『マッドサイエンティストの手帳』612
●マッドサイエンティスト日記(2015年9月前半)
主な事件
・播州龍野いたりきたり
・創サポ講義(5日)
・大雨特別警報(10日)
・「われら ゆうれい」展(11日)
・橋口幸子『いちべついらい』
・谷甲州『コロンビア・ゼロ』
・谷甲州『加賀開港始末』
9月1日(火) 大阪←→播州龍野
天候不安定である。
朝の通勤ラッシュが終わった頃に出て、播州龍野へ移動する。
播州龍野書斎、タイムマシン格納庫、ご近所、金融機関、横尾製麺の直販所などうろうろして雑事の処理。
ついでに、ちょっと遅めの墓参。
おっ、「堀」の字に墓守蛙くんがいる。
まだ墓石の色になじんでいないから、新人のようである。
*
初代墓守蛙は13年前に出現、今は3代目襲名かな。
近くに嫌なS字型がいるかもしれず、元気にうちの墓を守ってくれたまえ。
水をかけてあげようとしたら、急に雨が降り出す。うへ、駐車位置までの50メートルでずぶ濡れになってしまった。
実家に戻り、着替え、洗濯。
屋内廊下に洗濯物を干していたら、急に晴れてくる。ややこしい天気だ。
2、3日滞在してもいいのだが、天候不安定、屋外の作業ができぬ。
夕刻の電車で帰阪する。
専属料理人不在につき、大阪駅のイカリで総菜、弁当など買って帰館。
五輪エンブレム使用中止のニュースを見ながら独酌。
楽しきかな独居老人生活。
エンブレムはどうでもよろしい、今からでも遅くない、五輪返上はできぬものか。ややこしい問題はすべて解決するではないか。
9月2日(水) 穴蔵/ウロウロ
朝6時の室温29℃、外気は26℃で快適になった。
昼前に出て、地下鉄で難波、日本橋のナニワネジに寄り部品調達、ついでに恵美須町まで歩くが、本日は閑散。
地下鉄で堺筋本町まで戻り、以前の勤務先界隈を歩く。
1年ほど来ない間に、色々と変化している。
国際ビル北側に広い更地が出現しているのに驚く。
*
安土町と備後町の間が更地になっている。北半分は確か「瀧定」だったはず。南側は思い出せない。
麺業会館の東隣にはマンション建築中である。
ビジネス街としては寂れて行くのであろう。
午後1時、1軒だけ残っているなじみの某店で、ランチメニューでビール一杯。
老舗は何軒か続いているが、人は変わっており、わが名前を覚えていてくれる店はここだけ。
思い出したように訪ねてくる知人(勤務先は別)も数人いるらしい。
しかし……この店もたぶん10年以内と思う。
9月3日(木) 穴蔵/ウロウロ
秋霖なり。小雨が断続的に降る。
終日穴蔵。仕事はごくわずか。嗚呼。
夕刻に近い午後、雨がやんでいる合間に天八のスーパーまで徒歩で買い物に行く。
往復で約4,000歩。
夜は買ってきた総菜類を並べて独酌。
テレビのニュースは中国の軍事パレード。
近平ちゃんが、おもちゃみたいなオープンカー(というかミニカーの天井がくり抜かれたようなへんなクルマ)に独りちょこんと乗って走る映像が流れたが、左手で敬礼しているのに仰天。
おれの見間違いか。キンタマが痒くて右手で掻いてたのだろうか。
見間違いでなければ、おもろい場面を目撃できたものである。
片づけ、洗い物して早寝。
9月4日(金) 穴蔵
久しぶりに晴れた。
専属洗濯婦不在につき、洗濯を行う。
ついでに穴蔵の掃除も。
エアコン室外機の「日除け」を片づける。今シーズン、もう冷房として使用することはあるまい。
あとは終日穴蔵にて明日のために資料を再読、メモ作成して過ごす。
本日0歩。
9月5日(土) 創サポ講義/ハチ
本日は晴天なり。
穴蔵にて机に向かって過ごす。
午後、NHK-FMで10時間の「東京JAZZ」中継が始まる。
パソコンに向かい、ネット中継をTimedomain-miniで聴く。時々エルゴヒューマンをリクライニングにしたり。
これは最高の聴取環境である。
ゲストに村井康司さん。村井さんはきわめて知性的な風貌(むろん大インテリ)だが、声もソフトでいいなあ。
22時まで聴いていたいが、そうもいかず。
夕刻に出て、地下鉄で天満橋へ。
エルおおさかへ向かう途中、小さなレストラン前で青年が看板を制作中である。
うまそうな。
*
美大生かと思ったら「一応画家としてやってます」。
「竹井屋」という店である。後日来ることにする。
若き青年画家の活躍を祈る。
ということで、18時から創サポ専科の講義。
提出作品4篇。
・伯父のホラー作家から怪異体験を聞く姪。下書きをプリントしておくと夜中に校正・改稿がなされて決定稿ができあがるのだという。伯父の原稿を預かって帰るのだが、夜中に……。作家ならたいてい見る夢(悪夢)である。脱稿した夢を見て、目覚めると未完のまま、夢の内容も覚えていない。ホラーというよりお笑い。
・ブスでいじめられっ子と美少女で才能に恵まれた高校生の微妙な関係。おれにはコメントしにくい作品である。容貌と性格を単純に関連づけてしまうと、話の展開も単純になるのではないか。
・フードフェスのテーブルで、失業中の「私」がたまたま同席したサングラスの男から聞く不気味な話。語り口が見事で、おれが「身の上話」パターンと呼んでいる短編の手法を、2作目ですでに身につけているのに驚く。
・富裕階級の令嬢が心臓病をかかえた青年に恋する。親の反対を押し切って駆け落ちを決意し、待ち合わせ場所に向かうが、手前の十字路で奇妙なループに陥る。作者は「暗喩をストレートに具象化し過ぎてないか」というが、これはSF的手法として大いにやるべき。暗喩のもろ具象化の代表例が「ソラリス」であり「禁断の惑星」ともいえるのである。
各作品、作者が自分の着想の良さに無自覚なところがあって、それを解説してたら30分ほど超過してしまった。
帰路、南森町経由でハチまで歩き、若い連中がライブやってるのを聴きつつ水割り。
深夜の帰館となった。
9月6日(日) 穴蔵
またも秋霖。
終日穴蔵。
ごく短い原稿を書く。調べたいことが派生的に色々と生じて、時間ばかりかかる。
歳であるなあ。
コンビニへ弁当など買いに出ただけで、実質0歩。
9月7日(月) 穴蔵
小雨が断続的に降る。
生活パターンがおかしくなった。
熟睡できぬため、夜中、目覚めると本を読み、目が疲れて少し眠りのパターンを朝まで繰り返す。
これが昼間も続く。
パソコンに向かってると急に眠くなり、しばらくMP3を聴く。横になって、読んだり眠ったり。
この繰り返しでたちまち夕刻となる。
まとまったこと、何もできぬまま。嗚呼。
9月8日(火) 穴蔵
やはり眠り断続的なり。計3時間ほどは眠れたか。
朝から雨。
気分転換(および上階の内装工事音からの避難)に播州龍野へ行こうと思ってたら、台風18号接近で今週は雨のようで、来週以降に延期する。
本日も寝たり起きたりの繰り返し。
生産的なことは何もできず。
9月9日(水) 穴蔵
熟睡できぬまま、6時前に起きる。台風18号は渥美半島の南。雨が降っている。東海地方(専属料理人の実家方面ね)が大雨らしい。
本日も寝たり起きたり読んだり椅子に凭れたり寝たり起きたり……でたちまち夕刻。
台風は午後に日本海に抜けたらしい。
夕刻からは晴れ間も。
明日は肉体労働中心にして、生活パターンを立て直すつもり。
できなければ、老衰と自覚しなければなるまい。
9月10日(木) 穴蔵/大雨特別警報
午前3時に起床。朝まで机に向かう。ともかく普段どおりのパターンに戻さねば。
朝、専属洗濯婦不在につき、洗濯を行う。
9時頃からは晴れ間もあり、台風一過と思ってたら、昼前、急に暗雲たちこめ、激しい雷雨となる。
あわてて洗濯物を取り込み、室内にロープを張って吊す。ややこしいことである。
茨城・栃木の大雨特別警報……50年に1度とはほんまかいなと朝から断続的に関東地方の「河川ライブラメラ」(リンクは遠慮させていただく)であちこち眺めていたら、(平常時の映像と並べて表示する方式が多く)尋常ならざる増水である。(小貝川の1台は映らなくなっていてトラブルのようである)
午後に常総市で鬼怒川の堤防決壊。救助活動の中継から目が離せなくなってしまった。
おれは子供の頃、揖保川の氾濫による洪水を体験している(上流に引原ダムが完成する前で、たぶん昭和26、7年と思う)から、たいていの洪水には驚かないが、「平野」の洪水は初めて見る光景で、ちとショックを受ける。
ヘリからの中継を気楽に眺めている立場なので、これ以上の感想は控えさせていただく。
夕刻、専属料理人が帰ってきた。
夜は例によって静岡メニュー。
*
キンメ煮付、桜エビ・黒はんの天ぷら、わさび漬け、その他でビール、冷酒「磯自慢」(大阪だと佃煮だが、静岡の銘酒)を少しばかり。
久しぶりにまともな晩酌となる。
鬼怒川流域の方には申し訳ない気分だが……
9月11日(金) 穴蔵/「われら ゆうれい」展
午前3時に目覚める。5時間ほど熟睡したから、気分はいい。
なんとか普通の生活パターンに戻れそうな。
午前中、主にNHKで大雨被害地域のヘリからの中継映像を眺める。
水の引き始めた常総市、「ざんない」光景という他ない。
※以下2行は自分用のメモ(もっとも、このHP自体が「未来の自分」用メモなんだけど)。
庄野潤三(『夕べの雲』だったと思う)と酉島伝法の、風景描写の比較を思いつく。播州龍野に本が残っているかな。
被災地の映像から酉島作品を想起する人は多いだろうが、庄野潤三を思い出す人はまずいまい。
天気がいいので、数日ぶりに散歩に出る。
ジュンクドーなど経由して中崎町の書肆アラビクへ。
* *
画家・イラストレーター7人による企画展「われら ゆうれい」開催中である(お化け専門の作家が集まったわけではありません)。
酉島伝法さんが4点出品。「原画」を見るのは初めてである。小説同様、時間がかけられた作品であることがわかる。
(9月28日まで。9/12、13には「社長」が出現する可能性が高いらしい)
9月12日(土) 穴蔵
目覚めれば午前5時。まあまあ普通のパターンに戻った。
自宅ベランダの朝顔、開花の勢いが衰えない。
*
まだしばらく続きそうな。来週には彼岸花が咲こうかという時期なのだが。
見習わねばいかんなあ。
と思いつつ、終日穴蔵。
本を読んで過ごす。
これからしばらくは、読んだ本のことを書いておこうと思う。
9月13日(日) 穴蔵/ウロウロ
眠りは浅いが、午前5時前に起きる。
普通の生活パターンに戻ってきた。
午前10時、調べたいことが生じて、西長堀の中央図書館へ行く。
目的の事項は20分ほどで片づいたが、ついでに思い出したことがあり、3階の大阪資料と古地図を調べ出したら、これが意外に時間を要し、気がつけば14時近い。
「現場確認」も兼ねてぶらぶら歩き、大正まで。
*
人影が消えた片側3車線の道路がいい雰囲気だ。
大正の「いちゃりば」で沖縄そば。オリオン生で水分補給も行う。
土日は人気(ひとけ)のない湾岸区散策がいいようだ。
橋口幸子『いちべついらい』(夏葉社)
副題は「田村和子さんのこと」
田村和子とは『珈琲とエクレアと詩人』に「大家」さんとして描かれた女性。「こんこん狐に誘われて」でスケッチされた田村隆一の「4番目の夫人」に当たる人である。
橋口さんは前作で北村太郎と田村隆一を「スケッチ」したが、本作はその両者の間にいたキーパーソンであり、結果としていちばんつき合いの長かった田村和子の晩年を描いている。
この本、5月に発行されてたのだが気づかなかった。専属料理人が「クロワッサン」に著者インタビューがあるのを見つけて買ってきたのである。
端正な文体で書かれたポルトレー。著者が、前作で描かれた田村邸での生活のあとも、田村和子とのつき合いが30年ほどつづくことを初めて知った。
『珈琲とエクレアと詩人』のあと、おれはこの3人をモデルにした、ねじめ正一『荒地の恋』も読んでいる。
田村和子はこの作品を読んで興奮したものの「すれっからし」に描かれていると不満だったらしい。確かに『荒地の恋』での描写は、今風にいえば「肉食系」みたいな印象である。ねじめ作品には一種のあざとさが感じられるが、これは描法のちがいだろう。油彩に対して橋口さんは水彩画か。(ちなみに『荒地の恋』には間借りしている女性は出てこない。ちらっと出てくる「田所夫妻」がそれか)
淡彩画のような筆致で描かれつつも、片肺でヘビースモーカーだったり、80歳過ぎてクルマを運転してたようだし、モロには描かれてないがその後も色々な修羅場があったようだし、不思議な女性像である。
いずれは、3作をまとめて、しかるべき文庫に入れていただきたいと思う。
谷甲州『コロンビア・ゼロ』(早川書房)
副題は「新・航空宇宙軍史」
22年ぶりの航空宇宙軍史最新刊とあって驚いた。『終わりなき索敵』からまだ7、8年のように思っていたからだ。50歳過ぎてからの時間経過、早いなあ。
『終わりなき索敵』で銀河宇宙まで拡大した戦史……ここでは「第1次外惑星動乱」の終結から二十年、また「惑星直列」が迫りつつあり、太陽系に不穏な空気がみなぎっている時期の、さまざまな衛星や基地での動きを描く短編で構成されている。
秘密裏に作られている基地とか、特命を持って基地に滞在する研究者とか、引退した兵士に持ちかけられる不思議なサルベージの仕事とか……派手な戦闘はないが、謀略のにおいが濃密に立ちこめ、開戦前夜の緊張感がみなぎっている。
各短編にはあまり関連は見あたらないが(しかし、全体で見事な長編になる)、前の戦闘の傷を引きずっている男たちの描写がいい。このあたりが「成熟」。
たとえば「ザッゴラ・マーケット」の九條谷は怪しい男から「微少天体のサルベージ」を持ちかけられるが、それは太陽系外「20光日を越えて」漂流している戦艦サラマンダーで(このあたり、前作と細部を照合するとさらに面白くなるが)、膨大な費用と「100年内外の年月が必要」と、相手と腹をさぐり合いながら語る。40年前のトラウマと「寿命を超えた時空感覚」が日常感覚でふつうに語られるところに凄味がある。
(実は派手なドンパチが1篇あり、これが凄いのだが、未読の方のために書かない方がいいだろう)
読んだ直後に「成熟とパワーアップが同時進行している」と書いたのだが、上記の抑制した人物描写と、さまざまな謀略や事件をひとつに収斂させていく手腕に感嘆したのである。
時間軸を反転させて、昨年の長編にも触れておきたい。
『加賀開港始末』(中央公論社)である。
幕末の加賀藩、幕府から領地召し上げに拡大しかねぬ圧力がかかりつつある。若き藩士・真之介は少数の人足とともに「ある荷物」を江戸に運ぶ道中に同行を命じられるが、雪山越えの難路に、正体不明の敵、謀略、裏切りが襲いかかる。目指すは「桜田門」……
苦難に満ちた雪山越え……まさに谷甲州の世界だが、ここで江戸を地球に、加賀を外惑星の衛星に置き換えると、維新の動乱が迫る幕末と『コロンビア・ゼロ』の世界が見事に重なってくる。
谷甲州の世界は時空両方向に拡大しつつパワーアップしているのである。
『加賀開港始末』は第8回舟橋聖一文学賞受賞。今頃になりましたがお祝い申し上げます。
9月14日(月) 穴蔵
秋晴れである。
朝、近所の某内科医院で定期検診。
異常なし…つうか、血圧はきわめて正常値。他に特に悪い症状もなし。ドタマのボケだけか。嗚呼。
帰路、コンビニで独居老人用エロ週刊誌「週刊ポスト」を7分間立ち読み。
「元少年Aの実名と顔写真公開」という記事、フォーカスが事件直後(1997.7)に掲載したものではないか。「今は別名でパスポートも取得しているらしい」というから羊頭苦肉もいいところ。ボケ老人用にはこの程度でいいという姿勢がもろ見えである。
おれの予想では来年あたりに税務調査をやって脱税で引っ張るのではないか。
明日から2、3日、播州龍野行き。情報遮断(一応携帯で読めるけど)のつもり。
9月15日(火) 大阪←→播州龍野
早朝の電車で播州龍野へ移動する。
2週間ぶり。
雑事色々。主に秋モードへの変更だが、室内は扇風機を片づけるくらい。庭とか建物周辺の掃除に手間取る。放置しておいて晩秋にシルバーに依頼する方が賢明なようである。
彼岸花が開花している。
*
午後は龍野書斎にて机に向かうが……いまひとつ調子が出ないなあ。
こちらの椅子は安物のパソコン用チェアになったので、座っていてもまったく楽しくない。
エルゴヒューマンに慣れると他の椅子には長時間座れない。
一泊のつもりだったが、夕刻の電車で帰阪することにする。
食事の準備が面倒になったこともある。
ということで、暗くなっての帰館。
大阪駅で夕刊一面の見出しを見る。
フジが「山口組宣戦布告」、ゲンダイが「山口組抗争終結(小さく「か」がついている)」
どっちやねん。どっちも買わず。
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