『マッドサイエンティストの手帳』239
●マッドサイエンティスト日記(2002年5月後半)
主な事件
・浅田稔研究室見学(18日)
・エンターテインメント・ノベル講座(18日)
・「作家眉村卓夫人」村上悦子さん逝去(28日)
2002年
5月16日(木)
昨夜から来阪の兄から連絡、徒歩5分ほどのホテルに泊まっているという。
午前中、ちょっと時間があるというので、わが穴蔵に来訪。2時間ほど雑談。
東の人間国宝・柳家小さん死亡。夕方からテレビのニュースをあちこち。米朝師匠のコメントなど。……サンケイ夕刊に円楽がイケシャーシャーとコメントしているのは何たる節操のなさ。落語協会の分裂騒動はいったい何だったんだ? 政治的人間なんだなあ。
衛星放送で市川雷蔵の『大殺陣・雄呂血』を観る。これは観ていなかった。傑作である。田中徳三のカメラワーク、やっぱり美しい。雷蔵のベスト3は『斬る』『忍びの者』『陸軍中野学校』だろうが、これはベスト5には入るな。中谷一郎が珍しく悪役なのがいい。
5月17日(金)
終日穴蔵、仕事はせず。
ボンクラ息子その2がバイト先から電話で「マネーの虎」を録画してくれといってきた。むむ。妙に感心するなあ。……ボンクラ息子その1が高校の時に『ナニワ金融道』を読んで「恐ろしいマンガやな」といったのとどちらがエライのか。ともにアホか。
5月18日(土)
午後、阪急「山田」に集合。宇宙作家クラブを中心とするメンバーでロボット工学の浅田稔研究室の見学会。
参集メンバーは敬称略で、井上剛、大本海図、尾関章(朝日新聞)、菊池誠、北野勇作、篠原圭(NHK)、菅浩江、鈴木順、谷甲州、谷口裕貴、野尻抱介、林譲治、堀晃、山田竜也、菊池研の時田助教授親子も参加。この時田ジュニア、天才少年の雰囲気がある(二足歩行モデルの横に立っている少年である)。
1時間ほど浅田先生からレクチャーの後、見学。ちょうど関西の学生グループの研究会が開かれていて、研究担当者のデモも見学できた。
浅田さんの話は例によって、ものすごく心地よい知的刺激に満ちている。浅田教授の話術というのは、ロボフェスタの講演や京フェス参加者ならわかるだろう。内容もさることながら、質疑応答も含めて1言の無駄もなく、声よくテンポよく、聴き手の好奇心を見事に満足させる、類のないもの。
以前、瀬名秀明氏が「ほれぼれしますね」といった。
菅浩江さんは「レクチャーと受け答えのスマートさには、ほとんど目がハートマークになりそう」という。
おれは「陶酔してしまう」かな。谷口英治や滝川雅弘のクラリネットを聴くのと同質の快感である。
写真は視覚認知の実験装置を説明する浅田教授。
ロボカップ出場チームのデモや、指先のモデルなど、色々と面白いテーマが進行しているが、一番人気は意外にも「二足歩行」の実験装置。写真を見ただけでわかる、コックリさんみたいな簡単なもの。が、これが安定して移動する条件はカオス的で、今のところ初期条件は初速を与える学生の「感覚」にしかないという。……運動方程式は簡単に書けそうに思うが、これは摩擦や弾性を無視した話で、ビスの締め具合でも変わってくるという。アイボのように何から何までサーボ機構で制御するのではなく、人間のようにもっと少ないエネルギーでエレガントに歩ける可能性を研究しているわけだ。奥が深いなあ。
夕方まで見学。
みんなでゾロゾロと歩いて北千里まで。
あとは梅田で懇親会があるのだが、大阪シナリオ学校の講座担当の日なので、おれひとりだけ寂しく天満へ。
しかし、この日は「光世紀の悪魔」というタイトルの課題添削・ミニ合評会の日なので、むろん最優先。10篇くらいと予想していたら、20篇近い提出があり、結構盛り上がる。……懇親会に合流の余裕なくなり、あとは中華屋で23時近くまで。
宇宙作家クラブの懇親会の方も、なぜか阪神優勝ネタで賑やかだったらしい。
深夜帰宅。
5月19日(日)
終日穴蔵、やや二日酔いである。
『貸本小説』を読む。確か木谷恭介も貸本小説家出身ではなかったっけ。
5月20日(月)
朝から自転車で市内、梅田〜本町周辺を徘徊。
午後、「小説すばる」6月号、ロボット小説特集を読む。瀬名氏の書き出しにちょっと笑うが、これはダブルミーニングで、「2015年から2005年を回想した青春小説」いう意味合いが強調されているのだろう。はっきりSF(というより星新一「人造美人」)を意識して書いているのは菅作品。「人造美人」から40年経って書かれたSFで異彩を放っている。ただし……作品の品位は落ちるが、テレクラ型よりセクソイド型の方がリアリティがあるのではないか。……いずれにしても、中間小説誌でロボット特集が組まれるというのがうれしい。ついでにコラムで田中啓文氏が、スタンレー・タレンタインが田中さんのテナーを吹いたことがあるという話にびっくり。ハチにチック・コリアが入ってきてドラムを叩いたことがあるが、テナーを貸すというのには及ばないな。
5月21日(火)
終日穴蔵。
夜、穴蔵を這い出して谷九、SUBへ。
滝川雅弘カルテットの定期ライブ。
前回に引き続き、客席おなじみメンバー「悪党4人」で「著作権者」無視して音源に関する悪だくみ。
……しかし、ともかく滝川さんの音が注目される仕掛けを作ろうということでは意見一致。近い将来、リンクが増えそうである。
5月22日(水)
終日穴蔵。
集合住宅の理事長なんてやるものではないな。夜、臨時の理事会を開く必要が生じたのだが、昼間30分ごとに連絡電話。何のために穴蔵を隔離したのやら。嗚呼……。
5月23日(木)
終日穴蔵。
未明に亡命北朝鮮一家が仁川着で、夕刻にはムネオの家宅捜索開始である。
ニュースを断続的に見ていたら、仕事らしきことまるで出来ない。
5月24日(金)
所用あって市内を自転車で徘徊。
久しぶりに日本橋の部品屋にも寄る。ビックカメラとヨドバシが出来てから日本橋界隈が激変と聞いていたが、恵美須町あたりは特に変わったという雰囲気でもない。
ジャンク屋は残るのかな。
帰路、かんべ事務所に寄って1時間ほど雑談。
5月25日(土)
終日穴蔵。形として残らない雑用ばかり多い日々である。
夕刻、自転車で天満まで。先週チェック依頼のあった原稿の添削分を届ける。高井信さんの講義の日であるが、雑用片づかず、30分ほどいてリターン。
帰路、梅田を通過。大阪シナリオ学校(万才町のビル)に寄る。本日引越中で、空心町の方に移転という。山崎事務局長に挨拶。……最後の日に初めて事務所に立ち寄るというのも不思議なみのだが。放送作家講座が中心だったこともあり「万才町」という町名には愛着があるという。なるほど。
5月26日(日)
先日の雷蔵版『雄呂血』が面白かったので、キタ図書館にあったビデオバンツマ版の無声映画『雄呂血』を借りてくる。愕然。ハッピーエンドどころか、こりゃもの凄い「正統派悲劇」であり不条理劇なのであった。戦前によくぞこんな作品が……。今まで観ていなかったのが恥ずかしい。リメイク版の評価はちょっと割り引かねばなるまい。
22時から教育テレビで『市民ケーン』……これは何度も観ているが、ま、今回は起きてられない時間なのでビデオにセットして寝てしまう。
5月27日(月)
金にも形にもならぬ雑用色々。ああめんどくさい。
5月28日(火)
毎日新聞と産経新聞に眉村さん関係の記事。
特に産経の深堀記者の署名原稿が胸をうつ。『日課・一日三枚以上』の最終回(1778話目)は最初と最後の数行以外「白紙」という。
夜、またも集合住宅の臨時理事会。2時間ほどあれこれと議論、なんとか結論を出す。個人なら3秒で決めるようなことであるが、まあいたしかたなし。
5月30日(木)
地下鉄で長居へ。村上悦子さん(眉村卓氏夫人)の葬儀である。
W杯会場となる長居公園にある臨南寺。初めて来る場所だが、楠の古木など時を閲した樹木が多く由緒ある会館のようである。
かんべむさしといっしょになる。見かけたのは藤本義一、難波利三氏など。
SFでは田中啓文氏が礼服に黒いバックを背負った格好で来てはる。大迫氏や星群関係のメンバーも。
眉村夫人はさっぱりした性格の方だった。2度、ふたりだけでお目にかかったこともある。どういう訳か、(たぶん何かの名簿のミスだと思う)眉村さん宛の郵便物がぼくの住所に届いた。梅田か難波の駅前で受け渡しをやったことがある。新幹線でお目にかかったこともあり、いつもご夫妻でいっしょに移動されていた。
会場への案内に「作家眉村卓夫人 故村上悦子葬儀式場」とあった。これについて、眉村さんが「故人の強い遺志」で、文筆家としての夫に同志的な思い入れがあったからということを挨拶で述べられた。
帰路、かんべとソバ屋で1時間ほど雑談。
5月31日(金) タイムマシン格納庫へ行くつもりだったが、雑用が重なって延期。
終日穴蔵。海外とのメール交換、数件だが時間を食う。
ちょっと興味あってアラン・ライトマン『診断』を読む。……『アインシュタインの夢』から一転、本格的「アメリカ現代文学」を目指したというところか。面白い、面白いのだが女房の描き方が類型的だ。……あ、いかんなあ。眉村夫人ほどの魅力がないという意味で、アランが下手だという訳ではない。
と……終日穴蔵で5月は終わる。
SFから離れてしまっているようで申し訳ない。眉村先輩に倣って、近いうち、「1日1冊」を始めることにしよう。1日1冊書くわけじゃないよ。それに近いペースで読んではいるが、読んだ本について何も書いてないものだから……。
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