『マッドサイエンティストの手帳』441

●マッドサイエンティスト日記(2008年11月後半)


主な事件
 ・天満JAZZ倶楽部(16日)
 ・滝川雅弘カルテット(18日)
 ・創サポ(29日)
 ・ラスカルズ一麦教会コンサート(30日)


11月16日(日) 穴蔵/天満JAZZ倶楽部
 わ、目覚めれば午前7時である。よく寝た。睡眠時間、8時間以上である。
 穴蔵にて雑事処理。
 午後、自転車でワイルドバンチへ。
 
天満JAZZ倶楽部の例会である。
 本日のテーマは「北欧ジャズ」で、ナビゲーターは、発起人のひとりで東京から来てくれたSさん。
 60年代から最近のプログレ・ジャズまで10曲ほどを紹介。
 なんとなく北欧の「土着性」(※これは近年Sさんが追究しているテーマ)が雰囲気として浮かび上がってくる。
 
 第2部は「持ち寄り企画」で、「Dear Old Stockholm」を色々聴こうというもの。まず原曲の「Ack,Varmelland du skona」をMonica Zetterlundのボーカルで聴いたあと、定番のスタン・ゲッツ、マイルス、その他、バド・パウエルや、ジョン・ルイスの「Warmland」という珍しいのまで 色々。
 ちなみにおれが持っていったのはリチャード・ディヴィスと藤家虹二の2枚。
 なかなか面白い企画だった。
 本日は盛況、しかも「強者」揃いで、珍しい映像の上映もあった。
 17時まで。気分良く帰館。
 ビール、湯割り。早寝するのである。

 ※「土着ジャズ」というのはSさんの造語である。ラテンやジプシー音楽など、特定の地域・民族・宗教などとの融合からジャズを規定しようという考え方である。ただ、楽理などややこしい理屈は抜きで、まず色々聴いてみようという姿勢である。この言葉はそのうち定着するかも。

11月17日(月) 穴蔵
 平日の昼間、つまり世間が活動している時間に、おれもやらねばならぬこと色々あり、粛々と仕事をするのであった。SFではないんだけど。
 昼、金融機関関係+昼飯で1時間ほど外出した以外、穴蔵にて過ごす。
 たちまち夜になった。
 一杯飲んで寝るのである。

11月18日(火) 穴蔵/滝川雅弘カルテット
 わが穴蔵の近くには麺の人気店が多い。
 うどんの「たけうち」「讃州」、ラーメンの「弥七」「麺や輝」など。
 いちばん近いのが
らーめん弥七で、前の公園の道を隔てた場所。
 おれはラーメンはめったに食べないので知らなかったが、ここは人気店らしく、特にこの数ヶ月、昼食時以外でも行列がとぎれない。
 が、昼、外出時に見ると、行列ゼロ。しんとしている。
   
 前の貼り紙を見ると「開店時からのスタッフ新川くんが郷里の広島で独立開店、今のレベルを維持するのが難しいので、新スタッフの研修が終わるまでしばらく休業」という。
 へえ。おれはラーメン店はレシピを決めたらあとはバイトで営業かと思ってたらちがうのだ。
 人気絶頂時に休業とは立派な姿勢だ。行列がとぎれなかったはずである。営業再開したら一度行ってみよう。
 なお、新川くんのオープンする店は広島市役所近く(国泰寺)だそうな。
 広島の腹くん(※)、贔屓にしてやってくれたまえ。
 夜は地下鉄で谷九、SUBへ。
 久しぶりに滝川雅弘カルテットのライブを聴きに行く。
 
 滝川雅弘(cl)大野浩司(gt)中村尚美 (b) 佐藤英宜(ds)
 パーカーやコルトレーン・ナンバーに混じって、「hush-a-bye」がいいなあ。

 ※ちなみに、ここに時々出てくる「広島の腹くん」とはこの人のことである。

11月19日(水) 大阪→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動。
 寒い。
 2階の書斎、室温は10℃を切っている。
 一時、雪までちらついた。
 机下のハロゲンヒーターでキンタマを暖めても体は冷えたまま。
 大阪拘置所の小室くん、つらいだろうなあ。
 朝日新聞の別冊? 週刊播磨「アイ」紙の一面「播磨びと」に上田早夕里さん登場。
 
 播磨で活躍している人のインタビュー記事である。
 落ち着いた雰囲気の写真がなかなかいい。
 上田さんもすっかり「播州文化人」だなあ。短歌ではうちの老母もそうだけど。並べてはいかんか。
 上田さんは全国区。熊本のカジシンみたいになってほしい。カジシンは30年前には「熊本文壇」からいじめられたものだけど、時代が変わったものなあ。

11月20日(木) 播州龍野の日常
 寒さ、昨日よりはましかな。
 一昨日から庭木の剪定が続いていて、書斎からの視界で絶えず植木屋諸氏が動いているから、落ち着かぬことである。明日までかかりそうだという。3日半か4日。年々延びる気配。おれの年間理髪費の○十倍かかる。雑木林にしておくか「葎の宿」の方が風情があるのだがなあ。
 昼過ぎ、老母を龍野公園へ連れて行く。
 11月22〜24日、龍野では「オータム・フェスティバル」というのがあるので、静かなうちに紅葉見物と思ったのだが、紅葉は微妙。散ってるのもあればまだ緑の木もあってバラバラ。
 たぶん月末あたりがいいのだろう。
  
 聚遠亭周辺、人の気配はなく、ひっそりとしている。
 センチメンタルになるぜ。
 ということで、夕刻、植木屋諸君が引き上げたあと閉門。
 剪定はやっぱり明日いっぱいかかるという。4日。延べ11人工。嗚呼。老母が支払うんだけど。
 田舎の諸々のしがらみは断ち切っていきたい気分である。
 村八分? 大いに結構。
 老母が歯痛で食欲なしというので、半流動食というか粘弾性体メニューというか、鮭フレーク入り雑炊を作る。おれは、ほぼ同じ材料+キムチ+豆腐でチゲを作りビールを飲む。
 昼間の「穴子寿司」が残っていたので、これと龍力の熱燗で仕上げ。
 寒くなると、こういうパターンに限るなあ。

11月21日(金) 播州龍野の日常
 播州龍野にて下男仕事。
 ややこしい日である。
 朝も早よから、庭師が剪定やっとるわ、老母は歯痛が続いてほとんど食べないわ、寒いわ、老母の定期検診の日だわ、ややこしい事情でクルマは徒歩7分のところに置かねばならんわ。
 たいがいのことには冷静な判断をくだすつもりだが、あやうくパニック状態になりかける。
 本日「出所」の予定を明日に延ばすことにする。嗚呼。
 昼間ごちゃごちゃ。冷静に雑事の処理を遂行する。
 なんとか全部片づいた。
 庭木の剪定も本日で終了。
 
 ま、唯一ありがたいのは、庭の隅の方まで雑草や枝葉を処理してくれたことである。
 やややこしいS字型が潜んでいるのではないかと警戒していた区画、全部すっきり。
 「穴惑い」のやつがいたとも聞かなかった。
 これで来春まで、安心して過ごせるのである。
 ほっ。
 夜は、老母に柔らかい料理を作り、おれは鍋系でビール・湯割り。安眠するのである。

11月22日(土) 播州龍野→大阪
 世間は3連休の初日。
 おれも短い仮釈放の日である。
 播州龍野では本日から3日間「オータム・フェスティバル」で、市内の数十ヶ所で色々なイベントあり、ジャズ・ライブもあるらしい。明日23日には水田宗親ジャズバンドのライブだが……申し訳ない、ストレス過剰のため帰阪させていただく。
 助っ人来たりて、昼前の電車で移動。午後に大阪にたどり着く。
 ほっとするなあ。
 午後は穴蔵の大掃除。コタツを設置して冬モードとする。
 夜は専属料理人に色々並べてもらって晩酌。
 
 カマボコ+明太子のオードブル、鯛とアボガドのカルパッチョ、和風コック・オ・ヴァン?(鶏+じゃがいも・ゴボウ・タケノコ)などでビール、ボージョレヌーボ。昨夜帰る予定だったから用意していたものらしい。
 単品主義者(←が何かは長くなるので後日に)のおれには、複雑すぎる味で、表現するのが面倒になってしまうのである。コック・オ・ヴァンが何かもわからんのに、その和風となるとなあ。いや、旨いことはむろん旨いのである。
 それでいいのだ。

11月23日(日) 穴蔵/ウロウロ
 穴蔵にて粛々と雑事の処理。
 昼過ぎ、自転車で旭屋へ行ったついでに、天気がいいので御堂筋を南へ。
 以前の勤務先あたりまで。
 御堂筋の銀杏が黄色く色づいている。
 
 センチメンタルになるぜ。
 帰路は三休橋筋を北上。
 と、栴檀木橋の上で大きな楽器ケースをかかえた人とすれ違う。
 ん? 
近藤浩志さんではないか?
 中之島公会堂の前へ行くと「中之島国際音楽祭」開催中で、本日午前は「大阪4大オケ・チェロ奏者 夢の競演」であったのだ。やっぱり。
 おれが近藤さんのチェロを聴いたのは、ザ・ダイナマイツのコンサート・ライブ数回だけど。
 『風の谷のナウシカ組曲』は名演である。
 おれよりも専属料理人の方がファンである。
 大阪ではあちこちで演奏されているらしい。また聴きに行くことにしよう。

11月24日(月) 大阪→播州龍野
 早朝に出る。
 梅田6時始発の阪神電車で姫路に向かう。
 3連休の最終日、乗客の半分以上が朝まで飲んでいた感じの青少年である。嗚呼。
 多くは尼崎で降りた。
 おれはテツではないのだが、最後部の席(車掌室/梅田行きの場合は運転席)の横で、流れ去る風景をボケーーーーッと眺めつつ移動する。
 
 神戸あたりで夜が明け須磨あたりで海から日が昇る。
 たまには、こういうのもいいなあ。
 姫路で朝食……姫路駅・播但線ホームにて駅そばを食す。
 朝9時に姫新線・本竜野着。
 実家へ歩いて帰る途中で雨が降り始めた。
 龍野の「オータム・フェスティバル」最終日なのに、気の毒なことである。
 ということで、下男モード入り。
 終日雨が降り続く。
 20時過ぎに老母就眠。
 やっと落ち着いて、湯割りでも飲むかと、新聞のテレビ欄を見て愕然。
 ABCテレビで19時からの「ドキュメンタリー宣言」という番組で「金嬉老事件」をやってたのだ。いや、たいした番組ではないと思うけど、本人インタビューは見たかった。再放送に期待しよう。
 テレビにも注意すべきだなあ。
 おれは金嬉老事件をライブで見ている。
 この事件を題材にしたのが、劇団四季で再演されている福田恆存作『解ってたまるか!』である。
 初演時の主演は日下武史氏であった。
 日下武史は敬服すべき読書家でありSFファンであった。好きな作家がフレッド・ホイルというだけで、おれはこの人にしびれてしまった。世界SF全集にもエッセイを寄せられている。
 『解ってたまるか!』再演は京都で観ることにしよう。
 這いつくばってスキヤキを食べる「大島渚」役は誰がやるのか? 楽しみなことである。

11月25日(火) 播州龍野の日常
 またも秋晴れになった。
 下男仕事色々。朝食用意。片づけ。ゴミ出し。灯油補給。洗濯。昼食用意。片づけ。宅配便の荷造り。回覧板の受け取りと次への配達。宅配便の発送と買い物。夕食用意。片づけ。
 全部をまとめてやれるのなら2時間かからないはずだが、断続的だから堪らんなあ。
 その間、老母が紅葉を見に行きたいというので、再度、龍野公園へ連れて行く。
 市街地も公園も、「オータム・フェスティバル」終了の翌日ということで閑散としている。
 静かでいいが、紅葉状態は先週とさほど変わらず。
 夕刻、川沿いを散歩。
 
 旭橋より真っ赤な球形の落日を眺める。16時45分。
 紅葉〜夕日〜赤とんぼ(のチャイム)……ああ、老境であるなあ。
 おれ、もっと生臭い遊びの方が好きなんだけどなあ。
 終末に大阪へ戻れば、ジャンジャン横丁で串カツ、あとは某新地へ突撃ツアー敢行といくか。
 出所待ちのチンピラってのはこんな気分で毎日を過ごしているんだろうな。

11月26日(水) 播州龍野の日常
 朝刊の雑誌広告に特集「一生お金に困らない第2の収入の作り方」とある。某BT誌。
 30年以上続いている雑誌だから、読者がそれを実行したら、もう雑誌なんて買う必要がなくなにっているはずなんだがなあ。
 とはいえ、読んだみたくなる。おれの場合、もう手遅れだろうけど。
 小春日和である。
 下男仕事の合間、市立図書館へ行く。
 途中、龍野橋の上から鶏籠山を眺める。
 
 国有林の色づきはなかなか。
 図書館に目的の雑誌はないので、帰路、うかいや書店で5分ほど立ち読み。
 色々と経済事情の初歩を勉強しないといかんらしい。
 まあ、おれの場合「第2の収入」は主に「本とCDとライブと落語会」に散らしたわけで、それがまた「第2の収入」を得ようという意欲につながり、収支ゼロでいいのではないかと思う。
 ということで一日が終わる。
 ビール、湯割り飲みつつ、デフランコの名演「インディアン・サマー」を聴く。
 明日は出所だ。

11月27日(木) 播州龍野→大阪
 朝も早よから下男仕事をてきぱきと片づけ、昼の電車で大阪へ帰る。
 車中、中島義道『私の嫌いな10の人びと』(新潮文庫)を読む。
 その偽善・不誠実・一見良識・お節介・等々を容赦なく斬り捨てる姿勢に感嘆。
 おれには到底ここまでの姿勢は貫けないが、少しは見習って、まずは龍野の「お隣」に(おれだけだが)絶交を言い渡すことにしよう。回覧板を渡すだけのことに(郵便受けに入れとけば済むところを)ブザーを鳴らし家屋内にまで侵入されるのは大迷惑なのである。老母の健康状態の様子見という「大義名分」があるにせよ、だ。身内で世話してるんだから、ブザー鳴らして老母を玄関までヨタヨタと歩かせるのはやめてくれよな、○○はん。
 村八分? 望むところよ。
 身内から嫌われる? いや、身内全員が感じていて、村社会だからいいにくいことを、おれが代表して申し述べるだけのことである。
 と、少し元気が出てきて、穴蔵に戻る。
 
 近くの教会。おれには、播州の晩秋より都心の秋の方がいい。
 ということで、夜は専属料理人に韓国系(焼肉、チヂミなど)並べてもらって盛大にビール、黒糖焼酎のロック。
 早寝するのである。

11月28日(金) 穴蔵
 終日穴蔵。
 のつもりだったが、雑事があって昼間2時間ほど外出する。
 ・某行外為へ行ってT/T(Time Travelの略である)
 ・某医院へ行ってR/C(Regular Checkupの略である)
 ・某チーハに寄ってJ/C(ズージャでヒーコの略である)
 あとは終日、色々なものを読む。
 明日の某講座のために提出作品を読んでいたら、おれにも皆目わからぬ問題に突き当たって、夕刻からあれこれと考え続け。結論が出るはずもなく、夢の中でヒントが掴めることを期待するしかない。
 就眠。悪夢が待っとるぞ。楽しみな……

11月29日(土) 穴蔵/創サポ
 朝から夕方まで、穴蔵にこもって粛々と雑事を処理する。
 昼、やはり麺類が食べたくなって、ちょっと外出。
 
らーめん弥七が営業再開したらしいが、本日は土曜で休み。讃州には行列。
 自転車で5分ほど東へ走り、「寿」にて沖縄そばを食す。
 本庄東にある沖縄家庭料理の穴場である。
 夕刻、地下鉄で天満へ。
 創作サポートセンター専科の講義。
 提出作品3篇についてレクチャー。  「動物小説的時代もの長編」「観念論的SF」「極端な怪談的ホラー」……妙な書き方だが、それぞれ面白く、また少しの工夫でさらに奥行きが出る作品。特にホラーに関しては、おれ自身が「怖がらせる」テクニックに自信がないので、共同討議のかたちとなる。
 昨夜から色々考えていたのも、怖がらせの技術についてである。
 評価に戸惑う問題作が出てくると、おれにも勉強になるなあ。
 で、帰路、地下鉄御堂筋線の中で、星新一さんにばったり会う。
 
 びっくりした。挨拶しようか迷ったが、黙って中津で降りることにした。
 挨拶したら、例のくぐもった声で「やあ、堀くん、ひさしぶりだな」とおっしゃっただろうが。
 声をかけなかった理由は、これに収録のかんべむさし作品ご参照を。
 遅めの晩酌。
 本日も悪夢を楽しみに就眠するのである。

11月30日(日) 穴蔵/ラスカルズ教会コンサート
 わ、秋晴れだ。
 昨夜の帰館時に少し雨が降ったものだから、本日は曇天かと思っていたのである。
 ま、秋晴れは本日で終わり。明日からは12月だから冬晴れである。
 午後、阪急で西宮北口へ行く。
 わわ、えらい人混みだ。
 わわわ、西宮ガーデンズがオープンして最初の日曜ということで、駅から陸橋を延々と行列ができているのである。
 おれは北東側へ行く。
 熊野神社近くの「一麦教会」へ。
 14時から、ニューオリンズ・ラスカルズのコンサートである。  フルメンバー7人揃っての演奏は久しぶり。
 
 窓から午後の光が会場を照らし、雰囲気も音響も最高である。
 教会なのに「2階席」まであって、200人ほどらしい。
 ニューサンではクロージングテーマの「Home Sweet Home」から始まって賛美歌、クリスマス・ソングも。
 「聖者の行進」で終了は16時頃。
 おれとしては心洗われるコンサートであった。
 収監前に「ありがたい」お話を聞いた気分。
 さよう、明日からど田舎に収監である。
 11月が終わり、いよいよ年末。エキセントリックになるぜ。

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