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『マッドサイエンティストの手帳』338

●『砂に書いたラブレター』


 『朝はミラクル』の本日(5月23日)のテーマは「ラブレター」であった。
 こりゃおれには関係ないわと、ボケーっと聞いていた。
 ラブレターなんて貰ったことも書いたこともない。
 ただ……いくら手紙を書いても返事を貰えない相手から、必ず返事を貰う「奇策」というのはある。これはおれの発明である。
 これを話したら、たいていの人は感心する。
 が、しばらくして、アホちゃうかという話になる。
 むろん実行したアホに対してである。……おれのことであるが。
 これは「ラブレター」というよりも結果としての「絶縁状」みたいなもので、ま、これ以上の内容は明かさないことにしよう。
 ……などと考えていて、番組終了間際(10分ほど前)になってちょっと思いつくことがあり、朝ミラのHPからメール投稿したら、ギリギリでかんべさんが読んでくれた。その迅速さというか「速報性」にはちょっとびっくり。
 たいしたものである。
 わが投稿はつぎのような内容。
 パット・ブーンの『砂に書いたラブレター』が流れたので思い出したのである。
 原題は『Love Letters in the Sand』でlettersと複数なのがポイント。
 つまり砂に「恋文」を書いたのではなく、二人で「L O V E」という文字を書いた。これを波が消すので、何度も書いたというのが正しい解釈。
 中学時代から聴いていて、これを知ったのは30歳過ぎてからだと思う。
 これは「誤訳」ではないと思う。「直訳」が「じつにいい邦題」になった代表例だろうな。
 昭和10年代はじめのディック・ミネのアルバムでは『恋の砂文字』で、これは少し野暮ったいけと正しい訳。『砂に書いたラブレター』になったのは旗照夫あたりからかな。
 「名訳だが誤訳」というのはあって……
 まず『言いだしかねて』(I can't get started (with you))……故・大瀧譲司氏が口を酸っぱくしていってられた。「こんな大法螺吹きの男が、内気で言い出せないなんてこと、あるはずがない」……同感ですなあ。
 つぎが「You'd be so nice to come home to」で、ヘレン・メリルが歌ったのが大ヒットしたから「帰ってくれたらうれしいわ」と、女が男の帰りを待つ曲のようにとられがちだが、むろんもとのミュージカルの設定からいっても、男が「あなたが待っている家に帰れたら素敵だろう」と歌っている。……ややこしいからジャズメンは「ユードビー」というらしい。
 で、おれが思う「迷訳にして誤訳、トンデモ訳」の代表は、「Do you know what it means to miss New Orleans」を『ミス・ニューオリンズを知ってるかい』と訳したやつだろうなあ。ニューオリンズで美人コンテストがあったわけじゃないぜ。「to miss」なんだから、動詞に決まってるでしょうが。……もっとも、この誤訳も、わざとシャレで使われることがある。
 「ミス・ニューオリンズ」といったらこの曲しかないわけだし。
 おれなら浅草オペラ風に『君よ知るや懐かしのニューオリンズ』といくねえ。
 などと書いたが、おれの英語力はあやしいもの。
 それに、今の映画のタイトルがそうだが、原題をカタカナ表記したものより、やはりこなれた邦題の方が好きである。
 賛美歌や黒人霊歌ではいい日本語タイトルの曲が多いが、これも最近はほとんど原題で紹介される。(海外ミュージシャンとの共演が増えたという事情もあるしねえ)
 寂しいところであります。
 「名訳」の代表といえば、「Get out and get under the moon」を『月光値千金』とした伊庭孝の訳で、漢詩の格調が漂い、エノケンの名唱とともに、日本のスタンダードとして定着している。
 エノケンは素晴らしいと思うが、功罪の「罪」もあるぞ。
 「Louise」で、おれはベニー・グッドマンなどで大好きな曲なのだが、エノケンが映画の中で「ナムアミダーブツ、ナムアミダ」と歌ったものだから、このフレーズが頭から離れない。このエノケンの曲、邦題は……もろに「ナムアミダブツ」だったっけ。けだし「超訳」というべきであろう。

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