HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』120

●マッドサイエンティスト日記(1999年9月前半)


主な事件
 ・ボンサラただ誠実に勤務
 ・ホシヅルの日
 ・蚊取り線香の社長の色狂いには感心するなあ

1999年

9月1日(水)
 ボンクラサラリーマン略してボンサラ、マジメに仕事。
 8月が遊びすぎなのである。

9月2日(木)
 ボンサラ、誠実に仕事。
 
9月3日(金)
 ボンサラ、ひたすら誠実に仕事。
 書庫に籠もって資料ゴソゴソ。まさか『瓦解』があるはずはなく、SF関係の資料調査である。

9月4日(土)
 大阪に較べて涼しく、昼近くまで眠ってしまう。
 午後、梅田で宇宙作家クラブの例会なのだが、予定していたこと片づかず、残念ながら欠席とする。
 結局、実家にもう一泊。

9月5日(日)
 黒川博行の『文福茶釜』が面白いので持ち帰っていたら、80歳の老母、どうやら一晩で読んでしまったらしい。大した読書力である。……この中に出てくる「初出し屋」というのは、本当に時々来るらしい。老人ひとりの旧家という設定は、確かに小説の設定そのまま。恐ろしいものである。
 夕方帰阪。

9月6日(月)
 朝、仕事で水無瀬の某社研究所へ。
 四半世紀前に2年ほど寮生活を送った場所である。……その寮も今はマンションになっている。
 寮の管理人は呑兵衛で、ぼくがよく酒の相手をした。
 管理人はぼくを気に入ってくれたらしく、酔っぱらうとこういったものである。
 「なあ、堀。お前が入ってくる前になあ、人事部の○○が来よってなあ、今度入ってくるやつは小説を書くヤツだから、日頃の行動に注意するようにというていきおった。……わしゃ、どんなヤツが来るのかと思とったんじゃ。お前みたいなええやつを、人事の○○のやつはなあ。お前は何も悪いとこしてえへんやないか……」だはは。わしゃSFで、共産党ちがいまっせ。民コロは今でも嫌いだ。その管理人今はなく、○○も会社にはいないから、まあ、これくらいは書いてもようおまっしゃろ。……わが勤務先の諸君、これはオフレコにしてくだされ。それでもまあ、小説を書くなんてやつは怪しげな、という時代があったのだなあ。
 ちなみに、寮生活の間、SFはほとんど書けなかった。
 戦争文学が入隊中には書けない……のとは事情が違うけど。
 「嫌なやつがいい小説を書くんだよ」(「大いなる助走」)の名文句を思い出す。
 午後、血圧測定。降圧剤を3日飲まなかったのでどうかと思ったら、160-70、下はいいが上が高いのは塩分か。薬は継続しろ。……飲みたくないんだがなあ。
 夜、衛星放送で「虎の尾を踏む男達」。やはり傑作である。エノケンが一行についてくる件りは、「七人の侍」における菊千代がついてくる場面の原型とわかる。……先日の松之助「筒井にわか」改竄事件には、この作品の影響が大きいように思う。「笑いの様式」が放映されたあと、詳しく検証してみたい。

9月7日(火)
 ボンサラ、誠実に仕事。
 長年探していた宮沢昭『木曾』がやっと聴けた! 森山威男20代の若々しく凄まじいドラミングに感嘆。宮沢昭のテナーに合うか合わないかは別問題である。

9月8日(水)
 朝7時に出社。
 海外関係のことでドタバタと一日過ごす。
 夜、居住している集合住宅の理事会。
 終わって入浴ビール夕刊読むともう夜中である。
 生産的でないなあ。

9月9日(木)
 2000年問題の前座で9並びの日……朝パソコンをつなぐが別に異常なし。
 朝刊に金鳥の社長……正確には大日本除蟲菊の社長が財界の役員を退任とかの記事。なにかと思ったら、なんと女子大生延べ数百人(!)との酒池肉林生活が暴露されたのだという。うらやましい限りである。ちくしょう。
 夕方、かんべむさしの仕事場へ。『急がば渦巻き』という「蚊取り線香小説」の作者に金鳥社長の色狂いについて詳しい話を聞くためである。が、そこまで取材はしなかったらしい。
 9999並び問題、トラブルはなかったようである。

9月10日(金)
 ボンサラ、誠実に仕事。
 つまらん日である。

9月11日(土)
 9時過ぎのひかりで上京。
 八重洲ブックセンターで『瓦解』を探すが、ここにもない。
 科学技術会館へ。サイエンスホールで「ホシヅルの日」に参加のためである。
 19時45分発のひかりで帰阪。

9月12日(日)
 パソコンに数時間向かう以外、終日ごろ寝。雑読。

9月13日(月)
 ボンサラ、誠実に仕事。つまらん日である。

9月14日(火)
 ボンサラ、7時に出社して12時間、誠実に仕事。つまらん日である。
 帰宅して、午後9時頃、「30年ぶりにやる」同窓会のために、返事のない数人に確認電話を入れる。夜の、それも自宅への電話は気が重い。自分にかかってくるのが嫌だから、かけるのも嫌なのである。が、まあ、役目だからしかたない。……案の定、もうとんでもない反応が2件。ひとつは電話番号の間違いと信じたい。……出欠の返事がないといのもひとつの返事であると考えるべきである。
 別に悪いことをしたわけではないのだが、気分が沈み、色々考えること多く、あまり眠れず。

9月15日(水)
 台風の影響とかで天気不安定、風強い。終日ごろ寝、雑読。
 原稿さっぱり書けない。
 22時から教育テレビで「笑いの復権」として筒井康隆氏の国立劇場「にわか」放映。無惨にも改竄されたためでもなかろうが、サワリを流しただけで、半分は林家染丸との対談。染丸、恐ろしく緊張している気配。松之助師匠が台本をいじったのではなく、どうやらリーダー格の染丸判断という事情も判明する。……しかしまあ、筒井さんが番組では怒りを顕わにはされていないのだから、これ以上は書かないのが礼儀であろう。
 「虎の尾を踏む男達」の影響については確認できないままになった。


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