『マッドサイエンティストの手帳』764
●マッドサイエンティスト日記(2021年10月前半)
主な事件
・ラスカルズ@ニューサン(9日)
・大阪JAZZ@放出(10日)
・神戸新聞文化センター(15日)
10月1日(金) 穴蔵
10月1日である。
ここ数年、この日は目覚めるともう「遅すぎる」と思い、なにが遅すぎるのか考えて、もしガンが見つかったら手遅れなのだろうなと思い、そうか「たそがれの国」にいるのだと気づく。
日没は近いのである。
本日より緊急事態宣言解除。
わしゃ外出自粛。
終日穴蔵。
あっという間に日没。
専属料理人の並べた数皿でちょいと一杯。お楽しみはこれだけだ。
テレビでニュース見てたら、異形の長頭が登場してギョ。甘利が幹事長就任という。金銭授受問題でてっきり辞職したものと思っていた。
また「手水廻し」を見せられることになるのか。
10月2日(土) 穴蔵
秋晴れだが頭脳は梅雨空のごとく。
穴蔵にてボケーーーッと過ごす。
これではいかんので、午後、専属料理人のお供をして天六のスーパー往復、ポーターをつとめる。
商店街方面、人出が多いようである。浮かれいでたる天満衆。
本庄の人通りのない道を選んで5.000歩ほど。
あとは穴蔵の寝具の入れ替え。AWモードに変更する。
夕刻となる。
本日、久しぶりに某店に出かけようかと思っていたところ、17時10分にとつぜんの驟雨。
激しい雨音で気づいたのだが、外を見ると、不思議なことに晴れているのである。
*
↑写真ではわかりにくいが、ウチの周辺だけ真上から降っている。外を歩いてたらズブ濡れのはず。
10分ほどでやんだが、外出するなという天の声であろう。
夜のニュース。どことも人出が多いらしい。
2週間後(10/15-16)の感染者数に注目である。
10月3日(日) 穴蔵
秋晴れである。
日曜なので、本日も外出自粛。
しかし、歩かねばならぬ。
午後、人のいない貨物線沿いに散歩。工事は休みで、ガーやんがいないから、フェンス越しに工事現場を覗けるのがいい。
線路が地下から出て旧高架までの区間(中津架道橋を過ぎて地表に出て、豊崎第6架道橋あたりで地表、新御堂の手前で旧高架につながる)は、ほぼ「軌道面」が出来上がり、側壁の工事中である。
工事区間の東端にあたり(豊崎中公園の南側)に「平面横断通路」ができる。ボックス構造とはこういうことか。
*
平面というより、1メートルほど低いのではないか。
完成まであと半年ほど。
お楽しみは、こんなことだけ。
10月4日(月) 穴蔵/ウロウロ
快晴である。
・午前、天六の某院まで歩く。桜の季節に来てから半年ぶり……というよりちょうど1年目の検査である。
あっという間の1年という気もするが、あの時も「完全隔離」で、以来、ずっと外出自粛だから、長い1年でもあったなあ。
レントゲン撮影と診断……異状なく、次は来年の10月第1月曜となる。それまで生きてられるやら。
まっすぐ帰館。往復で5,000歩を超えた。
・午後は穴蔵にこもり、雑事色々。非SF系だが、結構忙しい。
・夜は一部で評判の『多羅尾伴内』を、YouTube無料配信で見る。
面白いではないか。前に映画館で見たはずだが、細部はほとんど忘れていた。『鬼面村の惨劇』も見ている。
(最後の正体を明かす場面は、続編の方がよかった。本編はまだ「リアル」に感じられるからなあ。)
ともかく、二丁拳銃ぶっ放して、殺る方も殺れる方も、これくらい超現実的(荒唐無稽とも申せましょう)にやらなければ。
先日の『007 スペクター』に感じた違和感がやっと解消された気分である。
10月5日(火) 穴蔵
秋晴れである。
終日穴蔵。
先日からずっと睡眠不規則でアタマはボケ状態……と書いてきた。
することないので、ふたつのことに没頭して過ごしたきた。
ひとつは眉村さんの旧作について。ある方面から聞かれて、知ってることを話せば済んだのだが、細部が気になってあれこれ調べていたら、ややこしい会社の社是(企業理念)に行きついてしまった。これはそのうち書くこともあるかも。ともかく一区切りとする。
もうひとつは、本の片づけ。これは毎度のことで、処分する本より再読したい本に手が出てしまうから、全然片づかない。この1週間、荷風のおっさん関係を10数冊読んでしまった。一応本日で終わりとする。
たちまち夕刻。
専属料理人が数皿並べたのでビール。結構豪華メニュー。
なにごとかと思えば、専属料理人の特別な日で「自分のために作りました」とか。知らなかった。
*
あとやまざきの高級ワインが出てきた。
これで、鴨ロースのハムとブルディガラの三日月パン。これまた結構な。
お楽しみはこれだけだ。
10月6日(水) 穴蔵
秋晴れである。昼前にちょっと曇ったけど。
終日穴蔵。
真鍋叔郎博士のノーベル賞受賞のニュースを見て、考えること色々。
SFにおける「新理論」はどう創出されるのか。
ひとつは、新理論がアイデアの骨格(IF)で、いわば「でっち上げ」。これを大マジメに展開する。代表的なのはレイモンド・F・ジョーンズ『騒音レベル』である。わしゃこちら側の方が好きだ。
もうひとつは、先駆的でまだ一般に知られていない理論に注目して(場合によっては本人が考えて)、いち早く作品化するタイプ。SFの主流はこちらか。代表格はフレッド・ホイルで、論文よりSFにした。
真鍋博士の受賞は、1967年発表の論文「二酸化炭素の濃度が2倍になると地球の平均気温がおよそ2.3度上がる」らしい。
1967年は小松左京師匠が『日本沈没』を構想中であった。こちらには気団のふるまい(気象学)からマントルの動きをシミュレートする方法が出てくる。
先日来考えていた眉村作品(具体的には『滅びざるもの』(1963)に登場する「生産環理論」)にも、何かモデルがあったのだろうか。
夕刻近くになった。
健康のため、少しは歩かねばならぬ。
花のない季節である。播州龍野へ行けばコスモスが盛りであろうか。
公園には猫じゃらしが目立つ。
*
淀川堤へ出られればもっといい猫じゃらしかが眺められるが、道は閉ざされたまま。嗚呼。
10月7日(木) 穴蔵
秋晴れである。
終日穴蔵。
相変わらず生産的な仕事はできず。
午後、BSで4K修復版『無法松の一生』を見る。
バンツマ版。3,4度目だが、これだけは涙なしには見られない。
進駐軍にカットされてるというが、幻想的シーンも含めて、名作、もうこれ以上の無法松はありえない。
役柄としては三船やカツシン……などという説もあるが、無法松は「乱暴者」なのではない。無知な男の純情が泣かせるのであって、これはバンツマでなければ(……などと、わが生誕前年の作品にどうこういえる立場でもないが)。
健康のため、少しは歩かねばならぬ。
近所の公園に出てみると、雑草処理でクルマが入り、樹木の根元を全部刈り取っている。
*
猫じゃらしも全部バッサリ。
無粋なことやってくれるぜ。
10月8日(金) 穴蔵
秋晴れである。
終日穴蔵。
相変わらず生産的な仕事はできず。こればっか。
午後、YouTubeで『カミカゼ野郎 真昼の決斗』を見る。
千葉真一が台湾舞台に、走って走って走りまくる。よく走るが、体技としてはやはり『沖縄やくざ戦争』の方が数段いい。
「カミカゼ野郎」とほぼ同時期(1966)に、ホルスト・ブルホルツ主演の活劇があって、これもよく走る男だったなあ。
タイトルが思い出せない。硬質ガラスの円形テーブルで弾丸を避ける(跳弾で殺し屋を狙う)場面が面白かった記憶があるが。
ともに半世紀以上前だからなあ。
少しは歩かねばならぬ。
夕刻に近い午後、豊崎の東端あたりまでウロウロ。
*
久しぶりに長屋前の「土の道」を歩く。未舗装の道なんて「ポツンと一軒家」につながる道にもないだろう。
タカセで「驚愕の6冠」を買って帰宅。
夜は久しぶりに焼き鳥(正起屋で買ってきたの)で一杯。
これだけが楽しみ。
10月9日(土) 穴蔵/ニューサン
秋晴れである。
終日穴蔵。
相変わらず生産的な仕事はできぬまま。嗚呼。
夜、気分転換に梅田へ出る。三番街あたりから、えげつない人出である。
人通り少ない新御堂筋を南下、曽根崎に出て、久しぶりに営業再開したニューサントリー5へ。
よく持ちこたえてくださったものと思う(6階のアイリッシュ・パブは三密の典型だから、てっきり閉店……と思ったら、店名だけ変わって、相変わらずらしい)。
ニューオリンズ・ラスカルズの出演日。
1年半以上聴いていないのであった。
*
アクリル板で仕切られたカウンターで、マスクを時々外してビール飲みつつ。
本日は、ドラムなし、cl、tb、p、bj、bの編成で、これはこれでなかなかいい。特に讃美歌など感涙ものである。
2ステージで終了。
ぼちぼちでいいから昔の雰囲気に戻ってほしいものである。
10月10日(日) 大阪JAZZ@放出
秋晴れである。東の空に雲もあり。
本日はJAZZ解禁の2日目。
昼過ぎに出て、人流を避けつつ梅田を抜け、北新地から放出に向かう。
ディア・ロードへ。
久しぶり(半年以上)に大阪JAZZ同好会の例会開催である。
・特集はH氏の「ジャズ・オデッセイ」シリーズを軸に、ニューオリンズ〜シカゴ〜ニューヨーク(ハーレム)の名演紹介。
ニューオリンズ・ジャズの音源は40年代の「リバイバル」以降のものになり、録音が時代順でないパラドックスが生じるのだが、この辺の解説と曲の配置は見事なもの。
・Fさんの新譜紹介。後藤雅広DELTA4『Atlanta Blues』……これは知らなかった。コロナもあってCDショップを覗く機会が減ったからなあ。
・持ち寄りは「コロナ禍で聴いたお気に入りのジャズ」……コルトレーンやビル・エバンスの「新譜」がまだ出るのだなあ。おれの場合は1年前にベッドに固定されている時に聴いたシェアリング。これはコロナ禍よりも骨折禍か。
時々換気しつつ3時間。
*
4階の窓から見る放出の空。
毎日穴蔵から見る東の空とまるで雰囲気が違う。生駒に近くなっただけで、雲の様相がまるで違うのである。
ずいぶん遠方まで来た気分になるが、JRで180円の移動である。
10月11日(月) 穴蔵
秋晴れである……ように思ったが、だんだん曇ってきたような。
数時間ごとに微睡んだり本を読んだりしていたら、たちまち夕刻である。
このところ1〜3時間ほどの断片的な睡眠しかできない。
なんとかしなければいかんな。
芦辺拓『大鞠家殺人事件』(東京創元社)
大戦末期の大阪、船場の老舗問屋を襲った惨劇……それは明治末期に起きた跡取り息子の消失事件から始まっていた。
芦辺拓氏の「古典的」本格推理大作。
*
帯には「斬りつけられた血まみれの美女」「夜ごと舞いおどる赤頭の小鬼」「酒で溺死させられた死体――」とあるが、他にも、異様な縊死や木乃伊化しかけた死体や裸死体など、一族を巡る奇怪な事件が続出する。さらには異様な風貌の私立探偵まで登場……これらの事件は、ヴァン・ダインやクロフツの古典との符合も感じさせる。
芦辺氏の久々の大阪ミステリー(『時の誘拐』『時の密室』など)で、背景には、明治の「消失」事件から始まり、その後、跡取り息子ふたりの徴兵などで、次第に没落していく問屋の姿がある。特に落語や放送劇などで笑いを交えて描かれる「番頭はんと丁稚どん」の実態が厳しい階級制であることなど、商家の実態がリアルに描かれている。この細部描写が奇怪な惨劇にリアリティを与えて、横溝時代の古典本格推理を復活させたような雰囲気を感じさせる。同時に、これは大阪大空襲によって滅びる、大大阪(だいおおさか)以来の大阪モダニズムの終焉を描いたロマンでもある。
芦辺拓の力業、恐るべし。
他にも様々なミステリー的趣向がこらされているが、巻末の「好事家のためのノート」以上のことはとても書けそうにない。
蛇足ながら……本書は東京創元社の隔月誌「ミステリーズ」に連載されていたが、同誌が休刊(近々「紙魚の手帳」が創刊される)したため、後半が書下ろしとなった。こんな事情が師匠・鮎川哲也の『死者を笞打て』に似ているのである。
10月12日(火) 穴蔵
午前2時に雨音で目覚め、朝までだらだら。
結局、寝たり起きたりで夕刻となる。
外は曇天、頭もずっと曇ったまま。嗚呼。
ネットで魅力度ランキングというのを見る。
都道府県魅力度ランキング(地域ブランド調査2021)……各県のブランド力を数値化したものらしい。まあ「行ってみたい」場所のランク付けか。「住みたい場所」ではない。
最下位(47位)が茨城県というのが何とも意外だ。時間ができれば行きたい県のトップが茨城なのだから。
ただ、よく考えると、行ってみたいのは茨城の周辺ばかりのような気がする。
首都圏外郭放水路を見学に行きたいが春日部(埼玉)、天保水滸伝の舞台を歩きたいが笹川(千葉)、車窓から見て途中下車したいと思った館林は群馬、ちょと先の足利市(ここは何度も来た)は栃木である。そして、栃木、群馬、埼玉そろって40位以下に並んでいる。
「わたくし」がいちばん憧れる「楓葉荻花秋は瑟々たる刀禰河あたりの渡船」も、荷風のおっさんが佐原市(千葉)あたりの水郷をイメージしたのではないかと思う。
要するに広大な利根川流域に憧れているのだが、これは(何度も乗った)東武伊勢崎線の車窓から見た風景であり、実際に歩いてみる(あるいはクルマで走ってみる)と、平坦な変わり映えのしない風景がつづく、つまらん場所なのだろう。
憧れの場所はそのままにしておいた方がいいようだ。(※※)
・甲府市の火事のニュースが気になる。
午前3時半頃に「泥棒」通報、直後に怪しげな男が逃げ出し、猛烈な火災となって2名(50代夫婦らしい)が焼死。これは殺人・放火なのではないか。山梨県警諸君の健闘を祈る。(※)
※13日未明に甲府市の19歳の男が出頭したらしい。単なる泥棒ではあるまい。「放火」も普通あんなに燃え上がるはずはなし。50代夫婦が逃げられなかったはずがないし。続報を待つ。(10/13)
※※魅力度ランキングについて、群馬県知事の山本一太(県知事やってたのか)が怒って「法的措置も辞さない」とか。へえっ。本気にしているのか。「わたくし」なんぞは、「世間」の評価と真逆なのを意外に思ったが、そんなものと思う。世論調査もそうだが、あんなの信用する方がアホである。自動音声のアンケート電話がかかってきたら直ちに切る。あんなのにマトモに回答する人間は、よほどのヒマ人かどこかおかしい人種なのである。(10/14)
10月13日(水) 穴蔵/ウロウロ
天気予報は曇天、傘持って出ろだったが、ほとんど晴に近いではないか。
朝の通勤ラッシュの終わった頃に出て、梅田うろうろ、郵便局やATM巡回のあと、西区の靭公園へ。
公園の中心あたり(なにわ筋)でかんべむさし氏と会う。
ベンチで書籍受け渡しの後、しばらく雑談。近況報告。
緊急事態解除とはいえ、まだ一杯やりながらの議論というわけにはいかない。
ついでに、なにわ筋に面した西側角の楠永神社にお参りする。
*
意外にも今まで知らなかった神社である。小さい神社だが、色々由緒ある神社で、特に白いS字型、それに進駐軍の飛行場工事にからんでもややこしい事情があったらしく、ともかく災厄がこちらに及びませんように。
なにわ筋〜中央大通を歩いて西長堀の中央図書館へ。
ともかく歩かねばいかん。
1時間ほどいて、地下鉄で帰館。大正あたりまで行きたかったが、さすがに疲れた。
午後は穴蔵にて……やっぱり昼寝してしまう。嗚呼。
晩酌時、今度は新居浜で50代男が3人刺殺のテロップ。
興味深い事件がつづくなあ。
10月14日(木) 穴蔵
秋日和である。
終日穴蔵。
資料を読んで過ごす。
本日、衆院解散。
晩酌時にニュースで例の「バンザイ」を見ようと思ったら、延々と首相の会見中継。
テレビは切り、後藤雅広『ATLANTA BLUES』を聴きつつ、ビール、酎ハイ。
21時にやっと「万歳三唱」を見る。これ、割と好きなのである。気分がほっとするし。
毎度のことながら、失職して万歳する光景は珍中の珍である。玉砕覚悟のバンザイ突撃と見ればいいわけか。
バンザイした諸君の天晴な玉砕を祈る。
10月15日(金) 神戸新聞文化センター
昼前に出て、阪急神戸線で「越境」して三宮へ。
午後、神戸新聞文化センターの講座。
エッセイ7篇、短篇3篇について合評会形式で。
エッセイは、テーマが「マスク文化祭」「自転車散歩」「56文字小説」「記憶の欠如」「読書」「葬式文化」「国民体育大会」と多彩で、合評というよりも、話題がどうしても脱線してしまう。
短篇は、「初恋の記憶違いが倦怠期の入り口で偶然判明するちょっといい話」「国防婦人会の現代版のような東京五輪小説」「吸血植物の人間の意識への侵入をリアルに描写したホラー」と、こちらも傾向バラバラで、それぞれ面白く、例によって時間が足りなくなった。
こんな場合、喫茶店に移ってガヤガヤやってもいいのだが、まだしばらくは様子見することに。
夕刻帰館。
本日のコロナ感染者。大阪は65人で(全国で唯一3桁だったのが)やっと2桁になった。
10月1日の緊急事態解除から2週間経った。昨日あたりからまた増え始めると予想していたのだが……ま、もうしばらく様子を見ることに。
初心忘るべからず。世間は忘れっぽいとしか思えない。本日の数字だって第1波のピーク(2020年4月)のレベルではないか。そこからさらに下がっても、去年5月の連休中はビクビクしながら過ごした。あれが「初心」である。
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