『マッドサイエンティストの手帳』71
●マッドサイエンティスト日記(1998年8月前半)
主な事件
・94歳の叔父永眠
・JAZZ秘密結社の秘密会合
・有栖川有栖さんとの対談
・三田工業が粉飾決算
1998年
8月1日(土)
朝から佐野眞一の大作「カリスマ」を読む。ダイエー・中内功(←この漢字は正確ではないが)の「戦後史」である。これは「評伝」としては本年度のベストワンであろう。昨年のベストが守安祥太郎を描いた「そして風が走り抜けていった」……あれ以来の力作であり、阪神間からスタートしているだけに、ぼく自身の歴史と重なる部分も多く、圧倒される。作者は中内から名誉毀損で提訴されているらしいが、ここまで書かれたのなら、中内、もって瞑すへしであろう。
夕方、ボンクラ息子と女中が帰宅、また暑苦しい日常再開である。
8月2日(日)
朝から自転車で会社へ。インターネットでの特許調査。休日が空いていて検索が速いのである。午後帰宅。
静かに読書のつもりが、なんとも鬱陶しい電話がかかってきた。約1時間半の電話を要約すれば、母子一生の生活費になるはずの相続金を「子」が2年間で遣い果たしてしまった、ということである。その額たるや、ぼくが一生働いても貯めるのは無理と思えるほど。……「今頃相談するのは手遅れとおっしゃるのでしょうか」……本来、ぼくは相談を受ける立場でもないし、まして後見人でもない。が、遣ってしまったのなら「手遅れです」としかいいようがないではないか。
気が滅入ってビールでも飲みたい気分のところに、北野勇作さんが来宅。1月のイタリア旅行から帰国したのでおみやげを届けてくれる。ドライトマトとかケチャップなど実用的食材色々というのがうれしい。さっそくビール。イタリア滞在中の生活ぶりを聞くに、北野さんに上記の金額があれば一生食べ物に不自由せずに暮らせるだろうなあ。
8月3日(月)
ボンクラサラリーマンとしてがんばる。
8月4日(火)
ボンクラサラリーマンなりにがんばってはいるのだが、外注先がよりボンクラで不良品処理に走らされる日々。
8月5日(水)
創業記念日で特別献立が出るとのお知らせがあったので、久しぶりに社員食堂へ行くと、コンビニの弁当程度ではないか。アホらしくなって、近所でザルソバ。
8月6日(木)
ボンクラサラリーマン、毎日ザルで、スタミナ切れである。
8月7日(金)
夕方、本間祐さんとソリトン別冊のゲラチェック。1時間ほど打ち合わせのあと、会社近くでビール。
帰宅したら、実家から電話。94歳の叔父の訃報。わが兄妹には連絡がつかないという。旅行か出張であろう。携帯電話への伝言と電子メール。
「ハチ」に電話。毎年8月8日にはハチママ誕生日で顔を出すことにしているのだが、明日は無理である。
8月8日(土)
早朝、兄から電話。「伝言」を聞いたばかり、さっきヒースローに着いたばかりだという。ロンドンじゃしょうがないわなあ。
午前中、会社へ。ボンクラなりに汗だけは流さないと給料をいただいている会社に顔向けできない。
午後、喪服を持って播州龍野へ。
94歳の叔父はその日の朝まで意識は確かで、まったくボケることがなかったという。「歯」もすべてその歳まで「自前」だったというからたいしたものだ。
地域社会の長老だけに弔問客多し。
8月9日(日)
午前11時30分より告別式。
夕方、帰阪。
8月10日(月)
ボンクラサラリーマン生活。
世間は夏休みに入って、今週はヒマだろうと楽しみにしていたら、どうして、ややこしい案件が集中。夕方、某法律事務所でうち合わせ、会社に戻ってヤヤコシイ文書を作っていたら、某所から電話連絡。「三田工業が手あげたで、知ってるか?」
うーん、ご親切にありがとうございます。
朝日の夕刊に記事。「作家の三田誠広氏は大株主」と書いてあるのがおかしい。
8月11日(火)
ボンクラサラリーマン生活。
世間は夏休みに入って、今週はヒマだろうと楽しみにしていたら、長野往復である。早朝の新幹線で、名古屋。ここから特急しなので塩尻。岡谷で飯田線に乗り換えて伊那松島まで約5時間。
午後6時まで会議。
わが上司自ら運転のクラウンで岐阜羽島まで2時間半。ちょうど羽島停車のひかりが来たので新大阪まで4時間を切る。これは新記録ではないかな。
8月12日(水)
夕方、ネット上の某「秘密結社」の会合。
「秘密結社」の会合を公開するとは矛盾しているが、まあJAZZ関係であること、こういう結社があるということは公開してもいいということになった。出席メンバーはぼくと「バンマス」と「専務」の3名。もう1名いるが、これは不参加。除名粛清の可能性もあるぞ。
いずれも初対面。ただし、「専務」というのは6月2日の日記に出てくるイメージワインの某嬢である。ワインのイメージは「凄い」のだが、どんな人が出現するのか。遠方から来る「バンマス」はどんな人物なのか。ぼくのみ、このホームページで面が割れている。が、目印に、「New Orleans」と刺繍の入った「現地調達」の帽子をかぶっていることにする。
さて、現れた「専務」は、日頃の書き込みからけたたましいしゃべり方の女性かと思ったら、なんと品のある美女。続いて出現した「バンマス」は、たしか40歳に近い子持ちのはずが、学生かフリーターか判別できないような兄ちゃん。どう見ても20代前半……これ、ともに本当に本人なのだろうか。まあ信じるしかないか。
近所の居酒屋から、おなじみサントリー5。本日はスイングの日。ジャズの話になって、どうやらともに本人に間違いないことが判明。秘密結社としての悪だくみ謀議、終電間際まで。
写真右は不思議な「取的ポスター前」の「専務」。
左は、帽子をかぶった気楽な半魚人、ジャニーズ系の「バンマス」、「専務」。ネットストーカー予防のため特に名を秘す。
8月13日(木)
世間のほとんどは夏休みらしい。
電話はほとんどなし。会社の中も閑散としている。
夕方、弁天町のベイタワーホテルの喫茶室へ。
大阪市の広報的雑誌「SOFT」が地下街を特集するというので、有栖川有栖さんとの対談。コーディネーターは本間祐さんである。
事前にこんなのがあると本間氏がコピーをくれた。阪大教授・鳴海邦碵先生の地下街に関する論考の中に「<梅田地下オデッセイ>考」という一章があるのにびっくり。別のエッセイで拙作に触れていただいたのは読んでいたが、これは知らなかった。なんと棲み分けの地図まで作製されている。ここまで読み込んでいただけるとは作者冥利に尽きると感激。
有栖川さんの指摘も色々と面白い。ぼくはスターシップを地下街に置き換えたのだが、ミステリーでやるなら密室よりも「孤島」に隔絶された設定に近いものになるという。……地下街からいかがわしさ、迷宮性がなくなっていくのは寂しいということでは同じ意見であった。
左から、有栖川氏、やつがれ、本間祐氏。
さあ、やっと3連休・夏休みである。
8月14日(金)
三田工業の粉飾決算に関して朝日新聞の追及がなかなか鋭い。
三田誠広は360何株の大株主。粉飾期間5年間の「配当」は推定で1800万円/年。経営に関わってはいないから遡って召し上げられることはないだろう。……リビングでの家族のことを書いた埒もないエッセイは読めたものではなかった。が、これ、朝日新聞に掲載され朝日新聞社から出ている。経営者ではないものの、書かれたエッセイの題材が不正な配当金で維持された家庭のリビングというのは、文学的にどう考えたらいいのだろう。……朝日の追及が鋭いのは、経済部が学芸部の気楽さに立腹しているからであろうか。今後の展開が楽しみである。
ソリトンに関して定期購読者からメール。定期購読者の名簿を引き継ぐ過程で「脱落」があったようである。心配していたことだが、どうやらアサヒネット以外からのメンバーリストがおかしくなったらしい。
あわててニフティ等のSFフォーラム関係の友人にアナウンスを依頼。
ホームページにもお知らせを掲載する。
発送その他で炎天下、自転車で本町まで往復。なかなか安めないなあ。
午後帰宅。8月前半の日記を整理。
さあ、机だ。