご時世、芝居の世界もたいへんだと思うが、そんな話はまったくされない。芝居や映画の話ばかりである。(……じつは、杉本夫人は経済関係のライターで、一度インタビューを受けたことがある。「浮世離れした人ですから」とおっしゃってたが、いい理解者をお持ちだと感心した。)

3月28日(水)
 昼間、典型的な春雨である。濡れる速度と乾く速度が均衡している。花粉だけば減らない。

3月29日(木)
 朝5時。お、ルン吉が定位置に立っている。桜がほころび始めている。いよいよ春だなあ。
 ……と思ったが、暖房のない倉庫で荷物の到着を1時間待機、その後夕方まであまり体を動かさない作業をしたら、久々にキンタマが収縮してしまった。

3月30日(金)
 桜が咲き始めたとたんに恐ろしい寒さ。ルン吉くん、またどこかへ行ってしまった。

3月31日(土)
 夕刻、神戸へ。三宮から異人館あたりを歩いて新神戸オリエンタル劇場へ。
 毎春にあるコンサート『中島啓江 夢で逢いましょう Vol.5』……谷口英治さんが音楽監督とバンマスを務める公演、聴きにくるのは今年で3回目である。いつも桜が満開の頃で、今年はちょっと早いかなと思っていたら、桜も開花が早い。
 今年の目玉は1部の「民謡」と2部の「ビートルズ」……谷口英治さんのアレンジは例によって色々なスタイルが試みられていて楽しい。今年はビートルズで「R&B」が数曲、したがって演奏はアルトサックス近かった。
 中島啓江がビートルズを歌う新CDを買ったが、これは谷口さんのアレンジではなかった。が、専属料理人は中島啓江さんのサインを貰って喜んでおる。
 off
 終演後、歩いて元町まで。「丸玉食堂」で台湾料理。牛アバラの煮込みやビーフン、ちまきなどでビールと紹興酒。
 22時頃に帰宅してニュースを見ると、阪神が9-7で巨人に勝っている。春の珍事か。


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