『マッドサイエンティストの手帳』164
●マッドサイエンティスト日記(2000年8月前半)
主な事件
・第39回日本SF大会(5-6日)
・ハチも39周年記念。山下洋輔ソロ・ライブ。(7日)
・野尻抱介さん龍野に現る。(13日)
・書斎移転(14日)
2000年
8月1日(火)
ボンサラ、誠実に手抜き仕事。
夜、どういうわけか預金通帳を並べてため息。
8月2日(水)
ボンサラ、誠実に手抜き仕事。つまらん日である。
夜、どういうわけかため息ますます大きくなる。
8月3日(木)
ボンサラ、東奔。といってもあまり前向きの仕事ではない。
立ち寄ったパソコンショップでCD−RW衝動買い。衝動ではないか、一応必要に迫られていたわけであるから。
夜、珍しくヨコジュンから電話。35年ほど前の「NULL」「パラノイア」「タイムパトロール」時代のことについて質問あり、どうやら「青春記」らしい。……本ホームページの「私家版SF年代記」も狙いは同じなのだが、まだほとんど手つかずだなあ。……ヨコジュンとは横浜でのSF大会で会う約束となる。
8月4日(金)
会社の創業記念日前日ということで、昼飯が特別豪華とかいうから、珍しく社員食堂へ行ってみる。……幕の内といっても、500円のホカ弁と変わらんではないか。せめて松花堂弁当でありたい。創業108年となると、とっくにボケが始まっていて不思議ではない。会社が古いからといって社員には老人食で十分ということか。
夜、「ややこしい」関係のファイルを整理、封印して机の上に置く。……明日から2日間、SF大会で上京(横浜でから一歩手前か)。地震頻発だから、「まさかの時用ファイル」を整備しておくわけである。無事に帰宅すればよし、「まさかの時」のみ開封。最近、このファイルの更新頻度が増えたなあ。……唯一変わらないのは「通夜の音楽はジョージ・ルイスの賛美歌」という指定くらいである。
8月5日(土)
SF大会1日目
8月6日(日)
SF大会2日目
地震の心配をしていたのが、新大阪手前で地震のため新幹線ストップ。まあ初の脱線転覆事故で死亡よりはましか。
8月7日(月)
休日明け、例によってややこしい話が多い。まあ、適当に手抜き対応していたら夕方である。
猛暑。
夕方、「専属料理人」と梅田で合流、お初天神の瓢亭「夕霧そば」で軽く一杯、ビールがおっそろしくうまい。
午後8時からハチで山下洋輔さんのソロ・ライブ。例年は8月8日ハチママの誕生日であるが、今年は前夜祭形式。
1ステージぶっつづけ演奏、近日出る予定のCDからスタンダードとオリジナル中心……が、なんといっても「5分間の早廻しバージョンなど色々ありますが、本日は全部やります」と始まった「ラプソディ・イン・ブルー」が圧倒的であった。
終演後、軽くビール。
おなじみの大ちゃん、いかなる心境の変化か、見事なスキンヘッドになっているのに仰天。ジョーダンじゃねえかという声もあったがじょうだんじゃねえぜ。
見事なスキンヘッド中心に記念撮影。なんとも暑苦しい写真で、「残暑お見舞い」ともいいかねるがご容赦を。左は岡本吉民会長で、岡本くんだけは昔から変わらんなあ。
ハチは今年で確か開店39周年……SF大会と同じ歴史である。
例によって、ハチママの「りんご追分」と大ちゃんの「絶叫版サマータイム」の付録つき。
三日月なるものがドラムを叩きだしたところで岡本くんたちといっしょに退散。……すばらしいピアノを聴いた後なのだから、耳は汚したくないのである。熱い夜であり、暑い夜でもあった。
8月8日(火)
終日ボンサラ仕事。祭のあとは虚脱状態である。
書斎の移転先、やっと正式決定、契約。預金通帳ますます心細くなる。
8月9日(水)
夕刻、大阪駅で、岩手から奥さんの実家へ来たついでという平谷美樹さんご夫妻と会う。……わかりやすい場所ということで大阪駅中央コンコースにしたのだが、なんと人で一杯。なんと高校野球・岩手県代表「専大北上」の応援団で、初戦敗退、これから帰るところらしい。平谷さんの地元で、知った顔をちらほら見かけるという。……ぼくが平谷さんと盛岡で遭遇したのも奇跡的と思ったが、平谷氏にはこういう偶然を呼び込む能力があるような気がしてくる。
義兄(つまり雅子夫人の兄上)氏、学友だった三好夫妻とあと1名(あ、お名前失念)、ぼくを入れて7人になる。全員SFファン。学友氏3人は20年ほど前の大阪市立中央図書館での「連続講演」(※)に揃って来てくれたのだという。
計7人でニュートーキョーへ。結構混んでいる。20時頃までガヤガヤ。
あと地下街最短距離を歩いておなじみニューサントリー5へ。
原田紀子とフラットファイブの日。……平谷さん用に月の曲とリクエストしたら「Fly me to the moon」を歌ってくれた。憎いばかりの選曲、よく考えると「エンデュミオン……」の作者に贈るには、この曲以外にないではないか。22時過ぎまでガヤガヤ。
かなり酔っぱらって帰宅。近所の人が翌日いうのに、かなり脚がふらついていたらしい。
※「連続講演」というのは、2時間3回。3週間連続で行ったもの。
第1回 海外SFの歴史
第2回 作家研究 アーサー・C・クラーク
第3回 日本の現代SF
皆さん、よく覚えていてくれた。特に第1回はニュー・ウェーブあたりまでの概説だったが、最後に取り上げたのはバラードの『沈んだ世界』(破滅シリーズ中ではこれが最高傑作と評価している)、バラードはイギリスの伝統的な小説作法を引き継いでいる作家であり、コンデンス・ノヴェルはバラードを代表する仕事ではないと述べた。……20年後に、やっぱりそう間違ってなかったなと自画自賛。
平谷さんを含めて、当時からのSFの流れをよく掴んでおられるのに感心する。……三好さんが「平谷は日本のロジャー・ゼラズニィになれますかね?」といったのにはびっくり。言われてみるまでこの比較は念頭になかった。『光の王』か……神話的な雰囲気が共通項といえるが、文体はどうだったか。書庫を探して再読してみよう。
8月10日(木)
炎天。午後、出先の高槻でバスが渋滞でなかなか来ない。駅まで徒歩20分くらいだろうと歩いたら、30分近くかかる。フラフラ。日射病寸前である。
そのまま帰宅して濡れタオルで頭を冷やす。
8月11日(金)
世間は夏休みに入ったところが多いらしく、会社では電話はほとんどなく静かなものである。
さりとてまとまった仕事ができるわけでもなし。
本日、名古屋のラブリーでは森山威男ライブの1日目である。「森山研」としては駆けつける予定であったのだが、明日、重労働が控えているので、残念ながら諦める。
しかし「森山研」メンバーとしてはちょっとあせるなあ。森山追っかけナンバー1の塩之谷香さんにはかなわない(京都・祇園祭のライブ、茨城県結城市のライブに参加、なんと北海道ツアーまで行く予定という。詳細なライブ・レポートも大したものだ)にしても、ハチの大ちゃんにもかなり差をつけられている。……先日会ったときに聞けば、大ちゃん、結城まで遠征したのだという。元気な男である。
「森山研」としては、またふたたび地道な発掘作業を続けねばなるまい。
ジャズ研究で書斎派というのは本来の姿ではないのだが……。
8月12日(土)
朝から書斎の移転作業。近所の別室へ20年間占拠してきた部屋の中身をそっくり移す作業である。基本的には「本」と「机」と「パソコン」と「CD」だから、業者に依頼するほどでもあるまいと高をくくっていたら、いやはや……。
ダンボール4箱を「通い箱」にして台車で移動するのだが、5往復しても元の部屋はあまり変わらない印象、移転先に本が積み上げられていくだけである。
年齢であるなあ。ダンボール1箱持ち上げるのが辛い。
午後からボンクラ息子その2が加わって少しピッチがあがる。
十数往復、本と本棚を移したところで時間切れ。
所用あって播州龍野の実家へ行かねばの息子なのである。
シャワーも浴びず、阪神梅田から姫路、姫新線で本龍野に午後6時半着。ここでやっとシャワー、ビールがぶ飲み。
8月13日(日)
うーん、昨日のダンボールのせいで腰が痛い。
朝5時、母と墓参。
午前中、秘密ガレージでタイムマシンの組立て作業継続。
昼前に、姫新線・本龍野駅になんと本当に野尻抱介さんが現れた。前夜から佐用の「西はりま天文台」で行われていた宇宙人に関するトークショーにゲスト出演の帰路、途中下車である。……ぼくも西はりま天文台には2年前に一度行ったことがある。マーキー・森本雅樹先生と同室であったなあ。
野尻さんに組立中のタイムマシンを見せる。
野尻さんのアドバイスにより、性能が時速3秒ほど向上した。
引き続き、近くに所有している3軒の別荘へ案内。あまりの豪華さに言葉もないようであった。
さらに実家の書斎と書庫へ……こちらはあまり自慢できるものではない。石原藤夫博士の書庫(というよりSF図書館に住宅が付属している印象)を見学して以来、SF蔵書には執着がなくなってしまったのである。未整理でダンボールのままの方が多い状態。
せっかく龍野までおいでいただいたのだからと、製麺会社直営の店でビールとソーメン。
午後、いっしょに本龍野→姫路→山陽電車で阪神梅田と移動。野尻さんはギャラを日本橋で散らしてから帰るという。付いていきたいところだが、まだ書斎移転作業の途中なので、そのまま帰宅。
新書斎、先に本を少し片づけないことには机が入らない。
またも汗だく作業。
8月14日(月)
新聞休刊日なので朝5時にテレビニュースを見たら、またも大分でど派手な殺人。またも似たような犯人かと想像したら、案の定である。また人権派が出てくるのかしらん。
書斎移転作業続行。CD・MD・パソコン周辺機器・事務用品・美術品(堀晃さんの絵があり、これだけは値打ちものである)など5往復。
昼前にやっとボンクラ息子その1が起床したので、クルマで淡路のホームセンターへ整理棚など買いに行く。
ぼんくら息子その1、棚の組立などやってくれるが、まあわが書斎をこれから自室として専使用するのだから、これくらいのサービスは当然か。パラサイトシングルとなって居着いてしまいそうな嫌な予感がする。
午後、机とパソコンを移動。
夕方でほぼ移転終了のはずだが、とても仕事のできる状態ではないなあ。
夜、ビールがぶ飲み。
8月15日(火)
盆休最後の日である。8月15日にふさわしい炎天。
朝から新書斎へ。……すぐ近所なので、食事・入浴・睡眠は従来どおり自宅で。「仕事」というか趣味というか、自室に籠もるときのみ移動するわけである。……面倒なのでパジャマで移動したくなる。以前、近所の中華料理店でパジャマのご一家に遭遇して驚いたことがあるが、気持ちはわかるなあ。
書斎の片づけ続行。SF(小説以外)と雑サイエンス関係と辞書、事典、ファイル類で大半が埋まってしまう。趣味の関係をどうするか。ジャズ関係は捨てるにしのびない。床に積み上げた分、半分以上は処分せねばなるまい。実家書庫に送っても5年以上前のもダンボールのままだものなあ。
電話はFAXとパソコン用に使用していた回線を移動。モジュラージャックはついていたので、電話局に連絡するだけで工事終了である。
昼過ぎ、パソコン接続を確認したところで、面倒になって本の整理は中止、ボケーっと外を眺める。
旧書斎と新書斎からの眺望。えらい違いである。
梅田方面が一望できた部屋から、こんどは古めかしい集合住宅に挟まれた低層。簾のかかった部屋が多いのがわびしい。老人が多いらしく、どうもこちらが監視されているような圧迫感がある。狭い児童公園?に面しているのが救いだが、滑り台と小さい鉄棒があるだけの、なんともうらぶれた印象。ここで壮大な宇宙SFが書けるのであろうか。
前の居住者(ちょっとばかし滞納したまま出ていったらしい)の残していったクーラーはそのまま使えるというものの、ドライもリモコンもない旧型で音ばかり大きい。
夕方、かんべむさし氏が登場。缶ビールを持ってきてくれるというので、近所の公園まで迎えに行く。
来客など最初から想定していないので、床のあいた部分に缶ビールを並べて雑談。この雰囲気は、独身時代、西中島南方のわが部屋で飲んでいた頃に似ている。二十数年経って、結局は振り出しに戻る……か。
わが「書斎」、かんべむさし氏をただ一人の目撃者として、今後は、このうらぶれた部屋の存在は公開しないこととする。
なにしろ「豪華別荘3軒を所有するSF作家」の仕事部屋とは思えないところだからである。
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