『マッドサイエンティストの手帳』633
●マッドサイエンティスト日記(2016年7月前半)
主な事件
・庄内斉さん(ワイルドバンチ)1周忌(1日)
・木下昌輝さん@太平寺(2日)
・「スリバチ」と「高低差」(3日)
・坂本健一さんの訃報(5日)
・播州龍野いたりきたり
・参院選(10日)
7月1日(金) 庄内斉さん(ワイルドバンチ)1周忌
定刻午前4時に起きて、普通の生活パターンで過ごす。
7月1日は号泣記念日である。あれから2年、野々村くん、ずいぶん楽しませてくれた。判決まであと5日。
記念日だからといって特別なことはせず、机に向かい、ちょっと顔を横に向ければ30メートルほど先に見える竜太郎くんの生家を時々眺めつつ、少しは仕事もするのであった。
昼前に電話があり、本日の夕刻からワイルドバンチで庄内さんの一周忌法要を行うという。
そうか、もう1年になるのか(命日は昨年の7月7日)。号泣記念日どころではない。
夕刻に近い午後に這い出て、ぶらぶら歩いて天六のワイルドバンチへ。
映画関係の人たち中心に20数人。読経、焼香。
祭壇に若き日の庄内さんの写真。
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若き日の健さんと(この写真は店に飾ってあります)。いいなあ。そして、おふたりともいないのが寂しい。
あと、献杯あり、ビール飲みつつ手作り料理を色々いただく。
シネマ自由区(フリーク)時代の方々や常連諸氏、ともかく映画とジャズに詳しい人たちが揃っていて、話がものすごく面白く刺激的である。鈴木清順作品の1シーンからなぜか話がネリカンに拡大したり、庄内さんがその辺にいるような雰囲気になってくる。
2時間ほどいて失礼する。この雰囲気は、下手すると深夜に及びそうで、ちょっとやばいのである。バンチは今後もつづくから、時々顔を出して議論のつづきをやることにしよう。
※庄内さんの写真に張り合って、おれも若い時の1枚を。これはクラーク追悼記事(「ミステリーズ」2008)にいっしょに載せたもの。おれは家族葬でこれを飾ってもらうことにしている。音楽はルイスの賛美歌。
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国際SFシンポジウムで。クラーク師52歳、おれは26歳である。
7月2日(土) 木下昌輝さん@太平寺
真夏日らしい。東向きの穴蔵、直射光を受けて、午前9時には32℃となる。
扇風機を回せば、おれには快適で、エアコンはまだ使用せず。10時過ぎれば30℃になった。
午後に出て、地下鉄で「四天王寺前夕陽ヶ丘」という長たらしい名の駅へ。
谷町筋の西側歩道に屋台が並んでいる。「愛染さん」の残り福らしい。
おれは北側の太平寺へ。
「第37回文学碑記念の集い」(主旨はこちら)、本日は木下昌輝さんの講演「米沢彦八と大阪の笑い」、旭堂小二三さんの講談「難波戦記より 日ノ本一の兵 真田幸村見参」である。
木下さんの注目作『天下一の軽口男』(幻冬舎)については、実は某PR誌の「本の紹介」コラムに書いているのだが、出るのはちょっと先。そこで触れてないことをいえば、おれは本作品はてっきり今回の直木賞候補にはなると思っていた。題材の面白さ、想像力全開、笑いのツボも泣かせ所も押さえてある。残念ながら候補にならなかったが、広く読まれることを期待する。
木下さんの講演は面白く、「軽口男」の創作過程を踏まえて大阪の笑いについて話されたが、準備(取材、調査)含めて4年かけた、その間、9月の生玉さんでの「彦八まつり」に毎年足を運んだという。じつに誠実な姿勢である。
旭堂小二三さんの難波軍記も聴かせた。
終了後、木下さんにちょっと挨拶。同じ創作グループのメンバーも皆さんも来てはる。
あと、北へ少し歩き、生國魂神社に寄って、彦八師匠の碑に参拝。
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大阪市はん、この碑も「文学碑」に加えるべきでっせ。
7月3日(日) 穴蔵
炎天なり。午前7時、室温30℃。あと31℃で推移。
扇風機さえあれば快適である。
しかし、あまりの日照りに、高低差うろうろは無理である。
終日穴蔵。
穴蔵からの眺め。野々村竜太郎の生家にも日は照りつけるのであった。
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判決まであと3日。
「スリバチ」と「高低差」
大阪高低差学会・新之介さんの『大阪「高低差」地形散歩』(洋泉社)を先日来パラパラと拾い読み・拾い見している。
『大阪「高低差」地形散歩』
高低差散歩はブラタモリの影響でちょっとしたブームみたいだが、大阪高低差学会は3年以上前から活動しておられるようだ。十三あたりを起点に始まったようで、わが住処と淀川をはさんで対岸になる。
おれも(「アースダイバー」は熱心な読者ではなかったが)近代建築を見ながらウロウロするうち、地形も興味の対象に入っていた。どちらかといえば興味は上方SFと地形の関係である。
本書では、おれが興味を持っていたところはほとんど紹介してある。上町台地(SFでは牧野修『傀儡后』である)をはじめ、眉村さんが「エイやん」で描いた聖天さん(この近くの崖道はおれも10年前に「発見」している)、それになんといっても日頃の散歩コースの淀川沿い、長柄運河跡やトラス橋などが出てくるのがうれしい。
本書の先輩格というか、東京では、4年前に出た、東京スリバチ学会皆川典久『東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)がある。
『東京「スリバチ」地形散歩』
これは武蔵野台地から流れる川筋に形成された地形を歩くもので、大阪よりも遙かに広く複雑である。
実はこの本、皆川氏と面識のある、近代建築好きのSF友が送ってくれて、だいぶ前に読んでいる。大阪でもこんなことができないかなと思ってたのだが、大阪高低差学会も「スリバチ」の影響下でスタートしたようである。
おれはもう学会に参加していっしょに歩くのは無理で、地下鉄かバスで移動できるあたりをうろうろすることにしよう。
※1 高低差文学の嚆矢にして最高傑作は大岡昇平『武蔵野夫人』だろう。冒頭の「ハケ」の描写が素晴らしい。庄野潤三『夕べの雲』の描写にも注目すべきだ。「阪神間SF」には、明らかに六甲山麓という地形が影響している。上方SFにも共通項がないか、北野勇作・田中啓文さんと討議したが、地形より周辺文化の影響の方が大きいようである。
※2 先日(6/26?)梅田で新之介さんと皆川典久さんの対談があったような。残念ながら行けなかった。まあ、市内をうろうろしてたら、どこかの坂道でばったり会うこともあろう。すれ違ってそのまま……になりそうだけど。
7月4日(月) 穴蔵
猛暑日である。
晴れて、朝から日射し強く、午前8時、室温33℃、ベランダはなんと35℃である。
おれは少々の暑さは平気だが、さすがに限界。
エアコンの室外機に遮光カバーをかけ、今季はじめて2時間ほどエアコン稼働させる。
運動不足なので、昼、散歩に出るが、外は36℃である。
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ジュンクドーまで行って引き返す。
信州そばで大ざるを食して帰館。
午後は穴蔵にて扇風機の風に吹かれつつ、少しは仕事もするのであった。
7月5日(火) 坂本健一さんの訃報
本日も猛暑日なり。
午前、2時間ほどエアコン稼働。
SF友からのメールで坂本健一さんの訃報を知る。
気になって、昼、炎天下を自転車で天五まで行ってみる。
4月に青空書房に寄ったが、例によって(耳が少し遠いものの)頭脳明晰で、15分ほど雑談した。いつもどおりの雰囲気だったが。
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路地に移った青空書房は、閉ざされ、看板だけが残っている。
かっぱ横町の古書店(坂本さんの弟子にあたる人の店)へ行って聞くが、古書店の組合から連絡はまだないとか。
7月2日に亡くなられた。93歳。4日に近親者と知人でお別れをすませ、通夜・葬儀はなしということらしい。
青空書房はひっそりと閉店……寂しいことだが、これも時の流れである。
米朝師匠の1歳年上なんだからなあ。
ということで、夜は坂本さん追悼。枝豆・翁豆腐のヤッコ・マグロ刺身など並べてもらって、きりっと冷えた「吉乃川」で献杯。
早寝するのである。
さあ、明日は野々村竜太郎くんの判決である。
おれの予想は、刑期は短縮されるものの「執行猶予はつかない」。あのふざけた法廷での態度といい、早くも「@冤罪」とつけたWeb開設といい、反省の色なしだものなあ。
7月6日(水) 大阪→播州龍野
朝の通勤ラッシュが終わった時刻に播州龍野へ移動する。
カンカン照り。
タイムマシン格納庫にてしばらく見張り番をつとめる。
夕刻、揖保川沿いに散歩。
昨日、上流はとつぜんの「豪雨」だったらしく、水量多し。いつもの散歩経路は冠水状態である。
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夕刻のニュース。野々村竜太郎は「懲役3年、執行猶予4年」の判決。わが予想は外れた。お詫び申し上げます。まさか(被告が)控訴はしないと思うけど。竜太郎くん、たまには生家を訪れたまえ。
播州龍野の夜は早い。大阪から持ってきた枝豆を茹で、味三昧の豪華弁当でビール。
エアコンはないが、扇風機だけで結構涼しい。
播州龍野の「ネット接続なし環境」はそれなりに快適である。
エディ・ダニエルズを聴きつつ。
7月7日(木) 播州龍野→大阪
目覚めれば午前5時。7時間ほど熟睡した。
実家の雑事色々。
9時過ぎにタイムマシン格納庫へ行き、雑事色々。
組み立て工場でちょっと作業も行うが、昼前に42℃になった。
昼までで作業終了とする。
昼過ぎの姫新線で姫路へ。アホ高校生多し。そうか、夏休みが近いのだ。
小溝筋のおなじみ「灘菊」でちょっと遅めの昼飯。
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日替わり定食が終わりかけだったらしく「お父ちゃん、おかずが見本とちがうけどええか?」とオバハン。「なんでもええで」といったら、普段より多く、小鉢が6つ。いずれも酒麹がきいて美味。ビールに灘菊冷酒もいただく。糖質過剰? ほっとけ。
午後の新快速で帰阪する。
7月8日(金) 穴蔵
曇天、梅雨空、高湿度、室温31℃。
終日穴蔵にて、寝そべって雨読。眠くなるが、寝ているのがひどくしんどい。時々起きる。
雨で選挙カーは来ず、静かなもの。
「群雲、関ヶ原へ」ならぬ「食い詰め者、参院選へ」の様相で鬱陶しいことだが、昼、ニュースを見たら、都知事選までも……。おれは大阪市民だから、どうでもいいことなのだが。
「けふも糠雨降りつづけて日は暮れたり」(荷風散人)の気分なり。
7月9日(土) 穴蔵/ウロウロ
朝だ雨だ。室温30℃だが涼しい。
穴蔵にこもり、少しは仕事もするのであった。
午後、晴れてきたので、専属料理人と買い物に出る。途中、子供みこしに遭遇。そうか、今日明日、豊崎神社の夏祭りであったのだ。
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ちょっと豊崎神社をのぞく。たいしたことなし。
あと自転車で天八のスーパーまで行き、食材ポーターをつとめる。
そういえば、今日明日、日本SF大会「いせしまこん」なのであった。
天気が心配だが、大阪は晴れてきたから、たぶんだいじょうぶであろう。盛会を祈る。おれは「独り外泊」がやりにくくなり、今年も参加見送りだけど。
ということで、夕食時、大阪から伊勢志摩方向に向かいビールで献杯。
お、今年の星雲賞……
日本長編 梶尾真治『怨讐星域』
日本短編 山本弘「多々良島ふたたび」 田中啓文 「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」
半世紀のつきあいになるカジシンと短編2篇が「上方SF」とは、うれしいじゃあ〜〜〜りませんか。
盛大に飲む。
7月10日(日) 参院選/夏祭り
午前薄曇り、午後晴という、東向き穴蔵生活者にはありがたい天気である。
扇風機回して穴蔵にてボケーーーーッと過ごす。
参院選。昼前に専属料理人と投票所へ行く。
落ちてほしいのばっかり。(これを書いている今20時を過ぎているからいうが)「支持政党なし」という政党名は詐欺ではないか。「店じまい」の靴屋ではあるまいし。
出歩く気分にならず、中本酒店に寄って帰館。午後も穴蔵にこもる。
野々村竜太郎の生家前に豊崎神社から子供みこしが来た。
総勢50人ほど。毎年、横の豊崎会館で30分ほど休憩していく。
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うちのボンクラ息子その1が太鼓を叩いていたのは30年前である。
野々村竜太郎にも、みこしを引いた時代があったのだろうか。
などと感慨にふけりつつ、夜は普通のメニューあれこれでビール、函館産のイカ塩からでキリッと冷えた「吉乃川」を少しばかり。
おっ、カジシンが暗黒星雲賞も受賞したらしい。おめでとう。何で受賞したのか知りたい。アホなことやったのか?(おれも1992年のハマコン「S年F組授業ライブ」で受賞している。わがサイトを検索すれば出てくるかも。)
20時を過ぎた。
さあ、これから選挙で落ちたやつの泣き面を断続的に見てから(いちばん面白い「ギリギリで落選」は深夜でないと見られないが)寝るつもり。つまらん夏祭りだ。
7月11日(月) 穴蔵/ウロウロ
参院選の開票速報がつまらないので(開票率5%でほとんどの当落確定、泣き面は映さず、バンザイばっかり)早寝したら、午前5時に目が覚めた。テレビの報道、まだ「残1」と出ている。「支持政党なし」は議席獲得ならなかったようである。
猛暑日寸前の真夏日であろうか。
室温31℃の穴蔵にて、扇風機の風に吹かれて過ごす。
午後、ちょっとした用事あり、炎天下、帽子着用、自転車で出かける。
淀川左岸を長柄運河跡に沿って西へ。
浜中津橋(トラス橋)を渡り、十三大橋西側を淀川右岸へ。
このあたりは「高低差」的には面白い一帯だ。
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十三大橋北詰。西に「NTT十三専用橋」。いずれ爆破したい施設だ(あくまでもフィクション上で/念のため)。
北野高校の近くまで行って、ちょっと買い物、引き返す。
この暑さでは、野里住吉神社あたりまで行くのはとても無理だ。
ということで、夕刻にシャワー。
さっぱりしたところで、専属料理人に色々並べてもらって晩酌。
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きりっと冷えた「吉乃川」で「丹波」のきさらぎ漬け、山芋の海苔巻きなんてのがたまらん。
しかし、テレビのニュースがいかん。「食い詰め者、都知事選へ」とは前にも書いたが、スケベ老人タレントが、何を舞い上がったのか、出馬するかもといい出してやっぱりやめますと記者会見、報道するほどのことかよ。
他にもアホがゾロゾロ出てくる。大阪市民としては迷惑な限り。
7月12日(火) 穴蔵
終日穴蔵。
梅雨空、午後には晴れ間も出るが、湿度は高い。
室温30℃、扇風機の風に吹かれて過ごすが……体がだるく、夜は胃袋が収縮してしまったようで、ほとんど何も食べられない。
ヤッコでビール……も、うまいと感じない。
なんとか補水液を飲んで横になる。
人これを夏バテという?
7月13日(水) ルイス誕生日ライブ@ガゼボ
8時間ほど寝たら、体調は普通に戻った。
室温30℃の穴蔵にて扇風機。時々エアコンを稼働させて28℃にする。
西日本は大雨というが、早朝に降雨、あとは終日曇天。
夕刻這い出て、靫公園東側のガゼボへ。
本日はジョージ・ルイスの116歳誕生日で、祝賀ライブ。
毎年、河合良一さんが中心になって行うのだが、今年は河合さんが1ヶ月以上のヨーロッパ・ツアー中のため、ニューオリンズ・キッチンファイブの演奏である。
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ルイスの初心「1943」のトリオ・スタイルで「Over The Waves」からスタート。加藤平祐さんがこの時の年齢に近づいていて(3、4年後が楽しみな)いい響きである。
加藤平祐(cl) 秋定暢(tb) 川合純一(bj) 脇本総一郎(b) 梁瀬文博(ds)
2ステージから田村浩一さんのtpが加わって、ルイスが競演したペット吹き(代表格がいちばん性格の悪いバンク・ジョンソン)とのおなじみの曲。最後の「タイガーラグ」まで2時間半。
毎年「今日こんなライブやってるのは世界中でここだけだろう」という話になるが、今年はスイスで河合さんとジェフ・ブルがやっているかも。
7月14日(木) 穴蔵
終日穴蔵。
ちょっとややこしい日である。朝のニュースにもびっくりだけど。
わが体調はごく正常。
これといった仕事は出来ぬまま一日が終わる。
明日は動かねばならぬ。
7月15日(金) 大阪→播州龍野
早朝の電車で播州龍野へ移動する。
午前、タイムマシン格納庫にて見張り番。
午後、身内数名が来龍。
中心人物は香港在住の姪が娘(わが亡母の曾孫にあたる)を連れて帰国中で、墓参である。
墓掃除もするからと作業着や虫刺され防止の装備まで持参。ありがたいことである。
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今夏香港で中学?に進学する○○ちゃん、今も英語がメイン、家で日本語、第二外国語をフランス語にするかスペイン語にするか迷っているというから恐ろしい。
夕刻、駅まで送る。
播州龍野では、うちの徒歩圏にまともな食事処は中華が1店だけ。香港から来て中華でもあるまい。
おれを除くメンバーは姫路で夕食ということになり、見送り後、食品スーパーを回って帰館。
エディ・ダニエルズを聴きつつ独酌。龍力の冷酒ちびちび。夏の夜は更けゆく。
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