『マッドサイエンティストの手帳』125
●マッドサイエンティスト日記(1999年10月後半)
主な事件
・今年の「秋」はなかったのか!?
・サンケイの「雲助」記事にわが目を疑う。
・阿佐ヶ谷ジャズストリートを歩く。
・久しぶりにニューオリンズ・ラスカルズ。
1999年
10月16日(土)
朝のニュースではNY株式が一時1万ドル割れ。暴落の兆候であろうか……面白くなるぞ。
昨日まで「残暑」が続いていたが、ちょっと涼しくなった。長袖やや厚地のシャツを着て、自転車で会社へ。無人の事務所で集中して仕事をするつもりが、決算関係で経理諸君が出社、関連会社も操業とあって落ち着かず、昼前に帰宅。
ごろ寝、特許明細書十数件を読み込む。……文章感覚がおかしくなってくる。
10月17日(日)
朝8時頃に自転車で御堂筋を走って会社へ。
御堂筋を走っていて気分のいい日は限られている。
ほとんど無人の事務所で夕方まで集中して特許の明細書を書く。……これをやると、しばらく文章の感覚がおかしくなる。
想像力を広げるのとは正反対のベクトルで、いかにレトリックを駆使して権利を押さえるか。自分の発明ではなく、依頼されたものであるが、よくまあこんなに屁理屈がつけられるものと我ながら感心してしまう出来映えである。お見せしたいがまだ出願前ゆえかなわぬこと。しかも「署名原稿」にはならないのだが、公開公報になったら記念に一部残しておこう。久しぶりに図面も書いたのであるから。
……SFがこの調子で書けたらなあ。やっぱり「男の隠れ家」を作るべきであろうか。
播州龍野にある「別荘3軒」は到底「隠れ家」になる建物ではないのである。
夜、肌寒くなって、やっと夏布団を厚いのに変更する。
10月18日(月)
ボンクラサラリーマン、略してボンサラ、誠実に仕事。何度も念押しするが「誠実」とは手抜きの意味である。
つまらん日である。
午後、急に寒くなる。夕食の豆腐が冷やヤッコから湯豆腐になった。この3日で「残暑」から「初冬」である。足もとが寒く、普通に座ってらけない。椅子の上にあぐらのスタイルでパソコンに向かう。暖房がほしくなる。……今年は「秋」は3日間だけだったようである。
10月19日(火)
午前5時、サンケイ朝刊の記事にわが目を疑う。……タクの運ちゃんが酔客を殺害、金を奪った事件で、遺族が損害賠償を求めた。被告は犯人と京都名鉄タクシー。その判決のなかに「一般論でいえば、タクシー乗務員には雲助まがいの者が、まま見受けられる」という文言があり、人権侵害、職業差別ではないかと「タクシー運転手から反発の声があがっている」という。……朝日新聞ではないかと一面を確認、やっぱり産経新聞である。
判決を書いたのは京都地裁の山本和人判事。わかりやすい表現である。
不思議なのは、判決が出たのが18日。記事は19日朝刊である。ふつうタクの運ちゃんが、出たばかりの「判決」をその日のうちに読むものだろうか。ぼく自身、著作権、知的財産権に関する判決はよく読む方だが、たいていは半年ほど経ってからで、その日のうちに読んだのは、自分が被告になった事件一回だけである。それも地裁事務所に受け取りに行ってはじめて読めるのである。現にタクシー会社も「判決文をまだ見ていないので」とコメントしていない。……一般論として、そんな短時間のうちに「タクシー運転手から反発の声があがっ」たりするものだろうか。何人の運ちゃんがどこで判決を入手してどんな風に「声をあげた」のだろう。実感が湧かないなあ。
ちなみに、ぼくは、よほどの事情がない限りタクシーは利用しない。徒歩30分なら歩く。乗るとすれば他に交通手段がなく、2千円以上の距離の場合に限られる。仕事でしかたなく利用することはあるが、同行者がいてしかたない場合がほとんど。ひとりでの出張の場合、バスの経路を聞く方が多い。……さすがに最近はタクの運ちゃんから怒鳴られることはないが、20年前はひどいものだった。最近でも姫路駅前はひどいものである。殺されて金を奪われるのは例外中の例外だろうが、「雲助まがい」がいるのはぼくの経験に照らしても実感であるなあ。
要するに、ぼくは今でもタクシーが怖い。2千円以上差し出さないとまともには走ってもらえないという強迫観念がある。それくらい酷い目に遭った。……だいたい、中学時代の某教師以来、他人から怒鳴られたというのはタクの運的以外ないからなあ。
やすしの「駕籠かき」発言に比べるとずっと柔らかいし、それだけにインパクトに乏しい表現ともいえる。ふつうの、日常的な言葉で書かれたわかりやすい判決文ではないか。山本判事を断固支持する。
ボンサラ、誠実に仕事。
10月20日(水)
ボンサラ、誠実に仕事。つまらん日である。
10月21日(木)
ボンサラ、誠実に仕事。つまらん日が続くなあ。
昼休みに近くの書店で小説新潮を購入、筒井康隆「魚籃観音記」を読む。ミスティを聴きながら読むのがいいとの「ご指示」がある。残念ながら会社にCDなく、しかしながら密室ではないから、エロ本を隠れて読むような懐かしい興奮がある。
ボンサラ、午後もなにくわぬ顔で誠実に仕事。
10月22日(金)
早朝のひかりで上京、新横浜から午後、神田、日本橋方面うろうろ。夕方、久しぶりに新橋でT間書店に寄る。ちょっとした打ち合わせなど。
阿佐ヶ谷に向かい阿佐ヶ谷ジャズストリートを歩く。
10月23日(土)
東海道を上方に上る途中、静岡で休日なれど時間をさいていただいた某氏と会う。当方の都合に合わせていただき申し訳ございません。……ええ、前夜があのような事情でございましたので。世の中、シンパを作ることは重要である。
夕方帰宅。
10月24日(日)
雲一つない秋晴れである。休日なれど自転車で会社までサイクリング。御堂筋を走るのは気分爽快である。昼まで雑用。 午後帰宅して、大阪シナリオ学校が募集したショトショート・コンテストの最終銓衡、ベスト10までしぼって、10篇について選評を書くことにする。パスカル短編文学賞では全応募作についてコメントしたが、今回は発表媒体がないので10篇だけとする。大阪シナリオ学校もホームページを開設してはどうだろう。ぼくは読んで感想を書くことはいっこうに苦にならないのであるが……。
10月25日(月)
ボンサラ、誠実に勤務。給料日だけになおさら。
ショートショート大賞の選評を書く。「タマゴ」というのが今回の「出題」であったのだが、解釈が多様で面白い。……残念ながら完成度で選外としたが、いちばん面白かったのは、ある主婦らしい方の作品。スーパーの目玉商品であるタマゴパックの争奪戦を描くもので、日頃は仲の悪い嫁と姑が共同戦線を張るなど、ギャグか実話かわからない面白さである。
10月26日(火)
ボンサラ、ひたすら誠実に勤務。
夜、月に一度のサウスサイド・ジャズバント出番の日とあってサントリー・ファイブへ。吉川裕之さん、本日は珍しくテナーを主に吹いている。……あとで、かなりの二日酔い状態であったと判明。テナーの方が楽なのか?
吉川さん、ヘアスタイルが変わり、ヒゲがだんだん定着してきた。
10月27日(水)
ボンサラ、誠実に仕事。つまらん日である。
10月28日(木)
早寝したら午前2時に目が覚めてしまう。
3時過ぎ、久しぶりに自転車で早朝散歩、天五のうなぎ屋まで。……この店、20年前は深夜1時に開店、売り切れるまで営業、閉店はだいたい午前6時頃だった。酔客から、店の片づけを終えたクラブ関係者、市場関係者、早朝出勤のサラリーマンと、時間帯によって客層が変化していくところが面白かった。
この10年、開店時間が少しずつ早くなり、今では午後10時半。午前3時では閉店ということもあって、早朝派には面白みがなくなってきた。それに学生かフリーターか、得体の知れない人種が増えたのも近年の傾向。この日も男女3人が大声でしゃべっている。どうやら「映像関係」の下請けらしいとわかるが、そのボキャブラリーの貧困、オブチ以下である。しかも、仕事の話らしいが、他人の「顔色」の話しかしていない。誰さんがこういったのはどういう意味なんだとか。……あ、おれがイライラしてきたのは、会社にもこの種のがいて、報告といえば「ご機嫌よかったです」と上司や客先の「顔色」から始めるタイプ。いちばん苦手とする連中だ。そうか、朝っぱらから、会社でいちばん苦手とする空気を感じてしまったからなのだ。
午前4時帰宅。朝刊熟読。午前7時出社。ボンサラ、誠実に仕事。
午後、久しぶりに滋賀県八日市市にある研究所へ。夕方までうち合わせ色々。
夕方から駅前の居酒屋でビール、ガヤガヤやっていたら、なんと、早朝うなぎ屋の「得体の知れない連中」と似たような雰囲気になってしまっている。いかんなあ。会社の人間と飲むの当分やめである。
10月29日(金)
ボンサラ、誠実に勤務。
午後、姫路方面に出かける用事あり、夜……といっても午後6時頃に、播州龍野の実家に寄る。ダイエーが優勝記念バーゲン中というので、食料品を買いに行くと、各レジに10人近く並んでいて、イラチのぼくにはとても耐えられない長さ。コンビニで買い物して帰宅、夕食が終わると、ナイターのない季節、母は猫といっしょに寝てしまうから、午後7時半、本でも読む以外、もう何もすることがなくなる。田舎の夜は早いなあ。
10月30日(土)
午前2時、「起床」以外することがないので起きる。
初冬になったと思っていたら、また暖かい日が続くので助かる。
実家のパソコンはMS-DOS機で、モデムは2400BPS、これで姫路のアクセスポイントに接続するのだが、この日に限って、宇宙作家クラブのメーリングリストが改装された関係でメールやたら多い。2400BPSだと引落しと同時に読めるから、まあ便利といえば便利か。
昼過ぎに実家を出て、午後帰阪。
夕方、研修会の講師で来阪の兄と合流。うちの「専属料理人」もいっしょに、3人で夕食、その後、ニューサントリー・ファイブへ。久しぶりにニューオリンズ・ラスカルズを聴くためである。土曜に出張してくる機会の少ない兄は、ドラムの木村陽一さんのグループは何度か聴いているが、ラスカルズは5、6年ぶりではないか?
この日はコルネットがマホガニーホール・ストンパーズからのトラ以外、レギュラーメンバー。
せっかくなので、この日はミーハー的に記念撮影をお願いする。河合良一さんと。それからトロンボーンの福田恒民さん。……兄は白髪になり、ぼくの髪型は近い将来、だんだんと福田さんに似るだろうと、複数の人から指摘されている。だからという訳でもないが、最近、トロンボーンがますます好きになってきた。
ドラムの木村陽一さん。そして、ベースの石田信雄さんからは、このホームページを見ているといわれて感激。
……夕食時に、デザートに「アイスクリーム」を食べるか、いや、演奏が始まるからそれはリクエストにしようという話があり、リクエストしておいたら、人気ナンバーだけに複数のリクエストがあったらしく、2ステージ目の最後に演奏してもらった。
結局3ステージ最後まで。……最後は、本当に珍しいことに「聖者の行進」。デキシーではポピュラー過ぎて、ラスカルズを聴いてレッドアロー以来30年、たぶん1度か2度しか聴いていないと思う。
10月31日(日)
終日ごろ寝……のはずが、居住している集合住宅の鉄部塗装が先日から続いていて、日曜なれど工事中。どこからかシンナーに似た溶剤の臭いが漂ってくる。
頭痛がしてきて、しかたなく会社へ非難、雑用しばらく、梅田の本屋を回って夕方帰宅。
10月が終わる。たそがれの国を過ぎて、2000年まであと2月となった。
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