『マッドサイエンティストの手帳』44

●マッドサイエンティスト日記（1997年11月前半）

主な事件
　・金融不安本格化
　・「汚れた土地」訪問

１９９７年

１１月１日（土）
　寒くなった。朝は１０度を切る。堺市沖人工島で作業。

１１月２日（日）
　播州龍野の実家へ。
　実家には柿の木が２本ある。表の庭と裏庭。柿は隔年で豊作の年とほとんど実をつけない年が繰り返される。表と裏が交互に実るという理想的リズムだったのが、十数年前から、どういう訳かこの周期が替わって、表と裏の木のリズムが同期してしまった。今年は２本とも豊作の年で、とても取りきれない数の柿が実っている。
　母はもう柿の実をもぐ作業はできない。
　近所の親戚の子供たちがやってきて片づけていくことになる。

１１月３日（月）
　夕刻、柿を３キロほど下げて帰阪。
　夜、三洋証券倒産のニュース。ぼくはギャンブルは生涯やらないから、株には手を出さないし、できれば生命保険も掛けたくない。が、会社生活を続けていると、浮世のしがらみで断りきれない場合がある。「ただひとつだけ、紙屑になってもしょうがない」覚悟で持っている銘柄があって、この窓口として「某担当者」が紹介したのが三洋証券。わしゃ売り買いするつもりは毛頭ないから株券で保有するといったのだが、「何かと便利だから」と口座を作って「預かり証」を渡されたのが３月前。ほうれ見ろ、わしが博打に手を出すとこうなる。まあ紙屑になったわけではないけど、ぼくは博打打ちにとってはサゲチン男だろうか。

１１月４日（火）
　「某担当者」が飛んできて、株券を取ってくるからと「三洋証券の預り証」を持っていく。いつでもいいよ、今日、店頭に行ったらテレビ中継されまっせ！
　夕刊に青田昇の死去ニュース。７２歳、心不全。「サムライたちのプロ野球」（文春文庫）は抜群に面白かったが、結局、暴力団とのつきあいがささやかれたことが野球殿堂入りできなかった原因であろうか。「ゲタ屋のおっさん」（長島巨人のコーチ解任事件のカゲの黒幕？）はどうしているのか。

１１月６日（木）
　早朝のひかりで神奈川県・磯子へ。１０時過ぎね某発電所へ到着。排煙脱硫装置のダクトにもぐるためである。作業服を一応持っていたが、汚れ方が繊維工場の常識とは桁違いとわかる。結局、オーバーオール、ヘルメット、安全靴、手袋の一式を借りて、着替える。設備側面の階段を上る直前に、担当者が「高所恐怖症ではないでしょうな」と念押し。……多少その傾向はあるのだが、職務上、そうですとはいえない。
　装置の頂上からは横浜のベイエリアが見渡せる。
　ただし、休止中の火力発電所内部というのは……今度は闇と周辺ベトベトに張り付いたペースト状の煤、懐中電灯を頼りに進むが、今度は「閉所恐怖症」との戦いである。
　スペースコロニーの描写の参考になるなあ。
　クラーク「海底牧場」の主人公は宇宙漂流の結果、広所恐怖症に陥るが、ぼくは、宇宙飛行士はむしろ狭いコクピットの時間が長く、閉所恐怖傾向タイプの人間には無理なのではないかと想像する。無限の宇宙空間を飛翔する人間にとっては不思議なパラドックスである。
　業務は午後２時頃に終了。
　磯子から横浜に戻る途中、「山手」で降りて、徒歩１０分、丘陵の上にある「矢口台」一帯を見学。中原弓彦「汚れた土地」の舞台訪問である。今の「ヨコハマ・カントリー＆アスレチック・クラブ」の土地がそうなのだろう。……この訪問記は稿を改めて書くことにする。
　夕方、中華街で中条卓氏と会う。中華街で食事しながら雑談。卓さん、横浜在住と思って声をかけたのだが東京方面へ引っ越し、わざわざ横浜まで来てくれたという。
　新横浜駅前の本屋で宮塚利雄「パチンコ学講座」を読む。よく調べてあり好著である。ただし、ぼくが見聞したよりは業界に好意的な印象を受ける。
　帰宅深夜。

１１月８日（土）
　本日も世間は休日なれど堺沖人工島で作業。

１１月９日（日）
　珍しく家族がだれもいない日曜になった。
　書斎の模様替え。「冬仕様」にレイアウトを変更する。
　あとは終日「ねたりおきたり」（←これは枝雀師匠の「いたりきたり」に出てくる動物の一種である）状態。毎日こうだと、こいっぁ泣けてくる……のだが。

１１月１０日（月）
　居住している集合住宅の管理人が急死。先代よりはずっといい人だったのだが……。

１１月１４日（金）
　名古屋方面から近鉄で帰阪、日本橋の部品屋に寄り、ワッハ上方の下にあるジュンク堂を覗くと、有栖川有栖さんとばったり、１０分ほど立ち話。ＳＦ大会（あきこん）では結局会えないままだったのである。忘年会をやりましょうという話になるが実現するかどうか。
　北浜の歌之助花舞台……20時過ぎに行って、最後の一席だけ聞く。
　歌やん、禁酒してから酒飲みの噺が抜群に面白くなった。ということは、打つ買う……もやってないと思うが……ますます面白くなるはず。

１１月１５日（土）
　性懲りもなく堺沖人工島で作業。