HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』95

●マッドサイエンティスト日記(1999年2月前半)

主な事件
 ・減塩開始……血圧はどこまで下がるか
 ・山芋のレオロジー
 ・飯野文彦さんが来阪
 ・多和田くんの卒論
 ・「香箱を組む」の謎
 ・ビル壁面に大魔人の影

1999年

2月1日(月)
 週明け、恒例「高血圧」デーである。
 ボンクラサラリーマン、「人材派遣会社」と「人材斡旋会社」の違いを初めて知る。勉強になるなあ。
 世の中は「2字」違いで大違いである。
 レンタル業と産業廃棄物処理業の違い……といえば言い過ぎか。
 2月になったのを機会に、本格的に血圧低下に取り組むことにする。10年前に一度「高騰」したことがあり、仕事の環境が変わったためと今でも思っているのだが、減塩を徹底したら下がった経緯がある。歳も違うからどうなりますやら。
 ちなみに2月初めの血圧は「168−96」である。これはちょっとヤバイらしい。

2月2日(火)
 夕方、アトソン大阪分室に寄る。
 マル秘ビデオテープの受け渡しのためである。
 アトソンのローランド・カークと呼ばれる五十嵐氏、近くに勤務の【森山威男研究会】のりこり専務、それに某SFアニメおたくとして知られる同ビル勤務の伊藤重人氏が合流、なんとワインとチーズが用意してある。
 JACOB'S CREEKというオーストラリアの赤。なんだか月面のどこかみたいな名前であるが、結構な味でありました。(ワインに関してはたちまちボキャ貧になる)
 ワインがカラになったところで、4人でお初天神の「夕霧そば」に移動。ここの「山いもの海苔巻き」で一杯やろうということになったのである。
 この「山いもの海苔巻き」というのは、要するに「トロロを海苔で巻いたもの」なのだが、粘弾性的特性が不思議で、ふつうだとドロリと崩れそうなのに、流動体にも関わらずなかなか崩れない。いわゆる「チクソトロピー」性が高いのだが、どうしてチクソ性が付与されているのかわからない。粒度にあるらしいのだが、単に山芋をすり下ろしてあるだけだからなあ。……と、いつも謎を解こうと試みるのだが、5分以上観察するのは不可能である。冷酒が横にあると、とても待ちきれないからである。
 冷酒を飲んだところで「夕霧そば」。減塩中につき、そば湯はがまんする。そばつゆの減り方が、ぼくだけダントツに少ない。
 お初天神境内で記念撮影。
 off off

 アトソンのカークは前回の「そばオフ」以来10キロ減量というが、外観は変わらない印象。
 カーク氏と伊藤氏は飲み足りないらしく、新梅田食堂街(ガード下)方向に去る。ここにもいい呑み屋が揃っている。が、本日はがまんである。
 帰宅して、さっそく借りたマルビデオを観る。……先週放映された「食わずに死ねるか」の筒井康隆氏出演「鳥正」シーンである。むむむ、やっぱりうまそうだな。いや、実際にうまいのである。阿佐ヶ谷にぶらっと立ち寄れないのがつらい。

2月3日(水)
 世間節分とかで夕食にのり巻きが出ている。山いもののり巻きにしてくれればいいのに。わしゃ、こういう習慣は嫌いである。おせちといい、特別な食べ物が出ると、体調がおかしくなる。……かんべむさし氏はこのへん妙に律儀で、この日は特別の方向を向いてのり巻きを丸かじりするとか。いやはや。

2月4日(木)
 3時頃に目が覚めてしまった。ホームページ更新。
 この冬いちばんの寒波で、昨夜、高速の事故、新幹線の・新大阪の列車ホテルなど多い。朝、コンビニの雑誌類が未着である。
 7時過ぎ出社。会社では面白い話が色々あるが……300行省略して……20時頃に退社、12時間以上同じ職場にいるとさすがに息苦しくなる。

2月5日(金)
 東奔西走まず東奔。米原付近雪で徐行だが、たいした遅れではなし。
 午前中に所用すませて、今度は姫路まで西走。
 こっちも寒い。
 夜帰宅。
 テレビで「マディソン郡の橋」を観かけるが、やっぱり30分もしないうち眠くなり、そのまま睡眠。午後9時からの映画というのは、出来不出来に関係なく、もう観るのは不可能な体質になってしまった。

2月6日(土)
 世間休日なれどヤヤコシイ雑件があって出社、昼過ぎまで仕事。
 午後、漫然と読書。
 午後10時前、眠くなりかけていたところへ、高井信氏から電話。飯野文彦氏が某創作講義で来阪、その流れでウチアゲ中という。……電話を受けてから10分ちょっとで梅田・旭屋前で合流、地下鉄駆け込み乗車とはいえ、なんという速さであろうか。
 飯野文彦、高井信、牧野修、田中啓文、芦辺拓氏らに生徒ら6人ほど。
 10人ちょっとなので、「ストローハット」へゾロゾロ。
 飯野文彦氏、落語とジャズに詳しいので驚く。だいたい住まいが「ぼくが20年ちょっと前」におなじみだったあたり……刑務所があった近くである、ぼくが刑務所に入っていたわけではないが……で、ライブハウスや「鳥正」など、重なること多い。
 「水霊ミズチ」が話題の田中啓文氏とは、はじめてゆっくりしゃべったが、これまたジャズと上方落語に詳しく、しかもジャズはテナーの「実践派」である。相当な技量と見た。
 この田中氏といつも一緒に出没する、「屍の王」が評判の牧野修氏。夏の丸刈托鉢頭が、また元に戻っている。またも「永遠の新人作家」(これはチャレンジ精神旺盛という誉め言葉である)になるやいなや、話題が色々と多い人である。
 「ジャズ、落語の好きな関西在住のSF作家」が増加傾向というのは嬉しい限りである。昔なら朝までつき合うところだが、血圧考慮して12時前まで。

 off
 あとで聞くに、ご一統様、なんと朝4時まで。この若さがうらやましい。

2月7日(日)
 昨年、ソリトンのウチアゲの席で偶然知り合った多和田恭くん、卒論が完成したからと送ってくれた。「ファンタジー小説の誕生」。ファンタジーに関する研究と聞いていたが、これは……。
 卒論なので、こんなところでコメントしてはいかんのかな。紀要に掲載される可能性が高いらしいから、公式的にはその時に改めて紹介したい。
 ファンタジーのジャンルとしての成立を周辺分野の状況から論じているのだが、SFや幻想小説との対比で「指輪物語」が取り上げてあるのに対して、RPGやアニメに対比して「ロードス島戦記」が取り上げられている。水野良氏にぜひ読んでほしいものである。

2月8日(月)
 減塩生活1週間で血圧測定。
 166−80。下はいいが上は相変わらず危険。それにしても振幅が大きいなあ。
 血圧急騰が習慣化している月曜でこの値だから、マシと考えたほうがいいか。

2月9日(火)  サブで使用しているMS−DOS機は「今世紀いっぱい」でリタイア予定だが、唯一困るのがデータベース。主に「CARD3+」を使用してきたのだが、CARDのウィンドウズ版は使いづらい。
 ACCSESS97に移植しようと試みているが、これも面倒である。
 扱いたいデータは1000件程度。(住所録もそうだが、作品リストも、それに会社で頻繁に使用するのもその程度)……リレーショナルでなく、もっと小回りのきくのがいいのだが、適当なのがないなあ。
 老化で、マニュアルをたどるのが面倒なせいもある。
 どなたか、カード型データベースで、表計算ソフトとデータ互換のものをご存じでしたら教えてください、よろしく。LA1A-HR@asahi-net.or.jp。

2月10日(水)
 夕刊にホテルプラザが3月末で営業終了の記事。
 20年間、小松左京事務所があった関係でよく自転車で往復したものだが、小松事務所が箕面に移った6、7年前から、すっかり足が遠のいたからなあ。
 独演会のハシゴ……サンケイでの米朝独演会のあとプラザ1階の「マルコポーロ」で延々と小松さんの独演会があること……も、もうないと思うとちょっと寂しい。

2月11日(木)
 建国記念日で休み、久しぶりの雨で、気分は落ち着く。
 終日書斎。その割に仕事はできず。
 夜、テレビで「遊星からの物体X」途中まで見るが、やっぱり眠くなる。寝る。

2月12日(金)
 猫好きの方ならご存じのとおり、猫が両前足を内側にして座る姿勢を「香箱を組む」という。この語源は何なのだろう。前から気になっていた。
 一般に香箱は漆塗りの容器(工芸品)で、もうひとつ特殊な用語で、時計の部品の名前(第一歯車)の意味.いずれにしても、猫の座り方とは結びつかない。
 「週刊文春」で金沢の料理店のグラビアを見ていたら、「未熟卵を孕んだ雌のズワイガニ」を「香箱」というのだそうである。とすると、ひょっとしたら、猫の座る時の足の組み方が、カニの足に似ているからだろうか。メスはコウバクガニというから、コウバクが香箱に訛ったのか。漆塗りは石川県の名産だし。金沢には猫好きが多いのだろうか。金沢で聞いてみないとわからないなあ。
 調査を兼ねて、金沢へカニを食べに行きたくなる。
 それはそうと、「香箱を組む」の語源をご存じの方、いらっしゃれば教えてください。LA1A-HR@asahi-net.or.jp。

2月13日(土)
 雪がちらつく嫌な日である。世間休日なれどヤヤコシイ雑件があって朝から出社。
 静かにはずが、隣の部署、出社している者ども多く、騒がしいことである。
 夕方帰宅。……この時刻、東京では某「異形」パーティ開催中のはず。なんとか駆けつけたかったのだが、この時刻ではとうてい間に合わない。無念である。

2月14日(日)
 終日書斎で過ごす。その割に仕事が進まない。
 いい天気である。昼ごろ外を眺めてギョ。阪急電鉄の本社ビルに「大魔人」が心霊写真のように浮かんでいる。全席シルバーシート化などというつまらんことを始める天罰で、大魔人がビルをぶっ壊しに出現したのか……と期待したら、北側のピアスタワーの反射がそう見えただけのことであった。残念。
  off
 写真ではわかりにくいが、青みがかった不気味な影である。

2月15日(月)
 血圧を測る。
 168ー78。深呼吸して、158−78。
 下はまあ正常になったが、上は変動が大きく、「興奮したら180くらいにはなるだろう」とか。……自分の意志で興奮しているのではないのだがなあ。困ったことである。が、急騰恒例の月曜でこの値はまあよしとするか。
 もうすこしスーダラに徹すれば下がるであろう。


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