『マッドサイエンティストの手帳』395
●マッドサイエンティスト日記(2007年2月後半)
主な事件
・創サポ講義(17日)
・滝川雅弘カルテット(20日)
・『バビロニア・ウェーブ』(創元SF文庫)発売(21日)
2月16日(金) 播州龍野の日常
早寝したら、またも午前3時に目が覚める。
朝まで指を布団から最小限に出して本を読む。
法月倫太郎『複雑な殺人芸術』『名探偵はなぜ時代から逃げられないのか』を拾い読み。
前者の「初期クイーン論」……クイーンを読んだのは中学時代で半世紀再読していないので焦るねえ。ホームズとかブラウン神父は再読してるけど。クイーンについては意外性だけが記憶にあって、犯人がわかってしまうと再読の必要なしという印象であった。
クイーンもいろいろと確認してみたくなる。
朝から色々と下男(おとこし)仕事。
タイムマシン関係も雑事あり。
世界的物流のD社(と相手国が指定してきた)で「現地配達」した場合の価格を調べると、重量物については「アメリカと中国は取り扱わない」という。
中国の場合、通関がめちゃくちゃなのはわかっているから空港止めがいいに決まっているが、アメリカがなぜなんだ? 911以降のテロ対策なんだろうか。
もっとややこしい国が多いのに、この二大国が……と、わけがわからん。
ま、それはともかく、そろそろ早寝するのである。
明日は「出所」である。
2月17日(土) 播州龍野→大阪/創サポ/口裂け女
朝から工事の音が大きい。
狭い道路を挟んだ隣接地、先月から基礎工事をやっていたところに、クレーン車が来て、見る見るうちに木造住宅の骨格を組み上げていく。
現場に来ていたI殖産の専務がいうのに、完成まではあと1ヶ月半かかるが、棟(全体の骨格に当たる)は今日中にやってしまうという。
工程表を見せてほしいところだが、小説作法に似ているような。
工事を窓から見物していたいところだが、本日「出所」。
昼間の電車で帰阪する。
夕刻、天満・エル大阪へ。
創作サポートセンターの講義の日である。
「SFの書き方」……建て売り住宅と同じで、まず基礎(資料の読み込みなど)をしっかりと作り、一気に骨格(プロット)を組み、あとは工事を見てないのでわからないが、壁や屋根(文章)を着実に進め、内装(推敲)を丁寧に行うということか……と、こんな内容を話したのではない。
「口裂け女」を例に、SFならどう作品化できるか、展開例を3パターンほど考えて作法を説明……。
べつに素材は「口裂け女」でなくてもよかったのだが。
この都市伝説については、当時(70年代終わり頃)、震源地といわれた愛知県にある工場(江南市)で泊まり込みで仕事していて、工場で耳にした記憶がある。その後、この噂は全国に広がり、「口裂け女の唇」おもちゃ(マスクみたいに大きな唇を耳にかける)まで売り出された。それが映画化されるという。さらに先日、冬樹蛉さんのあったらコワくないセレナーデの中の「裂けめが一周している口裂け女」にのけぞったものだから、これが教材になったのである。
ホラーでなくSFとしての展開例は……ま、公表できるレベルのものでなし。
帰館後、21時過ぎに久しぶりに自宅で晩酌。
専属料理人、おれが不在の間、インフルエンザで5日間ほど寝込んでいたそうで、マスクをしたまま、まだ咳をする。
怖くて「マスクをとってみろ」とはいい出せなかった。
2月18日(日) 穴蔵
日曜で、世間は休業、おれも休業とする。
終日穴蔵。
1度だけ、郵便ポスト往復のため外出。諸々のハガキ5枚、封書3通を投函する。
本日の歩行距離100メートル以下である。
田舎からもどった翌日はだいたいこのパターンだなあ。
明日は精力的に動こうと心に誓うのであった。
2月19日(月) 穴蔵
午前3時に目が覚めた。が、動くのが少し面倒なので1時間ほど雑読。
定刻午前4時に起きて始動。
専属料理人の風邪直りきらず、ゴミを出したり自分の食事を用意したり。
播州龍野とちがうのは、自分のことだけやっとればいいということか。
確定申告、2時間もかからず書類作成。
ささやかな還付金で、今年も森山威男ライブを聴きに行けそうである。
昼過ぎに税務署へ提出に行き、あと、自転車でハチへ行ってランチ。
帰路、「ジャズの専門店ミムラ」を覗く。来月に期待の新譜ありそうな。
ミムラの斜め向かいはまたも昼間から「満室」である。嗚呼。
ということで、近所の中本酒店でワインを買って帰館。
夜は病み上がりの専属料理人にタコの欧州某国風煮込み+パスタ、その他並べてもらってビール、ワイン。
そろそろ寝るのである。
……この間、色々本も読んでいるのだが、近日改めて。
2月20日(火) 穴蔵/滝川雅弘カルテット/はなび
穴蔵に籠もる。
専属料理人の風邪が治りきってないようなので、「自宅」へは近寄らず。
こんな時こそおれが食事などの世話をすべきなのだが、決して薄情にはあらず。近日また龍野行きなので、おれを経由して老母への伝染を心配、合意の上で距離を置いているのであった。
ま、食材さえ買っておけば何とかなるレベル。世話は買い物、ゴミ出しなど外出関係に限定するのであった。
昼飯は近所の「讃州」でカレーうどんランチ。……このカレーうどんは絶品である。新御堂筋を隔てて「名物○正」があるが、較べものにならない。
また夕刻まで穴蔵。
夜、久しぶりに谷九の「SUB」へ行く。
滝川雅弘カルテットのライブである。
ほぼ満員の盛況……といっても狭い店だからしれてるけど、熱気充満の雰囲気がいい。固定ファンが増えてきた印象である
ピアノは辻佳孝さんで、これは最近のレギュラー・カルテットとみていいかな。
「スクラップル・フロム・ジ・アップル」「ジターバグ・ワルツ」などお馴染みのナンバーから、リクエストによる「ボヘミア・アフター・ダーク」、最後の「ナウ・ザ・タイム」までを堪能。
考えてみたら、ライブは今年初めてであった。
まっすぐ帰る。
昼飯がヘビィで午後も動かなかったものだから、晩酌は22時半になる。
穴蔵から徒歩2分の凄まじき立ち呑み屋「はなび」に寄る。
この時間でもボンクラ・サラリーマン諸君、盛大にオダをあげている。
隅の方でビールケースに座って、おでんでビール、マグロのぶつ切りで熱燗、野菜もとらなきゃいかんので、トマト・スライスで湯割りを一杯。
ラウンド・ミッドナイトという時間になってしまった。
久しぶりの夜更かしである。
2月21日(水) 穴蔵/ハチ 終日穴蔵。
川内康範が森進一に「おふくろさん」を歌わせないというニュース? 勝手にバースをつけ加えたのがカチンときたらしい。バースを省略して歌うという例は多いが(「枯葉」とか「スターダスト」とか)、バースをくっつけるのが問題というのは珍しい事例かも。月光仮面が激高というのも愉快。長生きしてほしいものだ。
午後、雑事で外出ついでにハチに寄る。
ハチママ、ちょっと浮かぬ顔である。
今夜、東京でセシル・テイラーと山下洋輔さんのコンサート……ハチママ、1月に行くつもりだったのが、セシルが病気で延期、ハチママもインフルエンザで長期ダウン、本日は回復しているものの上京手順が整わず、ひとりで行って周囲に迷惑かけてもという遠慮である。もう手遅れだけど。
おれが案内するからといえればよかったのだが、おれも明日から田舎行き。ま、いいではないか、みんな色々な事情を抱えているのだから。昼の自棄酒とはならず。ハチママも風邪以来、禁ビールである。
帰路、旭屋。
文庫『バビロニア・ウェーブ』が並んでいる。
ぼちぼち売れてほしいところである。
2月22日(木) 大阪→播州龍野
早朝の電車で播州龍野へ移動。
下男(おとこし)仕事を色々。アホの今岡仕事と同じなどといわないように。志が違うのであるから。
老母は19時過ぎに就眠。
おれは、シャワーのあと、ちょっと水割り飲んでデフランコを30分ほど聴くが、そろそろ眠くなってきた。
そろそろ就眠。田舎の夜は早いなあ。
2月23日(金) 播州龍野の日常
終日下男(おとこし)仕事。
そろそろ就眠である。
『バビロニア・ウェーブ』(創元SF文庫)発売中です。
2月24日(土) 播州龍野の日常
相も変わらず下男仕事。
老母をI医院へ連れて行く。体調の関係で、ずれこんで今日になってしまった。
土曜日で殺人的な混雑。病人がひしめいているわけで、ちと怖いね。
SF好きのI先生に『バビロニア・ウェーブ』を献呈。
「おお、久しぶりですな。ほほう、これは凄そうな。テーマはどういう……あ、サインはしていただいてますかな……」
「センセ、忙しい時ですから、またあらためまして」
本日午前中のみの診察なのに、11時30分、まだ十人ほど患者が待っている。小説談義というわけにはいかず。
小学校同級のGOGOおばさんが感想をブログにアップしてくれている。
「ようわからんけどすごい」はおれにとっては最高の褒め言葉。
なにしろ17歳の時に書いた習作を小松左京さん(デビュー3月前!)が読んでくれて「よくわからんけど面白い」といってくださったのである。40年以上、おれは変わってないわけだ。
そういえば……漫画家コーシン(高信太郎)がチャンバラ・トリオのカシラ(南方英二師匠)に紹介してくれた時のこと。
コーシン「これがハードSFの堀晃さん、知ってるでしょ」
カシラ(一瞬怪訝な表情のあと、大きく頷いて)「おおっ、おお、おおう……」
しばらく飲んでいる間に、カシラ、コーシンに「ハードSFてなんです?」などと小声で訊いてはる。
しばらくして、カシラ、おれに、「えらいむつかしいことやってはるんですなあ」
おれは前からカシラのファンであったが、以後、大ファンになった。
運動不足である。
夕刻、揖保川沿いに30分ほど歩く。
堀家の白壁に夕日は映えるのであった。
畳堤が改修されて白っぽくなったのがいかんなあ……。
18時からABCテレビで「人生の楽園」というのを見る。
「鉄のアート」の土井康夫氏ご夫妻登場。正規の表記が「康夫」なのか「康生」なのかよくわからんのだが、龍野在住の「鉄の職人」、鉄製の行燈などを製作してはる。
なかなか風情のある作品で、同じ鉄でも、ゲージツ家のクマのよりランクは上ではないか。
2月25日(日) 播州龍野→大阪
連日早寝しているものだから、本日も午前3時過ぎに目が覚める。
珍しく寒い。
朝刊配達のバイク音(5:30)まで、マイク・モラスキー『戦後日本のジャズ文化』再読。
朝日が昇ってから下男仕事いろいろ。
午後の電車で帰阪。
姫路のジュンクドーで相倉久人『ジャズの歴史』(新潮新書)……新書のジャズ入門書なんて普通買わないが、相倉久人氏となるとただごとではない。
大阪までの車中にちょうどいいかなと思ってたら、これが色々と刺激的で、1/4も読めず。明日の楽しみとして残す。熟読ものである。
夜は専属料理人に色々並べてもらってビール、ワイン。
「引退」に関する気になるニュースがふたつ。
●金正日が後継者について実子による世襲を断念し、軍部中心の集団指導体制を導入する方針を決めた?
……これは信じがたい話だ。独裁者が命の保証もされぬ「集団」に権力を委譲するわけがない。正男に譲っても危ないというのに。ということは、軍による緩やかなクーデターが進行しているということか。むさしくんとの「SF検討会」を開催したいところだ。
●三遊亭円楽が引退を表明
……本日の「国立名人会」の出来がよくなかったらしい。こちらは妥当。『御乱心』にやっと決着ということか。圓丈の心中やいかに。
色々なドラマが進行している。
眠い。寝る。
2月26日(月) 穴蔵/負の博打
終日穴蔵……というわけにもいかず。
午後、専属料理人と梅田の高層ビルにある「賭場」へ行く。
見晴らしのいい場所にある「賭場」である。胴元は濡れ手で粟なのであろう。
観覧車が見下ろせる。
長年続けている「ギャンブル」の方式変更である。
色々説明を聞くが、気が重い話だ。何しろ、賭けられているのはおれの命。しかも自分の「不幸」に張るのだからなあ……。
ギャンブルに勝った場合、賭け金を手にするのはおれではないわけだし。
ということで、資料を貰っていったん帰館。ハゲタカに囲まれているような気分になる。
ヨドバシに寄る。家族が使っているME機があまりに遅いのでRAMボードを増設しようと思ったのだが、適合するのは128Mでも数万円するのではないかという。なるほど「ムーアの法則」は生きていて、この場合、過去に当てはめねばならぬわけだ。来年あたりにVista機にした方がましか。
夜、テレビ大阪の『カンブリア宮殿』という番組、さいとうたかを特集である。
ゴルゴの「シナリオ作家」は延べ45人という。ジャンルによって「覆面」の作家もいるらしく、『ゴルゴ学』に「作家」のリストがないのはそういう事情からか。
2月27日(火) 穴蔵/市立図書館
終日穴蔵……というわけにもいかず。
昼前に出て、歩いて梅田へ。上京のチケット手配。
西梅田から地下鉄で西長堀へ。
市立中央図書館で3冊借りる。
『J.B.S.ホールデン −この野人科学者の生と死−』『小説・落語協団騒動記』『よってたかって古今亭志ん朝』
地下鉄で日本橋へ。黒門で明日龍野へ持参の食材を購入。
あとはまっすぐ帰館。
夕方まで、少しは仕事もするのであった。
夜は……豪華メニューである。
湯豆腐、焼き茄子、蓮根の饅頭、マグロ刺身でビール、菊正宗。
丹波のきさらぎ漬でチビチビ。仕上げに五目寿司を少し。
借りてきた本を読む。
●R・クラーク『J.B.S.ホールデン −この野人科学者の生と死−』(平凡社/1972)
これは『情報時代の見えないヒーロー』関係で読みたくなった本である。
ホールデーン(訳書の表記は「ホールデン」)の評伝。ケンブリッジ時代にウィーナーと交流があったらしい。
うーん、評伝としての出来映えはいまひとつかな。
ホ−ルデーンが「SF」を書いたというのは、30代に書いた『ダエダルス』と『カリニクス』らしい。ともにやや過激な未来予想エッセイというところか。
『ダエダルス』は「試験管ベイビー」を予言したものらしく、これが10年後のオルダス・ハックスレー『素晴らしい新世界』のベースになったらしい。(ジュリアン・ハックスレーとは同業の生物学者で交流あり。)
三村良信さん指摘のとおり、ハックスレー『すばらしい新世界』に似ているどころか、パクリといってはいかんけど、世界設定はホールデーンが作ったものであろう。
ホールデーンのその後は、確かに「野人」そのままで波瀾万丈だが、SFとの関連はどうだったのか。
この評伝、ウィーナーはまったく出てこない。
SFがらみでは、ホイルの『暗黒星雲』を褒めているのがなんとも嬉しい。 さらにSF関係では色々な交流があったらしく、晩年、手術で尿道にカテーテルを入れたことについて、アーサー・C・クラークに「おい、わしゃサイボーグになったでぇ!」(堀の意訳)といった手紙を送っている。クラークと長年の交流があったのではないか。
はっきりいうと、R・クラークはがんばっているけど、評伝作家としては二流ではないか。
こちらが知りたいことにほとんど触れていない。隔靴掻痒甚だしい。
誰かが再挑戦してくれないかなあ。時代がもう遅いか。
『小説・落語協団騒動記』『よってたかって古今亭志ん朝』は明日の楽しみである。
2月28日(水) 大阪→播州龍野
早朝の電車で播州龍野へ移動。
タイムマシン関係で某国より文書届き本格始動。
YAMAHAの無人ヘリ問題もあって、タイムマシンの輸出は秘密裏に行わねばならぬ。豊田さんが『時間砲』なんてタイムマシンの武器転用ものを書いたものだから、なにかと面倒なことである……などと、本気にしないように、エシュロン君。
ということで、デスクワーク色々。
天気がいいので、本日は自転車で北2キロのコープへ買い物に行く。
帰路、、揖保川上流の堤防沿いに走る。
祇園橋上流は半世紀前とあまり変わらない。
2月末、風は少し冷たいが、雰囲気はもう春なのであった。
夕刻の地方ニュースで「いかなご漁」が始まったという。
「新子」とか「小女子」とか書く。兵庫県瀬戸内・春の風物詩である。
これを煮たのが「釘煮」で、春に店頭に出回る。
老母のいうのには、龍野へも昔は室津からいかなご売りがよく来たという。
この里にいかなご売りの来るからに
海辺は春になるにけらしも
老母がたぶん30代に作った短歌を口にする。
室津と龍野では微妙に季節がちがう。いかなご漁は「数日の季節感」にかかわってくる……らしいのである。
いかなご漁が報じられたのだから、数日後に龍野も本格的な春ということか。
ま、来週あたり、釘煮で「龍力」の熱燗一杯ということにしよう。
※拙著『バビロニア・ウェーブ』について、コメントやメール、ありがとうございます。
またHPやブログでの御高評(とべくまさんなど)ありがとうございます。こちらから出向くのも照れくさいので、ここでまとめてお礼申し上げます。
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