『マッドサイエンティストの手帳』134
●森青花『BH85』(新潮社)
ほのぼのとした破滅SF!?
第11回 日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞受賞作
毛はえ薬が人類を滅亡に導く!?
北野勇作「昔、火星のあった場所」など数々の傑作SF(ファンタジーといいながら本格的SFがきちんと入っている!)を生み出しているこの賞、今回の優秀賞「BH85」は堂々たるSF、それも異色の「破滅SF」である。
破滅SFの歴史を述べ始めるとそのままSF史になってしまうからやめといて、破滅ものの三大パターンは「最終戦争」と「天体衝突」と「病原体」かな。公害なんてメッセージ性が入るとつまらなくなる。
で、「BH85」は日本では小松左京「復活の日」以来の病原体ものといえそう。なんと発毛剤が世界を破滅に導くのである。
ヨコジュンのハチャハチャSFみたいだけど……そして、最初の2章のユーモア感覚は通じるところがあるけど(発毛剤を取り返しに行く件りなど。CM出演料を聞いて「頭で稼ぐ頭金」などというギャグが笑わせる)、全7章、予想もしない展開を見せる。
ともかく、全体の構成は見事なまでに本格SF。破滅していく世界にたったふたり残されるという、ベスターの「鋼鉄の音」や半村良「収穫」でおなじみの設定。バラードの「結晶世界」を思わせる世界設定。さらには、諸星大二郎かと思わせながら、(表紙とイラストを担当している……これは正解ですね、編集担当者殿!)吾妻ひでお感覚のユーモア感覚であったり。
ネタばらしなるから話の展開は省略して、なんというか「ものわかりのいいソラリスの海」に浮かんでいるような、不思議な読後感が残ります。
帯の惹句は「なぜかほんのり温かい“なごみ系”パニック小説!とある。
これはうまい。が、ぼくなりに書くと「ほのぼのとした破滅SF」ということになる。
色々なSFを引き合いに出しましたが、作中には上記SFとは関係なく、バイオSFへのオマージュいっぱい。これらの記述からも、SFをよく知っている人だなあと感心しました。
本年度、1999年末尾を飾る傑作であります。
ヤボを承知でひとつだけ余計なことをいうと、トイレがどうなっているのかだけが最後まで気になりました。
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