HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』20

●マッドサイエンティスト日記(1997年4月前半)

主な事件
 ・地獄の業火を見る
 ・鉄の胃袋花見の宴
 ・春は別れの季節

1997年

4月1日(火)
 朝5時、NHKTVを確認。やっぱり久田直子さんはいない。昨日の別れの言葉は本当だったのだ。
 アナウンサーが替わるのはしかたがないとして、本日から男女2名が担当である。このリストラの季節になにやっとるのかと腹が立って、5分で切る。もう早朝テレビ見ることはないからね。

 午後、尼崎の某大手プラントメーカー・タクマ訪問。かんべむさし氏が焼却プラントを取材したいというので、「友人」でもある若村常務に便宜をはかっていただく。こちらもスケベ心を出して半分仕事がらみ、耐食塗装関係の方を紹介してもらうつもりだったら、なんと「社長を紹介する」といわれてうろたえてしまう。代議士に陳情に行ったら総理大臣に紹介されたようなものであろうか。しどろもどろで挨拶……になるのかと思ったら、なんと牛丸社長、播州龍野ご出身で、ぼくと同郷であった。意外な場所でローカルな話題10分間。
 西淀川の焼却プラントを見学。天井走りクレーンが巨大なピットからゴミを掴みあげるのを操作ルームから見る。スターウォーズのデススター内部にこんな場所があったなあ。
 かんべ小声で「この人ら、UFOキャッチャーうもなりますやろなあ」

写真はクレーンと、焼却火格子前のかんべむさし。
 

off off


4月5月(土)
 午後、万博公園・日本民族博物館で恒例の石毛直道料理教室が中心の花見会。酒か料理を一品持参の持ち寄り散財方式である。
 ぼくは体力勝負で毎年ビール数リットルと決めている。
 今年は小雨であるため、室内にシートを敷いて料理が並べられる。キムチがうまい。50センチほどある石鯛が差し入れられる。後半は刺身とワイン。豪勢な花見になった。……来年からは「館長主催の花見」になるのである。
 主な来客は、小松左京氏ご一家、かんべむさし、杉田繁治教授をはじめ民博先生方。なによりもいちばん人気は鉄人を破った男・程一彦さんである。

写真はシートに並んだご馳走と<鉄の胃袋>石毛直道教授。

off off


4月10日(木)
 黛敏郎氏死去のニュース。
 黛敏郎氏には2度お目にかかっている。ともに作曲家・大澤徹訓氏がらみである。
 最初は1986年秋、日比谷公会堂。日本音楽コンクール作曲部門の本選で、大澤氏の作品「管弦楽のための”太陽風交点”」が最終選に残っていた。ぼくは応援のつもりで聴きにいったのだが、なんと黛敏郎氏の隣の席が用意されていて緊張してしまった。
 大澤氏はたいへんなSFファンであるが、芸大で黛門下だったのである。
 2度目は10年後……昨年の大澤徹訓氏の結婚披露会場であった。
 大澤氏は武蔵野音大講師であり、作曲家としても着実に仕事を積み上げている。しかし、たぶん、これぞ代表作と自分でいう作品はこれからで、それは黛敏郎氏にいちばん聴いてほしかったにちがいないのだ。これは、ぼくが自分の作品の読者として誰を想定しているか考えると、もう痛いほどわかるのである。
 大澤氏の心中を想像すると心が重い。

4月13日(日)
 例によって播州龍野の実家で本の整理。
 亀和田武氏関連の本(「三流劇画の世界」など)を読んでいたら面白く懐かしく、龍野→姫路→大阪への帰路、「1960年のルイジアナ・ママ」を読み続ける。この中で論究されている、「作家のタレント化」「昭和軽薄体批判」「テレビの白痴化状況」その他、今の状況を的確に指摘していること多し。亀ちゃんとは、引っ越しのすれ違いから年賀状のやりとりも途絶えていたのだが、先日、やっとアドレス判明。ソリトンをお送りしていたら、「昔の恋人から手紙をもらったような」と連絡があった。
 活字の世界で活動を再開してほしい。
 ソリトンにも協力していただく予定である。

4月15日(火)
 午後6時半、会社からの帰路、地下鉄本町駅のホームで<謎の美少女>に遭遇。
 <謎の美少女>とは、本当に謎めいた、妖精のような美少女で、どういうわけかこの10年ほど、SFのコンヴェンションやネットのオフの席に、どこからともなく出没する不思議な存在なのである。最初に出現したのは87年のSF大会で、妖精のコスプレではなかったか? わしゃ、その時、谷甲州とスーダラ節を踊っていたから、記憶があいまいだ。
 「ええ、なんですか、こんな場所に!」「近くに勤務先がありまして……」
 <謎の美少女>と近くの居酒屋でビールを一杯。……秋にご結婚、信州に住むという。ファッション・デザインのCADを、旦那の仕事関連で、土木設計図面用にシフトすることを計画中という。いい話だなあ。近いうち、わが社にいるSFファン女性(こちらの方が結婚は先輩である)を含めて送別会をやろうということになる。
 久田直子さんがおっしゃったとおり、春は出会いと別れの季節でありますね。


『マッドサイエンティストの手帳』メニューヘ [次回へ] [前回へ]

HomePage  自己紹介
作品リスト・クロニカル  書庫の片隅
SF同人誌「SOLITON」