『マッドサイエンティストの手帳』254
●マッドサイエンティスト日記(2002年10月前半)
主な事件
・第3回小松左京賞授賞式(1日)
・KOBE JAZZ STREET 2002(12日)
・日野啓三氏逝去(14日)
2002年
10月1日(火)
早朝のNHKニュースを見ていたらオンデマンド出版の話題。
と、画面に文源庫発行の『遊歩人』が出てくる。……東京で時間があったら発行者の石井さんを訪ねてみようかと、午後上京したら、台風接近で大雨。台風21号、どうやら東京直撃らしい。「戦後最大級」のが速度を速めて接近しているという。
文源庫はあきらめて、丸ビルと、さらに大手町まで地下を歩いて、本日グランドオープンの東京サンケイビルを見学。オープン初日が台風とは波乱のスタートである。が、地下を歩いて移動できるのが「未来的」である。移動できる距離だけなら、梅田地下街よりも長いのではないか。今度調べてみよう。
夕刻から第3回小松左京賞授賞式。
帰宅は2日午前1時過ぎになる。
10月2日(水)
快晴である。「穴蔵」を夏から秋冬モードに変更。
終日穴蔵。
10月3日(木)
終日穴蔵。
同級生のM尾くんから電話。某大手企業の要職にある同級の某君と会ったら「一度集まりたいな」といったので、お前ダンドリしろという。
こういう場合、往々にしていい出した人間がたいてい「都合が悪い」と欠席なのである。「仕事で忙しい」という理由はその通りだろうし、むろん大義名分になるのだが、それならあまり軽々しく提案しないことだ。われわれの同級はだいたい技術系なんだから「そのうちメシでも」という政治家のマネはしない方がいい。と、余計なことを考えるが、まあ、久しぶりなので、日程のみ決めて、メールと郵便での案内を作成・投函。
10月4日(金)
「ネクタイをしめてする仕事」のために朝から出かける。
某社、ここ数日で株価額面割れ。またも業績下方修正したためらしい。どんな雰囲気なのか探りを入れてみると、「もう時間の問題」で、厭戦ムードが漂っているという。株式の掲示板に「**、即刻退任しろ」「ばかもん。事業計画は社会との契約だということを忘れている。単なる社内の計画ではないぞ」と極めてまっとうな正論。**、読んでるのか?
10月5日(土)
終日穴蔵……のつもりが集合住宅関係の雑務。面倒なことである。
電話回線の調査。どうも全体の配線構造がわからない。もうほとんど増設の余裕がないらしいが、この先、携帯の普及でそう電話回線が増えるとは思えない。問題はADSLと光ファイバーのどちらが主流になるかというあたりか。結局「先送り」にせざるを得ないだろうな。
筒井訳『筒井版 悪魔の辞典』(講談社)と『米朝コレクション2』(ちくま文庫)を並べて拾い読みする。
この組み合わせ、すごいね。
この『米朝コレクション2』、SF的な作品を集めた<奇想天外篇>で、僭越ながら小生が解説を書かせでいただいております。
自作の宣伝は照れくさいのだが、米朝師匠の作品となれば、もう絶賛してお薦めいたします。
なにしろ巻頭に「地獄八景亡者戯」、これだけでSF長編3巻の値打ちあり。なぜ3巻かは解説を。……解説では触れなかったが(何しろ7枚ですからねえ、「地獄」だけでも、その気で書き出したら3,40枚になりますよ)、筒井さんの『虚航船団』の構成は「地獄八景」がヒントになったのだろうかと、妙なことまで考えてしまった。
その他「天狗裁き」「こぶ弁慶」から「犬の目」まで全9篇。悪役ランプこと中野晴行氏渾身の「企画・編集」である。
ぜひともよろしく。
本日から3日間、北海道では根室→札幌→室蘭と森山威男4ツアーである。一度は行ってみたいが、ネットで行程を調べるとアメリカ・ツアーよりも遙かに高くなる。嗚呼……。
専属料理人とふたりで夕食。
気がつけば本日、専属料理人の**歳の誕生日である。本人も嬉しくないらしく、枝豆、和風ハンバーグ、高野豆腐にサラダというつまらんメニューである。これでビールと焼酎湯割り。
10月6日(日)
近所の「カーテンの大手」が事務所と倉庫を南港方面に移転するというので「最後のバーゲン」。穴蔵用に「遮光でない」カーテン、500円*2枚を買ってくる。東向きの部屋、午前中の直射が問題で、夏は遮光カーテン、それ以外は普通のと、掛け替えが安上がりな方法のようだ。
北海道へいけないので、夜、「セッション505」で猪俣猛4+1を聴く。テナーがいいなと思ったら右近ちゃん(右近茂)である。クラリネットの曲もあり、これはなかなか。ベースが加藤真一。ナマで聴いたことはないが、上山高史さんが「2ベースだけ」をバックに歌った時のひとりだ。活躍しているのだ。……森山追っかけで北海道へ行けなかったご褒美か。
10月7日(月)
午前中「ネクタイしての」仕事。
午後は穴蔵。
10月8日(火)
終日穴蔵……のはずが、またも集合住宅の雑件。電話の配電盤を本格的に調査するが、どうもわからんことが多いなあ。
夕方、小柴昌俊・東大名誉教授にノーベル物理学賞のニュース。「ニュートリノ検出への貢献」……まあ妥当というかやっとというか。戸塚洋二教授と同時受賞かと思ったがなあ。……年功序列で、10年ほどしたらニュートリノの質量検出ということで受賞になるのだろうか。
10月9日(水)
朝刊確認、ノーベル物理学賞の記事を精読するに、どうも戸塚教授も同時受賞で予定稿を作っていた気配濃厚だなあ。ニュートリノ騒動、野本陽代『超新星爆発』に詳しかったはずで、調べようと思ったら本棚に見あたらない。実家書庫かなあ。……関係ないことだが、著者のご主人・野本憲一先生はテナーの中村誠一と中学同級生で「音楽以外の成績はすべてかなわなかった」とか。
明日実家へ帰るつもりで電話したら、老母、朝から目眩、船酔いみたいな感じで、何も食べずに寝ているという。困ったね。夜につまらん用事があるので、専属料理人に行ってもらうことにする。
つまらん用事とは集合住宅の理事会。その理事会の資料を準備をしていたら、夕方のニュースで、島津製作所の43歳の平社員?田中耕一氏に「ノーベル化学賞」というニュース。これ、快挙であるなあ。
ニュースの詳報を見たいが、理事会。「ペットに関する苦情」が急増していて、堂々巡りの議論ダラダラ。田中耕一氏にこんな理事長なんて「役職」は務まるまいな。
10月10日(木)
朝刊確認。田中耕一氏の受賞、これはやはり希にみる快挙である。
某紙は島津製作所を「中堅企業」と書いているが、そんなことはない。大手企業であり、計測器メーカーとしては世界のトップメーカーである。何よりも経営者が立派なのだ。なにしろおれが30年近く続けてきた仕事の分野から、25年前にさっさと撤退して、医療機器やバイオ分野にシフトしている。……おかげでおれは新規参入も過剰な競争もない隙間分野で細々とやってこられたともいえるのだが。
島津の経営者は市場を読むと同時に、技術者に快適な環境を用意した。ノーベル賞はこのような経営姿勢が生んだ「副賞」でもあるのだろう。ともかく「**、即刻退任しろ」「ばかもん。事業計画は社会との契約だということを忘れている。単なる社内の計画ではないぞ」と反論しようのない正論を突きつけられても椅子にしがみついている某社の経営者とはえらいちがいだ。
午前中、集中的に仕事。
昼前に出て、播州龍野の実家に向かう。
車中、「文芸春秋」の北朝鮮特集を読む。短時間でよくこんな特集が組めたものと感心する。関川夏央の論考が光る。
夕刻に母の世話、専属料理人と交替。老母は単なる過労…というか、美容院で長時間、無理な姿勢を強要されたため……らしい。80を過ぎても美容院へ行くところが、考えようによっては安心である。
実家泊。もう寒いなあ。
10月11日(金)
母、元気回復。
午後、近くのタイムマシン格納庫から東南アジアの某国へ輸送するタイムマシンを相棒とクルマで梱包屋へ搬入する。
梱包屋の立地、大阪・港区。三十間堀川近く、運河に面した一帯の殺伐とした雰囲気がたまらなくいい。廃墟寸前の風情である。
夕刻、穴蔵に帰館。
10月12日(土)
昨夜から集中して読んでいた、大阪シナリオ学校の「ショートショート大賞」候補作、迷ったあげく、一応結論を出して、結果のみ事務局にメール。
昼前に穴蔵から出て、神戸へ。
神戸ジャズ・ストリート第1日である。
10月13日(日)
終日穴蔵。
ショートショートの候補作再読、結論に間違いなし。選評を書く。
今回の題目は『風』だった。1篇、赤茶けた荒野の中にドーム都市がある設定、その中にのみ植生が残っていて風が吹くという。オリバーの「吹きわたる風」の反対の設定を意識したのかなと何度か読み返すが、やはり違うようだ。惜しい設定だ。ショートショートには不向きでもある。これが唯一の本格SFであったが受賞にはいたらず。
夕刻、かんべむさし氏、来穴蔵。「紫頭巾」という名の枝豆を茹でてビール。
「おもろい話がありまっせ」というので懇願して来穴蔵いただいたのだが、確かにおもろい。オープンに出来ないおもろさというところが辛いね。ははは。ビールと枝豆、正確には「秋味」と「紫頭巾」でこれが聞けるなら安いものである。またご来演を。
10月14日(月)
金沢にいる妹から電話。母に電話するがつながらないという。電話局に問い合わせるが、受話器が外れているでもなく、どうも電話機自体のトラブルらしい。
何度かかけるとやっとつながる。……電話局との交渉となると行かねばなるまいが、雑事が残っており、本日も祭日だから、明日行くことにして、終日穴蔵。
夜中に電話。専属料理人から。23時頃、自宅に川上弘美さんから電話があり、日野啓三さんが亡くなられたという連絡。うーん。ここ数年、ずっと闘病生活ともいえる方だったからなあ。
お目にかかったのは一度だけ。1996年8月22日、川上弘美さんの芥川賞授賞式のあとである。もう7年以上になるのか……。後日「火星の青い花」の入っている『聖岩』を送っていただいた。川上さんはそういったことを覚えていて連絡してくださったのであろう。
夜中から『抱擁』を再読。やっぱりすごい作品だ。……ぼくは『夢の島』以来の愛読者ですといったのだが、「此岸の家」も「あの夕日」も読んでいる。『抱擁』で描かれているのは樹木に覆われた屋敷である。……その後、「夢の島」の人工島、そして、砂丘、月面、火星と、舞台が都市や異郷の「乾いた世界」に移っていく。このあたりから「本格的な愛読者」になったのである。描かれた世界の雰囲気は体調と関連しているのだろうか。確かに『光』で描かれた病室の宇宙飛行士は作者に重なっていると読める。病魔と闘いながらも凄い力を絞り出されていたのだなと、改めて感嘆する。
初期の作品も読み返してみようと思う。
10月15日(火)
早朝の電車で播州龍野の実家へ移動。
電話機チェックするが、先日の異状は再現されず。何しに来たことやら。
母の用事で、買い物など。……老舗の和菓子店へ羊羹と饅頭を買いに行く。龍野市の旧市街地の商店街、寂れていて、2/3以上が閉店している感じ。
おおっ、和菓子屋まはす向かいにある「質屋」もとっくに閉店している。
この質屋は『人気男』という屋号で、「ヒミツをまもる/人気男」という看板だけが残っている。むかし、かんべむさしが遊びに来た時、この看板を見て、そのネーミングを絶賛したものである。
「人気男」の人気凋落。
まあ、大手銀行ですら危機がいわれる時代、しかもデフレとなれば、質屋はもう存在意義がないのだろうな。
夕刻帰阪。
夜、谷町九丁目の「SUB」へ
滝川雅弘月例ライブ。メンバーはほとんど常連5,6人。ドラム練習中のツルマキ青年、店を手伝っているらしい。2曲叩く。
本日は「身内ばかりだから」とリクエスト優先。秋の曲をとリクエストしたら「アーリー・オータム」を演ってくれた。ウディ・ハーマンのヒット曲。これはいいなあ。
滝川さん、先日の「エイジモデル」、修理に出したらつなぎ目部分を削られてしまって……実質「壊されて」しまったという。本日吹いているのは以前から使用していたクラ。新品を「賠償」してくれたというが、「Eijiサイン」はなし。まだ「養生中」で、新楽器を一挙に吹くと「割れる」おそれがあるのだという。
新CDの企画があるらしい。早く新クラに馴染んでほしいものである。
夕方、大阪には激しい雷雨。そのせいか、風が涼しい。「アーリー・オータム」はもう終わりである。
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