HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』81

●マッドサイエンティスト日記(1998年10月前半)

主な事件
 ・和歌山の「林真須美」事件、最大の被害者は「ミキハウス」?
 ・「リーガワインの祭典」に行く
 ・「山下洋輔プレイズ・ガーシュイン」豊中アクアホール
 ・幻の名演「ピアノ試し弾き+枯葉」ハチ

1998年

10月1日(木)
 ボンクラサラリーマン生活。
 夕方、職場のメンバー4人で梅田・茶屋町の土佐料理の店へ。会社のメンバーと飲むことは年に何回もない。茶屋町アプローズ地下の「司」へ。
 先日、勤務時間中の仕事でギャラが出たのである。年に1度くらい、こんなことがある。会社の売上げにするのもおかしいし(今回がそうではないが、業界関係のことで原稿を書く場合など)、こういう場合は部のメンバーで一杯飲ることにしている。
 どろめから始まって土瓶蒸しで熱燗まで、むむ、やや持ち出しである。
 「もっと会社で原稿を書いて下さいよ」という声もあるが、「この業界」は代表的不況業種だからなあ。

10月2日(金)
 ボンクラ・サラリーマン生活。

10月3日(土)
 久しぶりに秋晴れ……というにはまだ暑いが……自転車で会社へ。関係会社の操業日であり、相棒がトラブル処理のために熊本まで出かけるために、連絡があるやもしれぬ。カジシンに会いたいが、ぼくが行っても役に立たない内容の仕事なのである。
 「御堂筋ギャラリー」開催中で、淀屋橋と本町の間、ショーウインドウがギャラリーとなり、数十点の絵が展示される。自転車でゆっくり鑑賞していくにはいい。
 いい絵が多いが、いちばん気に入ったのは、住友銀行に展示の、高津スエ子さんの「くすの木」という作品。黒々とした太い幹の質感と葉裏からの陽光の鮮やかさの対比が素晴らしい。……デジカメに納めようとしたが、ガラスに銀杏並木が反射してうまく撮れない。楠と銀杏が重なってしまうのである。ガラス越しでなくゆっくり鑑賞したい絵だが、会期終了後、どこへ行けば見られるのだろう。

10月4日(日)
 普段どおり午前4時に起床、朝刊を読み、午前5時にちょっとテレビニュースを見たが、特別のニュースはなし。
 しばらくパソコンに向かい、7時前に見たら、「林真須美と林健治」を移送中でヘリからの中継が行われている。むむ、しまった。オウムの時も6時だったかな。……報道が実名に切り替わる瞬間をこそ見たかったのだが。
 午前中、ほとんどのテレビ局が和歌山からの現場中継を含む特別番組である。各局いっせいに「林」の顔を出して、インタビューの録画を「一斉放出」。たちまち飽きる。
 どうでもいいけど「ミキハウス」は今回最大の被害者だろうな。アイドルがこんご着用してくれそうもないしなあ。

 昼過ぎに「ボンクラ息子の母親を兼務するお女中」と淀屋橋からバスでロイヤルホテルへ。「リーガワインの祭典」という催し。……ワイン輸入業者による大規模試飲会とでもいえばいいのだろうか。広い会場に1000人近いワインファンがひしめいている。
 パンやチーズもあり、これはたまりません。

   off

 ブルガリアの白がうまいと思ったが、うちの「お女中」は「主」よりも舌が肥えていて、つぎつぎに「有料」の高級ワインを持ってくる。そりゃ、確かにうまいわ。
 「木管5重奏」というのがステージであって、たぶん音大学生のアルバイトかな。クラの音がなかなかいい。
 昼のワインはまわる。1時間ちょっといてバスで梅田へ。地下通路の浮浪者を確認してから帰宅。ごろ寝
 夜もほとんど和歌山のハヤシ報道で退屈である。

10月5日(月)
 某週刊現代の新聞広告に「ボーナスの出ない会社、危ない会社」特集記事があってギョ。恐ろしいなあ。
 
10月6日(火)
 午後7時、豊中アクアホールへ。「山下洋輔プレイズ・ガーシュシン」。このホールでのコンサートは毎年春なので、今年はないのかと心配していたのである。今年はソロ。例によってハチママと某タクマ重役の若村さんと合流。今年は珍しくわが家の「ボンクラ息子の母親兼任のお女中」もいっしょである。会場にはおなじみ岡本(筒井倶楽部)会長夫妻、それに某タクマの某嬢(ストーカー防止のため特に名を秘す。守口落語会にも現れた美女である)の姿も。
 ガーシュインは前半のステージで3曲で、モンクのスタンダードなどたいへん贅沢な構成。
 ラウンド・ミッドナイト、サマー・タイム、わが恋はここに、ラプソディ・イン・ブルー、(休憩)、チュニジアの夜、ブルーモンク、エコーズ・オブ・グレイ、カンゾー先生のテーマ、童謡、ボレロ、アンコール曲(これは何だっけ?)。

 off 

 21時終演。
 タクシー分乗でハチへ。
 山下洋輔(ヤノピ)さんを中心に、おなじみ「てころ」からのヤキトリ出前あり、ビール。
 こういう「楽屋」のことを公開すべきか迷うが、珍しいことなので書き残しておくことにする。
 ヤノピ様のハチ来店はたぶん1年半ぶりくらい? その間に、ハチのピアノが新しくなったのである。ともかく、ハチ・ピアノは「アケタの店、某店とならんでワースト3に入る」といわれる状態だったのである。そこで、ピアノが新調されたところで、ぜひとも山下さんに弾いてほしいというのがハチママ(ならずとも誰でも)の希望だったのである。ところが……今年のヤノピ様の活動を見ればわかるとおり、ライブは控えられている。そこで、来阪の機会があれば、ちょっとピアノに触ってほしい……これがハチママの希望であった。
 ヤノピ様も気がかりではあったらしい。コンサート終了後、明日は新潟というスケジュールにもかかわらず、ハチに寄るということになったのである。
 「試し弾き」という、正規のセレモニーがあるのかどうか知らない。ともかく、ぼくが視聴したのは、以下のようなことであった。
 雑談しながらちょっとくつろいだあたりで、ヤノピ様が立ち上がり、「では、つかまらせていただきやす」と座頭市でおなじみの台詞とともに鍵盤に向かわれる。
 両手を拾えて鍵盤中心付近から全キーを絨毯爆撃するようにバラバラバラと叩きながら左右に移動、そりからタッチが変わって、強弱がついたり跳び方が変化したり……鍵盤のチェックといっても、プリンターのテスト印字とちがって、たいへん複雑。しかし聴いていると不思議なリズム感があってアドリブのようにも聞こえ、それが5分近く続いて、どこからという切れ目が判然としないまま「枯葉」に入っていた。
 APなしのピアノ数メートルのところで聴いていたのは十名足らず。この「試し弾き枯葉」は、たぶん、次代ピアノが入る時まで聴けない名演。全員感動した。

  off  off
 ということで、居合わせたメンバーで記念撮影。前に座っているのがハチママとヤノピ様。ストロボのないQV−10の限界で、ライトの当たっているところしかはっきりしない。ハチママもぼくも闇の中である。岡本会長、会長夫人、タクマ某嬢、うちの「お女中」も混じっている。ちなみに右の写真で筋肉誇示しているのが名物男「大ちゃん」である。
 満ち足りた気分で23時過ぎ解散。

10月7日(水)
 早朝の新幹線で姫路から実家に近い所まであたふた。
 昼、先週土曜から九州オデッセイ、陸路を車で帰ってくる相棒と姫路付近で合流、帰阪、ボンクラサラリーマンとなる。あわただしいことである。

10月8日(木)
 グータラサラリーマン生活。

10月9日(金)
 サンケイの朝刊社会面に「林真須美は妊娠3ヶ月」のトップ記事。仰天。が、夕刊では「1ヶ月前に流産していた」と訂正記事。マスコミが取り囲んでいたなかで、本当にこんな出来事があったのだろうか。

10月10日(土)
 終日書斎。がほとんど机に座っているだけ。

10月11日(日)
 終日ほとんど書斎。自転車で梅田まで。「御堂筋パレード」とかで人出が多いと判明、村上ポンタ秀一のCD(森山威男さんがゲスト参加している)を買って、そそくさと帰宅。
10月12日(月)
 午前2時に目が覚めてしまう。新聞休刊日なので、朝までSF作家のつもりで机に向かうが、空腹に耐えられず、天五まで自転車で散歩。散輪が正しいのか?
 午前7時からボンクラサラリーマン。

10月13日(火)
 6時36分、新大阪発のひかりで静岡、乗り換えて清水へ。
 新聞に「静岡県清水市のひずみ計に変化」の記事。清水市の体積ひずみ計が11日から変化を示し始めたという。……が、なんとか無事生還。

10月14日(水)
 夕方、尼崎で「百円均一ショップ」の「物流センター」の工事中という知人からの連絡で、現場を見学させてもらう。工場後を改造して、物流センターと、その一角に店舗も作ってしまうのだという。月末開店というが本当に完成するのだろうか。まだ基礎をうった程度にしか見えない。ものすごい突貫工事になるはず。
 となりのコンビニと看板の位置で揉め、それなら、横からはコンビニの看板をハンマーで叩いているように見えるモービルを出そうと提案、するとオーナーが、「女性の脚がとなりの看板を踏みつけているのにしろ」といったという。「……誰かて脚の付け根が見とうて寄ってくるやろ。そこを入り口にしたらええのや」本当であろうか。

10月15日(木)
 ボンクラサラリーマンのまま10月も半ばを過ぎる。



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