HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』127

●藤崎慎吾『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)

凄い。凄い。凄すぎる。

 off

 「凄い。凄い。凄すぎる。」というのは帯にある大森望氏の推薦文。あまりにも大げさなので、若干揶揄が含まれているのではないかと警戒したのであるが、この惹句、正真正銘の本物だった。間違いなく「凄い」本格SFであって、こんな凄い新人がまだSFファンダムにいたのかと感激してしまう。
 藤崎氏は96年のSF大会でファンジン大賞(創作部門)受賞。この時、わが主宰する「ソリトン」も応募していて、受賞して不思議でない作品が数編あったのだが、「レフト・アローン」にかっさらわれた。まあしかたないなあと思ったが、その差はさほど大きくはないと感じたものである。
 それから2年、いゃあ驚いた。これは本年度のSF、内外含めて1、2を争う力作である。
 火星の極冠で古生物の骨格が大量に発見される。どうやら「貝塚」の一種らしい……。この発端がたまらない。ラインスターからベイリーの「時間衝突」まで(ずいぶん飛ぶけど)、異星で遺跡を発掘するというのが宇宙SF最大の魅力であることは、ここ数十年間、不変である。これだけでもう宇宙SFとしての魅力は十分なのだが、もう、出るわ出るわ、ナノマシンからVR描写まで、色々なオリジナル・ガジェット続出、なによりも素晴らしいのが「クリスタル・フラワー」それに基地を包み込む「準シュバルトシルトスフィア」という球体……そう、イーガンに続いて、ここにも「金星応答なし」以来の伝統ある観念的球体登場なのである。
 イーガンと違うのは、この不思議な存在が徹底して視覚化されて描写されていることろ。こちらの方が(レムの後継者という意味でも)正統的小説の描写だろう。
 無理があるとすればこのあたり、あと、これに関連するネットワークの設定だろうけど、ここまでチャレンジすれば、もうともかく読ませてしまうのだから。
 ともかく本格宇宙(火星)SFに賭けるこの熱気はただごとではない。
 パワー溢れる新人の登場を喜びたい。
 ちなみに、「レフト・アローン」「クリスタルサイレンス」と並べると、作者が相当なジャズ・ファンとわかって嬉しくなる。次は「永遠への回帰」あたりか? 楽しみは尽きない。



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