HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』226

●マッドサイエンティスト日記(2002年1月後半)


主な事件
 ・長嶋有氏、芥川賞受賞(16日)
 ・田中啓文氏のテナーを初めて聴く(20日)
 ・ルン吉くんと再会!(23日)
 ・あとは「穴蔵」の日々

2002年

1月16日(水)
 どんよりと曇っているが暖かいので、どういう訳か「穴蔵」の大掃除をする。
 専属料理人が掃除人もやってくれりゃいいのに。要するにわしがほしいのは女中である。が、仕事中に掃除などされるのは嫌だから、日頃掃除の申し出を拒否するツケがこんな日に回ってくる。
 夕刻……正確には19時30分頃、ビールを飲んでいたらNHKのニュースで長嶋有氏『猛スピードで母は』の芥川賞受賞を伝える。この時刻に決定だから、ごくストレートな受賞なのであろう。
 『猫袋小路』を読んでから8年くらいかな。
 前回の『サイドカーに犬』も惜しかったけど、2回目のノミネートで受賞は、川上弘美さんと同じ。たいしたものだ。『恒信風』恐るべし。ここでは長嶋肩甲さんである。
 これで芥川賞2人、推理作家協会賞(菅さん)にSF大賞(北野さん)……わしも俳句をやるべきだったか。
 前にも詠んだなあ。「友は皆はるかな高み恒信風」

1月17日(木)
 阪神大震災から7年ということで、早朝の6時前から「7回忌」ニュースが多い。
 終日「穴蔵」に籠もる。
 申し込んでいたCD、藤家虹二『We Love Clarinet Vol.3』が届いたので、これを聴きつつ少し仕事。

1月18日(金)
 1月は葬儀の多い月らしい。専属料理人が朝から学友関係で上京してしまう。炊事の合間に少し仕事。

1月19日(土)
 調べたいことが発生して中央図書館まで自転車。
 ついでに、かんべむさし氏の仕事場に寄って2時間ほど雑談。
 帰路、紀伊国屋でスイングジャーナル2月号を買って帰る。森山さんの南里文雄賞と「しーそー」の日本ジャズ賞受賞発表。……この号は評論家各氏の投票が全部掲載されるので「評論家のランク付けにいい」と昔からいわれているのであるが、もうそんなに克明に各氏の票をチェックする根気がないなあ。
 ともかく南里文雄賞はこれが正式発表である。
 すでに受賞パーティはあったらしい。
 こちらも祝杯をあげたい気分だが、専属料理人はおらず、ボンクラ息子ふたりともバイトで不在。コンビニで弁当その他を買ってきて、「しーそー」を聴きながら、ひとりわびしくビールを飲むのであった。

1月20日(日)
 午後、珍しくも心斎橋のアメリカ村へ。ここににある「BIGCAT」というホールでCASBA20周年記念ライブ「ビッグバントスーパーバトル」というのがあると、これは田中啓文氏からの案内である。
 CASBAというのはミナミにある貸スタジオらしい。
 出演は4バンド。
 GLOBAL JAZZ ORCHESTRA
 MOD-CONCEPT JAZZ ORCHESTRA
 UNITED JAZZ ORCHESTRA
 ATOMIC JAZZ ORCHESTRA
 (出演順)
 順番に、「ラテン風」「泉州から来たというオーソドックスなフルバンド・ヴォーカル付(このバンドだけが、きちんとスーツ着用である)」「臨時編成的?モダングループ」「ベイシー専門バンド」とでもいうか。
 田中啓文氏の出演はUNITEDの2ndテナーで、「アフリカ・ブラス」や「3ビューズ・オブ・ミステリー」「チキン」など快演。といってもアフリカ・ブラス以外は知らない曲だけど。田中氏のソロパートは少なかったが、バリバリッモケモケモケッモケーーッとファラオ風に吹いて、全体にテナーの上手いメンバーの多いこの日の中でも異彩を放っていた。……アフリカ・ブラスを吹いたテナーもなかなかうまく、感覚的にはUNITEDがいちばんモダンで、服装がいちばんだらしない(写真撮影厳禁だったので、残念ながら記録なし)。聴いていて、あ、月曜のニューヨークがこんな感じだったと思い出した。といっても10年以上前だけど。
 GLOBALとATOMICはブラスなどメンバーが重なっていて、これは日頃相当練習を積んでいる気配。そのサウンド、なかなかの迫力。……しかしビッグバンド4つはさすがに聴き疲れるなあ。
 全体にテナーサックスに上手い人が多い。ジャズに関して、田中啓文氏の実力は(難波弘之を別格にして)SF作家の中ではトップではないか。
 ……ロビーで田中氏と会う。牧野修、北野勇作、小林泰三氏らも来ていたらしく、UNITEDが終わったところでメシを食いに行ってしまったらしい。この連中、ジャズわかっとるのかいな。
 ついでにHMNに寄るが目当てのCDはここにもない。ミナミのタワーレコードの位置がよくわからん。
 まっすぐ帰宅すると、ボンクラ息子その2が珍しくも「調理中」である。
 野菜を大量に刻んでザルに盛り、豚肉解凍中。これを炒めるらしい。細かく刻んだ大根サラダにキュウリ添えまで作って冷蔵庫に入れてある。これに湯豆腐を加えて、ビール、焼酎。……片づけ終わったところで専属料理人が帰宅。桜エビとか黒ハンペンがあるが、これは明日用である。

1月21日(月)
 雨である。終日「穴蔵」。

1月22日(火)
 寒い。終日「穴蔵」。
 某国からまたもタイムマシンの製作依頼。
 寒い時期に寒い秘密工場に籠もらねばならぬか。

1月23日(水)
 終日「穴蔵」……のつもりが、午後、タイムマシンのために自転車で出かける。空間の移動は不便である。
 帰路、15時過ぎ、堂山町の交差点を北へ渡ったところに、なんとルン吉くんが立っている! 相変わらずのピンクの防寒服のまま。……思わず、どないしとったんやと声をかけそうになる。昨年の12月3日以来で、なんと50日ぶりである。元気にしていたのだ、心配かけやがって。もっと暖かい塒を見つけたのだろうか。まあこの界隈にいてくれただけで、よかったよかった。
 off
 斜陽に立つルン吉くん。超然としている。
 小説宝石2月号、平谷美樹「汚レ地」を読む。正統派ホラーだが、140枚を80枚に削ったとか、なんという筆の進み具合だ。50枚頼んだら80枚になるといわれた小松左京の正統的後継者か。
 雪印食品の輸入牛肉入れ替え発覚。このニュースばかり。

1月24日(木)
 終日「穴蔵」。
 午後、軍事関係の記事を書いているKくん、帰阪しているので会いたいといってくる。近くのホテル1階の喫茶室で……と徒歩5分のホテルまで行ったら、いつの間にか「スターバックス」に変わっていた。雑談1時間、ただ戦記・軍事関係のことは、わしにはよくわからん。

1月25日(金)
 早朝の電車で播州龍野の「別荘」に移動。
 某国のタイムマシンのための秘密の作業である。
 寒い寒い。キンタマ萎縮したまま。
 夜、帰阪。
 昼間、専属料理人がハチママと梅田でばったり会ったという。今夜ライブをやるから来てくれという伝言。が、キンタマを風呂で解凍するのが先決で、ライブに行く元気なし。
 ここんとこ体力低下か。

1月26日(土)
 通販で申し込んでいた「防寒下着」が届いたので着用してみる。……ウズベク行きのためである。
 いやあ、たいしたもの。ヒマラヤでなく、「エベレスト登山隊」着用とかいうのだが、上半身は、この上にシャッ一枚。それにフリースをはおっているだけで、エアコンつけずに仕事。室温16〜17℃くらいでそう寒くはないけど。この格好で近所に外出したが平気。足のかかとあたり(ふつうの靴下の部分)と手(手袋なし)が寒いくらい。感じとしては、厚手のセーター1枚がいらなくなるってところか。だから、体は楽。
 外出してみたくなり、自転車で梅田界隈を走る。
 快適であるが……専属料理人のいうには、ラクダの上下と、それほど変わらないのではないか? さすがにラクダのパッチなんて穿いたことないから、較べようがない。ただ、「日本某販」は宣伝力で、市販のより高く売りつけるという説もあり、まあ確かに高額だからなあ。平谷美樹氏からのメールでは、登山用品などの店で、登山用下着を買えば、もっと安いはずという。着替えもいるから、そちらでも1セット買ってみるか。
 ただ、ふだん大阪でこれに慣れてしまったら、ウズベクへ行ったらどうなるんじゃい。
 寝るときに困る。防寒下着のまま寝るわけにはいかないし(ちょっと拘束感があるし、これで布団だとキンタマ蒸れそう。テントの中じゃないんだものなあ。)、パジャマに着替えると、急に寒くなる。甲羅を外されたカメか。
 夜、氷雨。……関東は大雪になるらしい。よし、明日は本格的に「防寒下着」の屋外テストである。

1月27日(日)
 「防寒下着」の宣伝写真はエベレスト?斜面に下着姿で立っているやつである。
 これが本当かどうか、屋外でテストしてみようと、下着で出かけようとしたら、専属料理人が泣いて止める。
 まあ覆面を取った月光仮面みたいな格好だからなあ。モッコリは北野勇作の足下にも及ばないし。
 雨なら大阪国際女子マラソン見物を兼ねて外出と思っていたが、昼前から晴れてきたので面白くなくなり、野外テストは中止。終日「穴蔵」。

1月28日(月)
 午前中、市内ウロウロ。
 午後「穴蔵」。
 ウズベク関係を調べたら、タシュケントはシルクロード観光の要衝で、そう心配するほどのことはないようである。
 金は米ドル、会話はロシア語というのが時代を感じさせるなあ。
 夕方から東京で「モリミノル(小松左京)マンガ全集出版記念」のパーティがある日である。
 午後に上京は可能だが、明日が朝から大阪にいなければならず、最終での帰阪による疲労を考えると、ちと辛い。
 寂しくビール、焼酎湯割り。「小松左京マガジン5号」を読む。

1月29日(火)
 朝から自転車で上町台地方面。あと某取引銀行へ。お役所関係がからむと色々と手続が煩瑣である。昼前に市立中央図書館へ。3時間ほど雑読。
 15時頃、かんべ氏の仕事場により雑談。
 大橋巨泉が議員辞任? それほどのニュースかよ。
 サウスサイドのライブの日だが、どうも出歩く元気がない。足腰が衰えているのだろうか。

1月30日(水)
 朝4時、朝刊一面、深夜に田中真紀子と野上事務次官を更迭、アホの坂田(※)じゃなかった宗男は議会運営委員長を辞任ということで決着?らしい。外務省は大喜びだろう。外交機密費問題はこれでウヤムヤ、また羽根をのばせるわけだからなあ。
 巨泉の辞職は扱い小さく、パンダと円生みたいなものか。いや、巨泉と円生では格が二桁ほど違うけど。
 朝からテレビのニュースサーフィン。巨泉報道がカケラもないのが面白い。
 終日「穴蔵」。
 ※鈴木宗男をアホの坂田に譬えるのは坂田利夫氏に対して失礼であるという喜多哲士氏の意見があり、これは卓見である。
 1972、3年頃、ハチでの山下洋輔トリオの月例ライブ。この頃はS某くんが司会を務めていた。中村誠一から替わって間もない頃のメンバー紹介で、「アルトサックス、坂田利夫!」とやって、会場に失笑、いった本人はちゃんと「坂田明」といったつもりだったらしく、一瞬何がおかしいのかわからなかったようだ。……坂田氏憮然。名前を間違えたのだからまあ当然だが……しかし、やっぱり間違えた対象もまずかったんじゃないかなあ。坂田三吉と間違えたらどうだったか……。

1月31日(木)
 終日「穴蔵」。
 閉じこもっているわりに雑件が片づかないなあ。


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