『マッドサイエンティストの手帳』64
●マッドサイエンティスト日記(1998年6月前後半)
主な事件
・イメージワインの某嬢
・小林恭二氏の三島賞受賞を祝う
・中野晴行さんが高校時代の親友の甥っ子とは!
・谷口英治コンサート、感涙(6/13)
1998年
6月1日(月)
まじめにサラリーマン生活。
6月2日(火)
19980602 火 小雨 夕方、アトソン分室でチリワインをアトソンのローランド・カーク五十嵐氏、倉薗さんと飲む。フルーティな香りの強い白ワイン。……これが何かというと、近くに勤務する某嬢からの差し入れ。ネットでお探しの「資料」をこの分室経由でお貸ししていたら、返却時にワインが添えられていたのである。どんな人なのかまったく不明。資料の受け渡しをやってくれた倉薗さんも「まったく年齢不詳」というだけで黙して語らず。ただ、ワインのイメージから想像するしかない。まるで中井紀夫氏が好んで書く都市の怪談めいた話である。
大阪梅雨入り。
6月3日(水)
夕方から会社の近く「シティクラブ」で森本雅樹先生の「宇宙のはなし」というセミナー。ゲストに小松左京、かんべむさし、堀晃の3名。要するににぎやかし。乙部さんも来ている。……森本先生、ひとりじゃ寂しいからと、知り合いに声をかけてこられたのである。が、小松さん、風邪気味で、途中で気分が悪くなったと帰られる。
森本先生のマッドサイエンティストぶりは「宴会」篇はしっているが、講演ではどうなのかと思っていたら、全然変わらないのに驚いた。
「おじさんはねぇ……」で始まる宇宙の話題1時間半。
森本先生は現在「西はりま天文台」館長でもあり、姫路にお住まい。わが実家の圏内である。
6月4日(木)
午後、北野勇作さんが来社。ウィンドウズ機導入に当たって、98時代の5インチ・フロッピーの原稿を3.5インチへ保存するため。
ずいぶん面白そうな原稿があるなあ……。
夜、中野晴行氏とメール。中野氏の母方は龍野市の黒田家という。「黒田明男くん」の従弟かと訊くと、「甥」に当たるという!
黒田くんというのは、1学年下だが、中学高校と「無二の親友」といっていい学友で、姫路への通学途上、毎日、SFやミステリーのことを語り合った仲である。ぼくの最初の作品は、高校時代に学校新聞に書いたショートショートなのだが、これを書かせたのが新聞部にいた黒田くんなのである。……哀しいことに、高校3年の時、急病で死亡。この時のショックも忘れられない。手塚治虫作品を含む蔵書の多くは、当時小学生だった中野晴行さんに渡ったという。
不思議なものだ。ぼくは運命論者ではないが、落語、ジャズ、SFと、中野さんの趣味が驚くほどぼくと重なっている。黒田くんの遺志が引き継がれているとしか思えないのである。
6月5日(金)
朝刊の月刊「現代」の広告に長銀破綻の危機についての記事あり、会社となりの本屋へ行ったら9時過ぎにもう売り切れ。恰幅のいい重役タイプがあたふたと買いに来るのを目撃。早朝開店のアルプス書店のおばちゃん、「何が載ってますねん」と戸惑っている。10時の開店を待って旭屋本町店で入手。……パニックになるほどの記事ではない。それに妙に銀行の広告が多いのが気になる。
6月6日(土)
昼間の新幹線で上京。
神田で中野晴行氏と会う。黒田明男くんの話をする。
夕方から後楽園のイタメシ屋で「小林恭二さんの三島由紀夫賞受賞を祝う会」、アサヒネット関係を中心に20名ほど。幹事は薄井ゆうじ氏。岡本賢一、川上弘美、佐藤亜紀さんら。午後9時からの合流組みもあるという。明け方までになるのだろうか。
ワインがまだまた出そうだが、最終ひかりに乗るために午後8時過ぎで失礼する。
帰宅0時10分。
6月7日(日)
午後、梅田の喫茶店で、塩田、児島、真殿氏と。ソリトンの打ち合わせ。
今回、児島さんと塩田さんの作業負担がすごく多い。
6月8日(月)
宮部みゆき「理由」を読む。宮部作品の最高傑作にちがいない。が……はっきりいって、トリックらしきものはなく、個別の人物の描写が、この量になるとさすがにうんざりしてくる。「家族関係」というよりも「人間関係」が嫌いなおれにはもたれる。
6月9日(火)
午後、眼科で瞳孔を開かれたものだから、あまり仕事にならない。
6月10日(水)
朝刊に油井正一さんの訃報。昨日亡くなられたらしい。
ジョージ・ルイスから山下洋輔まで、その論評はジャズへの愛着に溢れていた。「ジャズの歴史物語」は愛読書ベスト10に選んだことのある名著である。
20年ほど前、仲間内でのジャズ評論家評。
油井正一……正統派
岩波洋三……書いていることと正反対のことが正しい
鍵谷幸信……風呂の屁
6月11日(木)
酔っぱらって、ガラス戸を開けたまま眠ったために鼻風邪。鼻水、終日止まらず。
6月12日(金)
早朝の新幹線で上京、新横浜から日本橋、虎ノ門その他をうろうろ。本日は夜遅くまでSF関係、ネット関係、誰にも会えず。
6月13日(土)
昼前に渋谷タワーレコードを覗く。デフランコ、ドン・バイロンなどクラリネット関係中心に5枚。
午後、赤坂見附。赤坂区民センターのホールで谷口英治カルテットのコンサート。「オーディオ・パーク」という港区のスイングジャズを支援するグループの主催。ゲストにテナーの右近茂とバイブの松崎龍生。後半の松崎龍生さんが出てきてからの雰囲気が素晴らしい。
リズムエースを生で聴いたのは1964年に受験で上京した時だから34年ぶりである! 松崎さんは童顔で、髪はきれいな白だが、表情はほとんど変わらない。
このコンサートもいずれCD化されるだろうか。してほしいなあ。
夕方のひかりでワインを飲みながら帰阪。
6月14日(日)
目覚めるとボンクラ息子がリビングでテレビをつけたまま寝ている。W杯期間中こうなるのか。終日、CDを聴きながらソリトン8号の原稿。テレビの音がうるさい。もっぱら今夜のW杯、日本〜アルゼンチン戦のことばかりである。こんなに「国威発揚」が露骨でいいのだろうか。1億2000万人の夢などという表現まで聞こえてくる。1名は減らしておいてほしいものである。定刻、22時就眠。
6月15日(月)
なんとボーナスが出た。
社長さん、ありがとうございます。
熱血サラリーマン堀晃、がんばりらます。