『マッドサイエンティストの手帳』231
●ジョン・コルトレーン生誕75周年記念スペシャル・ナイト
3月2〜3日、東京TUCで、「TORIBUTE TO JOHN COLTRANE」と銘打ったジョン・コルトレーン生誕75周年記念ライブが行われた。
メインはジョージ・ガゾーンと森山威男! 1日目しか聴けなかったけど……
コルトレーン生誕75年を記念して、ジョージ・ガゾーンと森山威男を中心にしたライブがある……これは昨秋の企画であった。これが9月同時多発テロで延期になった。
森山さんのいうには、予定していたころ肺炎にかかって、結果としては不幸中の幸いでもあったらしい。
約半年遅れでライブが行われることになった。
SF大賞で上京の翌日であり、これ幸いと予定を一日延長。ぼくにとっては、森山さんの南里文雄賞受賞以来、初めて聴くライブである。
東京TUCへ16時過ぎに行く。超満員……というほどではなく、後ろの方だが、まあ楽に座れた。
レコーディングを兼ねたライブということで、録音機器やカメラへの注意、オーダー時間の制限など、すごく厳しい。が、幸い、演奏前に森山さんが近くに現れて、うまく記念写真。
撮ってくれたのは前にいた松岡さん。木更津から来たという女の子である。ありがとうございました。
隣に座っていたのがとんでもない方と後で判明するのだが、これは別項で触れる。
そして、森山追っかけNo.1の塩之谷香さんはむろんカブリツキ席にいる。……詳しいレポートは塩之谷香さんのページをご覧下さい。なんと、素晴らしい写真まであります。
村井康司さんも来ていて、ちょっとご挨拶。
17時開演。
全体は3部構成。
第1部はコルトレーンにちなんだ曲のデュオで、3組登場。
・エイブラハム・バートン(ts)と井上陽介(b)で、ザ・レインとインディの2曲。
・大澤香織(p)と宮園ゆかり(vo)、このヴォーカルははじめて聴いた。一応アフロブルーとチムチムチェリーということになっているが、特異なスキャットでちとびっくり。うーん。説明しにくいなあ、こっちの心境も。
・ジョージ・ガゾーン(ts,ss)&アキコ・グレース(p)、これはもう中期のバラードで、見事なものだ。……前夜、田中啓文氏が「ガゾーンのテナーはもう上手くて上手すぎて、逆に記憶に残らないほど」といったのがわかるなあ。頭のなかでは再現できないのである。
約1時間。ここで、ピアノの調律を含む「1時間のインターミッション」……ピアノがおかしかったのかな。これは長すぎて、ちと尻が痛い。
第2部……「LOVE SUPREME(至上の愛)」これを4管バトルでやるという画期的なステージである。
メンバーは、ジョージ・ガゾーン(ts,ss)、エイブラハム・バートン(ts,as)、竹内直(ts)、川嶋哲郎(ts,ss)、田中信正(p)、アキコ・グレース(指図とp)、井上陽介(b)、森山威男(ds) 指図というのは「指揮」という言葉をアキコさんが嫌ったためだとか。
「至上の愛」の構成に沿っての編曲だが、ともかく4管、それぞれのソロが回されて、全曲1時間20分! この間、森山さんはほとんど叩きっぱなしである。いやあ凄い。それぞれ個性あるテナーが全力でトレーンへの敬意を込めて吹きまくったという感じ。ともかく圧倒される。……エイブラハム・バートンは初めて聴いたが、音色がいちばん似ているのはこのテナーかな。川嶋の豪快さ、竹内の鋭さ、ガゾーンのテクニックと、あ、むろんピアノが交替したり、ベースのソロあり、むろんドラムは圧倒的で、たいへんなステージであった。
むむむ、詳しくは(たぶん)CD化を待たれよ。
で、またインターミッション。今度は50分ほど。だけど、演奏に圧倒されて、水割り飲んだり感想を近所の人としゃべったりで、そう長くは感じないから現金なものだ。
第3部は「MY FAVORITE THINGS」ということになっている。後期コルトレーン・グループのライブ・バージョンを再現という企画だが、ジョージ・ガゾーンがソプラノ、あとはアキコ・グレース(p)、田中信正(p)、井上陽介(b)、森山威男(ds)で……井上陽介のギャリソンばりの長いベースソロから、おなじみ「マイ・フェバレット……」に突入。このステージのガゾーンが、大曲の後のリラックスもあってか、いちばんシャープで音色も素敵だった。聴く方もリラックスしてるしね。
最後はエイブラハム、川嶋、竹内も出てきてのジャムセッション。
そして……アンコールはガゾーンと森山のデュオで「ジャイアント・ステップス」感動的である。
終演、なんと22時10分であった……。
皆さんと色々しゃべりたかったが、帰阪の時刻も気になり、「ご神体」のドラムを撮影して夜道を急いだ。
ついでに、一冊の本について触れておきたい。
この日、東京TUCで買った。
帰路の車中で少し読み、帰阪してから読み続けた。
高木信哉『東京Jazz』(三一書房)
これは日野元彦の評伝である。もともとは「日野兄弟物語」として書き出されたらしい。日野元彦のガン告知がきっかけという。
正統的な評伝として、少年時代からデビュー当時の事情なども丹念に調べてある。が、素晴らしいのが、クラブ・トコなどを中心に、ライブ活動の経過が詳しく調べられ、生き生きと再現されている点だ。才能と才能が出会い、火花を散らす。この現場の雰囲気の再現がいいし、メンバーが詳しく書かれているのがいい。結果として生き生きとした現代ジャズ史となっている。(実は、【森山研】のテーマといて、ディスゴグラフィーにつづいてやりたいのが、これなのである。ぼくがライブのことをやたらホームページに書くのもそうだし、塩之谷ページの最大の美徳もそれ)……高木氏はひとりで(むろん後記によれば多くの協力者がおられるが)丹念に調べ丁寧に書き上げている。極めて誠実な仕事だと思う。
ええっと驚くエピソードも多い。東京TUCの支配人・田中紳介氏がこんな凄い経歴の人とは知らなかったし、日野元彦が渡米したとき、レストランのボーイから始めたことなど初めて知った。
これによって日野元彦が生きた時代のジャズがCDなど音源と並んで残ることになる。
むろん、著者の日野元彦に対する哀惜の念がストレートに伝わってきて胸を打つ。
いい本を読ませていただいたと思う。
HomePage