『マッドサイエンティストの手帳』746
●マッドサイエンティスト日記(2021年1月前半)
主な事件
・穴蔵の日々
・神戸新聞文化センター(15日)
1月1日(金) 穴蔵
目覚めれば新年であった。
晴れて穏やかな日。
8時頃に朝祝い。
今年はオセチが個別の一人前方式になった。
買ってきたのではなく、こんな風に詰めたもの。
*
おれは基本的にオセチは好きではなく、限られたメニューしか食べないものだから、対抗策らしい。
そう偏食ではないのだが。
ビール1グラス、あと日本酒一献。
コタツで年賀状(いただくばかりで申し訳ない)など見ているうちにうたた寝。
昼は横浜のボンクラ息子一家(犬も勘定に入れます)とzoom新年会。
本日はともにオセチ。向こうの方がちょっと豪華なような。
だらだらとよもやま話。
ま、いい正月である。
1月2日(土) 穴蔵
2日である。生活様式を日常に戻す。といっても朝酒をやめただけのことだが。
快晴。寒くはなさそうだが、お上のいいつけを守って、終日穴蔵から出ることなし。
大晦日から年越しで読んだのは、丑年にちなんで『件 もの言う牛』。引き続き、本日は『信長島の惨劇』。
災厄の年にふさわしい作品であった。
たちまち夕刻。
オセチの片づけ。ビール。安酒一献。
明日は牛肉を食べたい気分である。
これから「ラ・ラ・ランド」を見て寝るつもり。
※ということで、見たけど……ミュージカルとしてはよくできている(芝居の場面から歌と踊りに転じ、また芝居に戻るタイミングなど)と思うが、デミアン・チャゼルはジャズがわかっとらんのではないか。これは「セッション」でも感じたこと。というより、おれがジャズ映画として期待し過ぎているのか。
ミュージカルとジャズ映画は別物だからなあ。(2021.1.3)
田中啓文氏の2作品
年末年始、田中啓文氏の2長編を読む。新年を迎えるのにふさわしい、禍々しき作品。
『件 もの言う牛』(講談社文庫)
件(くだん)は、SFでは小松左京「くだんのはは」、その後のとり・みき作品でおなじみだが、私は10歳くらいの時に母から聞かされた。
わが誕生の頃、どこそこで「くだん」が生まれたらしいという噂がよく流れたという。戦争末期で、たいていの人がそろそろ日本が負けると信じていて口に出せなかった時期である。どこそこというのも10キロ(二里)ほど離れた村で、確かめに行くには知り合いはいない、さりとて遠く離れた土地でもなく、いかにも信憑性がある。私がきいたくだんは、首が牛、体は人で、人から生まれ、それが生まれると戦争が終わるというものだった。
田中版のくだんは、恐るべきパワーアップ。
*
山道で迷った男女。女は乳牛(ホルスタイン?)に食い殺されたという。事件を探る刑事は、不思議な現象に疑問を抱くが、捜査の中止を命じられる。卒論課題で各地の神社を取材していた学生は奇妙な牧場を発見し、そこの娘と知り合う。かれらは妙な縁で事件の真相を突きとめようと動き始めるのだが……
事件の背後に巨大な謀略が浮かび上がる。
古事記や江島平島記、ギリシャ・ローマ神話にまで遡る「くだん像」も凄いが、本作は伝奇ホラーというよりポリティカル・フィクションに近い雰囲気。
時の総理の奇妙な言動が、GHQの陰謀に由来していたり、現代史に濃厚にかかわってくる。
スケールの大きい物語である。
現総理が「ガースー」などと「たわごと」を発するのも、裏に件がいるからではないか? そんな気分にさせてくれるところがいい。
これもアフター・コロナを先取りした一篇であろう。
『信長島の惨劇』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)
一方、こちらはアガサ・クリスティに捧げられたミステリー。
*
本能寺の変のあと、関連した5名(表紙にあり/柴田勝家は写真とは別の人物/似ているようだけど)が三河湾の孤島に呼び集められる。
呼び寄せたのは死んだはずの信長。
そこで、俗謡に謡われているとおりの連続殺人が起きる。
戦国時代に「そして誰もいなくなった」が成立可能なのか。
ミステリーだから、詳しくは書けない。
メイントリックは○○○○○の変種と思うが、何よりの歴上の人物たちの書き分けが面白く、さらには、この人物たちが「誰もいなくなった」ら現実の歴史はどうなるのか心配になるが、そのへんも見事なもの。
啓文さんの大きな新境地である。
1月3日(日) 穴蔵
晴れて寒そうな。午後には雲多し。
終日穴蔵にこもって過ごす。
色々と(収入にはならない)仕事を始める。時々CD。
世間は……というかテレビはまだ正月気分で、ろくでもない番組ばかり。
結局、年末年始で見た番組は「らくごのお時間」「ウィーン・フィル」「ラ・ラ・ランド」の3つだけ。
しかもニュースも削られているから、午後7時のだけ。ネットでニュース24などを時々見る。
食生活は完全に普通に戻った。
ということで、夜は専属料理人に頼んで鉄板焼き。
「件」を読んで牛肉が食べたくなったのである。佐賀牛を焼いてくれた。
*
これでビール、酎ハイ。最後にバターライスに明太子とすぐきの葉っぱを刻んで加える。
うまっ。
早寝するのである。
1月4日(月) 穴蔵
晴。そう寒くはなさそう。
午後、運動不足なので少し歩くことにする。
初詣に行くといったら、専属料理人もついてきた。
*
豊崎神社へ。意外に人出が多い。7,8人もいる。例年は閑散としているのだが。
たとえば5年前の1月4日はこの通り。
感染するほどの混み方ではないので、人がいなくなるのを待って参拝。賽銭100円をはずんで無病をお願いする。
あと、南へ歩き、南浜墓地を抜けて豊崎長屋。しんとしている。
中崎町の白龍大神、となりの延命地蔵にもお参りし、源光寺からA建築研究所前を通過、ついでに「住吉の長屋2」にも参拝して帰館。
1時間半、6,628歩であった。
1月5日(火) 穴蔵
曇天。陰鬱な日である。
外は新コロナ、内は水漏れのトラブル。
全部おれの責任みたいに聞こえて気が滅入ってしまう。
終日穴蔵。
コタツにもぐりこんで過ごす。
1月6日(水) 穴蔵/ウロウロ
晴。寒甚しからず。
昨日の水漏れトラブル、蛇口付根の締め具合(防水テープ)としか思えず、ロッド先が「おれの苦手な生物」みたいに曲がった専用工具がないので、ネットで調べた「24時間対応」「最速10分」の業者に電話する。
コールセンターは「折り返し連絡」というが、1時間半経っても何の連絡もなし。
こんなものであろう。
1日大匙2杯くらいの水漏れだから、応急処理(水滴を洗面器で受けておく)でしのぐことにして、工具を探すことにする。
午前中を無駄にしてしまった。
明日からまた寒波襲来らしい。
午後、本日中に散歩することに。
人気のない貨物線工事現場に沿ってグラフロ西側を西梅田へ。
*
うめきた2期地区の南側、クレーンが乱立している。
新駅(地下)と大阪駅ホーム西端をつなぐ通路の工事が本格化したようである。
左端(南西角)の人骨1,500体発掘現場が気になるが、埋め戻しの気配。
ガーやんが多いようなので、今度は西側から探ることにしよう。
6,000歩ほど歩いた。
1月7日(木) 穴蔵
寒波襲来らしいが、穴蔵にこもっているから実感はわかず。
寒暖計、ベランダは終日ほぼ5℃であった。
雑事色々。派手なニュースが多く、断続的にネットでニュースを見ながら過ごす。
・賀茂川が真っ赤に染まった。
加茂の河原に千鳥が騒ぐ/またも血の雨涙雨
新選組かと思ったら、染料の流出だったらしい。
・トランプが煽って支持者が議事堂に突入、死者4人。20日まで、まだまだ何かやりそうな。
・ガースーが緊急事態宣言。気の抜けた会見である。
・その最中に、新コロナ感染者、東京2,447人、大阪607人、全国7084人の過去最多。
わしゃお上のいいつけは順守するが……1月中は増え続けると思うぞ。
たちまち夕刻。
夜はあんこう鍋でビール。七草粥がわりに雑炊。健康食である。
1月8日(金) 穴蔵
晴れて風寒し。
6時、室温15℃、ベランダ0℃。
あとベランダの気温は、9時4℃、12時4℃、16時2℃、20時2℃……
最強の寒波らしいが、コタツで本を読んでおれば、どうってことなし。
散歩もしたいが、お上のいいつけは守らなければ。
夜、テレビで『パラサイト 半地下の家族』を見る。
傑作である。
が、最後がよくわからん。笑えないのである。これはコメディではないのか?
1月9日(土) 穴蔵
晴れて風寒し。
6時、室温15℃、ベランダ0℃。昨日と同じか。
やることも同じ。終日穴蔵。
ニュースでは、トランプのtwitter永久凍結というのが目立つが、まあこれは当然として、トランプの核ボタン使用制限について「下院議長と米軍制服組」が協議というのが気になる。
やりかねんからなあ。金三胖が挑発しとるようだし。
ま、気に病んでいてもしかたない。
本日も家呑み。
*
久しぶりにチーズフォンデュでワイン。
寒い日はこういうのに限るなあ。
1月10日(日) 穴蔵
晴れて風なし。
本日も外出自粛して終日穴蔵。ボケーーーーッと過ごす。
昼は専属料理人の作った豚汁を丼鉢に一杯。揖保乃糸を入れて豚汁煮麺とする。
* *
これでビール。あと、残り少ないすぐき、昆布の煮たん(静岡の次郎長屋(若旦那、元気か?)から取り寄せたかごめ昆布のダシガラを専属料理人が煮たもので、減塩、そこいらの昆布屋のよりはるかに旨い)などで、吉野川をチビチビ。
昼間からこんなことやってていいのだろうか。いいのである。
本日は恵比寿っさんで、例年だと堀川恵比寿に参拝し、天五あたりで一杯やるのだが、今年は南東方向に一礼して家呑みとする。
コロナだし、事業も昨年で終了したから、商売繁盛を祈願する必要もなかろう。
午後は昼寝。
1月11日(月) 穴蔵
成人の日で世間は休日。
本日も外出自粛して終日穴蔵。
運動不足で、筋肉の衰えが動かなくても実感できる。ストレッチなどやると下階に迷惑だし。
ともかくお上の言いつけを守って、穴蔵でじっとしている。このまま衰弱していくのか。
鍋島直昶さんの訃報。新コロナで。94歳。
最後に聴いたのは5年前、ギネス認定の祝賀パーティだった。
昨秋の解散コンサートには、コロナが気になって行けなかったが……そのコロナで亡くなられるとは。
夜はゴールデン・シニア・トリオの「Red Roses for a Blue Lady」を流しつつ一杯。
わが記憶にある鍋島さん最高の名演は、神戸ジャズ・ストリートで聴いた、北村英治さんとの「スターダスト」だった。2002年のステージ。
ハンプトン・スタイルではなく、「息が切れるから」と全部スローモードだったが、これが絶品。
終わった後、北村さんが「ナベさん、いいねえ!」と叫んだのを覚えている。
「息が切れる」というのは長年のギャグだったんだな。
1月12日(火) 穴蔵
朝だ。雪が降っている。浅田……ちょっと困ったね。
7時過ぎには霙になり、8時には雨になった。
寒そうなので外出することなし。
しかし……こう動かないと、お上には従順だが、体(特に足の筋肉)の衰えが心配になってくる。
たちまち夕刻。
北梅田の夜景を眺めつつビールを飲む。
*
中本酒店はがんばっているが、視界にあるホテル2軒、いずれも閑散。明りのついた部屋はひとつかふたつ。
どうなるのやら、他人事ながら心配になる。
某PAや某INNはどうなのか。夜間、一度歩いてみたくなるなあ。
夜、BSで『サブウェイ123 激突』を見る。
『サブウェイ・パニック』のリメイクで、まだ見ていなかった。前のが同時期の『新幹線大爆破』に比べて、全然面白くなかったから、たいして期待してなかったのだが、これはなかなかの出来栄え。
リメイクがオリジナルより面白い稀有な例である。いや、ええもんを見せてもろて。
1月13日(水) 穴蔵
晴れて(たぶん)暖かそうな日である。
朝、近所の某院で定期健診。数値(血圧のみ)は良好であったが、散歩はした方がいいといわれる。
わかっておるのです。
1月半ばまで外出自粛を徹底すれば、あとは大丈夫だろう、そのつもりで年末年始を生活してきたのである。
それが裏目に出たようである。
終日穴蔵。
播州龍野方面から電話2件、メール数件。自宅の水道トラブルで1件。その他色色。
ツケが回ってきて動かざるを得なくなりそうな。
調整に忙殺される間に原稿も書くのであった。
夜、さあビールというところで菅の会見中継が始まった。
7府県に緊急事態宣言の追加発令。2月7日まで。大阪・兵庫は動きにくくなりそうな。
原稿のダラダラ読みが不愉快になり、CDに切り替え、パキート師匠を流しつつやけ酒に切り替える。
ともかく爺さん、やることが遅いよ。
明日から、お上のいいつけは守らないことにする。
別に旅行や会食をするわけではない。感染は自分の判断で防衛しつつ、自分の体の衰えを守り、家屋の崩壊を防ぎ、最小限の食い扶持を稼ぐために、少しは外出もするのである。
1月14日(木) 穴蔵
晴れて(たぶん)暖かそうな日である。
終日穴蔵。
散歩に出たいのだが、連絡待ち事項が重なり、身動き取れず。
播州龍野から電話。トラブルの様子を県内に住む身内がクルマで見に行ってくれたのである。
応急処置。修繕となると、何日か泊まり込みでいくしかないようだ。
自宅の方も工務店が見に来る。
保険会社との電話やら。専属料理人がもっと動いてくれればいいのだが。
合間に資料を読んでいたら、たちまち夕刻。
本日は休肝日。
つまらん1日である。
1月15日(金) 神戸新聞文化センター
昼前に出て阪急で三宮へ。大阪府→兵庫県の越境を行う。
神戸新聞文化センターでの講座。
少人数で距離を取って行う。
エッセイでは、コロナ禍(世界的規模)と日常(身内の不幸とか危機)を混沌と混ぜ合わせた1年の記録とか、コロナ下に東北を徒歩で歩く旅日記とか、明け方にいつも下の道路にバイクが止まるがなぜかその姿が見えない謎とか、色々面白い。
小説はともにSF。パソコンの不調にイライラして、世界的なネット危機にも関わらず、目先の損得(居酒屋の予約の確認)に没頭する高齢者の話(これはSFというより老人の心境小説で、身につまされる)と、スパコンをアイドル選出コンテストに使用するSF(この設定はアイデア賞もの)。いずれも議論の時間が不足してくる。
合評会形式の講座なので、喫茶店でダラダラ続けてもいい気分だが、このご時世、そうもいかない。
また阪急で大阪府に戻る。
昼間の電車は幸い空いていた。
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