『マッドサイエンティストの手帳』597

●マッドサイエンティスト日記(2015年1月後半)


主な事件
 ・新年会的SF的(16日)
 ・創サポ講義(17日)
 ・堂山町の殺人(18日)
 ・平井和正氏の訃報(19日)
 ・播州龍野いたりきたり
 ・創サポ講義(31日)


1月16日(金) 新年会的SF的
 終日穴蔵。
 粛々と明日の準備作業を行う。
 運動不足なので、夕刻に近い午後、中崎町商店街まで歩いて往復。
 鳥梅商店でヤキトリ、ヤマタツで揚げ物とサラダ類を買って帰る。
 本日、専属料理人が地域の新年会とかで不在。
 その間、こちらも隠れ新年会を開催することにしたのである。
 夕刻、かんべむさし氏が焼酎ぶらさげて来穴蔵。
 定員2名内容非公開の本年度第1回SF検討会なるものを開催する。
 新年会だから、あれやこれや話題が拡がるはずが、珍しくも「ごく短い作品」を巡って3時間の激論となる。
 激論はおかしいか。意見が対立してではなく、解釈を巡って議論していたら、よくいえば深化、悪くいえば泥沼に入るというか、抜け出せなくなってしまう。
 問題の本質が「老化」にあるらしいことがわかってきて、切実なのである。
 相互に老化を監視しあうシステムを検討しようかという話になる。
 とはいえ深刻な気分にもならず、3時間半、アッケラカーの気分で解散となる。

1月17日(土) 大震災から20年/創サポ講義/御堂筋イルミネーション
 午前3時に激しい雨音で目覚める。
 そのまま起きてきちんと机に向かう。
 5時46分。
 阪神淡路大震災から20年。
 テレビもラジオもつけず、3秒ほど黙祷するが、毎年ながら、この時刻、とつぜんまた激しい揺れが襲ってくるのではないかと緊張して、1分間の黙祷なんてとてもできない。
 大阪で、本棚や食器棚が崩れた程度の被害ですんだおれがこうなんだから、淡路・阪神間で体験した人はそれどころではないはず。
 黙祷シーンを紋切り型の言葉で報道するテレビ画面には毎年苛立つのである。
 終日穴蔵。
 夕刻這い出て天満橋のエルおおさかへ。
 創作サポートセンターの講義。
 「SFの書き方」についてだが、一方的な講義スタイルはあまり役に立たないので、
 @「SFの書き方」エッセンスを30分講義
 A「具体的な執筆法」を30分講義
 B提出してもらった課題の文章を素材に表現のポイントの議論1時間、このパートはオブザーバーとして来てもらったオキシタケヒコさんと2人でやる。
 計2時間、ちょっと詰め込み過ぎか。
 おれ「SFの書き方を30分で伝授はすごいだろう」
 オキシ「10時間かけても似たようなもんでしょうね」
 それにしても、オキシさんのレクチャーは鋭い。ゲーム作家のキャリアから、同じことをいってもきわめて具体的でドライなのである。
 終了後、御堂筋まで歩く。
 青色発光ダイオードについて書く予定があり、御堂筋ルミネーションが明日までというから、参考のために見物。
  *
 ギネスに登録されたというが、正直いって、おれはこの企画は好きではない。
 葉を落としたイチョウ並木は春まで静かに休ませてやるのがいいのではないか。
 冬眠したいのに無理矢理残業させられているような。
 イチョウ諸君。明後日から春まで、ゆっくり休んでくれたまえ。

1月18日(日) 平井和正氏の訃報
 早朝、ネットに平井和正氏の訃報。
 病気で療養中だったが、1月17日になくなられたという。76歳。
 平井さんと初めてお目にかかったのが1962年夏の「関西SFのつどい」だったから、半世紀以上前になる。
 「レオノーラ」でデビューされて数ヶ月後だったから、仰ぎ見るような存在であった。
 60年代後半、その文章力は圧倒的であった。SF作家の中で唯一「文士」を感じさせる存在だった(あくまでもわが学生時代の感じ方である)。
 親しく話してもらえるようになったのは(一の日会メンバーとはちがったから)、70年代後半、かんべさんと一緒に上京することが増えた頃からかな。
 80年代前半、わが身にふりかかった裁判沙汰については、親身にアドバイスいただいた(※)。狼男の改竄事件という体験があったからである。
 この事件が終わった頃、平井さんには別のもめ事(むろんご自身の著作を守るためである)が生じ、わが事件のM弁護士が担当することになったのもひとつの縁である。
 だだ、この頃から、平井さんはSF関係の会に出席されることはなくなった。
 珍しくも、2007年のSF作家クラブ40周年パーティに顔を出されたのが最後ではないかと思う。
 むろんほとんどの作品を読んでいる。全作品となると自信がないが、「幻魔大戦」以前の作品については熱心な読者であった。
 10歳以上離れてたらともかく、平井さんの世代となると、おれには兄貴分感覚である。
 それだけに紋切り型の弔辞は書きづらい。
 終日穴蔵に閉じこもって過ごすことにする。

 ※平井さんの言葉でいちばん嬉しかったというか大笑いしたのは、これを読んでの一言。
 「今岡のやつは死ぬのが怖くないのか?」
 ……70年代末の諸々の事情を知らないとわからないと思うが。

1月19日(月) 堂山町殺人事件
 終日穴蔵終日仕事……のつもりが、またも朝らか集合住宅関係でややこしい通報。
 これがあると、集中力が一挙に崩れてしまう。
 マナーの悪い一部住民の所業についてだが、なんだかおれの責任を問いつめられている気分に陥ってしまう。
 そうです。全部おれが悪いんです。チンピラとかゴロツキとかボケ老人とか規約無視おばはんなど約6戸が放し飼い状態になっているのは、すべて理事長の怠慢によるものです。お詫びいたします。あと4ヶ月、なんとか我慢してください。かかるクズども、駆除するのがいちばんであることは、よーーーくわかっております。ただ、おれにも家族がおります。規約無視の外道どもを皆殺しにしておれが死刑になるわけにはいかんのです。お金で済むことならなんとかします。いくら払えばいいんでしょうか。どうぞ遠慮ないところをおっしゃってください……
 鬱状態になりそうな。
 仕事にならん。
 午後、気晴らしに、より悲惨で面白そうな殺人現場を見物に行くことにする。
※(1月17日夜)堂山町のマンションで男性遺体/後頭部に複数の傷/金庫を開けようとした跡も
 という事件現場。
 堂山町での殺人となるとじっとしてられない。
 この1年半の間に、ぼったくり店の店長秋元貴公が客を撲殺したり、ガールズバーの店長が客とのトラブルで階段から転落して死んだり、ややこしそうな支配人が720万円ひったくられたり(被害者の供述)、もっと前にはムルソー前の路上でサラリーマンがチンピラに蹴り殺されたり、事件続発地帯だからなあ。
 不思議な事件である。
 堂山町のマンション3階の一室で派遣会社社員の男性(39)が倒れて死亡していた。室内には金庫があり、こじ開けようとした跡があった。玄関は施錠されていた。
 テレビでちらっと見たら場所はすぐわかった。
  *
 やっぱり「JAZZ ON TOP」のあるACTVの東隣である。
 「シティエール東梅田」の裏表ともにポリさんが立っていて、立ちどまっての見物はしにくい。
 高そうな(たぶん賃貸)部屋で被害者は「部下をもつ派遣社員」しかも金庫あり。別紙では「職業不明」とある。
 しかも、同じマンションの別の部屋で自殺者?
 この立地(松本富雄なら詳しいはず)からいって、単なる強盗殺人ではなく、なんかの「もつれ」としか思えないがなあ。
 捜査の進展を待ちたい。
 おれより悲惨なのを見物したら、少しは気分も回復する。
 ということで、夜は専属料理人が作った冬パスタで白ワインを少しばかり。
  *
 牡蠣と春菊どっさり。なかなかのもの。
 少し気分もよくなる。
 早寝するのである。

1月20日(火) 穴蔵
 終日穴蔵。
 鬱陶しい雑事をダラダラと進める。
 夕刻、「イスラム国が日本人2人を人質に2億ドル要求」のニュースが流れる。
 見たいのだが、本日は集合住宅の理事会である。
 鬱陶しい作業(ゴミの駆除ね)を引き受けねばならなくなる。嗚呼。
 遅めの晩酌。
 気分重いまま。

1月21日(水) むなしい1日
 播州龍野へ行く予定だったが、明日に延期する。
 ほぼ終日、集合住宅の一室(わが穴蔵にはあらず)にて、昨夜引き受けた「駆除」作業。
 目がひどく疲れる。
 たちまち夕刻となる。
 ちょっと一杯。
 歩数計、本日も0歩。
 むなしい1日であった。

1月22日(木) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 小雨が降ったりやんだり。
 雑事色々。
 タイムマシン業。
 おお、新年早々にゼンジー北京師匠の御利益あり、おそらく本年度の黒字は確定である。
 福の神・ゼンジー師匠に栄光あれ。
 午後、合同庁舎の龍野県税事務所という物騒なところに出向き、県民の義務を果たす。
 庁舎西側の揖保川堤を散歩。
  *
 暖かく、早春の気配。センチメンタルになるぜ。
 夕刻に近い午後の電車で帰阪。
 夜、ネギトロ、サラダ、手羽のなんとかなど並べてもらって、ビール飲みつつ、イスラム国の人質ニュースを見る。
 昨日から進展なし。
 例によって憶測報道ばかり。
 不思議なことが多い。
・後藤健二氏の活動は前から知られているが、もうひとりの人質・湯川遙菜氏の活動について報じられないのはなぜか?
・中山副大臣という無能の代表みたいな政治家(うちの選挙区だからよくわかる)を現地に残したのはなぜなのか?
 この2点からだけでも「着地点」が読めるが、政治宗教血液型については発言しない方針から、これ以上はやめとこ。

1月23日(金) 穴蔵
 不調である。
 集合住宅関係の雑事があるが、気乗りせず、明日に送る。
 本を読む、目が疲れてCDを聴く、仮眠の繰り返し。
 その間、ニュースを時々チェックするが、イスラム国の人質問題、予想通り進展なし。
 しばらく(週明けまで)はこのままか。
 たちまち夕刻となる。
 専属料理人に色々並べてもらってビール、チリ産安ワイン。
  *
 レンコンをごちゃごちゃしたコロッケとかポテトフライ、あとミニカレー。
 明日こそホリは羽ばたく……つもり。
 おや、かんべむさし氏が大手前大学の文芸講演会に登場予定だ。2月28日(土)。
 これは申し込むことにしよう。

1月24日(土) 穴蔵/ウロウロ
 午前中、集合住宅の雑事。
 気乗りしない作業だが、防犯カメラの画像チェック。きわめて悪質な規約違反があったため、役職上いたしかたなし。
 守秘義務があるため、内容は明かさないが、2ヶ所の出入り口の画像、12時間分を早送りで2時間ほど注視するうちに、ちょっと面白い密室トリックを思いついた。これは有栖川有栖・安井俊夫『密室入門』(メディアファクトリー新書)でも言及されていない状況ではないか。「第三者の視線」が防犯カメラのデータを介してしか働かない(時間差あり)。もう少し検討してみるか(とはいえ、たぶんどこかで書かれているだろうな)。芦辺さんの知恵を借りるか……などと、こんなこと考えながらでないとやってられん作業である。
 午前中でケリをつけ、あとの作業は管理人にお願いする。
 昼、地下鉄で難波へ。
 タイムマシンの部品調達のためナニワネジへ。
 あと、久しぶりにミナミをうろうろ。
 黒門市場は中国人いっぱい。屋台風の店が増えていて、いずれも中国語の案内併記。
 ふぐの店で「まかない丼」(500円)というのを試みたが、うーん、たいしたことなし。
 黒門は「たまごや」が閉店(25年くらい前か)してからいい店がなくった。「あそこ」のカレーうどんは高過ぎだしさ。
 相愛橋筋を抜け、道頓堀、中国人いっぱいあるよ。
  *
 法善寺横町を通って、地下鉄で帰館。
 本日5,322歩。

1月25日(日) 穴蔵/ウロウロ
 定刻午前4時に起床。
 深夜にイスラム国の人質問題で動きがあったような。
 色々と発言したいことはないではないが、やめとこ。
 ただ、ヨルダンにとっては迷惑な話であろうな。
 ここは中山泰秀が男・山村新治郎になれるかどうかの正念場だろう。
 終日穴蔵。
 少しは仕事もするのであった。
 夕刻に近い午後、散歩に出る。
 西コース。許永中の生家あたり〜スカイビル里山〜地下道〜ヨドバシ〜ジュンクドー。
 梅田芸術劇場の楽屋口に大勢の出待ち。宮本亜門のミュージカルの千秋楽らしい。
 ポスター見ても、知った役者がひとりもいない。テレビも映画も芝居も見なくなったからなあ。嗚呼。
 ということで、夜は和風ハンバーグなどありきたりのメニューで南仏の安ワインを少しばかり。
  *
 BURUDIGALAのクレッセント状のパンがうまい。
 早寝するのである。

1月26日(月) 穴蔵
 不調である。
 早朝に(普通ゴミ回収日なので)ゴミ置き場へ行ったら、またも不法投棄。液晶一体型のデスクトップパソコンである。推定23インチ。
  *
 内部の者の犯行ではあるまい。
 が、立場上、防犯カメラの画像チェックをやらねばならぬ。
 午前中2時間。
 これをやると目が疲れて、仕事にならん。本も読めず、ディスプレイに向かう気にもならず。出かけようかと思ったら雨になった。嗚呼。
 昼は焼きそばを作ってもらって、ビールを少しばかり。CDを聴いて過ごす。
 困ったものだ。

1月27日(火) 穴蔵
 不調である。
 いかんなあ。天候不安定のせいかもしれぬ。
 散歩に出ようとしたら雨になる。
 結局、終日穴蔵。これといったことはできず。
 米朝師匠をDVDで3席見る。
 少し気分が晴れてくる。
 落語に限るなあ。

1月28日(水) 穴蔵/ウロウロ
 定刻午前4時に起きる。
 気分はまあまあか。
 早朝からニュース錯綜。
 二股警官(水内貴士)の計画的殺人とか名大女子学生の「殺してみたかった」殺人とか、本来ならトップニュース級の殺人が多いのに、相変わらずイスラム国憶測報道が最優先。落ち着かぬことである。
 運動不足なので昼過ぎに散歩に出る。
 5℃と寒く、淀川堤は無理。梅地下コースとする。
 駅前第1ビル、第2ビル(特にB1階)に立ち飲み屋、海鮮居酒屋が増えている。この場末感がいいねえ。
 京橋や天五とちがって、昼間から飲んでる客はあまりいないようだが。
 6,000歩ほど歩いて帰館。
 15:30からネットでJAXA「小惑星探査機『はやぶさ2』初期機能確認期間の運用状況に関する記者説明会」の中継を見る。
 宇宙作家クラブのメンバー数氏も出席していて積極的に質問している。
 イオンエンジンは4基ともに正常で、順調に飛行、年末には遷移軌道に入る予定。
 こういうニュースを見ていると、おれもその間に何かやらねばという気分になってくる。

1月29日(木) 穴蔵
 終日穴蔵。
 寒くて出歩く気にならない。
 本を読んで過ごす。
 本日0歩。

1月30日(金) 穴蔵
 終日穴蔵。
 月末の処理事項があって出かけるが、あまりの寒さに、地下鉄の駅に行く途中で引き返す。
 7℃だから、こちらの感じ方がおかしいのか。
 体調が悪いわけではないのだが。体力低下か。
 資料を読み、メモを取ったりして過ごす。
 本日716歩。
 ……それにしても「体重が120キロだった時代」に彼女が「同時に80人」さらに「セックス・ボランティア」で「処女40〜50人」「すごいおデブちゃんでもOK」「普通の人が手を出さない女性たち」だから「感謝の声の方が多い」とか。いやはや。フジヤマ将軍としては冷や汗が出てくる。

1月31日(土) 創サポ講義
 寒いのであった。
 終日穴蔵にておとなしく過ごす。
 夕刻に近い午後に這い出て、丸善ジュンクドーを覗き、地下鉄で天満橋へ。
 八軒家浜、ちょうど日没時刻である。
  *
 ここに来るのはいつも17時30分である。前回に来た時よりずいぶん明るい。
 12月から1月にかけて、日出時刻はほとんど変わらず、日入時間だけが遅れていく。
 冬至から40日で、日没は30分遅くなった。春は近いのである。
 エルおおさかにて創作サポートセンターの講義。
 本日は提出されたショートショート9篇について合評会形式で行う。
 今回もオキシタケヒコさんに来てもらった。
 一応の課題は「階段」ということで(どこかに階段がでてくればいいという程度)提出された作品群。
 岬の灯台を舞台にした復讐譚、街中の吸血鬼、奇妙な「自覚的」悪夢、拾われた犬の視点から描かれる女性の殺意、ボーイ・ミーツ・ガール、ループもの戦闘SF、大道芸好きの刑事、団地に住む少年のちょっとした冒険と成長、少女時代の友人との記憶と再会……と、きわめて多彩で、それぞれレベルは高く、欠点指摘よりも、どうすればより面白くなるかの議論となる。
 同じ場面を書くのに「小説的」「映画的」「ゲーム的」にやればどう違うかといった議論は、さらに検討したいところだ。
 まっすぐ帰館。
 遅めの晩酌。
 これといったことできぬまま、早くも1月が終わる。嗚呼。


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