HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』121

●マッドサイエンティスト日記(1999年9月後半)


主な事件
 ・自分ではちょっと凄いと思うアイデアを思いついたが……
 ・筒井康隆パフォーマンスの夜
 ・新宿ワシントンホテルのエロビデオシステムに疑問を呈する
 ・e-one販売差し止めの行方はどうなる
 ・東海村の事故……オブチは現地にいつ行くか

1999年

9月16日(木)
 ボンクラサラリーマン、略してボンサラ、誠実に仕事。

9月17日(金)
 ボンサラ、誠実に勤務。つまらん日である。

9月18日(土)
 朝の新快速で姫路へ。ホームで兄とばったり……でもないか、似たような時間といっておったから……会う。通い慣れたる姫新線でいっしょに播州龍野の実家へ。
 わしは「別荘」で肉体労働。兄は夕方から姫路で同窓会。
 いっこうに涼しくならず、汗ドロドロ。夜のビールのみが楽しみである。

9月19日(日)
 終日「別荘」で肉体労働。
 別荘なんて持つものじゃないなあ。
 夕方帰阪。……週末書斎という初期の目的はどうなってしまったのか。
 夜、教育テレビで山下洋輔と清水ミチコの対談。演奏付き。ラジオ体操をジャズにしてしまうとは……。

9月20日(月)
 週明けというのは気分が重いものだが、出社したら、いやはや、わははははははははははははは、ひひひひひひひひひーーーーーっと大笑い、しばらく、ふふふと含み笑いして、へへへと照れ笑い、よく考えて、ほほほと上品に笑うべきかと思うが、やっぱり素直にわははははははははははははははははは……と笑ってしまうような愉快な出来事。まあ、書くわけにはいかない内容だが、他人の不幸は密の味……はちょっと違うか。天罰覿面というか。〇〇くん喜べ、やっぱり正義は勝ったぞ、悪は滅びたぞ、と大声で叫びたくなる。
 ボンサラ、張り切って仕事。

9月21日(火)
 朝刊一面に、ソーテックのe-oneがi-macの意匠侵害で販売差し止め仮処分決定の記事。裁判官は飯村敏明氏でなんと懐かしい「太陽風交点」事件の陪席判事ではないか。活躍しておられるのだ。……が、しかし、ちょっと疑問も残るなあ。ぼくの予想は意匠では負けるかもしれないが、販売差し止めまでは予想しなかった。「商品混同の恐れ」という理由にひっかかる。牧野利秋先生ならどう判断されたか……。この事件は知的財産関係では研究課題になりそうだ。
 7時出社、ボンサラ昨日に続きはりきって仕事。
 昼、徒歩3分のビルにあるソーテックのショールームを見に行く。ずらり並んでいたe-one見事に撤去されている。その変わり身の早さが頼もしい。
 夜、難渋していたショートショートの案がとつぜん浮かぶ。……これはひょっとしたらクラークの『前哨』に対するカウンター・アイデアにならないか。となると、短編……いや、「2001年宇宙の旅」を凌ぐ長編にできるのではないか……と、妙にムラムラしてきて自己批評できぬ状態に陥る。困ったことというべきか、喜ばしい状態というべきか。

9月22日(水)
 早朝、ショートショートを電子メールで発送。8枚ほどを4枚に縮小した。タイトルは『大風呂敷』である。長編にする場合、似てもにつかぬタイトルになるであろう。が、まだ自己評価に自信がない。珍しいことである。……短編で設定だけを徹底して書けば、小松のおやっさんにショックを与えて「虚無回廊」に向かわせることに……なればいいのだが。無理だろうな。
 ボンサラ張り切って出張。今週は快調であるなあ。
 夜、新宿の紀伊国屋ホールへ。
 「筒井康隆パフォーマンス」を見る。
 口上/魚籃観音記(予告編)/関節話法
 「魚籃観音記」は近日雑誌掲載「ポルノ」の予告編、とんでもない趣向である。「口上」では、ポルノに関して、こんなにエロ小説が氾濫しているのに「春本猥本」の雰囲気を伝える作品が最近はほとんどないことを指摘されたが、こんなとんでもないポルノとは……。さらに「関節話法」……なるほど「朗読」でなく「パフォーマンス」と銘打たれた公演であることがよーーーくわかる熱演であった。
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 終演、ロビーで「わたしのグランパ」サイン会。

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 それから「からだの水分が全部抜けてカラカラ」状態の筒井さんをゲストに近くの「サントリー・モルツ」飲み放題の店で「221情報局」オフ。
 参加者はハンドル名敬称略で、笑犬楼、時をかけるゴロー、著八怪、しゅん、みさと、アリス、まりりこ、のら、めいにち、ぶる、メジロ喰い猫コンクリート、文豪ミニ、FAT’N、半魚人の14名。まあ、化け物の集まりといわれればその通り。

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 某氏と某氏の殴り合いが発生するのではないかと、妙な期待感をはらんだオフ開催であったが、『その便所』の作者ゴローさんがレフリーを務めてごく友好的殴り合いに終わった。
 筒井さんは明日もステージがあるので早めに帰られ、残党日付変更線手前までビールがぶ飲みワインラッパ飲み。
 日付の変わる寸前にホテル帰着。

9月23日(木)
 朝、ホテルをチェックアウトしようとしたら、有料ビデオ代1,050円也が加算されている。
 確かに昨夜20秒ほどモザイク入りの映像が映ったのを思い出した。
 だが、あれで金取るのか?
 ここをクレーマー・ページにするつもりは毛頭ないが、ぼくの名誉のために書いておく。
 新宿ワシントンホテルである。……だいたいぼくはテレビはほとんど見ない。ただ、昨夜のオフの席で、名古屋方面が大雨で、新幹線が止まるかもしれないというニュースが流れていた。気になって、天気予報を見るためにテレビをつけた。チャンネルをあちこち変えている途中で安っぽいエロビデオが映ったのである。なんの興味もないので、すぐに変えたが、端末の「赤いボタン」を押したのは間違いない。ただ、ふつうこの種のビデオはちょっと映ってから、有料だがいいか?という表示があるのではないか? 酔っぱらっていてもそのくらいはわかる。
 だいたい、ポルノは嫌いではないが、裏ビデオも見飽きたわしがモザイク入りに興味があるわけがない。まして「魚籃観音記」を聞いた後だぜ。安ポルノなど見たいとも思わないのは明らかでしょうが。
 ところが、ビデオ代金1,050円の計上。……20秒ほどだが見たのは事実、精算は自動精算機だからフロントまで抗議にいく気もわかない。ただ、部屋に戻って有料テレビに関する注意書きの表示を確認したかったが、もうキーは戻した後である。
 領収証に「有料ビデオ 1,050円」の屈辱的印字が残ってしまった。
 新宿ワシントンに今後泊まることがあるかどうかわからないが、酔っぱらってテレビは見るまい。
 世間休日なれど操業している事業所、工場は多い。
 午前中関東ウロウロセカセカの後、夕方帰宅。

9月24日(金)
 九州に台風上陸、昼には近畿にくるかもしれないとかで、ボンクラ息子は休校という結構な状態だが、親ボンクラは誠実に仕事。
 結局はたいした風も吹かぬ一日であった。

9月25日(土)
 早朝の電車で播州龍野の「別荘」へ。
 終日肉体労働。
 夜、実家でビールがぶ飲み。「大いなる助走」を再読。

9月26日(日)
 昨日が暑かったので、早朝5時半から昼まで肉体労働。
 昼、ビールがぶ飲み。
 ダイエー優勝で近所のスーパーの安売りチラシ。が、別にほしいものがなにもなさそうな雰囲気であるのが不思議だ。田舎者が押し寄せるのであろうか。
 夕方までごろ寝。帰阪。なかなか健康的な休日であったというべきであろう。

9月27日(月)
 今週のハイライト、週明けであるが、先週ほどの面白い出来事はなし。
 ボンサラ地道に仕事。

9月28日(火)
 ボンサラ誠実に仕事。つまらん日である。

9月29日(水)
 ボンサラ誠実に仕事。つまらん日である。
 体のみ使う仕事はストレスがたまらなくていい。
 頭を使う仕事も集中できる場合は体を損なうことはない。
 気を遣う……神経を使う仕事がいちばんいけない。
 本日はいちばん嫌な部類。いかにボンクラでも神経消耗の日はあるのである。
 紀伊国屋でジャズ雑誌「OUT THERE」を買って帰る……が、これ、確かにセンスは悪くないと思うが、売れそうにないなあ。
 夕刊によれば、岐阜のバラバラ殺人おしゃべり大学生逮捕で名前が山下洋介。ニュースで「ヤマシタヨースケ逮捕」連呼はこれまた神経に障るなあ。
 下関で通り魔3人刺殺……こちらは九大工学部出の男のエライ男らしい。
 ボンクラで自称誠実実態手抜き生活してれば、まあ通り魔になる心配はないなあ。……これに「優柔不断術」を身につければ天下無敵である。

9月30日(木)
 ボンサラ誠実に仕事。つまらん日である。
 ……東海村で放射能漏れの報道。深夜時点でまだよくわからんが、安全だ心配ないの連呼報道の真偽を判定する指標のひとつは「ボンクラ宰相オブチ」が「現地視察」に飛んでいくかどうかだ。本当の安全が確認されてからのこのこ観光に行くのではいかんぞ、オブチ。カイワレを食うのとは違うのだからね。(99/9/30日深夜)
 注目しておるぞ。


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