HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』10

●「最初の接触」から半世紀が経過した

1996年11月2〜3日開催の「コンタクト2」プログラムブック掲載のメッセージで す。ぼくの「最初の接触」についての基本的な考え方でもありますので、ここに再録して おきます。

「ラインスターから半世紀」

 ハマコンでFCSに参加して以来、何度かのファースト・コンタクトに立ち会って来 ました。なんだか初恋を何度も繰り返しているような気分です。
 ここで、ぼくのFCについての初心を整理しておきたいと思います。
「ファースト・コンタクト」の発明から半世紀が経過しています。
FCの歴史は、「わが心の師」のひとり・マレイ・ラインスターの短編「最初の接触」 に始まります。初出はASF誌1945年5月。終戦の翌年、筆者(堀)がまだ1歳にな っていない時期です。本邦初訳はSFマガジン1964年8月号。伊藤典夫氏の訳。解説 に、エフレーモフ作品はこの作品の影響下に書かれたとの記述があります。
ここでいうエフレーモフ作品とは、イワン・エフレーモフ「宇宙翔けるもの」で、SF M1961年10月号に掲載されています。袋一平訳。初出は不明ですが、冒頭に「黒い エントロピー」といった表現が出てくるあたりが凄い。相手は「フッ素人」で、コンセプ トは「一目惚れ」でしょうか。
ラインスターの日本における「不運」は、エフレーモフが先に訳されたことにあるとい えます。
ネタバラシになりますが、ラインスターの設定は、どうやら同程度の科学技術を持つら しい種族の宇宙船がはじめて異境で遭遇する。手の内を明かしても、引き下がっても(追 尾されて)「侵略」される危機が生じる。にらみ合ったまま身動きとれなくなる。……S F事典のたぐいに、結果は「そのまますれ違う」という紹介を見たことがありますが、こ れは間違い。絶妙のオチがつきます。(さらにいえば、ラインスターの着想は、昔、イン ディアンの部族が遭遇してにらみ合いになった時、気を鎮めるために酋長がタバコを一服 やった。これから、タバコを交換する「儀式」が生じた……このエピソードにあるのでは ないかというのが、ぼくの推測です。)
ラインスター作品は「好戦的」過ぎるという「批判」が一部にありましたが、なにしろ 戦時下の作品であり、ハインライン同様、「好戦的」と片づけるわけにはいきません。
ぼくはラインスターの抜群のアイデアを評価すべきで、エフレーモフは描写力では確か に凄いのですが、「一目ぼれ」の方がありそうにない。
ぼくにとってのファースト・コンタクトの原点は、ラインスター作品であり、「狭義の ファーストコンタクト」テーマとは、ラインスターの設定に対して、他の解が見出せるか 、という「冷たい方程式」に近いものなのです。そして、エフレーモフの「解」は、感動 的だがやや甘い印象です。
この二作品を起点にFCは拡大し、特に科学技術的スケールは、ニーブン、パーネル、 ベンフォード、石原藤夫、セイガンに引き継がれて発展して行きます。
また、「広義」に解釈したFC作品では、「カルチャーショック」との混同が見られま すが、これを論じるときりがないので省略します。(現実の事件でショックを受けたのは 、20年ほど前、タモリのハナモゲラ語の原点になった、中村誠一の「はじめて日本に来 たアメリカ人に聞こえる日本語」という芸に接した時。「FCが初めて宇宙人側から」描 かれた例であると驚いた記憶があります。テナー奏者・中村誠一氏は筋金入りのSFファ ンでもあります)
FCSはこうしたFCのすべての要素を取り込んで「衆知」を集めるわけで、毎回、予 想もしなかったコンタクト・パターンが現れるのが楽しみです。
 ラインスターから半世紀、まあ、すごいところまで来たものだと思います。
 願わくば「元祖」を越える、驚天動地のアイデアを……。


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