『マッドサイエンティストの手帳』725

●マッドサイエンティスト日記(2020年3月前半)


主な事件
 ・(新型コロナウイルスにより)穴蔵の日々


3月1日(日) 穴蔵/久しぶりに散歩
 3月になった。
 5日間穴蔵にこもっていると、さすがに運動不足である。
 午後、晴れてきたので、人気のない淀川堤を1時間ほど散歩。
 月末まで何かの工事で立入禁止だったのが解除された。
 お、セブリ(とは言わないほうがいいか、ホームレスのホーム)が消えた。残骸もなし。いずこへ?
  *
 ちなみに1年前はこうであった。
 トーラスも消え、水管が30メートルほど残っているだけである。争いもなかったような。猫2匹が気になる。
 4,000歩ほどあるいた。
 夕刻のニュース。
 大相撲無観客場所が大阪で実現することになった。ガチンコでやれよ。ともかくモンゴルの2個を引退に追い込むことだ。オリンピックは中止だろうから、横綱がいようがいまいが、あまり関係ないのだが。

3月2日(月) 穴蔵
 晴れて穏やかな日である。
 終日穴蔵にいるから、外の気温は実感できず。
 一応机(PC)に向かって過ごす。
 世間は新型コロナでたいへんな様相だが、恐怖がわが身辺にもじわじわ及んでくる。
 大阪のライブハウスが感染源とか、兵庫県(西宮)で初の感染者とか、それも不気味だが……
 いちばん恐ろしいのはWHOである。
 テレビのニュース(昼や夕食時など家庭の習慣で見ないわけにはいかない)でWHOが出てくるたびに、テドロスとやらが出てくる。こいつ顔も不気味だが、その背後に必ず映されるWHOのマークを見て、ギャーーーッと叫びそうになる。
 なぜS字型がからみついているのよ。
 ともかくWHOと聞こえるとテレビ画面は見ないようにしている(同じ理由により、おれはアルファロメオが大嫌いである)。
 早くWHOの出番がなくなってほしいものである。
 びくびくしてたら、たちまち夕刻。
 一杯飲んで早寝……のつもりだったが、21時からBSで健さんのロードムービーがあるな。
 これを観て寝ることにするか。※

 ※ 健さんの最後の作品『あなたへ』……佳作である。初めて観た。富山から長崎まで移動するが、大阪、朝来、山陽道、関門海峡など、見知った場所が次々出てくるのもいい(新御堂ではウチのすぐそばが映った)。惜しむらくは健さんが20歳ほど老けすぎで、これだけは致し方なし。
 これを観てたので、『100分 de 名著』(クラーク篇)を見逃した。再放送があるからいいか。(2020.3.3)

3月3日(火) 穴蔵/ウロウロ
 晴れて穏やかな日である。
 運動不足なので外出。梅田の某金融機関へ行く。
 窓口業務は混んでいてヤバイのではと警戒していたが、豪華ロビーみたいになっていて、人は少なくホッ。
 各窓口は個別のパーティションで仕切られていて、感染の心配もなし。
 他の金融機関も同様なのであろうか。
 龍野支店での業務が梅田でもできることが判明、播州龍野行きは当分必要なくなった。
 今月も穴蔵にこもって、少しは仕事もすることにしよう。
 外出ついでに書店回り。
 阪急梅田の茶屋町改札前のBOOK-1stが閉店している。小さいが便利な店であったが。
 ジュンクドーに寄り、中崎町界隈をうろうろして帰館。人はまばらである。
 たちまち夕刻。
 寿司屋へ行きたいが、周辺からの唾液のトッピングが嫌だなと思っていたら、夜、専属料理人が穴子寿司、蛤の吸物風湯豆腐などを並べてくれた。
  *
 これで吉乃川一献。うまっ。
 早寝するのである。

3月4日(水) 穴蔵/『100分 de 名著』
 定刻午前4時に目覚める。
 5時30分からNHK『100分 de 名著』(クラーク)の再放送を見る。第1回は「太陽系最後の日」で、瀬名秀明さんが登場。
 テレビで25分だと話が浅くなるのはしかたないな。
 わがクラーク体験は、『宇宙島へ行く』(石泉社)と『火星の砂』(室町書房)を読んでいたが、同じシリーズではウォルハイム『土星の環の秘密』とアシモフ『遊星フロリナの悲劇』の方が面白く(中学時代である)、SFマガジン創刊号で「太陽系最後の日」に圧倒的な感動を受けて、それ以来、クラークがいちばん好きなSF作家になった。
 その割に細部を覚えてないなあ。ラストの場面が凄かったが、無人電車は記憶になく、おびただしい数の時計が並んでいる場面が印象に残っている。
 再読したいが手元にない(龍野書斎)。
 10時頃から小雨が降りだし、終日降りつづく。
 穴蔵で過ごすには、落ち着いていい。
 午後、専属料理人が買い物に出たので、ついでに『100分 de 名著』NHKテキストを買ってきてもらった。
 こちらはよくまとまっている……というより、瀬名さんは、作品分析だけでなく、クラークのデビューまでの事情、影響を受け人と作品、その「功罪」まで論じていて、これは「太陽系最後の日」に関して今までに書かれた、もっとも詳しい論考であろう。
 まだ3作ある。テレビよりテキストだな。

ハードSF研公報
 このところ読んだ本のことを書いていない。
 視力が落ちて読書量が減ってきたが、そこそこ読んではいるのである。
 気分一新、本のことも書くことにしよう。
 このところファンジン、ファン出版が盛んで充実している。
 なんといってもオロモルフ博士・石原藤夫さん編集発行のHSFL公報が凄い。
 先日VOL.181が発行された。表紙に「世界記録更新中」とある。
  *
 個人編集のSFファンジンの累計ページ数の世界記録で、これは同誌に連載中の森田裕氏の研究による。
 英語圏と日本語に限ってというが、2位(と思われる)「宇宙塵」の15,590ページを引き離して断然トップ。Vol.176までで19,864ページだから、今は20,000ページを超えている。
 発行ペースも驚異的である。もともと年4回の発行だったのが、昨年(2019年)はなんと24冊!出ている。これも記録ではないか。
 量的にも凄いが、内容はさらに充実。通常号と復刻号がほぼ交互のペースで、復刻は、主に昭和の科学誌・技術誌に書かれた理系作家(春日迪彦、三苗千秋、志摩達夫、上田光雄など。わが実兄・堀龍之も入っている)の復刻で、これらも貴重な記録である。通常号には森田裕氏の連載、島本光昭氏の独創的なSF史研究、それにファンジン研究、ファンダム研究、福江純博士のSF天文学が載ったり、ともかく多彩だが、半分以上は石原博士が書かれている。
 今号でも幻の作家・深山百合太郎が取り上げられている。
 超人的な活動といわざるをえない。
 小生も(刊行ペースに追いつけず、断続的だが)連載中。「できそこない博物館」の堀版みたいなものです。

赤き酒場
 上記、森田裕氏の研究では、最多号数ファンジンは「Fantasy Amateur」(1938年創刊)や「The National Fantasy Fan」の機関誌が今も続いているらしく、これは組織がある限り続くらしい。個人誌では「Science Fiction Times」の465号という。
 日本では半客会の「赤き酒場」が、現在506号で日本一である。加戸利一さんが編集発行人だから、これも世界記録ではないか。
  *
 本誌の最大の特長は「手書き」であることだろう。後ろのページにはワープロ原稿も増えたが、ずいぶん長い間、手書きが続いたと思う。
 メインは半村師匠の情報だが、いまだに途切れないところも凄い。
 最近では竹上昭氏の連載「忘れ草」が圧倒的な面白さである。
 ファン時代のこと、荒俣氏との交流、クトゥルーの発音について、早川時代のこと、半文居時代のエピソードなど、ともかく感心し呆れ抱腹絶倒しつつSF史の未知の断面を見る面白さ。まだまだネタは尽きそうにない。
 じつは小生のHSFL公報の連載も「忘れ草」に刺激されてはじめたのである。

3月5日(木) 穴蔵
 晴時々曇一時雨……ややこして天気である。
 気分も天気に連動して不調である。
 終日穴蔵。
 痴呆状態で過ごす。

3月6日(金) 穴蔵
 晴れて穏やかな日である。
 天気に関係なく、本日も不調。
 終日穴蔵。
 本当に痴呆症に陥ったらしい。
 SF友から平成紅梅亭「桂米朝五年祭」(3月4日未明放映)のDVDが(個人的なご好意でごく個人的な利用のために)届く。
 「はてなの茶碗」が絶品である。米團治「地獄八景」も大健闘。座談は(○関係の予告があったが)期待したほどではなし。
 元気が出てくるなあ。
 明日こそホリは(穴蔵で)羽ばたく……つもり。

3月7日(土) 穴蔵
 穴蔵で羽ばたくつもりが失速。
 コタツに潜ってボケーーーーーーッと過ごす。
 運動不足なのであろう。穴蔵にいても、体を動かすのが面倒になってきた。
 播州龍野の書斎へ行きたいが、お上のいいつけを守って、15日まで(2週間)は穴蔵のつもり。
 図書館へ行きたいが、地下鉄に乗るのも気が重い。
 しかも……「2週間」経っても、どうせまたつぎの「2週間」なんだろうし。「山場」は続くよいつまでも。
 色々調べたいが身動きとれず、作業がここ数日ストップしたままである。
 米朝師匠のDVDを見、JAZZを聴いて過ごす。これもまたいい。
 たちまち夕刻。
 夜は専属料理人が、グラタン、レンコンや肉の炒めたん、翁豆腐、キズシ、サラダなど、和洋ごちゃごちゃのを並べた。
  *
 前半はビール、後半は日本盛の熱燗で、いい気分になった。
 こういう日を続けるのも悪くないな。

3月8日(日) 穴蔵
 未明だ。雨が降っている。浅田飴にはまだ2時間。
 終日穴蔵。ボケーーーーツと過ごす。
 新型コロナウイルスのクラスターは、大阪のライブハウスに続いて、姫路の精神病院に。
 ますます播州龍野への足が遠のく。
 夜、BSで『ランボー/怒りのアフガン』を見る。30年ぶりか。
 大佐ひとりを救出するために敵味方100人ほどが死ぬ乱暴なもの。
 これを見た翌年、次は『怒りの天安門』だろうと予想したが、実現しなかったなあ。
 アフガン以降のランボーは見ていない。

3月9日(月) 穴蔵
 快晴ただし花粉は濃密な春の日である。
 終日穴蔵。ボケーーーーーーッと過ごす。こればっかり。
 新型コロナウイルスのニュースを断続的に見るが……
・蒲郡のウイルスまき散らし男(B某/前科者らしい)のフィリピンパブでのビデオが流れる。とんでもない男だ。
・プロ野球の開幕延期。サッカーも見習いそうな。オリンピックも中止だろう。
・クラスターのひとつ、梅田のライブハウス「Rumio」はSoap Operaと同じく、西天満の交差点の近くである。
 正確には、長年「閉店売りつくしセール」をやっていた靴屋の交差点。
 西30メートルに「Soap Opera」、北50メートルに「Rumio」である。
 さらにいえば、100メートル圏内、東に米朝事務所、北西にハチ、西に宇治電ビル(眉村さん)、旧NULLスタジオ(筒井さん)、前のかんべさんの仕事場と、昔からウロウロしている中心である。
 大阪の中心地は「閉店セール」の靴屋にあった。
 ……などと愚考する。
 昼、さすがに運動不足なので、郵便局へ行ったついでに、人気のない道を選んで30分ほど散歩。
 JR高架の落書きに気づく。
  *
 バンクシー気取りか。
 未明に描いたとしても、1時間ほどだとクルマ数台は通ったはずだが。
 2,400歩ほど。ちょっと疲れた。

3月10日(火) 穴蔵/ウェブ友の訃報
 午前3時に目覚めてしまった。
 このところ、昼間うたた寝することが多く、睡眠が不規則になってきた。
 5時頃から雨。
 出歩くことなく、終日穴蔵にて、仕事したよなしないよな。
 ニュースによれば「お上」が「大イベント」の「あと10日自粛」を要請してきた。
 中途半端な。
 おれは前から「3月末まで」と決めていて、おそらく5月の連休までの覚悟もしているのである。
 ただ、講師を務めている講座だけは迷う。
 おれひとりで休講と決めていいものか。しばらく考えることに。
 ネットでロザーナさんが2月28日に亡くなられたことを知る。
 入退院を繰り返されていて、その事情を冷静に書きつづけられていた。
 不思議な魅力のある方だった。
 10年以上前に、ネットで偶然「十三ミュージック」関係でウェブを知った。
 近代文学が好きで、大阪の街歩きが趣味で、大大阪モダニズムに詳しく、断腸亭がらみの書き込みも多い。
 半世紀以上前の平凡パンチに載った短篇(「逃げろ馬」)のことでやりとりがあり、古書市で見つけてPDFで送ってくださったことがある。
 以来、(本名も知っているのだが)メールでのやりとりがあり、昔の色街事情など、ずいぶん教えていただいた。
 街歩きではすぐ近所(豊崎長屋など)も歩かれている。
 しかし……お互い元気でも、顔を合わせてしゃべったり飲んだりはなかったと思う。
 ネットで知り合い、敬愛の念をいだきつつ、その記事を愛読してきた。いちばんいい関係だったのである。
 寂しくなるなあ。
 夜はれんとの湯割りで献杯。

3月11日(水) 穴蔵
 定刻午前4時に目覚める。
 5時30分からNHK『100分 de 名著』(クラーク)再放送を見る。第2回は「幼年期の終わり」。
 瀬名さんの解説、シンギュラリティとの関連づけが現代的である。
 放送後「テキスト」を読む。……世界の大都市の上空に異星からの巨大宇宙船が浮んだまま50年間滞空する。このイメージをクラークはどこから得たのか。これが「光文社文庫」版のまえがきで明かされているという。知らなかった。福島正実訳で読んで、40年以上再読していない。
 他の名作もだが、解説を書くような機会がないと、なかなか再読せず、デテイルの多くは忘れてしまう。いかんなあ。
 天気晴朗なれど終日穴蔵。
 仕事したよなしないよな。
 夜……BSで『幸福の黄色いハンカチ』を見る。こちらは30年ぶりくらいか。
 つい涙腺が緩む。歳だなあ。

3月12日(木) 穴蔵
 天気晴朗。終日穴蔵。
 仕事したよなしないよな。
 夜、集合住宅の某委員会。出席10名、マスク8名。短時間で終わりたいのに、やはりダラダラ。やたら咳き込むのがひとり。遠慮してくれんかねえ。おれが遠慮すればいいのか。ま、あと2ヶ月で終わりにしたい。
 遅い時間の晩酌となった。

3月13日(金) 穴蔵
 天気晴朗。終日穴蔵。
 朝から、昨夜の委員会の議事録作成。過去の議事録も調べていたら昼前になってしまった。
 以前なら1時間で書けたものだが(ファイルを探したりする体力の衰えと信じたい)。嗚呼。
 ひと仕事した気分になり、昼は焼きそばでビール一杯。
 昼寝。いかんなあ。
 相変わらずの新型コロナウイルス報道。
 先月末から「山場」「瀬戸際」「正念場」が入り乱れて、どの辺にいるのか、さっぱりわからない。
 「ピーク」が大分先であることだけはよくわかる。
 ま、穴蔵でのんびり過ごすことにしよう。

3月14日(土) 穴蔵
 朝だ。雨が降っている。こういう日は落ち着く。
 終日穴蔵。
 落ち着いて仕事ができるかというと、これはまた別の話。
 アタマが「自粛疲れ」なのであろう。

3月15日(日) 穴蔵/ウロウロ
 晴れて暖。
 終日穴蔵……のつもりであったが、アタマがほとんど働かず、ここ数日体を動かしていないせいであろう。
 午後、久しぶりに散歩に出る。
 梅田貨物線の地下化工事の進捗状況をチェック。時々通過する「くろしお」も「はるか」もガラガラ。1両にひとりくらいではないか。
 左岸線の工事現場を見物し、淀川堤を歩く。人影はほとんどなし。
  *
 おなじみ「河口から9キロ」を通過。
 天八から下に降りる。天八のスーパーだけは混み合っているような。
 本庄〜中崎町の路地を歩き、豊崎長屋、南浜墓地を巡って帰館。
 6,000歩を超えた。さすがに脚が疲れる。が、夜のビールはうまい。
 毎日歩かないといかんなあ。


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