HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』67

●マッドサイエンティスト日記(1998年7月後半)

主な事件
 ・ソリトン7、8号が出た
 ・焼き肉屋の多和田さん
 ・「与太呂」にて
 ・公開講座「短編小説の面白さ」

1998年

7月16日(木)
 早朝のひかりで上京。業界の委員会。終了後、近くの関連会社にいる同僚と会う。
 午後8時過ぎ、田原町の「浅草HUB」へ。谷口英治5+仲曽根かおる(Vo)、このヴォーカル、若いのになんとも懐かしいスイングナンバーを歌う。

7月17日(金)
 早朝から新横浜付近アタフタ、急用が生じて、昼過ぎのひかりで大阪に帰社。

7月18日(土)
 昼前にソリトン8号がどどっと印刷所から到着。午後1時、児島さん、本渡さんが来宅。わが家の女中も含めて4人で、封筒のカット、ラベル貼り、スタンプ押し、封筒詰めの家内工業。午後4時前に終了。本渡さんとふたりで台車に載せてダンボール5箱、約70キロ。土曜で近所の郵便局が開いていないため、タクシーに積んで大阪中央郵便局へ。ここで「料金別納」スタンプを押して受付窓口へ。これで発送作業終了。
 夕方、塩田氏が合流、ぞろぞろと大阪駅へ移動して、「緊急事態」で出張の真殿剛さんの帰りを待ち受ける。スタッフ揃ったところで韓国焼き肉の店へ。久しぶりのウチアゲである。
 キムチとてっちゃんで盛大に煙を上げているところで、ビールを運んでくるハンサムな青年の胸に「多和田」という名札がついているのに真殿剛が注目、「多和田葉子さんと知り合いか」と質問。と、多和田青年、縁続きではないが作品は嫌いではない、と明晰な回答。多和田葉子の読者が焼き肉屋で対面というのもへんな状況だ。聞けば、泉鏡花以来の日本幻想小説を卒論に選んでいるバイト学生と判明。現在進行中の卒論の構想を約5分に要約してスラスラ、なんとサイバーパンクにまで言及したのには驚いた。これに対して真殿剛と堀が猛然と反論、ぼくは現代SFの状況論に関するコメントだが、真殿剛のは泉鏡花を日本の現代幻想小説の嚆矢とするかどうかのポイントだから、とうぜん再反論がある。延々20分以上。おいおい、こんなにサボってていいのか。さすがにバイト君の立場を心配して、後日機会があればということにする。ソリトンを進呈、「まあ、店の方には客にからまれていたことにでもして……」。と、横から児島さん曰く。「からまれていたんですよ」
 意外なところに意外な人物がいるものだ。

7月19日(日)
 朝、アサヒネットのソリトンの部屋の整備、アナウンスの書き換えなど。昼前、自転車で中央郵便局へ。ソリトンの発送漏れ分を送る。
 ちょっと虚脱状態で、午後、CDを聴いて過ごす。

7月20日(月)
 世間は「海の日」休日だが研究所スタッフとの打ち合わせのため出社、電話がない日に集中して進めるつもりだったのが、10年以上前にリタイアした重役の死亡記事が新聞に出たものだから、朝9時からやたら電話がかかる。ほとんどが金融関係で銀行、証券、保険の順。「財務部門での役職歴」に関する問い合わせ。不思議な、まさに「現金」な世界だ。冷房なしのフロアを走らされて汗ダラダラ。広いフロアにひとりだからたまらない。しばらく無視していたら、目の前の電話が鳴る。守衛室に問い合わせて、ここなら誰かいると教えられたというのである。……前にもこんなことがあったなと思ったら、阪神大震災の日だった。あれは冬だったし、重要度がまるで違う。新聞の死亡記事というのは困りものだ。連休にどうでもいい葬儀の通知を受けるのは、本当は迷惑なのではないか。現役にとってはもう忘れかけていたロートルの葬儀など「知らなかったので行けなかった」で済ませたいのが本音であろう。

7月21日(火)
 夕方、某タクマの重役・若村さんとかんべむさしで早めの暑気払い。堂島の天ぷら屋「与太呂」へ。若村さんの昔からの馴染みの店というが、経営者はかんべの先輩という。経営者夫人に若村さんが「この人は作家で……」と紹介。「あら、それでしたらかんべむさしさんとはお知り合いですか」若村「この人がかんべさんですよ」「あらまあ」と夫人、あわてて神戸の店にいる「先輩」ご主人に電話報告。「あのう、主人が、それでは堀さんという方もごいっしょではないかと申しておりますが……」若村「この人が堀さんです」……わしらも売ったものである。
 若村さん、デジカメを使用開始。130万画素の高級機。与太呂のおカミさん(などといっいはいけない、後ろの若奥様)と特に名を秘す美人秘書を挟んで撮影してくれたのが下の写真。秘書某嬢からメールで送って貰った。ぼくのQV−10と較べて桁違いの解像度だ。小さくしましたが……
      off

 天茶のあと、サントリー5へ。ストライドピアノの名手・藤森省二とコルネットの池田正信のデュオを聴く。「ジャズ・ミー・ブルース」のノリがいい。

7月22日(水)
 マジメにサラリーマン。

7月23日(木)
 マジメにサラリーマン。

7月24日(金)
 自民党総裁選、小渕が1回目で過半数。某銀行株価急落。世間の反応は正直であるが、梶山だと、金融株はもっと下がるのではないか。……あまりハードSF方面の思考ができないのが辛い。

7月25日(土)
 ソリトンに関するメールやFAXがちらほら。横田順彌氏からのFAX、なんだか例によって「落ち込み」の雰囲気である。なにか気になる。
 夕方、天満へ。天神祭で人出多し。船渡御と花火で最大の人出の時刻ではないか。
 エル大阪で、大阪シナリオ学校の公開講座「短編小説の面白さ」井上雅彦、高井信、本間祐のパネル。本間さんのコピーか「ポスト星新一の新しい波がやって来る」というのがいい。

   off
 3氏がそれぞれの短編ベスト10をあげてのスタート。高井信氏がSF中心でアイデア第一、本間氏がアイデア/イメージ/方法論による分類からの選択、井上氏はさすがアンソロジスト感覚というか「面白さの構造」による分類のようである。それぞれに面白いが、「冷たい方程式」に関しては色々いいたいことがある。30枚近くになりそうなので、別の機会に……たぶん「『宇宙法廷』ノート」の1章を割くことになるだろう。
 あと、例によって近所の居酒屋で懇親会。芦辺拓さんが来ていて、これは9月にぼくとふたりでやる企画の打ち合わせのためでもある。広く「エンターテインメント小説一般に話題が広がるように」という要請。が、しゃべっていたら、お互い小説作法の話が面白く、しかも資料集めの方法や整理の仕方など、きわめて具体的な話の方に興味があることがわかってくる。この際、本格推理とハードSFの定義から始めて「名探偵対マッドサイエンティスト、世紀の対決」にしようということになる。狭く深くやろうぜ、となったものの、大丈夫であろうか。芦辺さん、論客だからなあ。

7月26日(日)
 昼、井上雅彦さんと会う。昨夜宿泊のホテルがわが家から徒歩10分、自転車5分のところなので、せっかくだからと昨日の続き。阪急の17階のグリルへ登り、「ハリー博士の自動輪」のモデルとなった観覧車の見える席でランチ。井上さんとはいつも「怖がらせ方」の話が多い。……「怖いハードSFが書けないか」としゃべるが、井上さんは怖がらそうと意識しない方がいいという意見。確かに、以前、気負いすぎて失敗したことがある。昔の「宇宙恐怖物語」というのが、短編集として内容もいいが「タイトル」がずば抜けていて、誰もがこれを意識しすぎる傾向がある。難しいものである。
 夜、久しぶりにホームページ更新。

7月27日(月)
 雨である。まだ梅雨は明けていないらしい。

7月28日(火)
 「転居先不明」で戻ってくるソリトンがだいぶある。転勤と結婚がメインだが、ネット退会で連絡のとれない方も数名、ちょっと寂しい。1年ちょっとの間でこれだから、日本はかなりの「動民国家」だなと思う。アメリカほどではないか。

7月29日(水)
 ボンクラ息子が「夏の合宿」、その間、その息子の母親兼女中が里帰りで、久しぶりにひとりで過ごせる。
 夕方から、枝豆を茹で、ビールを飲みながら、ビデオで岡本喜八を3本観る。やはり関沢新一の脚本のが出来がいい。

7月30日(木)
 早朝からあわただしく東西移動、夕方帰阪、雑件処理して、そそくさと帰宅、またもビールを飲みながら、「ジャズの掟」最終回。終わってから、今度はビデオで第1回から再度観る。途中、録画だけで観ていなかったのが3回。……「モード」の解説の明晰さにあらためて感嘆する。理屈では理解していたつもりだが、こんなに簡単なことであったとは……。

7月31日(金)
 雑件色々……さあ、明日は休みである……と帰宅寸前、月曜までに明細書を書かねばの案件発生。わし、特許の明細書書くの、うんざりなのよね。あれやると、小説の文体がおかしくなってくるのよね。
 谷口英治さんが、ぼくの本のお礼にと「私家版」CDを送ってくださった。
 またもビールを飲みながら、クラリネット三昧。
 谷口英治さんが参加している「ザ・ダイナマイツ」という、グラマシー5リバイバルズとは別のポップ・グループ、これまたバイオリンがステファン・グラッペリを彷彿とさせるジプシー風で、クラリネットとのからみが素晴らしい。
 気分も実際の天気も、ともに梅雨明け。


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