『マッドサイエンティストの手帳』269
●マッドサイエンティスト日記(2003年3月後半)
主な事件
・滝川雅弘月例ライブ(18日)
・民族博物館で退官記念講演を聴く(19日)
・浅田稔教授と話す(21日)
・三澤隆宏氏、転石公演に来阪(21日)
・谷口英治『BRAND NEW SWING』を聴く(27日)
・「乾坤価千金」林英哲meets山下洋輔(29日)
2003年
3月16日(日)
雨である。
終日穴蔵。
専属料理人は実家、ボンクラ息子その2はバイトとあって、3食ともひとり。
冷凍してあった肉を解凍、野菜を炒めてビール。専属料理人がいなくても結構マメにやれることを再確認する。
他人に食べさせたくなるところが恐ろしい。
いずれは「寝床」の旦那か。
3月17日(月)
終日穴蔵。
夕刻、専属料理人不在4日目にして、さすがにメニューを考えるのが面倒になり、ボンクラ息子その2と近くの安くて旨い北京料理「菊華」へ出かける。
春巻き、ピータン、エビのチリソース煮、八宝菜など並べて、ビール、紹興酒。さすがに満腹。
NHK特集「江夏の21球」再放送を見る。感動的である。
3月18日(火)
朝10時、ブッシュの「最後通告」演説を見る。フセイン亡命に48時間の猶予という。ということは、20日午前10時に爆撃開始か。湾岸戦争の時刻に似てくるなあ。
終日穴蔵。
夜、谷九のSUBへ。
滝川雅弘カルテットの月例ライブ。本日のベースは中村尚美さん、指がきれいで繊細である。前のベース・山口裕之さんは上京したので、当分は中村尚美さんがレギュラーのようである。
滝川雅弘応援ページのメンバー写真を入れ替える。
1ステージ。「私の彼氏」「ボディ&ソウル」をボサノバで、古い曲で「Ih I had you」など、色々。
2ステージは客が4人になって、しかも常連ばかり。リクエストがコルトレーンに集中して、コルトレーン特集になる。
どうでもいいけど「コルトレーンも死んで10年以上やな」の声。アホな20年以上でっせといったが、67年死亡だから、もう35年だ。まあ「10年以上」は間違いではないけど。みんな歳とってきたなあ。
ジャイアント・ステップス、ソウル・アイズ、インプレッションズなど。オーレで最後のはずが、最後の曲の途中で新規来客。おまけで「サニーサイド」。これもコルトレーンが演ってたな。いい夜であった。
3月19日(水)
昼過ぎに出て国立民族博物館へ。
今年度末で石毛館長、杉田教授らが退官されるので、退官記念講演と記念パーティがある。
退官記念講演は、
栗田靖之教授「ブータン研究を振り返って」
杉田繁治教授「情報工学と民族学との出会い」
石毛直道館長「食べるお仕事」
杉田教授(副館長)とは産経新聞で情報化社会についての対談が縁で、以来、なにかにつけてご教示いただく機会が多かった。石毛先生との関係で、いっしょに飲むこともあり。工学部出身(工学博士)というキャリアも異色だが、電気工学から民族学への転機について話された。
直接的には梅棹忠夫先生の「コンピュータ民族学」提唱によってだが、潜在的には、アメリカの学問風土に慣れていたことと、それにウイナー「サイバネティックス」とチョムスキーの著作に感化されていたので、情報工学(コンピュータ翻訳の研究)から民族学へ移るの迷うことはなかったという。
石毛先生とは小松事務所や米朝独演会で知遇を得て以来、毎年の花見会、宇宙作家クラブで「民博の倉庫」見学に押しかけたり、この20年、ずいぶんお世話になってきた。
「あまり自分のことは話さないのだが、やはりこういう機会なので」と、考古学から民族学、特に「食の文化」研究に至る過程を話された。「著作目録」をいただいたが、2000項以上のリストに改めて研究分野の広さと精力的な活動に驚く。
茨木駅前に新事務所を開設されるそうで、これからはここが溜まり場になりそう。
夕刻から、近くの「オオサカサンパレス」で記念パーティ。
上記3氏と助手の福川圭子さんが退官とあって、会場、偉い人ばかりである。
長尾真先生はじめ、民博関係の学者以外には、「人間国宝」桂米朝師匠、小松左京の両巨匠。食関係で奥村彪生さんや程一彦さん。マスコミ関係、吉鹿前サンケイホール社長や古吟画伯、その他……かんべむさしやおれなんぞ、ただの若造である。
「開戦前夜」ということで、米朝師匠から先代ブッシュを思い出す。
米朝師匠と先代ブッシュはよく似ていて、週刊文春のグラビアに出たこともある。
昔の米朝師匠と今の小米朝さんはそっくりである。先代ブッシュと今のブッシュもまあ似ている方である。小米朝と今のブッシュは似ていない。アタマの中身も性格も見識も、小米朝の方が遙かに優れている。
同じ親子でもえらい違いである。
パーティはエライ人が多いだけにガツガツしたところがなく、いつもなら行列が出来る寿司のコーナーも実に穏やかな雰囲気であった。
3月20日(木)
終日穴蔵。
「定刻」の10時、まだ「開戦」せず。
落ち着いて机に向かっている気分にはなれない。
こまかい雑用の合間に断続的にテレビで一日が過ぎる。
日本時間の昼前に、米軍が「少し爆撃」したらしい。巡航ミサイルも?
夜の報道では、これがフセイン親子を狙ったピンポイント攻撃であったらしい。
仕留めたのだろうか。
結局、夜中まで、終日テレビ。
3月21日(金)
快晴。春の陽気である。
午前中、某紙でロボット・テーマの対談があり、カメラマンの指定で「ノーネクタイで、できれば春らしく」という。やや薄着、暖かいので助かった。
大阪城に近い会場で、相手は大阪大学の浅田稔教授。
何度かしゃべっていて、気心は知れているし、どんな話題を振っても柔軟かつ的確に話してくれる方だから、こちらは大まかなテーマをメモして、どちらかというと聞き役である。
ロボットとSF→産業用ロボットから自律型ロボットへ→21世紀型ヒューマノイドの可能性→ロボット産業の展望→「見えないロボット」とユビキタス→ロボシティ構想
という流れで、各項に5、6ずつのサブテーマをつけたメモを見て、浅田先生「これに沿ってなら20時間くらいしゃべっても足りない」
……いや、実際、2時間くらいの予定が、ランチの席まで含めて4時間!
オフレコ部分に爆笑ネタ(ロボットとチンパンジーとか)が多く、メモし忘れたのが惜しまれる名言(「真実は捨てたデータにあり」とか)もいくつか。
特許関係で質問したのに関連して、某社のOSは「怪しい」のでリナックスが主流と、林譲治氏が泣いて喜びそうな話もあった。
浅田先生は明晰で話は尽きない。本日は超多忙のなかの閑1日のようである。来週にはイギリス、スペイン、オーストリアとか……が、その割に最新の映画やDVDにも詳しいのであった。
帰宅、午後2時半。
穴蔵に戻ったら、ただちに三澤隆宏さんから電話。
月初めに地球村で会ったところだが、昨日から大阪に来ているという。
東洋ホテルの喫茶室でビールを飲みながら雑談。
昨日から大阪ドームのローリング・ストーンズを2日とも聴きに来ているという。「ロック世代」であって、武道館で聴き、横浜で聴き、大阪ドームは2日とも聴くというから、来日公演の半分くらいを追っかけかな。森山威男追っかけどころではないなあ。……が、森山威男さんや、なんと上山高史さんのライブも企画しているというから不思議だ。おれがジョージ・ルイスから谷口英治まで聴くのと同じで、三澤さんとおれの共通項(集合で「積」にあたる部分)が森山威男というところだろうか。
明日も大阪ならトラディショナル・ジャズ方面を案内するのだが、帰京後、来週はニューヨークという。
今はややこしそうだがなあ。
ニューヨークのライブハウス事情なども聞く。ストーンズ開演1時間前まで。
今日はよくしゃべった日だ。
あとはまた夜中まで断続的にテレビの戦争中継。フセイン親子を狙った「最初の一撃」は当たったのか空振りか、いまだ不明。当分わからんだろうな。
3月22日(土)
終日穴蔵。
午後、雨になる。
と、ポタポタと雨漏りのような音。
日頃は使わないガス台のところに水滴が落ちてくる。あわてて上階の部屋へ連絡。どうやら新設した食器洗い機のパッキンかの水漏れを修理中で大騒ぎの最中らしい。
止まったのならいいかと思って引き上げたら、突然の「来客」。水漏れ箇所を確認させてくれという。
「あまり人は入れないんですが」と断るがおかまいなしに「どこどこどこ」と「穴蔵」に上がり込まれる。……うーん、かなわんなあ。
軽微な事故だから、保険金請求はしない、そのかわり突然の「仕事場公開」も勘弁してほしいのだが、こういう物書きのデリカシーは世間では通用しないのだなあ。
本が濡れたわけでもないのだが、気分悪く、あとは仕事にならず。
3月23日(日)
仕事せず、酒飲んで早寝したら3時に目が覚める。
5時、テレビで戦況見る。バグダッドへの北上組、ユーフラテス川を渡って、半ばまで達したという。4日でバクダッドという予言はまあ近いのかな。「日本の話芸」再放送はなし。
穴蔵に籠もるが、昨日のつづきで、気分がのらず、雑読。
午後、集合住宅の理事のひとりから「謎のシール」についての連絡を受ける。いっしょに何階か調べると、ウチにもかなりの部屋に貼られている。
ネット検索してみるが、それらしい情報は見あたらず、HPにアップする。
夕刻、専属料理人が帰宅。
久しぶりに家族揃っての夕食。
こういう場合、静岡の特産品と決まっているのである。
シラスおろし、あじのひらき、天ぷら(桜エビかきあげと春野菜)、黒はんぺん、わさび漬けでビール。
テレビで『ハンニバル』を観る。未見であったのだ。レクターが「罠にかかる」ところだけがちょっとチャチだな。
3月24日(月)
朝刊に天本英世氏の訃報。
なんといっても『暗黒街の対決』の殺し屋だなあ。『血と砂』もよかったが、「殺し屋」役が際だっていた。架空の職業に「本物か」と思わせる存在感を感じさせたところが凄いのである。
ネクタイして出かける仕事の日。
ついでに、近所の医院で血圧を調べてもらい、午後、梅田の三木歯科で半年ごとの検査。
帰路、梅田ロフトのQBハウス。客がいないようなので、この際散髪もと入ろうとしたら、すぐ前にいたオバハン2人、なんとここ入っていく。なんと1000円散髪をするのであった。
先を越されたので中止。しかしなあ……。女(もと女か?)がQBハウスに来る時代。いや、普通の理髪店も含めて、オバハン来店をオッサンは初めて見たのであった。まあ劇場では、オバハンは男子トイレに堂々と入ってくるから、驚くほどのことではないか。
夜、「世にも奇妙な物語」見る。小林泰三『影の国』があると聞いていたのが、なんと最終話であった。23時まで。
3月25日(火)
米英軍、バクダッドまで100キロで「苦戦」のようである。進軍、ストップしたままのようである。4日でバクダッド攻略ではなかったのか。
「最初の一撃」どうも空振りの気配濃厚。
早朝の電車で播州龍野のタイムマシン格納庫に移動。
実家にも寄る。
夕刻帰阪。
紀伊国屋で、佐々木千賀子「立花隆秘書日記」(ポプラ社)を見つける。
佐々木さんは10年ちょっと前まで小松左京事務所の秘書だった。立花隆事務所の秘書を経て、今は那覇在住のようである。……この本については別項。
3月26日(水)
終日穴蔵。
室温21℃で快適である。花粉情報では「非常に多い」日なので、穴蔵に限る。
イラクは砂嵐がひどいらしい。花粉よりましか……などというまい。ブッシュなど「兵役を回避してきた連中」が「現場」を実感していないのがいかんのだ。
3月27日(木)
午前中「ネクタイ」仕事である。
ついでに昼前の空いた時間に旭屋を覗く。
久しぶりに全館巡回、ちょっとほしい本が多い。ざっと計算してみたら3万円を超える。結局、5000円以下に押さえるが、3年前だと全部衝動買いしてところ。
デスクピアで谷口英治の『BRAND NEW SWING』、こちらは迷うことなし。
夜、夕食時にテレビでアナウンサーが、
「カオイロなしであります!」
と叫んだのでびっくり。
プロ野球OBとタレントの野球試合で、タレントが元プロを三振させたところ。「顔色なし」と台本に書いてあるのをアホアナが誤読したらしい。つまり「試合」といっても台本にしたがった「芝居」であることを露呈しているわけ。語るに落ちるとはこのことであるなあ。
ボンクラ息子その2がアホテレビを独占しているので、しかたなく、白ワイン半分ほど残ったボトルとチーズ、フランスパンなど持って穴蔵に移動。
ワイン飲みながら『BRAND NEW SWING』を聴く。
Eiji Tanigichi (CD:ARTCD-105)
このCD、あまりジャズには熱心と思えないディスマピア梅田でもPOPを作って、目立つように置いてある。力を入れているらしい。
今回のアルバムはピアノレスでヴィブラホンが参加。
藤井寛のビブラホンは初めて聴くが、逸材というのはいるものだなあ。
ワイン飲みながら谷口英治のモダン・スイング満喫。
「私をうならせてしまう程のプレイを展開する」(北村英治)。
確かに、最初の「Seven come eleven」のヴァイブとの相性のよさ、「UNDICIDED」のユニークな解釈、「PICK YOURSELF UP」の軽やかなスイング感など、どれもこれも「極上のモダンスイング」。文句なしの推薦盤である。
さっそく谷口英治ディスコグラフィーに追加。
これで今年は滝川雅弘『枯葉』、谷口英治『BRAND NEW SWING』と、モダンなクラが早くも2枚。
ジャズクラ・ファンとしては嬉しい限りだ。
あ、谷口英治がゲスト参加したという、ポルノグラフィティ「ワールディリア」というのも探さなきゃなあ。
3月28日(金)
ブッシュ「着実に前進」といっとるが、米軍、バクダッドまで100キロで足踏みである。
ネクタイをしての仕事があって、自転車で梅田まで。
本町にあるパソコンショップが閉店するので、ポイント消化に行こうかと迷うが、花粉飛散は多く、昼前に穴蔵に戻る。
集合住宅関係の雑用が錯綜。
「謎のシール」については、ネット関係、他のマンション関係からの情報を総合して、犯人も目的の不明だが、全部はがすことにする。
介護関係のことでの話し合いも。……ケアマネージャーという人たちも4月は移動のシーズンらしい。担当が変わるという挨拶のついでに、鬱陶しい話も色々。
季節は春だが、気分は梅雨空である。
3月29日(土)
朝、「まんてん」の 最終回を見る。……というよりも、最終回になって初めて見るのである。
本当に宇宙へ行ったらしい。2009年7月22日の皆既日食を見る場面。なるほど。
しかし、せっかく宇宙空間へ出たのなら、地球にばかり目を向けないで、もっと遠い宇宙を目指してほしいなあ。……ま、そのうち総集編があるだろう。
午後、専属料理人と出かける。
心斎橋の東急ハンズ。システムダイアリーを探すが、リフィルが少しある程度。25年使ってきた皮のバインダーがすり切れて限界なのである。通販しかないか。
ここから歩いて、厚生年金会館・芸術ホールへ。
「乾坤価千金」林英哲meets山下洋輔。
満員である。休憩挟んで17時〜19時30分。和太鼓とピアノだから、どうしても太鼓のリズムが前面に出てくるが、編曲に趣向が凝らされていて、バリエーションは意外に広い。
やっぱりボレロがいいなあ。
会場にハチママ、大ちゃんなど、ハチ連中が多い。
山下「ニタ」洋子夫人が来られていて、ハチママがこの方を「サイン会が終わるの待っててもしゃあないやろ」と「かっさらって」キタのビアホールへ。
少人数でビール。ニタ夫人と久しぶりに同席できた専属料理人は感激しておる。
21時過ぎにハチへ。
若い連中がライブ中。
山下さんも午後10時頃に合流して、なんと珍しくもキーボードで参加。「アフロブルー」であったな、確か。
若い連中は大喜びというか大感激であったが、これではおさまらないのが「約2名」。
「サマータイム」と「リンゴ追分」絶叫が右側の写真である。
深夜帰宅である。
3月30日(日)
終日穴蔵。
イラク戦、進展なし、報道の風向きは「反米」に変わりつつあるなあ。
あまり政治的発言はしたくないが、わしゃとことん嫌いなのは「背広組」と「独裁者」だ。
日本でなら「旧内務省」が嫌いなのである。長臑康五郎みたいな親分など。
会社なら「労務屋あがり」と「ワンマン」に拒絶反応あり。
是々非々であって、イデオロギーや宗教でひとつの国体を支持はできないのである。
スナック(密室状態)で4人が「刺殺」殺されたという不思議なニュース、イラクよりもこっちの方が面白く感じるところが恐ろしい。
3月31日(月)
終日穴蔵……のつもりが、月末でそうもいかず。
午後、旧知の友人が梅田通過というので、電話連絡を待って紀伊国屋まで出向く。
ついでに銀行関係と思ったら、梅田の3行、いずれも長蛇の列。
こちらはあきらめて、グランドビル上階の喫茶店でランチ+お茶。珍しくもビールなしである。
夕刻帰宅。
夕方のニュースで「大阪駅北地区国際コンセプトコンペ」のベスト3の発表あり、イメージ画の紹介だけで詳しい紹介がなかったが、ちょっと見たところ、「緑のエコロジー調」「水の都のイメージ」「海外作品」という、あまりにも無難な線ではないか。
うちから徒歩15分以内の注目地区である。
こんなつまらん「開発」なんてやらんでほしい。
結果しだいでは「おさらば大阪」を実行せざるをえまい。
専属料理人は、東京へ行くなら大賛成というであろうが……。
詳報を刮目して待つぞ、市民税ぼったくりの大阪市役人諸君。
さあ、明日は早朝からタイムマシン格納庫へ向かわねばならぬ。
早寝である。
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