『マッドサイエンティストの手帳』106
●マッドサイエンティスト日記(1999年5月後半)
主な事件
・ダイナマイツ、大阪国際室内楽コンクール&フェスタに出場
・森山威男研究会・第2回総会
・首吊りホテルに泊まる
・ぼんちおさむの学芸会ジャズヴォーカルを見た。
・幻の串カツ屋に迷い込む
・宇宙作家クラブ・大阪例会
1999年
5月16日(日)
11時前に大阪城公園の近く、いずみホールへ。「大阪国際室内楽コンクール&フェスタ」のフェスタ部門予選。ダイナマイツが出場するのである。
11時から30分ごとの演奏。入場料千円というのは、考えようによっては安い。
入り口付近で、東京から到着したばかりのダイナマイツとばったり。谷口英治氏に声援を送る。ダイナマイツは2番目登場。クライスラーの「中国の太鼓」、ダイナマイツ組曲ということでオリジナルの「ラプソディ・イン・チャールストン」など数曲。クライスラーを頭にもってくるところはクラシックのホールを意識してか。が、後藤勇一郎のヘアバンド、伊藤雅博の金髪と、クラシックの雰囲気ではないなあ。演奏は抜群。音響がいいので、冒頭の谷口英治のクラのソロに改めて感嘆する。
選考結果の発表は午後7時頃というのでいったん帰宅。
あとで問い合わせてみようと思っていたら、夜、谷口英治氏から電話。最終ののぞみに乗る直前、新大阪のホームから。予選突破したという。24グループが8グループに絞られ、本選は20日。また来阪という。がんばってほしい。
チェコから来たグループのフルートがすごい美人だったので、心を奪われて、ワインを飲みながらボケーッとしてしまう。「そのグループも予選通過していたらいいのにね」と専属料理人。む、そのとおり。
5月17日(月)
SF大会「やねこん」にギリギリの申し込み。昨年、一般参加しますと伝えていたのが、3月の締め切りを忘れていて、遅れていたもの。なんだか特権的扱いみたいで気が引けるが、担当者が口頭での申し込みを覚えていてくれたのである。
まあ、今回は実行委員会のご好意に甘えることにする。
5月18日(火)
早朝のひかりで静岡から清水へ。
慌ただしくも午後上京、セカセカウロウロの後、夕方、阿佐ヶ谷の某ホテルにチェックイン。
何度か利用しているホテルだが、先日の長銀副頭取の首吊り現場である。
ホテル正面で確認。やっぱりテレビに映ったとおり。間違いない。なんだか、おなじみ長銀のビルに似ている。長銀の大阪支店長がまた自殺したばかりだしなあ。7階だと文句をいうつもりでいたら。8階だった。「たいへんでしたね」といったら同年輩のフロントマン、黙ってちらっと黙礼しただけであった。……これが大阪だったら、まあ聞いとくなはれ、えらいことでしたんや。見つけたのがワシですけど、鼻水たらしとるわ小便もらしとるは……とはならないか。
8階の部屋からの眺め。青梅街道沿いにはビルが建っているが、その裏は見渡す限り住宅街で、3階建ての建物などまるで見あたらない。このどこかに元副頭取・上原隆くん59歳の豪邸があるのだろう。
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上原くん、死ぬだけの理由はあったのだろうけど、ご近所に迷惑はかけるなよな。会社の寮(自社設備)で首吊りした大阪支店長の方がまだましだ。と死者を鞭打つ。
夜、森山威男研究会の第2回総会である。
夜中、森山さんと新潟のおふたりを荻窪まで送り、そのまま阿佐ヶ谷へ。
コンビニでペットボトルを1個買って、「通いなれたる欅の経」をブラブラとホテルまで歩く。
元副頭取・上原くんが「首を長くして」待っているような気がして、思わず歌が出ちゃうね。
友と下がらん 首懸の径
通い慣れたる トバシ屋の径
縄目の軋み 静かになれば
命果てるよ 首懸けの径
教訓:死者は生者を煩わすべからず。
わしゃ、そうしたい。そうするつもり。
上原も支店長も、首を絞める前に、ゲロを全部吐けばよかったのだ。
吐かないまま懸るから、何の関係もないチンピラSF作家にボロクソに言われる。
恥をかくのが辛かったのかなあ。今岡清とか五十嵐敬喜という手合いが、恥を恥じとも思わずギトギト生きているのとはえらい違いではありますがね。こいつらは、わしから見たら生き恥なんだが。よく自殺せんものよ。生命力旺盛でいらっしゃいます。
と、なんだか首懸けの経の妖気が吾輩をして余計な発言させるの気配。
妖気漂う並木道である。
5月19日(水)
雨である。都内ウロウロののち、早目15時台のひかりで帰阪。
午後7時から、まだ集合住宅の理事会なるものに拘束されているのである。午後9時過ぎ終了、やっとビール。阪神圧勝、強いなあ。
5月20日(木)
会社を昼ちょっと前に出て、いずみホールへ駆けつける。大阪国際室内楽コンクール&フェスタ、本選は入場料2千円になっている。12:15からの30分間がダイナマイツの出番、まるでぼくに合わせてくれたかのような時間である。ウチの専属料理人とその友達も応援に来ている。チェコのグループは残念ながら残っていない。グスン。ダイナマイツ組曲、予選とは別の構成で快演。後方からブラボーの声があがった。……「前祝い」で昼飯にワインでもと思ったが、会社があり、「外出証」を持ってそそくさと帰社。夕方までマジメサラリーマン。定時にそそくさと退社して、ふたたび地下鉄でいずみホールへ。18時30分頃からコンクールの発表と表彰式。なんと三笠宮寛仁が「ご臨席」である。
挨拶は「まとも」であった。
いよいよ発表。入試の発表を待つような緊張感。予選通過の8組中、日本のグループはダイナマイツだけである。ダイナマイツは金銀銅に続く「特別賞」、残念ながら賞金なしだが、しかし、これは大健闘というべきだろう。
5月21日(金)
ボンクラサラリーマン、終日仕事。
遅く帰ったら、谷口英治さんから電話あったらしい。選考結果には納得している、むしろ海外関係から賞賛されたらしい。夏のコンコルド・ジャズ・フェスティバル出演決定といい、いよいよ海外活動が本格化しそうで楽しみである。
5月22日(土)
6時に出て「別荘」方面へ。
夕方、大阪に舞い戻る。
天満の「える大阪」で、シナリオ学校「エンターテインメント講座」の「実技指導」。本日の行使は田中啓文氏である。「黒子」「Sの集団・Kの集会」というホラー系の2作。田中氏の添削、徹底している。一文ずつチェックしてあって、たいへんな手間をかけてある。SFに無関係ではないので、ぼくもあとでちょっと感想を述べる。
田中哲弥氏も来ていて、いつも背中しか見えず、珍しく、正面から顔を見る。……近くの中華料理店で22時まで。
田中啓文氏と田中哲弥氏。田中派が増えたなあ。
5月23日(日)
いかん、肉体労働の疲れと二日酔いで、終日ごろ寝。
5月24日(月)
雨の月曜日で気の重いことばかり。
失恋したような気分である。
売れないSF作家が美貌のフルート奏者に言い寄ったが、見事に振られた。その結果、どうなったでしょう。・美貌のフルート奏者は思い出を胸に黙ってチェコに去った。・日本のSF作家はバカ丸出しよと言いふらした。さあ、どちらでしょう。
答えは後者。昔からよういいまっしゃろ。「内緒では振れぬ」
……何か悪いものが感染したのか。
5月25日(火)
6月初めのパリ行き旅券を受け取る。
5月26日(水)
日曜日から盲腸で入院している某部長(同い年)を見舞いに行く。見舞いというより仕事。携帯では連絡がつくが、見舞いにこられるのが煩わしいからと、病院名を明かさない。しかし、緊急に相談しないといけない事態が生じて、ともかく病室で相談しようということになる。……奈良の某病院。2時間かかるかと予想していたら、1時間ちょっとで着いてしまった。が、病室はもぬけのカラ。何かあったのか。容態急変かと看護婦に聞いたがわからない。所在不明である。……心配していたら、病院から百メートルほど離れたコンビニへ雑誌を買いに行っていたと、パジャマのまま歩いて帰ってきた。なんというやつだ。見舞いはそっちのけで、病室で作戦会議1時間。久々にモーレツサラリーマンに戻る。
夜、来阪中の兄と会う。新聞によれば某社常務に昇格である。祝いということで、居酒屋でビールのあと、例によってサントリー5へ。
スイングの日だが、なんとボーカルの飛び入りで「ぼんち・おさむ」が出てきた。
2曲歌う。ヘタクソ。漫才がダメだからジャズ・ヴォーカルに活路をという魂胆か。しかし発音が中学生以下で話にならない。橋幸夫でいいんだよ、おさむちゃん。
おさむちゃんの「学芸会」を無視して忠臣蔵の話を遅くまで。SF解釈による忠臣蔵の新パラダイムは可能か。……兄弟で夜中までしゃべり飲むという仲は、世間の男兄弟では珍しいらしい。よく不思議がられるが、これは中学・高校時代から変わっていないのである。ただし、賢兄愚弟というのは世間でよくあるパターンで、この点では先日、森山威男さんと話が一致した。
5月27日(木)
夕方、上六の近鉄小劇場へ。サウスサイド・ジャズバンドのコンサート、結成29年である。専属料理人と行く予定が、ボンクラ息子の学校行事と重なったため、某クマ社のK川嬢を誘う。
リクエスト大会という方式。クラの吉川氏、なんとバンジョーまで弾く。
ラストの「メリーランド・メリーランド」、藤森省二渾身のアレンジというが、これは文句なしに素晴らしい。長年聴いてきた中でも指折りの演奏だろう。ほとんどアドリブを排して、マーチング・バンドの原点を極めたという雰囲気。ベースでなくチューバというのもいいし、コルネットのマッシー池田が緊張気味であるのが面白い。ぜひともCD化してほしいものだ。
終演後、 ビールでも飲もうと、上六のハイハイタウンという食堂街へ。ここは居酒屋が並んでいて、あと寿司屋、ヤキトリ屋など似たような店ばかり。迷ったあげく、なぜか串カツが食べたくなって、いちばん奥の方にある一軒に入る。
ここがビール大瓶500円と安い上に揚げたての串がなかなか。こりゃ当たりだと 落ち着いて壁を見ると雀三郎独演会のポスター。林家染語楼の会のも。
店の名前が「やぐら」。
ひょっとしてと気になって「ここは京橋の『やぐら』の姉妹店ですか?」
「やぐら」というのは、京橋……というよりも旧アパッチ村に近い所にある、深夜2時開店(!)という不思議な串カツ屋。雀さんの常駐店で、この店がスポンサーになって募集した新作落語コンテスト「やぐら杯」の受賞者が北野勇作さん、という一種伝説の串カツ屋。一度行ってみたいと思いながら、2時開店ではねえ……。
と、店主曰く。「あっちが立ち退きになって、ここへ来たんですわ」
なんと、「やぐら」は上六にあったのである。
それにしても、迷路みたいな地下のいちばん奥にある串カツ屋に入り込んでしまう とは不思議な縁。引き寄せられたとしか思えない。
横で飲んでいたのが林家染語楼師匠と「上方笑会」事務局長の松井さん。
記念写真を撮ろうと並んだのが左の写真。……談語楼師匠の左手に注目。並んで2秒でこの早業である。
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22時半まで飲んで、帰宅23時。
不思議な日だった。
5月28日(金)
ボンクラサラリーマン、マジメに仕事。
5月29日(土)
集合住宅関係の雑用が多い。
夕方から「宇宙作家クラブ」大阪例会。
帰宅22時前。
5月30日(日)
集合住宅関係の雑用が多いなあ。
なんやかやで夕方になってしまった。
夕方からワッハ上方へ。先日「やぐら」で会った染語楼師匠の独演会。北野勇作氏といっしょになる。
「第6回 林家染語楼独演会」午後6時〜8時20分
「江戸荒物」 林家染語楼
「田楽喰い」 林家染二
「鹿政談」 林家染語楼
(中入)
「爆笑コンサート」 桂雀三郎withまんぷくブラザーズ
「市民税」 林家染語楼
なんと補助椅子の出る満員盛況。
染語楼師匠を実は初めて聴くが、実にストレートで端正、人間顔つきで判断してはいかんのだと思い知る。(むろん顔を見りゃわかるというのはあり、麻原某とか五十嵐敬喜など顔といかがわしさ、チンケさが一致している代表例。落語家には当てはまらないのだなあ。
雀さんバンド、これも初めて聴く。サイドメンのうまさに支えられてヒットという典型。しかし、なかなか面白い。
おさむちゃんのジャズ・ヴォーカルがダメなのと対照的。おさむは、どこか物欲しげな印象で、それが歌に出てしまう。雀さん、決してうまくはないのだが、楽しんでやっているのが、いい方向につながるのだな。……貧すりゃ貪す。
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このところ遊びすぎなのでまっすぐ帰宅。さすがに日曜夜に外で飲む元気はない。……北野勇作さん、6月8日からネパールへ一月行くという。パリから帰るぼくとすれ違うことになるのかな。
5月31日(月)
楽しい月曜日。
ボンクラサラリーマンをやっているうちに5月が終わる。
5月は首吊りの月か……。